マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
◇◆◇◆◇◆
「急げっ……急げっ!」
「……はぁ……はぁっ!」
十代を始めとした一行は、学園本棟の医務室に向けて駆けていた。
影丸操る幻魔との死闘。それが終わって疲労すれど和やかに帰路に就く途中、バランサーこと久城遊児の所に一匹のコウモリがよろよろと飛び込んできたのが事の始まりだった。
『どういう事だ? なんでコイツがこんなボロボロに』
『分からない。だが急いで戻った方が良さそうだな』
遊児は慌てて全員に報告。カミューラが目を覚まして暴れだしたのか、或いは眠っているカミューラを誰かが襲撃したのか。どちらにしても非常事態であると。
それに今医務室には、先ほど翔と隼人に連れ込まれた大徳寺先生も居る。万全の状態ならともかく、今の疲労しきった状態では襲われればどうなるか。
こうして一行は疲労をおして全力ダッシュ。怪我人を乗せて爆走する大鳥と審判鳥の奮闘もあって、そう時間もかからずに医務室にまで辿り着いた。
だが、そこで目の当たりにしたのは、
「これは……大丈夫か鮎川先生っ!? 大徳寺先生もっ!?」
薬品らしきものは散らばり、書類も滅茶苦茶に荒らされ、そんな中力なく横たわる鮎川先生と大徳寺先生の姿だった。
急いで駆け寄る十代達。幸いな事に、どちらも目に見える外傷は見当たらない。だが酷く魘されていて、何か余程の事が起きた事は分かる。そして、
「居ない。カミューラが居ないぞ」
今日までベッドで眠り続けていた女吸血鬼は、その姿を消していた。
「……うぅ」
「大徳寺先生っ!? 意識が戻ったのか?」
うめき声をあげ、顔に手を当てながら身を起こそうとする大徳寺先生を、急いで十代が助け起こす。
「すまない。十代君。私とした事がこのザマだ」
「しっかりしてくれ先生。一体何があったんだ!? 先生達を襲ったのはカミューラなのか?」
「……いや。少し違う」
十代の呼びかけに、大徳寺先生は力なく首を横に振る。
「ただカミューラが目を覚まして暴れただけなら、私もここまで後れを取る事はなかった。多少の対策もしていたしな。だが……
「なんだそりゃ? 奴って一体何なんだよ!?」
◇◆◇◆◇◆
「……ふふふ。紆余曲折あったが、遂にここまで辿り着いた」
その手には一枚のカード。先ほど封印される直前、さりげなく
全てをすり替えては見破られる恐れがあったため、敢えて一枚だけとしたが一枚あれば充分。
「いかな封印とて、外と内の両方から呼応すれば解く事は容易。まさかこんなにも上手く運ぶとはな」
これまで多くの邪魔が入った。幾重にも仕掛けた策はことごとく潰され、手酷いダメージを受けて寝込む事にもなった。
しかし、これでようやく終わる。いや、始まるのだ。
それは万感の思いを乗せ、封印をこじ開けるべく幻魔を天に掲げ、
「そこまでだ。
鋭く制止する声に、じろりとそちらを睨みつけた。
そこに立っていたのはカイザー。学園最強と呼び声の高い生徒が、息を切らして天上院吹雪を見据えていた。
「帰る途中から姿が見えないので気になって来てみれば、これはどういう事だ?」
「やあ。カイザー。そんなに息を切らしていったいどうしたんだい? ああ。僕は少し落とし物をしてしまってね。今こうして見つけて確認していた所さ」
「……やはりな。見た目こそ吹雪だが、お前は吹雪ではない」
さも天上院吹雪本人のように振る舞うそれに、カイザーは確信を持ったように宣言する。
「アイツは俺の事をカイザーとは呼ばない。人前ではまだしも、親しい者だけの場所では名前の亮と呼ぶ。それにアイツは……俺の友人はっ!
「……ククッ。ついつい気が逸り、どうせ短い間だけ邪魔をされなければ良いと雑な受け答えをしてしまった。策を立てて推し進めるのは得意だが、最後の最後で詰めが甘くなる。これは
クククとどこかバカにするように笑う吹雪の顔をした相手を前に、カイザーはデュエルディスクを構える。
「クク……何だ?
「ぐおっ!?」
軽く腕を振るった。たったそれだけで、軽い波動と共にカイザーは数歩分ほど距離を取らされる。
「ふ~む。憎々しい人間の身体などと思っていたが、中々どうして相性が良い。この身体どうやら元々闇に対して親和性があったようだな。一時の依り代としては上々よ」
「なんだと……まさかその身体は本物のっ!?」
「ああそうとも。
それの言葉にカイザーはギリギリと歯噛みする。単なる偽者ならただ倒せばいい話だが、何らかの理由で操られているというのであれば話が変わってくる。
「どのみち、お前に何が出来るでもない。おとなしくそこで見ているが良い。今一度幻魔が封印を破って顕現する瞬間をなっ!」
◇◆◇◆◇◆
「カミューラの中から出てきた黒っぽい靄が、ちょうど明日香用の薬を取りに来ていた吹雪さんに入り込んだ?」
「ああ。すると吹雪君がまるで人が変わったかのようになって襲ってきた。カミューラならまだしも、生徒を傷つける訳にもいかずそのまま私も鮎川先生も」
「それでやられちまったのか」
ああと頷く大徳寺先生から事の次第を聞き、十代達は難しい顔をしていた。
事情は分かったが、予想以上にとんでもない状況だったからだ。
「カミューラ……と言って良いのか分からないが、奴はこう言っていた。このままこの男のふりをして近づき、機を見て幻魔を頂くのだと。君達の見た吹雪君は、どさくさ紛れに幻魔のカードに触れたりしなかったかい?」
「幻魔に……あっ!? そう言えば確かに触ってたっ!?」
鮫島校長が幻魔を封印し直す際、急に突風が吹いてカードが一枚飛ばされかけた事を一同は思い出す。そして、それをキャッチしたのこそ天上院吹雪だった事も。
その突風が仕込みだったと考えれば、全ての辻褄が合ってくる。
「マズいぞ。つまり君達がここに居るという事は、七精門は今がら空きだ。このままでは再び幻魔の封印がっ!?」
だが大徳寺先生が顔色をさらに悪くする中、十代はあまり顔色を変えていなかった。それもそのはず。
「心配すんなよ大徳寺先生っ! そんな事もあろうかと、
十代はそう言って、ここに来ていない男達を思い浮かべてニヤリと笑った。
◇◆◇◆◇◆
「さあ幻魔よ。復活の時だ。今一度封印を破り我らの下へっ!」
それはまともに近寄る事の出来ないカイザーをしり目に、再び幻魔の内の一体を天に掲げる。
ゴゴゴと七精門が振動し、周囲の柱が一本ずつ内部からの干渉によって起動しようとしたその瞬間、
パァーンっ!
銃弾のような音が響き渡り、それが手に持っていた幻魔のカードを弾いて地へと落とす。
「むぅっ!? 誰だっ!?」
二度も肝心な場面を邪魔されて怒り心頭なそれの前に、犯人は静かに現れる。そう。
「誰も何も、ただの通りすがりのバランサーと」
かつてディーが学園祭に向けて悪ふざけで作ったコスプレ衣装の小道具の一つ。死んだ蝶の葬儀をモデルにした二丁拳銃を構えるバランサーこと久城遊児と、
「同じくただの鍵の守り手と」
それに肩を貸す鍵の守り手こと万丈目凖。そして、
『ただの元セブンスターズの貴婦人にして、誇りあるヴァンパイア一族の末裔よ』
傷だらけではあるが力強く羽ばたき、
という訳で、これまでもちょこちょこ匂わせていましたが、今作ではカミューラ周りに独自設定がガンガン仕事します。
流石に原作でそれはないだろうと思われるかもしれませんが、今作ではそうなのだと温かい目で見守っていただければと。
この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。評価を保留されている読者様。
ブックマーク、評価、感想は作家のエネルギー源です。ここぞとばかりに投入していただけるともうやる気がモリモリ湧いてきますので何卒、何卒よろしく!