マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
『勝者。クロノス・デ・メディチ先生』
「はぁ……はぁ……や、やったノ~ネ。……うっ!?」
俺のコールの通り、勝者はクロノス先生。それは間違いない。だがそのダメージは甚大だった。
息も絶え絶えまともに立つ事すら出来ず、その身体はぐらりと傾く。だが、
ガシッ。
「……っ!? ドロップアウトボーイ!?」
「カッコ良かったぜ! クロノス先生」
倒れる直前、十代が駆け寄って肩を貸す。一人穴から中を覗いていたからこそ、クロノス先生の消耗にいち早く気が付いたのだろう。
「ぬぅ!? ば、バカな!? 私が……私が負けるなど。それも十代ならまだしも、お前のような奴に」
「タイタン……」
それは先ほどとは真逆の構図。デュエルに敗れ力なく膝を突くタイタンが、事実を受け入れられないようにそう呟く。クロノス先生は何か言おうとしたが、
「ぬあぁっ!? 止め、止めろっ!?」
「これはっ!?」
突如タイタンの足元から噴き出した
「い、嫌だっ! もうあの闇の世界には戻りたくないぃっ!」
「タイタンっ!? 手をっ!」
クロノス先生は手を伸ばそうとしたが体がまともに動かず、十代もクロノス先生に肩を貸していて動けない。他の鍵の守り手達も距離が離れていて咄嗟に動けず、
「た、助け」
それが鍵の守り手達の聞いたタイタンの最後の言葉となった。足元から噴きあがる黒煙が一気にタイタンを呑み込み……煙が晴れた後には何も残っていなかった。
しばらくその場を静寂が支配した。鍵の守り手達の表情は一様に暗い。……無理もない。
これまでの戦いでも敗者は何かしらあったが、タニヤも黒蠍盗掘団もアビドスも、まだ比較的穏やかな別れだったように思う。全力を尽くした結果の悔いのない消滅だ。
ダークネスに至っては封印されたのはダークネスの精神のみで、吹雪の肉体も精神もそのまま。今回のような生々しく壮絶な、一言で言うと嫌な消滅の仕方は初めてだったのだから。
だが、本来これが正しい闇のデュエルの敗者の末路だ。マンガ版でもあったような、闇に引きずり込まれるとは多分こういう事なのだ。そして、
『さて。此度の戦い、見事な勝利でした。クロノス先生』
そんな中でも俺は進行役の責務を果たさなければならない。気は重いが、なるべく落ち着いた風に語り掛ける。
『タイタンの末路を気に病む事はありません。彼は元々闇の世界に落ちていた所、今回セブンスターズの一員となって勝利する事を条件に脱出していました。これは契約が果たされなかったので引き戻されただけの事です』
「確かにタイタンは悪党だったノ~ネ。ただ、この終わり方は……どこか哀れなノ~ネ」
「なぁバランサー。タイタンはずっとこのままなのか?」
クロノス先生が目を伏せてそう悼むように言う中、十代がふとそんな事を言い出した。流石主人公鋭い所を突いてくる。だが、
『……さてな。俺はただの司会進行役。勝負を滞りなく進める事が仕事であってそれ以降は認知する所ではない。さあ鍵の守り手の皆様。こちらは事後処理がありますので撤収をお願いします。今日は帰ってゆっくりと心も体もお休めになりますよう』
「その通りにゃ。クロノス先生も酷いダメージだし、早く鮎川先生に診せた方が良いのにゃ。撤収にゃ撤収!」
俺に呼応するように大徳寺先生も鍵の守り手達に撤収を促し、ぞろぞろと部屋を出て行く。去り際に大徳寺先生と視線が合い、一度軽く頷いていった。そして、
「ドロップアウトボーイ。いや、
「何だよ改まって?」
「あとで話があるノ~ネ。……大切な話なノ~ネ」
立ち去る前に僅かに聞こえたクロノス先生と十代の会話。
一瞬十代は驚いたようだが、すぐに真剣な顔でこくりと頷きそのままクロノス先生に肩を貸して歩いていく。
そうして、この部屋から鍵の守り手達は全員去っていった。念の為確認するがカミューラの僕らしきコウモリも居ない。残ったのは俺と、
「……フハハハハ! どうだ? 名演技だっただろう?」
『名演技過ぎて心を抉り過ぎたかもな。まあここまでなんだかんだ緩い結末だったし、本来闇のデュエルはこういう危ないものなんだと思い出させるにはこれで良かったのかもしれないが』
悠々と歩いてくるタイタンに、俺は軽く手を上げて応える。
先ほどの一件。実は大半がお芝居だ。と言っても芝居だと知っているのは俺とタイタン、そして大徳寺先生だけだが。
闇に呑まれたように見えたのは、事前にタイタンが準備していた
単純なトリックではあるが、そこは元々自称闇のデュエリストとして催眠術であくどい商売をしていたタイタン。相手からどのように見えるかを計算するのは得意技だ。それに最後の断末魔的な演技も良かった。
『ダーク・アリーナを使った時には少し驚いた。あの時の侵食は間違いなく本物だったからな。本当に闇のデュエリストとして暴走したかと冷や冷やしたぞ。……まあ罰鳥は分かっていたようで動かなかったけどな』
実際あれで闇のデュエルとなった時は肝を冷やしたが、悪心に反応する罰鳥がその時点で動かなかった事からギリギリまで見守る事にした。これは暴走ではなく意味のある行動だと分かったからだ。
『なあタイタン。何故当初の予定を変更してクロノス先生に対して全力で戦ったのか。俺なりに考えてみたんだが……あれはクロノス先生に罪と向き合わせる為じゃないのか?』
タイタンは俺の問いかけに何も言わない。
『未遂に終わったとはいえ、クロノス先生がタイタンに依頼して十代を襲わせたとする。これは立派な犯罪行為だ。だからその分のケジメとして敢えて必要以上に厳しく責め立てた。……違うか?』
「……ふん。買い被りだ。あれは単なる気まぐれで、あれだけ執拗にやれば倒された時に皆が少しは爽快な気分になるかと思っただけの事よ。ただ」
そこでタイタンは一度言葉を切り、クルリと背を向けてポツリと呟いた。
「今や完善体となった私だから分かる。自身の犯した悪行は消えない。それは一生自身を責め苛むのだ。だが……奴は言った。“生きていれば闇に堕ちる事もある。それでも切っ掛けさえあればまた光の道に戻れる”と」
そこでタイタンは、こちらに向いてゆっくりと笑いかけた。
「奴自身がそう信じているのであれば、私の様に堕ち続けるようなことはあるまいよ。いずれ自身の行いを自身で見直すだろう。……多少長い目で見る必要はあるだろうがな」
そう言い終わると同時に、タイタンの仮面が急に暗い光を放ち始めた。……いよいよか。その光に誘われたか、どこからともなく黒いスライム状の何か……良くないモノが湧き出てくる。
『もう来たか。この三日間で散々減らしたってのに』
わざわざこの特待生寮を戦いの舞台にしたのは、十代とタイタンが戦った時の様に
普通に辞めてもダメ。逃げても理事長にバレたら処罰されかねない。なら……
理事長がどうやって敗者を闇に墜とすかはよく分からなかったが、ならこっちで分かるやり方を先にあつらえてしまえば良い。
場所が同じで条件が近ければ、当然原因も近くなる。ここでは前例があるから分かりやすいしな。あとはタイミングの問題だ。タイタンが負けてから闇に呑まれるまでの間、準備をする時間さえ稼げればいい。
俺は幻想体達と協力し、事前に特待生寮の良くないモノを出来るだけ撃退した。また湧き出てくるだろうが、そうすればタイタンが負けてもすぐ引きずり込まれる事は無いと踏んだからだ。
結果読みは的中。タイタンが自前の手品で消滅を偽装する時間が稼げた。カミューラの監視だけがネックだったがそれもない。これで理事長にもタイタンの末路(偽)が伝わるだろう。あとは、
『タイタン。これを』
少しずつ良くないモノが群がりつつあるタイタンに、俺は準備した物を手渡す。タイタンは足元に群がられて引き攣った顔をしながらも、力強くそれを手に取った。
『こんなギリギリになって言う事でもないんだが、正直成功するかどうかは賭けだ。だが……』
「分かっている。理事長の目から逃れるならこれくらいでないと通じないからな」
一応理論上は上手く行く筈だが、闇の世界となると実証する為に堕ちる訳にも行かずぶっつけ本番だ。
そんな不安だらけの状態で、もはや身体の下半分が良くないモノに覆われつつあるタイタンは覚悟を決めたようにそう返した。
『……では最後に言わせてくれ。グッドラック』
「最後ではないさ。……さらばだ」
その言葉と共に良くないモノが一気にタイタンを包み込み、そのまま床に沁み込むように消えていく。
消えた後に残ったのは、タイタンが着けていたウジャド眼の飾りのついた仮面のみだった。
これにてタイタン編は終了となります。次回はちょっとした後日談と、これから山場に向かう前のちょっとした休息です。
現在のアンケートは一応この話までで締め切りとなりますので、まだの方はお早めに。
この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。最後じゃないからと評価を保留されている読者様。
お気に入りや評価、感想は作家のエネルギー源です。ここぞとばかりに投入していただけるともうやる気がモリモリ湧いてきますので何卒、何卒よろしく!