マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 十代視点です。


閑話 十代と(生涯)無敗

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「最近セブンスターズの奴ら来ねえなぁ」

 

 授業中、俺は退屈のあまりついそんな言葉を漏らしてしまう。

 

 実際この前の黒蠍盗掘団の件からもう半月近く経つというのに、セブンスターズのセの字もない。まあこれまでの奴らで戦う前に連絡してきたのはタニヤだけだったから、知らない間に動いているのかもしれないけどな。

 

「平和で良いじゃないっすか」

「そうだぞ。こういう平和な一時をもっと味わうべきだ。いつ何時事件が起きても良いようにな」

 

 両隣から翔と遊児が口々に言う。今日は隼人が風邪をひいて居ないからなんか寂しいな。それに、

 

「王様……今頃どうしてっかなぁ」

「……そうっすね。パーティーの翌日いつの間にか行っちゃいましたもんね」

 

 アビドス。一週間だけだったけど、毎日のようにデュエルしてなんだかんだ通じ合えたんじゃないかと思うエジプトからの留学生。

 

 あの盛大なお別れパーティーの翌日、本当にスッとあいつは居なくなっていた。皆が寝てる早朝に発ったらしく、同室だった遊児だけは一応見送りをしたんだとか。

 

 遊児は何も言わず何とも言えない表情をしている。王様と同室だったし色々あったんだろうな。

 

 王族らしいから向こうで何か美味い物でも食っているのだろうか? それともやっぱりデュエルか? なんにせよ元気だと良いな。

 

「は~い注目ですにゃ! 武藤遊戯、海馬瀬人など、時代に選ばれた伝説のデュエリストとされる方々は皆さんご存じですにゃ? でも伝説を残したとされるデュエリストは、古代エジプトにも居たんですにゃ!」

 

 おっと。いけねいけね。授業をちゃんと聞かねえとまた遊児に叱られるな。にしても、

 

「古代エジプト。そんなに昔からあるんだ。デュエルって」

「まだカードが無かった古代エジプトでは、石板使ってデュエルしてたんすよ」

「一説によると、石板から精霊や魔物を実際に呼び出して戦わせたらしいぞ。今でいう立体映像(ソリットビジョン)みたいに。……精霊が今より余程身近だったんだろうな」

 

 ふ~んそうなのか。ふと振り向いたら後ろの席の万丈目も微妙に聞き耳立ててるな。あっちも精霊が大所帯だから気になるんだろうな。

 

 そんな中も大徳寺先生の講義は続いていき、

 

「これが、生涯無敗の伝説を残し、デュエルの神と言われた少年王アビドス3世なんだにゃ」

 

 黒板に何とも言えない人型の絵を自慢げに書き終える大徳寺先生。新種のモンスターかと思ったけどどうやら似顔絵らしい。だがそれより気になるのは、

 

「生涯無敗ってことは、一度も負けたことがない? すっげ~な! 俺その神様とデュエルしてみたかったぜ!」

「ふん。どうせ神のワンターンでLPが0になるに決まってるがな」

 

 そんな強い奴となら一度デュエルしてみたいもんだが、後ろから万丈目が茶々を入れる。言ったな!

 

「平気平気。お前の仇は俺がちゃ~んと取ってやるからさ!」

「貴様の事だ貴様のっ!」

「あっ!? ちょっとお前ら」

「二人共。授業中だって」

 

 いっけね! 翔と遊児が止める声が聞こえるがついつい悪ノリし過ぎたみたいだ。大徳寺先生に見つかって居残り掃除を言い渡される。ついでに翔と遊児も一緒だ。悪い二人共。

 

 

 

 

 夜。居残り掃除を終えて皆で帰る中、遊児の姿はここにはない。遊児は掃除の前に少し大徳寺先生と話したかと思うと、

 

『すまないけど俺は先に戻らせてもらう。居残り掃除自体はまた後日やるから安心しろ。……一人は早めに戻って風邪でダウンした隼人に知らせないといけないしな』

 

 と言って先に戻っていったからだ。確かに隼人からすれば、同室の俺達が戻らないと心配するかもしれないしな。納得できる理由だし、大徳寺先生も許可を出したみたいだった。

 

「もう。何で僕まで。良い迷惑だよ! あ~あ。僕も久城君と一緒に帰れば良かったなぁ」

 

 翔は元気にブツクサ言ってる。まあとばっちりだったしな。そんな翔を宥めつつ万丈目とじゃれ合いながら帰る途中、

 

「きゃああああっ!?」

 

 暗闇を引き裂くような鋭い悲鳴が響き渡った。今の声は?

 

「何だ? 向こうの灯台の方から聞こえたぞ!?」

 

 どう考えてもただ事じゃない。俺達は早速灯台へひた走る。そして遠目に見えてきた時、

 

「あれは……カイザー!?」

「お兄さん!?」

「天上院君も!?」

 

 灯台の下の桟橋。そこでカイザーと明日香が変な奴らに囲まれていた。何だアイツら……ミイラ!?

 

「むっ!? 翔!? 来るなっ!」

 

 こっちに気づいたカイザーが止めるのと同時に、俺達の周囲の地面が盛り上がってそこからミイラ達が現れる。アイツらだけじゃなかったのか!?

 

「鍵を……よこせ」

「こいつら、セブンスターズか」

 

 よたよたと迫ってくるミイラ達のその言葉に、セブンスターズ関連の相手だと当たりを付ける。ならデュエルで相手になりたい所だが、これだけ居たんじゃどれを倒せば良いのやら。

 

 そこへ、

 

「あっ!?」

 

 周りが一瞬昼間の様に明るくなった。何事かと空を見たら、空から黄金の光と共に変な形の飛行船が現れる。すっげ~! 何だアレ!

 

 そうこうしている内に周囲が一層眩い光に包まれ、俺はいつの間にか気が遠くなっていった。

 

 

 

 

「…………はっ!?」

 

 ハッとして慌てて起き上がる。今まで気を失っていたみたいだ。ここは……さっきの飛行船の上か?

 

「気が付いたか?」

「皆っ! ……あれ? 先生達に三沢も」

 

 声をかけられて振り返ると、そこには一緒に居た翔や万丈目を始め、カイザー・明日香・大徳寺先生と愛猫のファラオ・クロノス先生、それともう鍵がない筈の三沢もこの場に居た。

 

「これから夕飯だって時に、無理やりミイラに連れてこられたんだにゃ」

「にゃ~お」

「ワタ~シも授業プリントの作成中にミイラに囲まれたノ~ネ」

「俺はクロノス先生の手伝いをしていて一緒に。どうやら巻き込まれたみたいだな」

 

 どうやら皆してミイラに襲われたらしい。あとクロノス先生を襲った奴ナイス! これでプリントが減るぜ! ……だけど、

 

「鍵を持った者が揃ったか」

 

 カイザーの言う通り、もう持っていない三沢を含めて鍵の守り手勢揃いだ。って事は。

 

 ゴオ~ン!

 

 突如響き渡る銅鑼の音。そこで周りを見渡すと、船の奥に大量のミイラやエジプト風の服装の神官。そして、その中央の玉座に誰かが座っているのが見えた。アイツが親玉だな!

 

「お前は何者だ!」

「余の名は…………少し待て? そなたが鍵の守り手か?」

「おう! 俺は十代。遊城十代だ!」

 

 黄金の仮面とウジャド眼を模したサークレットを被っていて素顔が見えないが、何故か男は俺を見て驚いている様子だった。そして、

 

「おい。バランサーよ。間違いなく十代が鍵の守り手か? どことなく民の上に立つ風格があった故万丈目辺りは選出されていると思っていたが、十代のデュエルの腕は余も認めるが奴はとんでもないバカだぞ」

(ファラオ)よ。間違いなく十代も万丈目も鍵の守り手の一人。この学園でも指折りの強者の一人でございます。多少バカなのは否定しませんが』

 

 男の呼びかけと共にバランサーがフッと神官達の中から進み出て説明する。……いきなりこいつらにバカ扱いされた。それと後ろで笑うな万丈目。

 

「そうか。……待たせたな。余の名はアビドス3世。セブンスターズの一人だ」

 

 男は玉座に悠然と座ったままアビドス3世と名乗った。アビドス3世? その名前は確か!

 

「アビドス3世? あの生涯一度も負けなかったという伝説の?」

「負けなかった……か。いや、今は関係のないことよ。そなた達の鍵を貰い受ける!」

 

 何故かアビドス3世は一瞬どこか寂し気な声を出し、すぐに気を取り直して鍵を奪うことを宣言する。

 

「神と言われたデュエリストと戦えと言うの?」

「こちらの鍵を一気に手に入れようという訳か」

「敵さんも焦ってきたという訳だ」

 

 万丈目の言う通り、多分セブンスターズも焦ってきたのだろう。何せダークネス、タニヤ、黒蠍盗掘団と向こうは三人もやられているのに、こっちの負けは三沢だけ。それもリベンジマッチでしっかり勝った以上実質向こうの全敗だ。

 

 ここらで強い選手を出して一気に流れをひっくり返そうというのは分かる。明日香の言うように神と言われたデュエリストならピッタリだ。

 

「余としてはつまらぬが、鍵を置いて逃げるのなら今の内だ。……どうする?」

「は~いはいはい! 俺がやる! 俺お前と一度デュエルしたいと思ってたんだ!」

 

 逃げるなんてとんでもない! 俺は真っ先に手を上げながら中央のリングっぽい場所に上がる。

 

「無礼な。王に向かって」

「構うな。……そなたなら一番に向かってくると思っていたぞ十代」

『でしょうね。十代ならこの場面で燃えない筈がない。そうだろう十代?』

 

 何故か色めき立つ神官達を手で制しながら、どこか確信しているように俺の事を話すアビドス3世とバランサー。知らない内に俺も有名になったみたいだ。

 

「十代。これは闇のデュエルだぞ」

「それに相手は神よ」

「無茶だよアニキっ!」

 

 外野が口々に止めるように言うが、悪いな皆。

 

「分かってるって。でもこのワクワクする気持ちは止められないんだ! やろうぜ神様!」

「……ふっ。良かろう。お前となら間違いなく全力で心躍るデュエルが出来そうだ。来るが良い!」

 

 表情は相変わらず分からないが、アビドス3世はどこか楽しそうにそう言って黄金のデュエルディスクを構える。へへっ! そう来なくっちゃ! 俺もデュエルディスクを構え、

 

「行くぜ神様! デュエ」

 

 

()()()()()()()()()()!」

 

 

 勢いよくデッキからカードをドローしようとした時、突然待ったの声がかかって一瞬つんのめる。この特徴的な声はクロノス先生か。

 

「な、なんだよクロノス先生。これからって時に」

「下がるノ~ネドロップアウトボーイ。相手は神と称されたデュエリスト。つまりはほぼ間違いなく相手の主力。エースです~ノ。オシリスレッドの生徒などワンターンでお終い。教師としてそんな戦いは認められません~ノヨ」

「え~。じゃあどうすんだよ!」

 

 皆して神様相手に委縮しているみたいで、どこか空気が張り詰めている。そんな中、クロノス先生はノンノンノンと軽く指を前で振って見せる。

 

「主力には主力を。エースにはエースをぶつけるのが定石。この場合は実技最高責任者であるこのワタ~シか、或いは同じく教師である大徳寺……ありゃ? 大徳寺先生はどこ行ったノ~ネ?」

「クロノス先生! 大徳寺先生ならミイラの軍勢に驚いて頭をぶつけて伸びてます」

 

 ホントだ! 翔の言葉の通り大徳寺先生がぶっ倒れている。三沢が傍で確認してバッテンを出している所を見ると、どうやら完全に伸びていて戦えそうにない。

 

「……まあ良いでしょう。最初からあんまり当てにはしていないノ~ネ。……コホン。つまりこちらの主力であるワタ~シか」

 

 そこでクロノス先生は一拍溜めて、

 

「我が校随一の呼び声の高いデュエリスト。帝王(カイザー)の異名を持つ生徒。シニョール亮をぶつけるのが妥当なノ~ネ」

 




 という訳で、十代対アビドス3世は既にやったので変更となります。対戦相手は……次回発表です。お楽しみに。

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