マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
次も明後日投稿予定です。
俺は慌ててレティシアが眠っていた一番下の段を確認する。中はもぬけの殻だ。ならばカードの方はと引き出しを開けて中身を確認するが……無いっ! レティシアのカードが無い。昨日は確かにここに入れたのに。
『どうやら持っていったみたいだね。カードがここに在るんじゃ、実体化してもあまり離れられないから』
「マズイぞっ! いくら無害だって言っても、下手に誰かに見られたらややこしいことになる。急いで探しに行かないと」
俺は急いで服を着替え、念のためカードデッキと余りのカードをポケットに突っ込んで部屋を出る。
『ねえねえ。授業はどうするんだい? このままじゃ遅刻するんじゃないのかな?』
後ろからディーがどこか面白がるようにそんなことを言う。そもそもお前のせいだろと言ってやろうかと思ったが、眠気に負けて任せたのは自分だからグッとこらえる。
「非常事態だっ! 授業は……後で行く」
課題の関係上、授業の遅刻・欠席は問題だ。しかしここでレティシアを放っておく訳にもいかない。一瞬葛藤するが、一日ぐらいならまだ仕方ないと割り切る。……早めに見つけて後で出よう。
「とは言ったものの、一体どこまで行ったんだよ」
慌てて外へ出て、ひとまず本棟に向かって探し始めたは良いものの、手掛かりが何もないことに俺は頭を抱えていた。
最初はあの見た目だから遠くまではいかないと踏んでいたが、考えてみればディーが言うには大人くらいの体力はあるという。部屋を出てからそう時間は経っていないはずだが、どこまで歩いたか分かったもんじゃない。
そしてこのレッド寮の周りは自然に囲まれている。近くには森もあるし、少し歩けば海岸だ。あてどなく探すのは骨が折れる。
「おまけにさっきはやたらゴツイ車がオシリスレッド寮に向かって行ったし、一体何がどうなっているんだ?」
レティシアを探している途中、妙な車とすれ違ったのだ。どちらかといえば軍か何かで使いそうな車で、一瞬チラリと見えた荷台にはこれまた物々しい格好の人達が乗り込んでいた。
レティシアの件で何かあったかと一瞬思ったが、いくら何でもさっきの今で急すぎる。となると別件だけど、何かレッド寮であったかな? 流石に昨日特待生寮に忍び込んだだけであそこまで大事にはならないだろうし。……初犯だし精々目を付けられて厳重注意くらいだろう。
「誰かに手を借りるか? ……しかしこんな状況をまともに話して取り合ってくれる人なんて」
俺の頭に十代の顔が浮かぶ。十代なら精霊のことも知っているから、話したら普通に手伝ってくれそうな気がする。だがその場合、こっちの事情についても洗いざらい話さなきゃいけなくなる。そんな事をすればもう原作がどう転ぶか全く分からない。
「十代に話すのは最後の手段か。となると後は……」
『お~い! ちょっと待っておくれよ!』
俺を追って、ディーの光球がふよふよと飛んできた。何だよディー。今こっちは悩んでいるんだ。
『いや、僕もこれでもちょっとは責任を感じているんだよ。だから、何か上手い方法はないかと考えたわけさ!』
「本当か? また場をひっかきまわそうとか思ってるんじゃないだろうな?」
そこまで長い付き合いではないが、少なくとも目の前の相手が暇つぶしに色々やらかすような奴だというのは分かる。嘘はあまり言わないが、全面的に信じるとロクな目に合わないという類だ。
『まあまあそう言わずに。例えばそうだねぇ。……丁度出てきたお手伝いさんにお願いするというのはどうだい?』
「あのなあ。幻想体を見られたくないから探しているのに、余計幻想体を出してどうするんだよ! そもそも……ヘルパーに人探しなんて出来るのか?」
〈あなたのお供、ヘルパーロボットだよ! 何をお手伝いしようかな?〉
会話の中で名前を呼んだためか、俺のデッキからヘルパーが再び実体化してこちらに問いかける。だから今は出てこなくて良いって。誰かに見られたらどうするんだ。
しかし、このままではらちが明かないのも事実だ。他に手立てがない以上、少しでも可能性があるなら試してみるべきか?
「……ヘルパー。一つ聞くけど、人探しなんて出来るか? 出来ないなら出来ないで良いんだけど」
〈人探し?〉
ヘルパーはそれを聞いて小刻みに顔を動かす。……やはりダメかな?
〈了解。サーチプロセスを開始します。対象の情報を入力してください〉
……意外にいけるみたいだ。
俺は出来る限り正確にレティシアの姿かたちをヘルパーに伝えた。
似顔絵も一応描いて渡したのだが、『……何これ? 新種の幻想体? こんなの出したらヘルパー君がエラーを起こすかもしれないから止めといた方が良いよ』とディーに止められた。失礼だな。レティシアだよこれでも。……少し下手かもしれないが。
〈情報確認。周辺のサーチを開始します〉
ヘルパーはそう返事すると、頭頂部からパラボラアンテナのような物を出して辺りを調べ始める。
『なるほど。元々ヘルパー君は万能型家事ロボットとして造られたけど、当然その家の子供に関わることも想定されている。子供が居なくなった時のための捜索プログラムも入っていた訳だね』
「それは助かる。しかし、ぼんやりとした情報だけしかないけどこれで探せるのかね?」
実際にレティシアを見たわけではなく、あくまで俺からの又聞きだ。まあこのデュエルアカデミアで、小学生低学年くらいの美少女というか美幼女というかそんな子はそうは居ないと思うが。
『……そうだ! ヘルパー君。条件追加! その子は彼に近いエネルギーを発している』
ディーは急に思いついたように、俺の周りをクルクルと回ってヘルパーにそう言った。……そうか! 幻想体は俺から供給されたエネルギーで実体化している。今回のレティシアに関しては罪善さんのエネルギーが多いかもしれないが、それでも俺の分がない訳ではないはずだ。
〈条件追加。……探索中……探索中……ヒットしました。〉
「本当かっ!」
ヘルパーのアンテナがクルクルと動き、特定の方向でピタリと止まって反応する。この方向は……俺がさっきまで居たオシリスレッド寮だ!
「もしかして反対側の方向に行ったのか? ……とにかく一度戻るぞ! ヘルパー。レティシアの所まで案内してくれ!」
〈了解。案内を開始します〉
その言葉と共に、ヘルパーはオシリスレッド寮の方角に向かって走り出した。あの車輪結構速いな。俺達も急いで後に続く。
「……うんっ!?」
寮に向かう途中、また先ほどの車とすれ違った。もう用は済んだのだろうか? 少し気になる所ではあるが、今はこっちの方が優先だ。
そうして走ることしばらく。オシリスレッド寮まで戻ってきたのだが、なんとヘルパーは俺の部屋の前で停止する。
〈サーチプロセスを終了します。……ここだよ。ここだよ〉
「……もしかして、俺達が出た後で戻ってきたのか?」
『そうかも知れないね』
静かに扉を開けて中に入る。だがそこは俺達が出た時と同じで誰も……いや待て。ベッドの
そこは普段荷物置きにしていて俺がそこで寝ることは出来ない。だが身体の小柄なレティシアならどうだ? 俺はそっとその布団をめくる。
「……すぅ……すぅ……むにゃ!? ……おはよぅ。お兄ちゃん」
「……ああ。おはよう。レティシア……で良いのか?」
「うん! 私はレティシアだよ!」
大きくくりくりとした赤い目をこすりながら挨拶をする目の前の子供に、俺はなるべく怖がらせないよう笑いかけた。
仕事を終えたヘルパーに待機命令を出して実体化を解かせた後、俺達はレティシアにこれまでのことを訊ねた。
「……つまり、レティシアは一度目を覚まして軽く外を散歩し、そのまままたこの部屋に戻ったんだな?」
「うん。お外に出れるようになってとっても嬉しかったの!」
レティシアはややぎこちない動きで頷いた。その動きや瞳がクルクルと回る様は、どこかからくり人形を思わせる。
この場合の外は、部屋の外というよりカードの外と言うべきかもな。仮にカードそれぞれに意識があるとしたら、ずっとこの部屋に置かれたままではさぞ退屈だろう。子供なら尚更だ。
「あ~。なるほどな。だけど外に出る時は、誰でも良いから一声かけてくれると嬉しいな。急にいなくなったから驚いた」
「私言ったよ。そこのピカピカさんに、お外にお散歩に行ってくるねって」
何っ!? レティシアが指さすディーの方を見ると、ギクッという感じで身体を震わす。……どういう事だディー?
『いやあ……その、ヘルパー君の機能チェックに夢中で……そう言えば途中で誰かにそんなことを言われたような気がするようなしないような』
「つまりこのドタバタはお前のせいか」
『そ、そうなるねぇ。はっはっは…………ゴメンナサイ』
「ゴメンで済むかこの野郎っ!」
とりあえずディーの奴はあとで説教として、まずはこのレティシアをどうするかだ。このまま実体化しっぱなしというのもマズイ。何とか宥めすかしてカードに戻ってほしいところだが。
「お兄ちゃん。私、お外に出ちゃダメだった?」
「いや。そんなことはないさ」
レティシアがどこか寂しげな顔で俺を見る。子供だからこそこういった他者の機微、相手の表情を読み取る力が強いのかもしれない。俺は咄嗟にレティシアの言葉を否定する。
「いつもはちょっとマズいけど、あんまり他の人が居ない時なら外に出ても構わないよ。……だけど、行く前には必ず俺か……この罪善さんに一声かけること。約束できるかい?」
実体化はマズいが、人には見えない精霊化なら別段他の人に迷惑をかけない限り止めるつもりは無い。というか止められない。
そして俺の言葉ともに罪善さんが実体化する。レティシアは一瞬驚いたものの、すぐに気を取り直した。同じ幻想体だけあって怖い見た目には耐性があるみたいだ。
「うん! 約束する!」
「……よし。良い子だ」
俺はレティシアの頭を帽子越しに軽く撫でる。……はっ!? つい昔妹にしていた時のように! 慌てて手を離すが、幸いレティシアは嫌がってはいないようでホッとする。
『自然にそんなことが出来るなんて……もしかして久城君って天然ジゴロなのかな~? ……あと何で声をかける相手にこの僕が入っていないんだい?』
「お前に言っても不安だからだよ。うっかり的な意味で」
『しょんぼり』
わざわざ口でそう言える分まるで落ち込んでいないだろ。そういうトコも不安なんだよ。
「じゃあ……はい! これ」
「これは……レティシアのカードか。良いのか?」
「うん! お兄ちゃんは
『へぇ~。
自分で持っていなくて良いのかという意味で聞いたのだが、レティシアはニッコリ笑って自身のカードを差し出してくる。何やらディーが変なことを言っているが……贈り物というなら断るのも失礼だよな。
「そっか。じゃあありがたく頂くよ」
俺はカードを受け取ると、無くさないようにそっとポケットに仕舞い込む。
「じゃあお兄ちゃん。私はしばらくお休みするね! さっきは沢山お外に出て楽しかったよ!」
「ああ。また外に出たくなったら言いなよ」
まだ寝足りなかったのか、それとも長く実体化したことでエネルギーを消費したためか、レティシアはそう言って実体化を解いた。その瞬間、小さなハートが一瞬ポンっと浮き出たようなエフェクトが出る。……去り方も結構凝ってるな。流石小さな魔女って名前に付いてるだけあるな。
「……ふぅ。朝から慌ただしいことになったなまったく。まあ何とか話が通じる相手で良かった」
『そうだねぇ。僕個人としてはもっと拗れてくれても良かったんだけど。……まあ面白くなりそうなモノは見れたんだけどね』
「何をごちゃごちゃ言ってんだ。……そう言えば説教がまだだったな!」
『えっ!? 忘れてなかったの?』
忘れるかっての! この“元”神様にはたまにはガツンと言ってやらねばならない。
??分後。
「……よし。今日はこんなもんで許してやる」
俺はこれまでの鬱憤も込めて、たっぷりとディーに説教を食らわせてやった。なにぶんこれまでたっぷりと説教のネタが溜まっているからな。
『長かったねぇ。……僕に説教できるなんて神様連中かリームぐらいのものだよ。あっ! リームっていうのは僕の秘書をしている子でね』
「そっちの身内の話は良いよ。何ならまた追加でしてやろうか? 毎回話が脱線するんだからお前は!」
『おっと! もう説教は勘弁だよ。……それより良いのかい?』
ディーも少し堪えたのか、どこかよろよろと飛びながらそう返した。……良いって何が?
『授業。……もう大分時間が経っちゃったけど?』
俺はその言葉にハッと部屋の時計を見る。……げっ!? もう一限目どころか二限目も終わりかけじゃないかっ!?
「だからそう言う事は早く言えってのっ! 今日の朝と同じじゃないかっ!」
また説教のネタが増えたぞコンチキショウっ! こうなったらせめて三限目だけでも出てやるっ! 俺は慌てて授業の用意をし、本棟に向かって走り出した。そして、
「こんな時にどこ行ってたんだなあ遊児! 十代と翔が退学になるかも知れないんだなあ!」
「えっ!? 退学っ!?」
本棟に着いた俺を待っていたのは、先に行っていた隼人からの驚きの言葉だった。
ヘルパーの捜索プログラム云々は完全に独自設定です。家事用に造られたのならそういったことも機能の範疇かなあと。
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レティシアと組ませるとしたら誰?
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