マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
注意! 今回独自設定タグがかなり仕事します。
この所出番のなかった者達のお話です。
◇◆◇◆◇◆◇◆
アビドス3世が冥界に戻って翌日の事。
『出番が少ないっ!』
主人の居ない部屋で、突然ネクことダーク・ネクロフィアは大声を上げた。
『ネクちゃん。めっ! 急に大声出したら皆がビックリしちゃうよ』
『そうは言うがな我が運び手よ。私だって好きで言っている訳ではないのだ』
いつものようにレティシアが嗜めるが、普段とは違いネクも引き下がらない。何故なら、
『最近の
そう。ネクの言う通り、遊児は現在次なるセブンスターズとの顔合わせの為にアジトである洞窟に向かっていた。
この部屋で留守番を任されていたのは、今回デッキに入れていない幻想体のカード達。レティシアを始めテディ、雪の女王、ヘルパーといった精霊化出来るカードは、それぞれ思い思いの体勢で部屋で過ごしていた。
そんな中のネクの突然の宣言である。
『我が運び手よ。最近遊児と碌に話せていないのではないか? テディもそうだ。レティシアとの散歩で我慢してはいるものの、たまには思う存分に遊児に甘えてみたいのではないか? 私はそんな今の状況に物申したいのだ』
『それは……そうだけど。でも遊児お兄ちゃんも忙しいの。だから、私も我慢するの』
レティシアは一瞬言葉に詰まり、その後はっきりと宣言する。しかしその言葉には少しだけ寂しさが混ざっている。
テディもまた同じだ。喋りこそしないものの、レティシアの背をポンポンと擦って傍に寄り添っている。しかしほんの僅かに普段よりも俯いている。
そんな幻想体達の心の機微をネクは見逃さない。
『まあ待て。何もお前達にもっと我慢しろと言うつもりはない。
〈ピピッ! 持ってきたよ!〉
ネクがぎこちなく片手を挙げて呼ぶと、ヘルパーは器用に車輪で移動しながらアームで一枚の紙を出して広げる。それは、
『学園祭のお知らせ?』
『そうだ。一年に一度催される祭り。それぞれの寮の生徒が各自で催し物を披露して楽しむものだ。まだ少し先の話だがな。これはその仮の企画書を少し拝借してきたものだ』
『楽しそう! ……でも、我慢しなくても良いってどういう事?』
レティシアとテディは揃って首を傾げる。それに対してネクは不敵に笑い、
『決まっている。精霊としてではなく、
『え~っ!? ネクちゃん。それはダメだよ!? 私達精霊だもの! 遊児お兄ちゃんにも他の皆にも迷惑かけちゃうよ』
レティシアは子供らしい外見と思考ではあるが、それでも自分達が実体化したら驚かれるぐらいの事は察していたし、折角のお祭りが自分達のせいで台無しになったら嫌だという良識的な考えもあった。
だがそれはネクも想定内。我慢する心を揺さぶるように、甘い誘惑を静かに囁いていく。
『な~に心配するな。このオシリスレッドの催しはコスプレデュエル大会(仮)だと書かれている。つまり我らが実体化して練り歩こうが、そういう
『じゃ、じゃあ!』
『ああ。レティシア。我が運び手よ。この日ばかりは大手を振って遊児と温かな日差しの下を出歩ける訳だ。それだけではない。祭りとあれば多くの人間達が楽しむだろう。お前の好きな笑顔でな』
レティシアはその言葉を聞いて顔を綻ばせる。期待。願い。喜び。それらがたっぷりと詰まった顔を。
『無論テディもだ。堂々と遊児に甘える事が……まあ少なくともいつもより多く出来ることは間違いない。それに他にも遊んでくれる奴が増えるかもしれないぞ』
テディも口にこそしないものの、その言葉にうんうんと大いに乗り気の様だった。
(ここまでは計画通り)
明るい未来を夢見る少女とぬいぐるみの様子を見て、人形は内心ほくそ笑む。だが、まだこれだけでは自分の思惑には足りない。
幸いここにはその欠けたピースが揃っている。あとはどう口説き落とすか。
『下らんな』
それまで口を出さずに……否。出す口など空いていないと優雅にハーゲン〇ッツ(グリーンティー味)を味わっていた雪の女王が、話を聞いてビシッと持っていたスプーンをネクに突き付ける。
『何故妾がわざわざそのような些事に付き合わねばならぬ?』
『そこをどうにか頼めないか? 何もずっとという訳ではない。あくまで一時的にで良い』
『ならん。
ネクが雪の女王に持ち掛けたのは、実体化したレティシアやテディの保護者役だった。
先ほどはああ言ったが、ネク自身ずっとレティシアやテディが遊児と一緒に居られる訳ではないと判断している。祭りとは言え遊児にもやることの一つや二つは有るだろう。セブンスターズの方でも動く必要があるかもしれない。
その間も実体化するのであれば、レティシアはコスプレをした女の子という扱いになる。保護者なくして勝手に出歩けば、それこそ誰に止められてもおかしくはない。
(精霊の見える万丈目や茂木などに声をかける手もあるが、後の事を考えれば出来れば知られたくはない。精霊化する幻想体達で保護者役を務められそうなのは現在人型の雪の女王か葬儀の奴ぐらいだ。葬儀の奴は私の事を疑っているから協力しないだろう。残るはこの雪の女王のみ)
しかしネクがいくら頼んでも雪の女王は首を縦に振らない。これ以上しつこくするようなら氷漬けにするぞとばかりに僅かに放たれる冷気も強まっている。
絶好の機会だがまた別の策を練るかとネクが諦めかけた時、
『……んっ!?』
ふわりとどこからか風が吹き、企画書(仮)のペラリと捲ってあるページを開く。そこには、
『……暑さを吹き飛ばす冷たい新作スイーツ祭り』
『何?』
食いついたっ! その言葉に少しだけ雪の女王が反応したのを見逃さず、ネクはここぞとばかりに畳みかける。
『オベリスクブルー寮の催しはカフェであるとか。そしてその一画で行われるのがそのスイーツ祭り。……確かに最近はかなり暑い。冷気を是とする雪の女王におかれてはさぞ辛かろう?』
『ふっ。安い挑発よな。妾がこの程度の熱気で参るとでも?』
『しかし心躍らぬと? 未知の甘味に! そこのハーゲン〇ッツのような出会いがまたあるかもしれないのに?』
雪の女王のアイス好きはもう遊児や幻想体達の中では周知の事実。けっして興味が無い訳ではないとネクはここぞとばかりに語る。
しかし女王の矜持故か、彼女も僅かに迷いがあるも動こうとはしない。もう一押し。もう一押し何かないかとネクは考え、
『女王様! 一緒に行こうよ! 楽しいよきっと!』
思わぬ一手が横から飛び込んできた。
『アイス食べてる時の女王様とっても嬉しそうだもの! だから色んな冷たいお菓子を食べたらもっと笑顔になれると思うの! だから一緒に行こっ!』
『…………むぅ』
目をキラキラとさせて誘う幼子を前に、流石の雪の女王も頷かざるを得なかった。
なぜならその幼子が持つ温かい心こそ、雪の女王が敗北する数少ない物なのだから。
(……っふっふっふ。ふ~はっはっは! ここまで計画通りに行くとはな!)
行くなら早速予定を立てようと幻想体達が話し合うのを尻目に、ネクは内心小躍りしていた。
そう。ネクが幻想体達に声をかけたのは、当然ネク自身の思惑の為。その為には一人では手が足らず、それに巻き込むべく理由を付けて他の幻想体達を焚きつけたのだ。それは、
『ご機嫌だねぇ。実に喜ばしいことだよ』
『……たった今お前の姿を見てご機嫌ではなくなった所だ。何用だディー?』
突如現れたディーを前に、ネクは不機嫌さを隠すことなく尋ねる。他の幻想体達は相談に夢中でまだ気づいていない。
『な~に。君が面白そうなことを進めている様だから、ちょっとだけ気になってね』
『先ほど都合の良いタイミングで風が吹いたのもお前の仕業か。……まあ良い。この作戦が成功した暁には、そう面白がっても居られなくなるのだからな。精々今の内に楽しんでおくが良いさ』
『それは楽しみだ。何せ
ディーは後の方の言葉を他の幻想体達に聞こえぬようこっそりと、それでいてとても楽しそうに口にする。
そう。ネクの狙いは三幻魔の力の奪取。何故かしばらく前……大体黒蠍盗掘団が敗北した辺りから、七精門から僅かながらも三幻魔の力が漏れている事にネクは気が付いていた。
これはネクが霊体の操作、使役を得意としていた事と、漏れ出る力に惹かれて七精門に霊体が集まって来ていた事は無関係ではないだろう。
勿論通常なら力が漏れるなんてことは封印が解けない限りあり得ない。それこそ物理的に、
だが確実に力は漏れている。ならその力を有効活用しようとネクが思い立つのはごく自然だった。
(力を取り込む策は練ってある。後は機会さえ逃さなければ良い。見ているが良いディー。
ネクもまた来たる明るい未来を夢想し、その心は浮き立っていた。
企みを持つのが自分だけではないと知る由もなく。
まだ少し先ですが、学園祭に向けて幻想体達も準備を始めました。
原作では一話で終わる学園祭ですが、あんな丁度良いイベントを一話で済ますと思うなよ!
余談ですが、初めて短編を書きました。『ねぇシスター。あなたは“きゅ”の付くアレですか?』。暇潰しにでも読んで頂ければ幸いです。