マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
学園祭遂に開幕……なのですが、
◇◆◇◆◇◆◇◆
「お待たせしました。オベリスクブルーブレンドです。ごゆっくりどうぞ!」
「キャ~っ! カッコいい!」
「やっぱりブルーの男子ってスマートよねぇ」
ここはブルー寮学園祭限定野外カフェ。
学生にしては様になっているウェイターが去っていくのを見ながら、天上院明日香の取り巻きである枕田ジュンコと浜口ももえは黄色い声を上げていた。
「明日香さんも来れば良かったのに」
「仕方ないわよ。お兄さんを連れてレッド寮に出かけるって言うんだもの」
目覚めた当初に比べれば大分身体も復調してきた吹雪だが、記憶の欠落や精神の不安定さはまだ解消されていない。なのでこういうお祭りの時こそ外出の許可を取り、少しでも精神に良い影響を与えようと明日香は動いていた。
明日香の取り巻きである二人も、ある程度は空気を読んで兄妹水入らずの時間を過ごさせてあげたいという気持ちはある。のだが、
「それにしても明日香さん。最近私達に構ってくれないって気がするのよねぇ」
「そうですわね。……やはりあの方に惹かれているのでしょうか」
これまではいつもももえとジュンコは明日香にべったりだった。しかし明日香が十代に興味を持ってから、ちょくちょくレッド寮に通う日々。結果取り巻き達と一緒に居る時間が減ってしまったのだ。
仲の良い友人兼憧れの人を取られたようで、少し不貞腐れながらテーブルに頬杖を突くジュンコ。
「かもねぇ……まあ今日は仕方ないにしても、またあのレッドの男子共に負けないようにこっちも明日香さんに……んっ!?」
そうして何の気もなく視線を別の方向に向けると、
『そこなる給仕よ。こちらに参れ』
ふと隅のテーブルに居る女性に目が留まった。
淡いミントのような色の長髪。上下は薄い水色のドレスに身を包み、肩からは濃い青の肩掛け。何の仮装なのか童話の王族が着けるようなティアラを被り、肌は青白く触れれば壊れてしまいそうな程儚く美しい。例えるなら、それは雪や氷のような美しさだ。
とんでもなく目立つ格好の筈なのに、今の今まで気が付かなかったことをジュンコは不思議に思った。
「はい。お待たせいたしました。お客様」
『うむ。妾の舌にあう良き甘味であった。褒めて遣わす。それとこの“天然かき氷 氷帝メビウス仕立て”と、“フルーツシャーベット 魂の氷結風”を持て。……ああ。あと“ゴッドハンドクラッシャーアイス”のお代わりを』
「か、かしこまりました」
その女性は、皿に盛られたどう見ても普通のカップアイスの数倍はある特大のバニラアイスをみるみる内に匙で掬い取りながら、ウェイターにメニューを見せて追加オーダーをしていた。
とんでもない食べっぷりにウェイターも顔を引きつらせながら、それでもきちんと一礼して去っていったのは中々根性が入っている。
「うわぁスッゴ! 見なよももえ。あの人スッゴイ美人な上にあの食べっぷり。フードファイターかな?」
「本当に。どちら様なのでしょうねぇ。……あっ!?」
「ももえっ!?」
ジュンコに勧められ、大きく首を傾けてその女性を見るももえ。しかし驚きと無理に首を傾げたせいで、普段から少しのんびりしているももえはうっかり体勢を崩してしまう。
おまけに腕が引っかかってぐらりと傾くカップ。中にはまだ熱いコーヒーが。ジュンコが気づいて止めようとするも間に合わず、
『おっと。大丈夫かね? お嬢さん』
そこに現れた男が素早く
「は、はい。ありがとうござ……っ!?」
咄嗟に礼を言うももえ。だがその言葉は途中で驚きのあまり途切れてしまう。
それも当然だろう。その男は
『怪我がないようで何よりだ。折角の祭りに火傷などしてしまっては楽しめないだろうから。……それとこれはちょっとした忠告だが、あまりまじまじと人が甘味を楽しんでいる様を覗くものではないよ。相手によっては不快にさせるだろうからね』
蝶頭の男はそっとももえを立たせるように支えながら、二人に優しく諭すようにそう告げる。
「ももえを助けてくれてありがとうございます! それと……そのぉ」
『んっ!? ……ああ! この姿かね? もしや見た目で気分を害したかな? だとしたら申し訳ない。連れが食事を終えて宣伝を終了次第すぐに移動するので許してほしい』
「いえっ! そうじゃないんです。ただ……不思議な格好で、少し驚いただけなんです。それでその、宣伝……っていうのは?」
蝶頭の男が申し訳なさそうな口調で話すと、ジュンコはぶんぶんと顔を横に振って違うと力説。蝶頭の男の宣伝という言葉に、テレビか何かかとつい質問する。
『それはだね……こういう事だ』
蝶頭の男はずっと背中に残った腕で担いでいた何かを見せる。それは、
「レッド寮名物コスプレデュエル大会?」
『ああ。文字通り、カードのモンスターに扮してデュエルを行うという催しだ。と言っても必ず仮装をしなければならないという訳ではないし、デュエルを強制することもない。あくまでどちらも自由参加だ。それに衣装の持ち合わせがなければ現地でも用意がある』
どこか棺にも見える大きな箱に、カードの一種であるデス・コアラとデス・カンガルーが鎬を削る様を描いたポスターが張られていた。
それを見るジュンコに対し、蝶頭の男は淀みない言葉で説明する。
「じゃあ、その格好は?」
『お察しの通り。これも
「へぇ~。……すっごい完成度ですね。腕なんかまるで本物みたい」
明らかに全ての腕が別々の行動をしていて、本当に神経でも通っているのではないかというスムーズな動きに驚きを隠せないジュンコ。そこに、
「……あ、あのっ! 私浜口ももえと申しますっ! こちらは友人の枕田ジュンコ。ぜ、是非貴方様のお名前をお聞かせくださいまし!」
突如ももえが蝶頭の男の手を握り、強い意志を感じる言葉で問いかける。その瞳は僅かに潤み、頬は微かに赤く染まっていた。
『ふむ。先に名乗られてしまっては、こちらも名乗り返さねばいけないな。……私は』
『葬儀っ! 何をしておる? 早くこちらへ来ぬか!』
蝶頭の男が名乗り返そうとした時、そこへ先ほどの冷たいスイーツを爆食していた美女の声が響き渡った。それを聞いて蝶頭の男は困ったように軽く肩を竦ませる。
『やれやれ。連れの貴婦人のお呼びだ。済まないが失礼させていただこう』
蝶頭の男はそう言うとポスターを張った棺を背負い、去り際に二人に向かって胸に手を当てながら優雅に一礼した。
『私の名は『死んだ蝶の葬儀』。囚われし魂を哀悼するしか能のない男だが、こうして少しでも誰かの心に残る宣伝が出来れば幸いだ』
「コスプレデュエル大会かぁ。オシリスレッドの催しっていうから少し不安だけど、今の人みたいなクオリティのコスプレだったら少しは面白いかもね。明日香さんもお兄さんと行っている筈だけど、邪魔にならないようこっそり行っちゃう? ……ももえ?」
ちょっと冷めたコーヒーを啜りながら、これからの予定を少し変えようかと相方に呼び掛けるジュンコ。だが、
「……素敵な殿方でしたわ」
「あちゃ~。こっちはこっちで火が着いちゃったか。これなら聞くまでもなかったかな」
今もなお顔が紅潮しっぱなしのももえを見て、ジュンコもそそくさと移動する支度を始めるのだった。
スマヌ。本当にスマヌ。ただ幻想体が学園祭で楽しむ姿を書いてみたかっただけなんだ。
遊児視点の本編はもう少し先になりますのでお待ちくださいませ。
余談ですが新作短編を投稿いたしました。『悪の組織の雑用係 忙しくてクソガキを分からせている暇はねぇ』。ちょろっとでも興味を持たれたのであれば、ご一読頂ければ幸いです。