マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
「へぇ~。コスプレデュエル?」
「はい。レッド寮の出し物でして、中々に面白いですよ! 衣装が無くても貸し出しがあるし、極論自分は仮装しないで他の人のコスプレを眺めるっていうのも大歓迎! どうですか?」
俺の言葉にイエローの生徒は軽く黙考し、今やっている出店の交代時間になったら軽く冷やかしに行くと返して自分の場所に戻っていった。まあ一応脈アリってとこか。
イエロー寮の前の広場に足を運んでみれば、そこはまさに縁日といった様相を呈していた。俺もこうしてあちこち見て回りながら、さりげなくレッド寮の宣伝をして回っている訳だ。そして、
『遊児お兄ちゃんっ! あれ見て! 雲を食べてるよ!?』
「ああ。アレはわたあめっていう雲っぽいお菓子だよ」
さっきから目をキラキラさせて祭りを最大限にエンジョイしているレティシアの保護者役も兼ねている。大いに楽しんでくれているようで何よりだ。
そのまま歩き出そうとするが、レティシアの視線はさっきからわたあめに釘付け。確かに見た目のインパクトで言ったらわたあめは結構なものだからな。
「食べてみるかい?」
『良いのっ!? ……あっ!? でも……』
「代金の事なら構わないさ。ほら。これで一つ買っておいで」
レティシアは顔をぶんぶん振って我慢しようとするが、わたあめ一つぐらいでどうこう言うほど困窮はしていない。
それに実を言うと、直前に大徳寺先生からそれなりの額の軍資金を支給されている。「いつも苦労を掛けてすまないにゃ。今日はこれでたっぷり楽しんできなさいにゃ!」と言って笑う大徳寺先生だったが、最近は少し体調が良いらしい。
俺がセブンスターズの活動の代理を務めている事が、少しでも大徳寺先生の支えになっていると考えるのは……傲慢だろうか?
まあそういう訳で、DPにせよ現金にせよ余裕がある。豪遊とまではいかないが、一通り見て回るくらいなら問題は無いだろう。一応ブルー寮に向かった葬儀さん達にもそれなりに渡してある。
『ありがとう! 遊児お兄ちゃん!』
レティシアに小銭を渡すと、顔を綻ばせて跳ねるように駆けていった。こういう所は見た目通り子供っぽいな。
ポンポン。
「うんっ!? ああ。楽しそうだな。テディも一緒に……イテテ!? 分かった分かったっ!? テディはそこの方が良いんだな!? 無理に離したりしないから力を入れるな」
ドサクサでテディも一緒に行かせようとしたら、察知されたのかさらに力を入れておぶさってきた。テディからすれば軽く力を入れただけでもこっちからすれば割と痛い。よしよしと手で宥めてようやく落ち着く。
カタカタ?
「ああ。大丈夫。テディも一応加減はしているしな」
『ふっ! ざまあないな我が生け贄よ。私の苦労が分かったか?』
精霊状態の罪善さんが心配してくれるが、ネクはこちらを見ながら鼻で笑っている。なんて奴だ。……それにしても、
「珍しいな。いつもはレティシアに抱かれているのに、今回はヘルパーに乗るのか?」
『えっ!? ……ああ、いや……うん。まあ偶にはな』
〈ピピっ!〉
白く楕円形の万能(掃除以外)家事ロボットに乗る西洋風人形。なんかシュールだ。その事を尋ねると、ネクは少しだけ口調がまごついた。……怪しい。だが、
「まあ良い。偶にはそんな日もあるだろうさ。それにその身体じゃいつもまともに動けないだろうし、今日ぐらい実体化して翅を伸ばす事には何も言わないさ。それに……
『ど、どうしてそれをっ!?』
おっと。かもしれない程度に適当に言ったのだが当たったらしい。
「レティシアは自分からああいう事を言い出すタイプじゃない。思ってはいてもさっきみたいに我慢してしまうタイプだ。誰かが焚きつけないとな。……最初は葬儀さん辺りかと思ったが、さっき出る前に聞いてみたら違った。って事はあとはネクぐらいのもんだろ?」
ディーの可能性も少しあったが、この反応からするとこっちが当たりだ。ネクは少しだけ警戒するようにこちらに向けて目を細める。
『……ああ。その通りだとも。我が生け贄よ。レティシアは……我が運び手はお前の言うように我慢強く、自身の望みを押し殺す癖がある。偶には発散させてやらんと運ばれるこちらにも影響が出かねんのでな。その点この祭りは好都合だった』
ネクの語るその言葉に嘘はなさそうだった。……
おそらくこれに乗じて何か企んでいる。多分常日頃から言っている自身の復活に関する何かだろう。
今なら止めるのは簡単だ。ブルー寮に行っている葬儀さんを呼び戻すでも良いし、罪善さんに見張ってもらうだけでも事足りる。……だが、
『ただいまっ! 遊児お兄ちゃん見て見てっ! こ~んなおっきいわたあめっ! おまけしてもらっちゃったの!』
そこへ自分の顔より大きいわたあめを持って、レティシアが満面の笑みで戻ってきた。
「はいはいお帰り! ……大きいわたあめだな。一人で食べきれるかい? まだ他にも店を回るのに」
『大丈夫! 皆で分けよっ! はい! ネクちゃん。テディも! 罪善さんにヘルパーちゃんと遊児お兄ちゃんもはい!』
『ま、待つのだ我が運び手よっ!? 私はそんなの要らモガモガっ!?』
あっ!? ネクが千切ったわたあめを口に突っ込まれた。生憎テディはそもそも口が開かず、ヘルパーも辞退。罪善さんは一応口に放り込んだのだが、その瞬間わたあめがスッと消えてしまってイマイチよく分からない。喜んではいるようだけど。
『どう? 美味しい?』
『うおおっ!? 口の周りがベタベタするっ!? 我が運び手よ。いきなり突っ込むんじゃないっ! だがまあ……うん。まあまあだな』
『そうでしょ! 美味しいよねわたあめ!』
照れくさそうに顔を背けながら話すネクを見ていると、以前ならともかく今はそこまでの大事を……少なくともレティシアに対して被害が起きるような事をするようには思えなかった。あとわたあめ美味い。
その後も俺達は宣伝をしつつのんびり祭りを見て回った。
『わ~い! わ~い!』
レティシアのテンションは最初から凄かったのだが、回れば回る程どんどん凄くなっていく。
片手にわたあめの残りとりんご飴。もう片方には水風船とアメリカンドッグ。頭には先ほど買ったクリボーのお面を被り、首からは射的の景品で貰ったカードケース型のペンダントを提げるというエンジョイっぷりだ。浴衣があれば完璧だった。他に焼きそば等も買ったが流石に多いので俺が持っている。
おまけにその可愛らしさと服装の珍しさから店側からも大人気で、何か買う度にお土産を持たされたりちょっと多めに貰ったり。そんな子がいれば当然目につき、あれは誰だと瞬く間にちょっとした噂になる。店側にしてもレッド寮にしてもかなりの宣伝になった。
『だけどさっきの人、神楽坂って人凄かったね!』
「ああ。まさかなり切りがあそこまで行くとは。かくし芸大会でもあれば良い線行くと思うぞ」
神楽坂も出店を出していたのだが、それがなんとお面売り。様々なデュエルモンスターのお面を売っていたのだが、試用の面を被る度にそのモンスターが本当に居るみたいに仕草が変わるのだ。
「様々な相手のデータを集めている内に、使うカードそのものの身になって考える事を最近実験的にやっている」という話だったが、どうやらソリッドビジョンのモンスターの動きなんかも取り入れているらしい。
凄いは凄いのだが、微妙にデュエルから離れているような? まあ会った当初の思いつめたような感じからすれば今の方が数段良いのだが。
あとレティシアを見て「これはっ!? 見事な完成度だ! 前一度使った時のレティシアそのままだぞ! 俺も負けていられないな」と何故かやる気を増し、交代時間になったら参考の為にコスプレデュエルにもお邪魔すると言っていた。そりゃレティシア本物だもの。まあ他の奴も参考になれば良いが。
『あとあのカレーも美味しかったの!』
「そうだな。あの……何だっけ? 樺川? 樺山? とにかくあの先生のカレーは絶品だった」
『樺山先生だよ。お兄ちゃん』
どうにも名前をど忘れしてしまったのだが、ラーイエローの寮長自身も店を出していたのは驚いた。しかもそこのカレーときたら非常に美味かった。カレーだけなら学園の料理人を凌ぐかもしれない。
ただ普段の印象はとても影の薄い先生で、樺山先生自身もそれで悩んでいるらしい。レティシアが目立つ格好をすれば良いんじゃないかなとアドバイスしていたが……そう上手く行くのだろうか?
そんなこんなで祭りを楽しんでいたのだが、
『それにしても、どこに行っちゃったんだろうねネクちゃん』
「ああ。何かあったんだろうか」
さっきネクが少し席を外すと言って出て行ったっきり、もう30分近くになる。いざとなったらヘルパーも一緒だから連絡が来ると思うのだが……ちょっと不安だ。そこへ、
『ぉ、お~ぃ。久城く~ん』
近くから聞き覚えのある声が。この声はディーか! あの野郎今まで見ないと思ったら遂に来たか!
「ディーか。折角の祭りなんだからもう少しのんびりさせて……って、どうしたお前? えらくフラフラだけど」
『大丈夫?』
カタカタ?
振り返って居たのは間違いなくディーだ。だが、明らかにいつもと違って弱々しい。光は力なく明滅しているし、ウェルチアースの薬入りジュースを飲んだ時でもここまでじゃなかったぞ。
レティシアと罪善さんが心配そうにする中、ディーはよろよろとこちらへ浮遊しながらやってきて、疲労困憊といった様子で声を出す。
『いやぁ……酷い目に遭ったよ。
悪党認定って罰鳥にでも捕まったのかと思ったが、ディーのとびきり面白そうな事という言葉にとんでもなく嫌な予感がする。こいつの面白そう=厄ネタの可能性大だ。俺が顔をしかめると、
『まあそんな顔しないでおくれよ。残念ながら、今僕がレッド寮に近づくと色々マズいからね。体力の回復がてら、ここは久城君にちょっと行ってきてもらおうという訳さ!』
「……まあイエローの祭りも大体見て回ったし、そろそろいったんレッド寮に戻って様子を見に行こうとは思ってたから良いが……レティシアはどうする? もう少しここの祭りを見て回るというなら、葬儀さんなり雪の女王に来てもらって一緒に回る事になるけど」
『私もお部屋に戻るの! お婆ちゃんや漁師さんにお土産を持って行ってあげるの!』
レティシアも一度寮に戻るのは賛成のようだ。確かに荷物が多いからな。また出かけるにしても一度どこかに置きたい。
『そうこなくっちゃっ! ……あっ!? 折角だから少しだけレッド寮の様子を見せようか! 予告編みたいなものさ』
「予告編って……ってなんじゃこりゃ!?」
ディーの言葉と共に、持っていた携帯用通信機の画面に映像が浮かび上がる。そこには、
『さあ十代! 楽しいデュエルをしようぜっ!』
『望む所だ! 行くぜ紅葉さんっ!』
何故かコスプレデュエルの会場で対峙しているのは十代と、マンガ版GXにて重要人物である元世界チャンプ
『皆~! 声援ありがとうね~!』
『何か困った事が起きたなら、すぐにワタシに知らせてね! 必ず助けに行くから。そう。ワタシは愛と正義の
これまた何故か出来ている小型ステージの上で、大勢の観客達に向かって笑顔で手を振る二人の少女。『ブラック・マジシャン・ガール』と『幻想体 魔法少女 憎しみの女王』だった。
いやどうなってんだこの状況はっ!?
神楽坂や樺山先生の出店は完全に独自設定です。なんかフッと思いついたのでつい。
新作短編『悪の組織の雑用係 忙しくてクソガキを分からせている暇はねぇ』や、昔書いた短編『ねぇシスター。あなたは“きゅ”の付くアレですか?』の方もよろしくです!