マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
今回は短めです。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ天上院君。本当に安静にしているんですよ」
「分かっていますって!」
すっかり夜も更けた医務室。鮎川先生が去っていくのを見て、僕はふぅと息を吐きながらベッドに再び横たわる。
ちらりと隣のベッドに目を向ければ、そこには僕の大切な妹明日香が。その更に奥にはつい先日死闘を演じた(正確には彼女の影だったが)セブンスターズの一人、カミューラが横たわっている。
幸い二人共命に別状はなく、明日香に関しては明日には目を覚ますとの事。カミューラはしばらく目覚めないらしいが、こちらに関しては今会ってもどんな顔で会えばよいか分からないのである意味丁度良いのかもしれない。
僕自身も戦いで疲労し、今日一日はベッドで安静にするようにとの診察結果を受けた。と言ってもそれはこれまでの心神喪失状態の事もあってらしいが。
ここしばらく、僕は意識こそあれどどこか夢の中に居たようだった。それがカミューラの居城で襲撃を受けた時、ひょんなことから意識がはっきりとしだした。
友人のカイザーこと亮。そして鍵の守り手達や
しかし、こうして意識がはっきりした事で、これまでの自分に起きた事を少しずつ思い出してきた。
かつてあの特待生寮にて、大徳寺先生に呼び出されて行ったテストデュエルの最中、突如闇の世界に引きずり込まれた事。
そしてそこで行われた、まるで地獄のような闇のデュエルの日々。何があったのかは朧気ではっきりとは思い出せないが、その恐怖は今でもこの身に刻まれている。だが、
チャリッ。
僕は胸に掛けたペンダントをジッと眺める。
これをどうやって手に入れたのかはもう思い出せない。気が付いた時にはこれの半分を胸に提げていて、カミューラの居城において鍵の守り手の一人十代君の持っていた分と重ねる事で一つに戻った。
闇のアイテムではあるがカミューラの力に対抗し、襲い来る罠からも何度か救われた。それに何より、何故かこれを見ると胸の奥が少し切なくなる。
何か大切な、大切な何かを忘れているような。誰かと何かを約束したような。そんな気が。
「……ダメだ。思い出せない」
今覚えている事と言ったら、これまでのダークネスとして活動していた時の朧気なもの。
その中でも数少ないハッキリと覚えているものは、
『……!? 貴様っ!? まさか最初からこれを狙ってっ!?』
『悪いな。勝負はここまでだ。互いに降参という手が使えない以上、引き分けに持ち込むしかないだろう? ……かなり痛いと思うがそこは我慢しろよっ! 放てっ!』
バランサー。ダークネスだった自分と戦い引き分けてみせた男。
アムナエルの代理を名乗り、カミューラとの戦いでは調整役として共に戦った。
掴み所がない奴だったが、仮面の奥から感じる熱さは間違いなく本物だった。……なので、
「誰かが僕とカミューラの口を塞ぎに来るかもとは考えていたが、まさか君が来るとは意外だったな。バランサー」
いつの間にか部屋の片隅で、薄ぼんやりとした闇を纏った調整役に、僕は油断なくそう尋ねた。
たとえ何があろうとも、今度こそ明日香は必ず守ってみせる。
◆◇◆◇◆◇
う〜ん。困った。
俺はベッドから身を起こす吹雪に対し、どう切り出したものかと思い悩んでいた。
先程腹を括って早速行動を開始した俺だが、やはりあまり人目につきたくないからとは言え、鮎川先生が帰ったのを見計らってこっそり乗り込んだのはまずかったか。
だって吹雪物凄くこちらを警戒しているもの。
さり気なく明日香を庇うように体勢も変えているし、脇に置かれた机のデッキにチラチラと目が行っている。いざとなったら応戦する気満々だ。
まずは口封じ云々という誤解を解かなくては。
『夜分遅くに失礼する。……そう警戒しないでほしい。この度は話し合いに来たのだ。口封じなどという事は一切するつもりはない』
「この状態で警戒するなという方が無理な話だと思うけどね。ならその闇は何だい?」
尚も警戒を解かない吹雪。しまったな。さっき大徳寺先生に計画について話した時、この近くまで先生に跳ばしてもらったのが裏目に出た。
この能力移動には便利なのだが、出た直後は闇が身体にこびりついていてとにかく見た目が悪いんだよな。放っておけば消えるけど。
『些か見た目が悪いのも許してほしい。しかし急な事のためそちらに回す余裕がなかったことは謝罪する』
俺が静かに頭を下げると、吹雪はほんの僅かに困惑しているようだった。
『重ねて言うが、口封じなどではなく話し合いに来たのだ。どうか話を聞いてもらえないだろうか? 敵対心のない証として……』
俺は懐から自分のデッキケースを取り出すと、吹雪のデッキの前に置く。
『この通り。今の俺は丸腰だ。戦う気などない。だから頼む』
そのまま頭を下げ続けて少し。すると、
「……はぁ。分かったよ。デッキがなくとも君なら精霊を呼び出す事も出来るだろうから関係はないが、少しだけ話を聞くとしよう」
『ありがたい』
許可も得たので、俺は明日香達を起こさないように静かに椅子を持ってきて座る。
しかし精霊か。カミューラの時はあくまで別勢力として接していたので、俺が個人的に精霊に手を貸してもらえるのはわからないはず。つまり、
『やはり、ダークネスの時の記憶が』
「ああ。断片的にだけどね」
ダークネスと戦った時にバッチリ雪の女王を見られているからな。思い出してきたと考える方が自然だ。
だが、それが分かったという事は。
「話し合いの前に聞かせてほしい。バランサー。君は一体どちらの味方……いや、違うな。
まあそこが疑問として出るよな。
あの時雪の女王は、普通に幻想体という精霊の一団としてカミューラ戦に加勢していた。俺とは初対面として振る舞っていたがそれは不自然だ。
また、雪の女王がそうである以上、幻想体全員が俺と繋がりがあるという線もある。
それにしては幻想体はあの場にいた全員を助けた。既に鍵の守り手でもセブンスターズでもない吹雪さえもだ。
この行動は傍から見たら実によく分からないものだろう。
『俺はバランサー。この戦いがスムーズに進むよう動く調整役というだけの話。……しかしそれだけでは納得出来ないだろうから、その点も踏まえて話をさせてもらいたい』
「それは……長い話になりそうだね」
『その通りだ。なので……貴方に誠意を見せるという意味合いも兼ねて、
「何だって!?」
驚く吹雪の前で、俺はバランサーとしてのペストマスクをゆっくりと外していく。そして、
「……ふぅ。やはり普通に話す時はこちらの方が気が楽だ。先程お見舞いに行った時以来ですね。吹雪さん」
「なっ!? 君は!?」
吹雪は俺の顔を見て驚いている。何だかんだセブンスターズの中で唯一俺の素顔を知らなかったからな。その前に負けたから。
さて。何から話すとしようか。何せ協力者になってもらうのだから、こちらもできる限り腹を割って話さないとな。
という訳で、自分の力だけではなく周りを頼りまくる方向に腹を括った遊児でした。
まずは色々内情を思い出してきた吹雪を説得しにかかります。放っておくと向こうから他の人に要らない暴露をされかねないという打算もあったりします。