マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
やはり鉄板というか、レティシアと憎しみの女王を組ませたいという意見が多く見られました。
あと何故か大穴扱いで入れたファラオにも票が集まっていたことにはちょっとびっくりです。幻想体じゃないけど良いんでしょうか?
前回も今回も、皆様の意見はとても参考になりますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
『いやあ正直言って、いつになったら気がつくかなあと楽しみにしていたんだよ。……と言っても気がつかないなら気がつかないで面白かったんだけどね!』
「まあ結構最初の方から違和感はあったんだけどな、当たってほしくないからって深く考えないようにしてた。……だけど流石にここまで違和感が重なったらそういう訳にもいかないだろ」
俺はガシガシと髪をかきむしる。考えてみたら、目の前のコイツはこれまで嘘は言っていない。この世界に連れてきた時も、遊戯王GXの世界としか言っていないしな。
そもそも俺がマンガ版の世界と考えたのは、最初の出会いの時に俺の持っていたマンガ本を見てディーが課題を決めたから。流れ的にマンガ版の世界だと思ったが、マンガ版の世界に連れて行くとは一言も言っていない。
「まあ細かい違いくらいなら、
『じゃあ何が決定打になったんだい?』
「いくつかあるが、
一つ一つ違和感を挙げていく度に、ディーはフムフムと頷くように上下に動く。ここまでは合ってるってことか。
「まあ他にもマンガ版のキャラクターを何人か検索したけど、どれも大筋は同じだけど微妙に異なっていた。デッキ構成とか所属する学校とかな。おそらくスターシステムという奴だ」
『同一のキャラクターを別作品に違う役割で登場させる手法だね』
「そういうこと。まあ俺はアニメ版は見たことが無いから確証はないが、わざわざ一から世界を創るよりは既存の物を基にした方が簡単だろ? だからマンガ版の世界でないのなら、ここはアニメ版の可能性が高い……という結論になった訳だ」
俺がそう言い終えると、ディーは「素晴らしい。ここまではほぼバッチリだよ」と嬉しそうに言った。しかし、そこで急にディーは声の調子を変えて続ける。
『ただし問題は、
「……その通りだ。俺が唯一持っていた原作知識はマンガ版のみ。アニメでGXも無印も見ていない以上、知っていることと言えば登場キャラクターの簡単な設定だけ。それも正直どこまであてになるかってぐらいに寂しいものだ」
手持ちのアドバンテージはほぼ無くなったと言っても良い。先の流れの分からない中でデュエルアカデミアを。マンガ版だと一年も満たないうちに何度も闇のデュエルが発生するような学園を卒業しなければならない。
それもこの世界がアニメ版なら、後半につれてより特大のヤバい何かが発生するのはほぼ確定している。そうじゃないとアニメが盛り上がらないからだ。
最終的には十代がなんやかんや敵を倒して終わるかもしれないが、それ以外にどんな被害が出るか想像がつかない。
マンガ版のトラゴエディアの一件も、詳しく描写こそされなかったが確実に闇のデュエルで死者の何人かは出ているはずだ。その一人に俺が入っていないなんて誰が断言できる?
おまけに使ってる幻想体だってそうだ。今はまだ罪善さんやレティシア、ヘルパーなんかの比較的安全な面子だけだが、この先どんなおっかないのが出てきてもおかしくない。
「だけど……
自分の行動で誰かが損を被るかも知れない。だけどもしかしたら、逆に助かる人もいるかもしれない。確かに先のことが分からなくなったことで道のりは楽ではなくなった。しかし先のことが分からないのなら、せめて少しでも良くなるように行動するだけだ。
『…………フフッ! その通り。その様子なら、先の見えない流れに押しつぶされて動けない……なんてことはなさそうだね』
「ああ。第一目標は俺が最後まで生きて元気に卒業することだけどな。そのためにやれるだけのことをやるつもりだ。……良いのかよ止めなくて? 結果もしかしたら原作の流れがとんでもないことになるかもよ?」
『良いとも! むしろ大いにやっておくれよ! そのためのシミュレーションなんだから。僕は君の選択を面白おかしく見物するだけさ』
ディーは一瞬真摯な様子で話したと思ったら、すぐにいつもの面白がるような態度に戻る。
コイツにとっては本当にどちらに転んでも良いのだろう。原作通りに進んでも、原作が破綻したとしても、どっちにしろ「中々に面白かったよ」と言ってのけるのだろう。そういう所は苦手だが、そんな奴だからこそこんな課題を思いついたのかもしれない。
ディーとの話も終わり、俺はその足で十代達の部屋に移動した。扉の前に立った瞬間、罪善さんがヌッと扉をすり抜けて現れるので少し驚く。
カタカタ。
この様子からすると、どうやら特に何も起きていないようだ。俺は静かに罪善さんに礼を言うと、そのまま軽くノックして十代達の部屋に入る。
「ごめん。遅れた。……どんな具合だ?」
「もぉ。遅いっすよ久城君。今隼人君のデッキを見せてもらっている所っす」
見ると床にカードを並べて十代と隼人が難しい顔をしている。そんなにデッキがマズかったのか?
「なんだよ。隼人のカードコアラばっかりだな」
「コアラデッキなんだな」
「コアラデッキってこんなんで勝てんのかよ?」
どれどれと俺も覗いてみる。……う~ん。メインはビッグコアラとして、それをサポートするカードが幾つか。テーマがはっきりしているのは良いが、やや火力不足な気がするな。
「あっ! じゃあこれあげるよ。この間買ったパックに入ってたんだけど、僕使わないし」
翔が何かに気づいたように、持っていたデス・カンガルーのカードを差し出す。
「俺にくれるのか?」
「ほらっ! コアラにカンガルーが加われば、オーストラリアデッキになるじゃない?」
その言葉に隼人は少し涙ぐんでいる。分かるぞ。こういう温かい心遣いはピンチの時こそ身に沁みるもんな。
「よしっ! それじゃあ……ちょっと待ってろ。じゃあ俺はこれをやるよ。攻撃力4200ポイント。コイツを上手く使えりゃあ絶対勝てるぜ!」
それに合わせるように、十代がマスター・オブ・OZのカードを取り出して隼人に差し出した。おお! この流れは、おそらくいざという時にこのカードが大活躍する流れだな! このくらいなら原作を知らなくても想像できる。
「そんな凄いカードを俺にくれるのか!?」
「俺な、お前に勝ってほしいんだよ。折角友達になれたのにさ、国に帰っちゃうんじゃ寂しいもんな」
う~む。美しい友情……なんだけど、俺も何かあげた方が良い感じになってきた。かと言って俺はパックなんてあんまり買わないから、幻想体以外のカードあんまり持ってないんだよな。
それと罪善さんがこっそり教えてくれたんだが、ドアの外から隼人の父らしき人がこちらを伺っているみたいだ。連れ戻しに来るぐらいだから、息子の様子が気になるみたいだな。
そんな中で俺だけ何もしないっていうのは何とも居心地が悪い。どうしたものか。
「……俺は二人みたいに渡せるカードはないが、明日に備えてデッキ調整のスパーリングくらいなら付き合おう。戦いの中で問題点が見つかったら指摘できるかもしれない」
「ありがとう。……ありがとうなんだな皆」
隼人が割と本気で感涙している。……俺の場合渡せるカードが無いってだけなんだけどな。
「さあ。そうと決まれば早速デッキ調整だ! 明日に向けて隼人が納得できるデッキが出来るまで付き合うぞ!」
「「「おう!」」」
こうして隼人を退学させないため、明日の戦いに向けての準備が始まった。
翌日。
『結局、負けちゃったねぇ』
「ああ。ただ……良い勝負だった」
俺は椅子に座って頬杖をつきながら、今日の隼人のデュエルを振り返っていた。
出来る限りの準備をし、決戦場である本棟の武道場にて行われた隼人と隼人の父(前田熊蔵)の一戦。
始まりは隼人がデス・コアラを
「このバカタレが! デス・コアラはリバースモンスター。それをみすみす攻撃表示で出すとは、ろくに勉強してない証拠」
そう熊蔵さんは叱責するが、隼人の眼はプレイングミスをしたという眼ではなかった。それもそのはず、
同じことを俺とのスパーリングでやり、十代達からも注意されたのだ。普通に考えて同じ失敗はしない。それでもやるということは、何か狙いがあるってことだ。
十代達もそれが分かっているからか何も言わない。隼人のことを信じているからだ。そして次のターン、熊蔵さんのモンスターによりデス・コアラが破壊された時、隼人の狙いが明らかになる。
「魔法カード。コアラの行進発動!」
隼人の繰り出したカードは、墓地のレベル4以下のコアラを特殊召喚し、さらに同名カードを手札から特殊召喚するカード。隼人はこれにより一気に2体のデス・コアラを場に揃え、それを生け贄にビッグコアラを召喚して一気に反撃に転じる。
つまり隼人はデス・コアラの効果でダメージを与えることよりも、わざと破壊させて次のターン攻撃力の高いビッグコアラを出すことを優先したわけだ。悩ましい選択ではあるが、けっして間違いじゃない一手と言える。
その後は熊蔵さんのカード、ちゃぶ台返しの効果でビッグコアラを破壊されるものの、十代達から託されたデス・カンガルーとビッグコアラを融合してマスター・オブ・OZを融合召喚。あと一歩の所まで追い込んだが、僅かな差で熊蔵さんの勝ちとなった。
「……なあディー。この流れも原作通りか?」
『まあね。ただ隼人君はポカではなく、ちゃんと狙いがあってあの動きをした。そうなったのは間違いなく君の行動の結果だよ。……だからこそ面白い』
「どっちにせよ、隼人はこれで退学か。……少し寂しくなるな」
長い付き合いではなかったが、それでも共に学んだ学友が居なくなるっていうのは心に来るものがある。今頃は隼人も帰り支度を終えた頃だろう。出発前に最後の見送りといこうか。
『あ~。そのことなんだけどね。……いや、言わなくてもすぐに分かることか。行ってらっしゃい!』
何かディーが言いかけたが、一体何だろうか? まあ隼人を見送ってからでも聞くとするか。
そして、
「普通に退学は取り消しになったじゃないかっ! なんで先に言っておいてくれなかったんだよっ!」
『いや、つい君の黄昏れる姿が興に乗って! 結構見ものだったよ』
素直に喜ぶべきか、目の前の光球にチョップを食らわせてやるべきか悩みどころだな。
まあ、隼人がここに残ったのは喜ばしいことなんだけどな。
隼人のデュエルの腕ってこの時点だとかなり低いんですよね。それでも遊児が居ることで少しでも影響を受けるのではないかと考えて書きました。
次話も明後日投稿予定です。