マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
「……はい。大徳寺先生はもう既に到着して準備している筈です。俺もこれから現地に向かいます」
『そうか。くれぐれもよろしく頼む。……今更だが、君や十代君達生徒にこのような大役を押し付けてしまって大変申し訳なく思っている。本来ならこれは大人の問題だというのにね』
「まぁ、それを言ったらこっちは自分から首を突っ込んだ結果ですし、十代達も分かってくれるとは思います。ただ全てが終わったら、きっちりこれまでの事を謝罪する必要はあるとも思いますがね。俺も含めて」
『ああ。その通りだとも。今日がおそらく大一番だ。こちらでも万が一に備えての準備を進めておく。……頑張ってくれ』
「はい……では失礼します。
俺は静かに通信を切ると、ふぅと大きくため息をついて椅子に座り込む。
十代にペンダントを借りに行ってからもう三日。今日がこちらから指定した戦いの日だ。
あまり準備に時間をかけ過ぎる訳にはいかないが、かと言って何が起きても良いようにやれる事はやっておかないといけない。それで大徳寺先生とも相談した結果三日という期限に設定した訳だが、
「いやキッツいわっ!? やる事多すぎだろっ!?」
普段の学業に加え、バランサーとしてのスケジュール調整。ペンダントの能力チェックに大徳寺先生の体調チェック。不測の事態に備えての学園側とのすり合わせまでやった。
さらに言えば十代達のデッキ調整にも協力した。まず前提として、最終的には十代達に勝ってもらうのが理想なのだから当然だ。主人公だから放っておいても勝つだろうとは思うが、何かの間違いでこれまでの強化フラグが足りなかったとなったらシャレにならないからな。
あと明日香はどうにか復調したのだが、カミューラはまだ眠り続けたままだ。毎日かわるがわる心配して見に行くコウモリ達が待っているというのにな。
そんなこんなで三日などすぐに経ち、こうして今は決戦に備えて支度を整えている。
『おやぁ? お疲れかな? そんな調子で大丈夫かい?』
「心配そうな言葉をそんなうきうきした調子で言うんじゃないよディ―」
『ゴメンゴメン! いやなに。いよいよクライマックスってやつだからね。観客としてはつい胸が弾むという奴さ』
ふよふよと急に現れる光球をしっしと払いのけながら、俺は自分のデッキを確認する。
何度も何度も組みなおしたが、誰を主軸にするかで大分動きが変わるのがこの
そして、今回俺が戦うであろう相手の事を考えると、加減なんかしていられない。全力で行かなくては意味がないし、なにより向こうにも失礼だろう。……よし。これで行こう。
『デッキ構築が終わったようで何よりだよ。じゃあ決戦前に幻想体達から何か激励の言葉でも貰っておいたら?』
『遊児お兄ちゃんっ!』
「おわっ!?」
ぎゅむっ!
ディーがそう言うや否や、急にレティシアとテディが俺にしがみ付いてきた。
『ごめんなさい。今まで邪魔になるかもって我慢してたけど……遊児お兄ちゃん。頑張ってね! 皆を笑顔にしてあげて』
コクコク。カタカタ。
『ふん。私が復活する前に三幻魔に出てこられては事だからな。精々働くが良いさ。我が生け贄よ』
テディとそっと出てきた罪善さんも追随するように頷き、レティシアに抱かれたままのネクもぶすっとした顔でひらひらと手を振る。
気が付けば他の幻想体達も、精霊化した状態で静かにこちらを見ていた。
「皆……ありがとう。そういえばセイさんとココロは?」
『呼んだかしら?』
『はいは~い!』
急に壁からぬっと姿を現す二人に驚くも、まだこれくらいなら夜中のどアップ罪善さんよりは大丈夫だ。
『先に三鳥達と話を付けて、道中の良くないモノを散らしておいたわ。カード無しでも大した手間ではなかったわね』
『楽勝だったね! まあちょっとやり過ぎて怒られちゃったけど』
『だから森の中でビームを撃つなと言ったのよセンパイ。あれ以上やったら三鳥達とやり合う事になっていたのよ。反省なさい』
どうやらまた湧き出ていた良くないモノを撃退してくれていたらしい。もうすぐ十代達も通るし、その辺りも大鳥達に説明しておいてくれたのだろう。だけどそれなら俺に言ってくれれば手伝ったのに。
テヘッと舌を出して笑うココロを叱りながら、セイさんは俺に向き直ってまた口を開く。
『なんで自分に言わなかったのかって顔をしてるわね。良い? アナタはこれからやるべき事が、アナタしか出来ない事があるでしょう? ならそれ以外をこなすのがアナタの騎士の役目よ』
『あと悪を倒すのは正義の味方の役目だよ!』
……むぅ。ぐうの音も出ない正論だ。そしてここまでされちゃこっちも気合を入れない訳にはいかない。俺はありがとうと幻想体の皆に頭を下げると、静かに出発しようと扉に手をかけ、
『あっ!? そういえば久城君。君に渡す物があったんだ!』
ディーの言葉に嫌~な予感がしつつも振り返る。こいつがこうして白々しく話題を出すのは大抵厄介事の前触れなんだよなぁ。
『そう警戒するものじゃないよ。これは単にクライマックスに向けた餞別って奴さ! という訳で……ほらっ!』
シュッと飛んできた何かを俺はパシッと掴み取る。これは……カードか。それも、
「
『な~に心配はいらないさ。それは条件を満たすことで融合召喚されるカード。そしてその素材になるカードが君のデッキに入っている事は今確認したとも』
「今確認って……まあ良いけどさ。こういうのはせめてデッキを組む前に……っ!?」
俺はそこで目を通したカードの内容に一瞬息をのむ。
「……おい。これはマズいだろ」
この幻想体の事は、オールドレディの読み聞かせで少しだけ知っている。
曰く、その大きな目は光を閉ざした。
曰く、その長い腕は時を隠した。
曰く、その小さなくちばしは絶え間なく囁いた。
曰く、それは
『うん。レベル10。数ある幻想体の中でも最も管理難易度の高いリスクレベル
どうせならこれくらいは準備しないとねと、ディーはどこまでも他人事のようにニヤリと嗤った。
それからしばらくして、俺はばっちりバランサーの格好に着替え、アムナエルこと大徳寺先生と共に特待生寮の入り口に立っていた。以前タイタンが待機していた場所だな。
指定時間まであと十分。もうそろそろって所か。
『大徳寺先生。最後にもう一度確認しますが、体調の方はいかがですか?』
『君も心配性だな。君の尽力のおかげで、予想より身体の具合は良いよ。あと数度は全力のデュエルにも耐えられる。なんなら残っている鍵の守り手全員相手でも一人ずつであれば可能だろう』
『誤魔化さないでください。俺が聞きたいのは
『それは……』
その言葉に大徳寺先生は少し言い淀む。
そもそも俺がアムナエルの代理として動いていたのは、少しでも彼の残り僅かな余命を伸ばすため。
なにせ自分自身も生き残るためにこの世界に来たクチだし、近々死が迫ってる人を放っておくのも目覚めが悪くてここまで手伝ってきた訳だ。
せめて今の学年が進級するまでは長生きしてもらわないと、俺がここまで身体を張った意味がない。
それにこの人完全に自分が最後の試練になってデュエルで燃え尽きるつもりだったからな。そんな事されたら絶対相手(多分十代)のトラウマになるぞ。
『……ああ。そうだね。今の調子なら、何とか十代君達が進級するまではこの身体も保ってくれるだろう。その後は流石に無理だろうが』
『そう……ですか』
これは最低限伸ばすことが出来たというべきか、それともここまでしか出来なかったというべきか。
俺が何とも言えない表情をしていると、仮面越しで見えない筈なのに大徳寺先生がどこか苦笑いを浮かべた気がした。
『私が言うのもなんだけど、君はあまり背負い過ぎない方が良い。こう考えるんだ。進級するまでしか伸ばせなかったのではなく、進級するまで伸ばすことが出来たのだと。……これが教師の
ほんの少しだけ普段のおどけた態度に戻ってそう語る大徳寺先生。……まったく。まいったね。俺なんかとは年季が違う。
ああ。これじゃあまたレティシアに笑ってって注意されてしまうな。
『ふっ。そうですね。それじゃあアドバイスに従って、きちっとその時に向けて今を乗り切るとしますかっ!』
こちらへ向かってくる多くの足音に気づき、俺達はスイッチが切り替わるように雰囲気を張り詰める。
さあ。鍵の守り手達。今日が最後の決戦だ。この日のために準備した諸々。しっかり味わってもらおうか!
という訳で、準備フェイズはそろそろ終わり、いよいよ最終決戦に入っていきます。
バランサーはどう動くのか? 楽しんで頂ければ幸いです。