マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
さて、この話から遊児の行動方針が少し変わるかもしれません。
「なるほど。大体の経緯は分かった」
翔から大まかに聞き終えた内容はこうだ。
翔は小学生の頃、某いじめっ子とデュエルをした。しかしラストターン、翔は兄から貰ったパワー・ボンドを使って一気に勝利しようとするが、ギリギリの所で兄が勝負に割って入って強制終了。
しかし相手の伏せていたカードを兄に見せられ、このまま続けていればパワー・ボンドの効果で自分がダメージを受けて負けていたことを知らされる。
「お前には、このカードを使う資格はない」
そう言い残し、兄は翔がパワーボンドを使うことを禁じた。……まあ大体こんな所だろうか。
「それでまだこのカードは封印されたままなんだ。あの時僕がもっと強かったら」
「…………それはどうだろうな」
「えっ!? どういう事?」
俺の言葉に、翔はどこか戸惑うような返事をする。
「確かに聞いたところでは、翔がもっとよく相手のフィールドを見ていれば。つまり翔風に言えばもっと強かったら勝てた勝負だったかもしれない。……だけど、
「でも……でもっ! あの状況じゃそれ以外に理由なんて」
「勿論聞いた話だけじゃ俺もよく分からない。今のことだって何となく感じただけだからな。だからここから先は丸藤君が……いや、翔が考えるしかないんだ。……さて、説教臭く長々と話し込んでしまったけど、そろそろ自分の部屋に戻るか」
俺はそう言うと、ゆっくりと椅子から立って軽く伸びをする。少し骨が鳴るくらい時間が経ってしまったか。
「……
「あっ……久城君」
扉を開けて部屋を出ようとする俺に、後ろから声が掛かった。
「……ありがとうね。あの時のこと……もう少しだけ考えてみるよ」
「ああ。その方が良い。……じゃあな」
俺はゆっくりと部屋を出て、そのまま自分の部屋に戻る。
『良いのかい? このままだと翔君……逃げ出しちゃうかもしれないよ?』
部屋に入った瞬間、ディーがまたふらりと現れて俺の周りを飛び回る。
さっき翔の机の上に手紙のようなものがあった。チラリと見ただけだったが、あれは十代に対する書き置きだ。つまり翔は思い余って寮を出ようとしていたことになる。だけど、
「……いや、多分そうはならない。あんな書き置きがあったってことは、翔はいつ部屋を出てもおかしくなかったってことだ。だけど俺とあんな長話をしたことで、確実に部屋を出るタイミングが少しは遅れるはず。その頃には十代達も戻るだろうから、そうなったらあとはじっくり話し合えば良い。それに」
俺はどっかりと椅子に座ってディーにニヤリと笑ってみせる。
「細かくは知らないが、折角
『ってカッコつけてた割に……全然帰ってこないね!』
「どこか嬉しそうな声で言うなっ!」
もうすぐ夕方だ。あれからしばらく経つのに一向に十代も隼人も帰ってこない。ついさっき翔が部屋から思いつめた顔で出てしまったというのにっ!
〈サーチプロセス実行中……実行中〉
『とは言っても、念の為ヘルパー君にあらかじめ翔君の居場所を探させているんだから実に抜け目ないよね』
「当たり前だ。最低限の保険くらいは掛けておくさ」
俺の傍で、ヘルパーが定期的に身体を振動させながらサーチプロセスを実行している。可能性は低いが、何らかの理由で十代達が間に合わないことも考えて、部屋に戻ってからヘルパーに翔の居場所を確認させているのだ。
『お兄ちゃん。頭良いの!』
「別にヘルパーが居たからこそ出来る手だから、俺はあんまり関係はないよ」
レティシアが目をキラキラさせて言ってくれるが、実際ヘルパーが居なかったらさっきのように悠長には構えていられなかっただろうな。
今の所、翔はどうやらこの島の灯台付近に居るようだ。……このまま船でも使って逃げるつもりか?
『……おっ!? 二人が帰ってきたみたいだよ!』
その言葉に窓から見ると、十代と隼人が連れ立って歩いてくるのが見えた。何故か十代はずぶ濡れで頭にタオルを被っている。こんな時に水遊びか? ……とにかく、戻ってきた以上書き置きのことは伝えておくか。
話を聞いた十代の行動は早かった。急いで隼人の手を引っ張って翔を探しに出たのだ。一応俺は灯台の方に向かっただけと伝えて部屋で待つつもりだったのだが、流れで一緒に連れて行かれてしまう。
「翔っ! どこだ?」
「翔~。出てくるんだなあ」
「お~い。居ないのか?」
しかし大まかな場所は伝えることが出来ても、細かい位置までは伝えられない。どうしてそこまで知っているのかという話になるからだ。なので灯台近辺からは地道に皆で声を張り上げて探すしかない。
クリクリ~っ!
「相棒っ! 何だ? ついて来いってか?」
あっ!? 突如現れたハネクリボーが十代を導いている。十代はこっちだと一声かけて、ハネクリボーを追っていった。……こういう時主人公は理由もなく行動出来て良いなぁ。
「まただ。クリクリってあの声が。……待てよ十代!」
隼人も十代を追いかける。……何か隼人もハネクリボーの声が聞こえてないか? 意外に精霊の声が聞こえる人は多いらしい。これから幻想体を呼ぶ時は注意した方が良いかもな。
そんなことを考えながら、俺も二人の後を追った。
やっと二人に追いついた時、そこでは浅瀬で何やらばちゃばちゃやっている十代と翔の姿が。……後から隼人が飛び込んで、そこでやっと浅瀬だって気付いたようだ。
よく見るとその周囲に、バラバラになった丸太とロープが浮かんでいる。……まさか翔。こんな簡単に壊れるようなイカダで島から出ようとしていたのか? それは勇気を通り越して無謀だぞ。しかもどうやら翔は泳げないようだし。
「けほっ。けほっ……このまま行かせてくれよアニキ。僕のことは良いから、別のパートナーを探して、アニキだけでも退学を免れておくれよ」
「つべこべ言うんじゃねぇ! 俺は決めたんだ。パートナーはお前だ!」
十代はいつものように熱く引っ張っていこうとするが、翔は落ち込んだまま動こうとしない。
……ここは一度寮に戻ってじっくり話をさせるべきか。そう思って話に割り込もうとした時、
「不甲斐ないな。翔」
上から聞いたことの無い男の声がした。誰だと思いその声の方を向くと、そこには二つの人影があった。
一人は明日香。それは良い。後から書き置きを見て追ってきた可能性もあるし、偶然居合わせたでもある程度は納得しよう。だがもう一人、明日香と並んであり得るはずのない人が居た。……それは、
「お、お兄さんっ!?」
「……嘘だろっ。どうして
俺は知らぬ間にそう呟いていた。そこに居たのは丸藤亮。生徒からはカイザーと呼ばれるほどの圧倒的実力を誇る生徒であり、
「行っちまうってよ。アンタの弟。だったらよ。せめて餞別でもあげてやらねえか? 俺とカイザー、アンタのデュエルで!」
「君とデュエルを? ……良いだろう。上がってきたまえ。遊城十代」
「そうこなくっちゃ!」
そうして灯台の傍に移動し、目の前で遊城十代とカイザー亮というビッグマッチが行われようとしている中、俺の頭はパニック寸前だった。
おかしい。いくらなんでもこの状況はおかしいっ!?
原作においてカイザーは、開始当初からアメリカ・アカデミアに留学していた。そしてカイザーが戻ってきたことによって開催される帰還記念デュエル大会が、物語においてとても大きな役割を果たす。
何せカイザーと一緒にやってくる交換留学生の二人が、それぞれ闇のゲームに関わっているのだから。それもこの前のタイタンとは違って二人共本物だ。
つまりカイザーの登場が物語の重要な転換点という訳だが、帰ってくる予兆なんてこの瞬間まで影も形もなかった。原作では帰ってくるだけでお祭り騒ぎになるような出来事だ。予兆が一切無いなんてことはあり得ない。
じゃあ目の前のカイザーはいったいどういう事だ?
『考えることは大いに結構なんだけどね……始まったよ。デュエルが』
「えっ!? ……ああ。そうだな」
ディーに促されて気がつくと、もう二人のデュエルは始まっていた。
これがどういう事かはまるで分からないが、目の前のこれは
勝負は中々に白熱した。初手は十代。お約束のフェザーマンを攻撃表示で出し、カードを1枚伏せて出方を窺う。
対してカイザーは代名詞とも言うべきサイバードラゴンを効果で召喚。サイクロンで伏せカードを確実に除去し、フェザーマンを撃破。そしておまけとばかりにタイムカプセルを発動して次への布石を打つ。これぞ王道と言わんばかりの展開だ。
「俺のターン! 手札から融合を発動! サンダー・ジャイアントを召喚!」
十代も負けじと十八番の融合でサンダー・ジャイアントを召喚して反撃するが、次のターンカイザーのサイバーツインドラゴンによって窮地に立たされる。
「面白れぇ! 面白れぇよカイザー。このデュエル!」
「ああ。俺もだ」
明らかに劣勢だというのに、十代は瞳を輝かせてどこまでも楽しげに言い、そしてカイザーもまた、表情こそあまり変えていないがどこか楽しそうだった。
なんとなくカイザーのイメージが見かけと違ってきた。言葉少なで表情もあまり変わらないから威圧感が有るが、実際はちゃんとデュエルを楽しめる人なんだろうな。
十代は守備力3000のマッドボールマンを出して守りを固める。これならサイバーツインでも突破は出来ない。だが、
「十代。いよいよ大詰めかな? 君は君の持てる全力を出し切っている。そんな君に対して俺も全力を出すことが出来る。……君のデュエルに敬意を表する」
そのカイザーの言葉に、横で聞いていた翔は何か思うところがあるようだった。もしかしたら、過去にあった出来事に何か思い当たるものがあったのかもしれない。
そしてカイザーは融合解除でサイバードラゴンを揃えると同時に、なんと翔の因縁のカードであるパワー・ボンドを発動。蘇生させたサイバードラゴンを加え、攻撃力8000となったサイバーエンドドラゴンを融合召喚。
そのままマッドボールマンを貫通し、十代のLPを一気に削り切った。
「……楽しいデュエルだったぜ」
力尽きて膝をつきながらもいつものセリフを言う十代に、カイザーは何も言わずに軽く笑みを浮かべ、最後にチラリと翔の方を見て去っていった。……何だかんだ弟のことが気になっているんだろうな。
「すげえ兄さんだな」
「うん! アニキもね!」
十代がそう翔に言うと、翔はどこか晴れ晴れとした顔でそう返した。そして二人はどちらともなく笑い出す。……良かった。翔の方もどこかこのデュエルを見て吹っ切れたみたいだ。俺も十代達に近づく。
「よお。惜しかったな十代。だけど良いデュエルだった」
「ああ! 次は負けないぜ! ……さてと、帰ってデッキでも組むか? 今度はパワー・ボンドが使えるように考えて組むんだぜ翔!」
「分かった。必ず封印を解いて見せる!」
翔もどこか前向きだ! これならこの先のタッグデュエルも何とかなるかもしれないな。
「でも寮の食堂は封印されてしまったんだな」
そこで腹の虫と共に隼人のオチが付く。それに続くように十代に翔、俺の腹の虫もついでに鳴き喚いた。確かにもう辺りは真っ暗だ。だけど、
「いや、まだ間に合うかも!」
「そうだな。寮まで走ろうぜ!」
そうして腹の虫を宥めるべく、俺達は笑いながら寮の食堂に向けて進撃を開始した。これも青春って奴かも知れないな。
ちなみに食堂の封印の結果は…………言わないでおこうか。
『いやあ実に良いね青春! 見ている分には中々に面白い娯楽だよ。今日もまた僕は実に満足さ。という訳でそろそろ失敬を』
「させると思ったのかこの野郎」
自室に戻ったあと、俺はこっそり逃げ出そうとしたディーをがっしりと掴み取る。最近気づいたのだがなんとこの光球は触れるのだ。
「ディー。今から大事な質問をするから気合を入れて正直に答えろよ。……さもないと俺のアイアンクローが炸裂することになるぞ」
『アイアンクローも何も握り潰されそ……あたたっ!? 分かったっ! 分かったよっ!? 正直に答えるから落ち着いて』
どうせここでプチリと潰れても、少ししたらまた素知らぬ顔で再登場しそうな奴だからな。軽く力を込めてやるとわざと大げさに痛がってみせる。そういう芝居がかった所は今は良いっての!
カタカタ。カタカタ。
罪善さんが横から心配そうにこちらを見つめる。レティシアやヘルパーは空気を読んだのか出てこない。まあその方が好都合ではあるけどな。
「……分かってる罪善さん。何も本気でプチっとやったりはしないから安心してくれ」
『ふぅ。助かったよ罪善さん。いやあ久城君も酷いことをするよねぇ。“元”とは言え神様にアイアンクローをしてくるなんて。……いきなり拳骨を落としてきた人は居たけどね』
「その人には思いっきり同意するよ。……本題だが、
俺のその言葉に、デイーは一瞬だけ考えてこう返した。
『……そうだね。
「…………そうか」
ディーは
今回特大の違和感が発生したことにより、遊児もようやく気付き始めたようですね。まだ確証まではいっていないようですが。
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レティシアと組ませるとしたら誰?
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