マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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夜はまだ終わらない

 

「……ふふ。情けない姿であろう? これが()の本来の姿じゃ」

「影丸……」

 

 闇のデュエルを終え、倒れ伏して元の老人の姿に戻った理事長がそう自嘲するように笑う。

 

 幻魔が打倒された以上、奪われていた精霊達の精気も元の持ち主に戻っていくか、大気中に霧散していくのだろう。そして幻魔によって若さを取り戻していた影丸も元に戻るのは当然で。

 

「見ての通り、幻魔の力がなければ自らの足で立つ事すらままならぬ。……儂は若さを取り戻すためあらゆるモノを利用し、犠牲にしてきた。これも当然の末路よな」

 

 そう語る影丸の顔は、どこか憑き物が落ちたように穏やかだった。

 

 これまでの悪行が悪行だが、好意的に解釈すれば幻魔の所有者という事もあり、前々から精神に影響を受けていたのかもしれない。

 

 原作無印のペガサスやマリクも、千年アイテムによって邪心が増幅されたっぽい疑惑もあるしな。やったこと自体は被害の大きさから擁護しづらいが。

 

「だが、幻魔の力を借りて僅かな間とは言え、再び若さを取り戻し立つことが出来た。その点だけは……悪と罵られようが後悔はない。もう立つ事が出来ないにしても」

「それは違うんじゃねえかな?」

 

 そこで十代は待ったをかける。

 

「やっちまった事は悪い事だけどさ。それと立てる立てないは話が別だろ? ……爺さんはまだ元気だよ。もう立てないなんて弱気なこと言うな。幻魔なんかに頼らずに、自分の力で、自分の足で立てる筈さ」

 

 十代は倒れたままの影丸に向けて手を差し出す。

 

 直に戦った十代だからこそ、影丸の強さを信じたのだと思う。幻魔に頼らずに一歩を踏み出せると。

 

 他の皆はその事に対して何も言わなかった。皆の尽力があったとはいえ、勝利したのは十代だ。ならこの場をどう収めるのかを十代に任せるのは自然の流れだろう。

 

「儂が自分の力でか。……これまで散々試して失敗し諦めていたが、お前に言われるともう一度試してみようと思えるわい。……ぐぬぅっ!」

 

 影丸は十代の手を取り、どうにか身体を起こす。

 

 その後よろよろと頼りなく、しかし本人からすれば渾身の力を足に込めて奮闘する事しばらく。

 

「信じられんっ!? ……儂が、立てたっ!?」

 

 今にもまた倒れそうではあるが、影丸は確かに自分の足で立ったのだ。それを確認するや否や、影丸の目に涙が浮かぶ。

 

「おおっ! やったじゃねえか爺さんっ!」

「分からぬ。何故かは分からぬが、儂は君と戦い熱意と精気を取り戻せたのかもしれんっ!」

 

 或いは幻魔の精気がほんの僅か残っていて、それが元で肉体が活性化したのかもしれない。そういう考えもちらっと浮かんだが……まあそれは野暮っていう物だ。

 

 涙を流して救われたように喜ぶ影丸と、我が事のように理事長にハグを決める十代を見て、わざわざ水を差す事もないと俺は休みながら頭を振る。

 

 まあ影丸の腰がバキバキと音を立ててまた崩れ落ちていたのは見なかったことにする。これまでの悪行の報いにしては軽すぎるくらいだ。

 

 しかし何はともあれこれでおしまい。あとはこんな事をやらかした影丸の身柄を警察に引き渡せば万事解決だ。

 

 俺はそう気を抜いて……ほんの一瞬警戒を解いた。

 

 

 

 グルルルルゥ。

 

 パタパタ。

 

 カタン。

 

 

 

 散々森を荒らされた上、幻魔によって精気を吸われ手を出せずに怒り心頭だった森の守護者(三鳥)が近くに居た事を忘れて。

 

「…………えっ!?」

 

 三鳥はいつの間にか、影丸の背後に佇んでいた。

 

 周囲に居る皆に気配を悟られぬよう、ギリギリまで実体化せずに。

 

「止めろ大鳥っ!? 罰鳥と審判鳥もっ!? 殺すなっ!?」

 

 慌てて叫ぶがそこは既に射程内。大鳥は大きく嘴を開き、罰鳥はゆらりと羽ばたき、審判鳥は天秤をゆっくりと掲げる。

 

 そして、

 

 

 ガブッ!

 

 

 大鳥の嘴は、勢いよく罪人に向けて閉じられた。

 

 

 

 

 さて。その後の事を少しだけ語るなら、鮫島校長が三幻魔のカードを再び七精門に封印。途中急に突風が吹いて一枚飛ばされるというアクシデントがあったものの、すばやく吹雪さんがキャッチしてくれて事なきを得た。

 

 そしてもう夜遅いし、明日正式に諸々の事をやっていこうという方針の下、今は学園まで戻る所だ。

 

「……はぁ~」

『久城君。ため息ついていると幸せが逃げるよ』

「これはどっちかというと安堵の奴だから良いんだよ。なにせ、あれだけの戦いで()()()()()()()()からな。……怪我人は出たけど」

 

 俺はこっそり声をかけてくるディーに対して静かに返す。

 

 そう。結局三鳥は影丸を殺さなかった。

 

 ただ怒り自体は溜まっていたんだろう。大鳥は影丸の嵌めていた()()()()()()()()()()()()を(一部肉ごと)食い千切り、罰鳥は小さなハゲが出来て血が出るまで影丸の頭を突き、審判鳥は影丸の全身をロープで縛って痕が残るまで締め上げた。

 

 しかし逆に言えば、怪我はともかく死ぬような事までは一切行っていない。それが俺が制止したからなのか、他に理由があったのかは分からないが、三鳥なりのケジメだったのだと思う。

 

 幸い三鳥はあの場の大半が俺のカードだと知っていたし、影丸もやった事がやった事なので甘んじて受け入れた。周囲からやりすぎないよう注意はされたが。

 

 という訳で、今は全身ズタボロの影丸と戦いで疲労困憊のクロノス先生、幻魔を抑えるのに消耗した俺や万丈目、茂木を残りのメンバー(プラス大鳥と審判鳥)が支えつつ帰路に着いていた。

 

『あ~あ。こっちも精気が吸われて疲れてなかったら、あの悪党を吹っ飛ばしてあげたのに』

『余計ややこしくなるからやめなさいセンパイ』

 

 さりげなくステッキをブンブン振ってアピールするココロと、それを嗜めるセイさんも精霊化してふわふわと後ろを着いてきている。

 

 幻魔に吸われた精気が少しずつ戻って回復してきた証だ。

 

 

 カタカタ!

 

「むぅ~。なんなノ~ネこの光は? 浴びているとこう……心が落ち着くというか」

 

 パタパタ!

 

 大鳥の背に揺られ、罪善さんからおっかなびっくりながらも光を受けて身体を休めるクロノス先生と、意識を失っている影丸理事長。そして二人から付かず離れずの距離を保つ罰鳥。

 

 

「えっ!? みどりさんも来年度から学園に来るのかっ!?」

「来るというより戻るかしらね。しばらく離れてはいたけど、元々私はここの教師だから。紅葉の事はまだちょっぴり不安だけど、そろそろ私も本職に戻らないとね」

「ひっどいな姉さん。入院生活が長かったとはいえ俺一応プロだぜ? 姉さんに頼らずともちゃ~んとやれるっての」

「そういういつまで経ってもどこか子供っぽい所が不安なのよ」

 

 

 みどりと紅葉のそんなやりとりを聞きながら目を輝かせる十代。何で幻魔と戦ったばかりで普通に元気なんだよコイツ。……というかみどりさんも来年から来るのっ!?

 

 

『うっふ~ん! 幻魔に吸われてた精気も戻って、おいらも復活なのよ~ん! アニキったらおいら達の事を気遣ってデュエルの順番を譲ったのよね? 嬉しいのよ~ん!』

「え~い。まとわりつくなうっとおしいっ! ただでさえ役に立ちづらい雑魚が、さらによれよれになっては戦いづらいと思っただけの事だっ!」

「ふふっ! 素直じゃないなぁ万丈目君は。やっぱりイエローと仲が良いじゃないか!」

「いやどこがだっ!?」

 

 もけもけ~!

 

 

 すっかり元気になって飛び回るおジャマ・イエローと、それをシッシと払いのける万丈目。そしてその様子を見てくすくす笑う茂木ともけもけ。

 

 

(ああ。ようやく……終わったんだよな)

 

 それぞれの穏やかな会話を聞き、俺はどこか肩の荷が降りた感じがした。

 

 思えば大徳寺先生の代役としてセブンスターズに入ってから、毎日が苦労の連続だった。

 

 全員が全員くせ者揃い。こっちは全体の調整もしなきゃならないし、おまけに学生としての本分も忘れちゃいけない。

 

 しかし、それもようやく終わる。あとは大徳寺先生に悔いのないよう余生を過ごしてもらい、ウェルチアースの船で漁師をしているタイタンに事の顛末を伝えて……そうだ!?

 

「そう言えば、カミューラはそろそろ回復したんだろうか?」

『そうだねぇ。いつ目覚めてもおかしくはないって話だったしね。それに彼女はもう少々原作とは違う流れに入っているみたいだし、僕も少しは興味があるかな。……おっ!? 噂をすれば』

 

 俺がふと思い出して呟くと、ディーは相槌を打ちながら何かに気づいたように森の一点に視点を向けさせる。そこには、

 

 

 キイ……キイ。

 

 

「おう! 医務室に詰めている筈のカミューラのコウモリじゃないか! さてはカミューラが起き……()()()()()()()()()()()!?」

 

 ふらふらと力なく飛ぶコウモリが、弱々しい声を上げて俺の目の前で墜落しかけた。慌てて受け止めてみれば、その身体は傷だらけだ。

 

「おい久城。一体どうし……そいつは!?」

「ああ。カミューラの部下のコウモリだ。……一体何があったんだ?」

 

 茂木から離れてやってきた万丈目が、俺の手のコウモリを目ざとく見つけて驚きの声を上げる。

 

 

 

 どうやら、まだ肩の荷を下ろすって訳にはいかないらしい。

 




 さて。原作の山場を切り抜けたのは良いのですが、まだもう一波乱あるようで。
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