マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 パソコンの不調はコードが切れかかっていたことが原因でした。交換したのでまだしばらく大丈夫そうです。

 では少し伸びてしまった特待生寮編。三話目です。





 注意。この話では独自設定タグがちょっと仕事をします。


特待生寮に潜む闇 その三

「スパークマンで、デスルークデーモンを攻撃!」

 

 その言葉と共に電気を操るE・HEROの雷撃が、チェスの駒のようなデーモンを吹き飛ばす。

 

 なんとどうやらこんな状況でも十代はデュエルをしていたらしい。どんなところでもデュエルで切り抜けるというその一貫した行動はある意味尊敬するよ。

 

 どうやら十代の周りにも黒スライムが居るようだが、ハネクリボーが実体化して食い止めているようだ。

 

 対戦相手はさっきのタイタンか。……逃げなかったんだなタイタン。目なんか赤く光っていてちょっと様子がおかしいけど。

 

『どうやらタイタン君ったら、さっきの奴らに憑りつかれているみたいだね。闇のゲームでデュエル放棄は無しってことみたいだ』

 

 えっ!? さっきのスライム人に憑りつくのっ!? これはますますさっさと逃げねばヤバい!

 

 俺は慌ててペンダントをかざし、黒スライムを払いのけながら十代に駆け寄る。ちなみにディーは急にフッと姿を消した。……さっき言った通り人に自分の姿を見られたくないようだ。

 

「お~いっ! 十代。無事かっ!」

「えっ!? 遊児お前なんでこんなとこに!? 来ないんじゃなかったのか!?」

「いや、それが後から色々あって追いかけてきたんだ。……それでさっき追いついたら十代が変な相手とデュエルしてるし、おまけに変な煙に呑まれたと思ったらこんなところに居てもう何が何だか」

 

 素直に罪善さんを追いかけてという訳にもいかないしな。その辺りは少しぼかしながらこれまでのことを説明する。

 

「そうだったのか……って遊児後ろっ!」

 

 十代の声に振り向くと、またさっきの黒スライム達が押し寄せてきた。マズイっ!

 

 クリクリ~! カタカタ。

 

 だがそれに合わせてハネクリボーがインターセプト。黒スライム達を押し止めると同時に罪善さんが光を放ち、奴らはザッと距離をとった。

 

「ふぅ。……遊児。そのモンスターひょっとして!」

「あ~。罪善さんの話はあとだ! 何だか知らないけど、このデュエルを終わらせたら早いところこんな場所から出ようぜ。……勝てよ!」

「当然だろっ! 待たせたなタイタン。デュエル再開だ!」

 

 十代はそう力強く宣言した。……大丈夫だとは思うけど頑張ってくれよ十代!

 

 

 

 

 その後の流れは半ば予定調和と言えた。場も手札もがら空きにされた状況で、十代はバブルマンをドローして特殊召喚。さらにバブルマンの効果によりさらに二枚ドローと怒涛の引きを見せ、さらに土壇場でエッジマンを特殊召喚。

 

 こうして主人公らしい凄まじい逆転劇を見せつけた。……というかあの状況でよくドロー1枚でひっくり返したな。俺にはとても出来ない芸当だね。

 

 しかし問題はこれからだ。デュエルの決着がついた瞬間、それまで周りを取り囲んでいた黒スライム達が敗者であるタイタンに群がったのだ。

 

「な、何をするっ!? バカな。本当に闇のゲームが、あると言うのかぁっ……」

 

 そのまま黒スライム達に吞み込まれていくタイタン。闇のゲームを騙ったとは言え、この末路は何とも不憫だ。俺は心の中で合掌する。

 

「うお~。すっげ~。どうなってんだあれ?」

 

 どうやら十代は、この状況をまだマジックか何かと判断しているようだ。それならそれで良い。下手にこういうのを掘り下げるとロクなことにならないからな。

 

「そんな事言ってる場合じゃないぜ。デュエルは終わったんだから、早いところこんな所からおさらばだ」

「分かった」

 

 どうやらハネクリボーが出口を見つけたらしい。この空間に現れた小さな裂け目。そこに向かって俺達はひた走る。

 

 後ろから再び大挙して押し寄せる黒スライムの群れ。もうタイタンは消化されてしまったのだろうか? いや、そんなことを考えている場合じゃない。走れ走れっ!!

 

「一度に入ったらつっかえる。先に行け十代っ!」

「おうっ!」

 

 まず最初にハネクリボー。次に十代が裂け目から外に出る。そして、

 

「……で、そろそろ良いんじゃないか罪善さん。ここに来た本当の目的を教えてくれても?」

 

 俺は裂け目の直前で足を止め、ここに連れてきた元凶である光り輝く頭蓋骨を見つめる。ハネクリボーも十代も先に行った。他に聞いている者はいない。

 

『おや。鋭いね。気付いていたかい?』

「そもそもほっといても原作通りに進むのであれば、俺が介入する意味は無いからな。だから罪善さんが連れてくるとすれば、何かしらの意味があると思っただけさ」

 

 いつの間にか再び出現したディーの光球にそんなことを言いながら、俺はいつ何時でも裂け目に飛び込めるように構える。だってもう黒スライム達が間近に迫ってるんだぞ! 内心ビビってるんだ。

 

 そんな中、もはや津波のような勢いで迫りくる黒スライム達の前に罪善さんはふわりと浮かぶ。……そして、

 

『目的を一言で表すなら……()()()()? まあもしかしたら()()ってだけかもしれないけどね』

 

 罪善さんから物凄い光が放たれ、俺の目が一瞬眩む。そして再び目を開けた時、そこにあったのは白い粒子状になって罪善さんに吸い込まれていく黒スライム達の姿だった。

 

「な、なんだこれはっ!?」

『実は罪善さんは他者の“罪”を糧にして活動している。君から少しずつ供給されているエネルギーとはまた別にね。そしてこの寮には、人にとってとても良くないモノが溜まっていた。人の罪の形とも言えるさっきのような何かが。……罪善さんはそれに反応したんだろうね』

「人の罪の形……か」

 

 確かに千年アイテムと関わるなら、闇だの何だのは切り離せない要素だ。なにかしらの実験の結果、こいつらが出てきてしまったという事であればそれは人の罪の形と言えるかもしれない。

 

 黒スライム達は、何となく穏やかな顔をしながら罪善さんに吸い込まれていった。あくまで俺がそう感じただけだから、もしかしたらそんな事全然思ってなかったかもしれないけどな。

 

 そしてあらかた吸い込み終わった罪善さんは、最後にまた軽く発光して実体化を解いた。何か前より神々しさが増したような気がするな。

 

「なあディー。もうその良くないモノは完全に無くなったのか?」

『いや全然。ひとまずここに溜まっていた分を吸いきったってだけ。それに放っておけばまたいつか溜まるだろうね。……それが一年後になるか十年後になるかは知らないけど』

「そっか。……それじゃそろそろ出るとするか。十代達も待ってるだろうしな」

 

 さっきの良くないモノのこともあるし、とにかくこの寮はヤバいという事が判明した。今回はどうやら原作の流れ的に必要だったようだけど、もうこの寮には金輪際近づかないからな。

 

 俺はそう決意を固め、静かに裂け目の中に入っていくのだった。

 

 

 

 

「遊児! 無事だったか!?」

「えっ! 久城君っ!?」

「遊児も来てたんだな?」

 

 裂け目から出た瞬間、先に出ていた十代と呑まれなかった翔達が駆け寄ってくる。そしてそのままさっきまで俺達が居た闇の空間が一気に収縮し、凄い風を巻き起こしながら消滅した。

 

「お~っ! 今度はタネがまるで分からねえ!」

 

 十代が拍手しながらそんな事言ってる。まあ知らない方が良いこともあるよな。

 

 結局タイタンは、デュエルに負けて大規模なマジックで逃げたという扱いになった。実際はまだあの闇の中だが、罪善さんが良くないモノを吸収したから少しはマシになったかもしれない。気休めだがそう思う事にしておこう。

 

 その後、眠らされていた明日香を起こし、十代が何かを手渡していたようだけど、俺はこれからのことで頭がいっぱいでそれどころではなかった。

 

 だって十代にはばっちり罪善さんのことを見られてるしな。正直に話したら絶対これからの流れに影響を与えるし、どう言えば原作の鍵になる精霊について誤魔化せるか。

 

 コケコッコー!

 

「やばっ!? おい。皆が起き出す前に戻ろうぜ!」

「そうだった! もう朝じゃないか! まだ授業の用意もしてないんだぞ!」

 

 一番鶏の声が響く中、オシリスレッドの面々は明日香に挨拶をすると慌てて走り出す。……こりゃあ今日は寝不足で授業を受けることになりそうだ。

 

「そう言えば遊児。さっきのことだけどな」

 

 十代が走りながらこっそり俺に耳打ちする。やっぱり忘れてなかったか。

 

「さっきのカード。……罪善さんだっけか? あのことはその内話してもらうからな。ひとまず帰ったらぐっすり寝ようぜ!」

「……ああ。そうだな」

「何々? 何の話っすか?」

「内緒だ! さあ急ぐぞ」

 

 翔も話に混ざってきたが、そこは上手いこと誤魔化す。よし。これで少しは時間が稼げた。その間にどうにか言い訳を考えるぞ。

 

 そうして俺達はレッド寮に帰りつき、せめて授業開始ギリギリまで寝るべく挨拶もそこそこに自室に入る。そして疲れ切った俺が倒れこむようにベッドに飛び込もうとした時、

 

「…………何だ?」

 

 布団の中に妙な膨らみがあるのが見えた。しかもその膨らみは微かに動いている。……何か居るっ!?

 

 俺は慌てて身構え……少し考えて構えを下ろす。さてはまた大徳寺先生の愛猫のファラオだな! ファラオは神出鬼没でこの寮のあちこちに出没する。一度なんか寮の屋根裏を伝って部屋に入ってきたことがあったのだ。

 

 このところ少しずつ寒くなってきたし、暖を取るためにどこぞの部屋の布団に潜り込むことは十分あり得る。丁度部屋の住人が居なかったこともあって入りやすかったのだろう。

 

 ゆっくり寝かせてあげたいところだが、俺ももう眠くて仕方がない。一番上の段は上るのがしんどいし、二段目の段は荷物置きにしてるから片付けるのが面倒だ。

 

 中に居るであろう縞柄猫をベッドから追い出すべく、俺は布団を勢いよく引っぺがす。だが、

 

「という訳でちょいと退いてくれよファラ……オ?」

「……すぅ……すぅ」

 

 布団の中に居たのはあの縞柄猫ファラオではなく、静かに寝息を立てる一人の小柄な少女。そして、その姿には見覚えがあった。

 

 ディーに渡されたカードの一枚『幻想体 小さな魔女 レティシア』。目の前の少女はその絵柄にそっくりだった。それが意味するところはつまり、

 

「……なんで実体化してんだよレティシア」

 

 俺の苦悩をよそに、目の前の少女はとても気持ちよさそうに眠り続けていた。

 




 という訳で、罪善さんに続く最初の精霊化幻想体はレティシアでした。何故このタイミングで出たかは次回という事で。

 あとこの話の罪善さんの挙動についてですが、黒スライム達を“人の罪の形”と解釈して糧にしたのは完全に独自設定です。

 原作では職員が罪を告白することで、罪を浄化しつつエネルギーにするという動きをしていますが、なら良くないモノであっても拡大解釈で浄化・吸収できるのではないかと。

 この件につきましてはこういう解釈もあるのだと、温かい目で見守ってもらえれば幸いです。

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