マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
ギリギリと音を立てて、吹雪さんの手が俺の喉を締め上げる。どうにかその手を外そうとするのだが、尋常じゃない力で中々外せない。
カタカタっ!?
「久城っ!? やめろ吹雪さんっ!?」
「一体どうしたんだ吹雪っ!?」
『正気を失っているのか? 早く引き剥がすんだっ!』
咄嗟に罪善さんと万丈目、カイザー、葬儀さんが吹雪さんを引き剥がそうと動く。
『大変っ!? 大変だよっ!?』
『落ち着け我が運び手よ。それより今は……うおっ!?』
レティシアが慌てておろおろとこちらを心配そうに見、抱きかかえられたままのネクは何か気にかかるようだったが必然そっちに引っ張られる。
そう。つまり、この一瞬完全に周囲の視線は俺と吹雪さんに集中した。
『貰ったぁっ!』
『させないわっ!』
拾い上げたのはタッチの差でカミューラが先。しかし、
『邪魔をするな小娘がぁっ!』
『きゃあっ!?』
カミューラをはたき落とした黒い靄は、そのまま幻魔のカードを拾い上げる。
『ハハハハハっ! 油断したなぁ? 忘れたか?
変わらず掴まれたままの苦しい状況で、どうにか頭を回らせる。
確かに以前カミューラの城で、幽体に吹雪さんは首に噛みつかれた。あの時は魂を担保にするためだと思っていたが、考えてみれば吸血鬼が噛みついた相手を眷属に出来るというのは有名な話だ。
『正しい手順ではないので眷属とは行かぬが、軽く意識を奪って操る程度なら造作もない。魔よけのペンダントがあれば弾かれた可能性もあったが、今着けているのはそこのバランサー。なのでこうして囮に使わせてもらったという訳だ』
黒い靄は人型に寄り集まると、その姿を実体化させる。
だが、それはどちらかと言えば吸血鬼と言うより怪人か怪物。コウモリをむりやり擬人化したような格好をしていた。
『
『させるかっ!』
『おっと。そうはいかんな』
咄嗟に葬儀さんが射撃の構えを取るが、悪霊が軽く指を振ると、吹雪さんが俺から手を放して悪霊の盾になる様に立ち塞がる。
射線上に入られて、葬儀さんは僅かに射撃を躊躇った。
『ハハっ。そこでこの男ごと我らを撃たぬのが貴様の敗因よ。さあ幻魔よ! 我らの力を呼び水に、ここに顕現せよっ!』
その言葉と共に、悪霊の身体から手に持つ幻魔のカードに力が流れ込んでいく。そして、
「ゲホゲホ……これは!? みんな離れろっ!?」
呼吸を整えている所にカードから光が放たれ、眩しさに目を覆った直後、
『グオオオオオンっ!』
深夜の森に、そびえ立つラビエルの咆哮が響き渡る。その声に怯えてか、森の生き物達が我先にとパニックになってラビエルから離れるのを何となく感じる。
「遂に……出てきやがったか」
『ま、マズイのよ~ん!?』
万丈目とおジャマ・イエローがそう呟くほど、実体化したラビエルの威容は凄まじかった。
くそっ!? 改めて見るとなんて圧だ。何でこんなのを十代は相手に出来たんだよっ!? ……しかも、まだ封印されているとはいえこれと同格に近いのがあと二枚も。
俺はちらりと、七精門の封印を横目で見る。まだ解けている訳ではないが、ラビエルに攻撃されでもしたらどこまで保つか。
防ごうにも幻魔は精霊の精気を吸収するから長期戦は不利。さっきだって、十代や紅葉さん含めた面子でやっとどうにかした相手に今の戦力でどこまでやれるか。
『すまない管理人。私があそこで躊躇わなければ』
「いや。良いって。仕事人って感じの葬儀さんがあそこで躊躇ったのって、多分俺に気を遣ってだろ? 寧ろありがとうだよ。それより今はこの状況をどうするか考えないと」
サッと俺の前に立って庇いながら葬儀さんが謝ってくるが、実際吹雪さんごと撃ったら撃ったで大変な事になっていたからな。
しかしこの最悪一歩手前な状況をホントにどうするか?
『アニキ~っ!? どどどうしようっ!?』
「喚くなっ! せめてお前は邪魔にならんように隅に……ちょっと待て? なんでお前そんなピンピンしているんだ?」
肩の後ろでプルプルと震えるイエローに、何かに気づいたように万丈目が声をかける。
そういえば、さっきクロノス先生が影丸と戦った時は、万丈目がペンダントを俺に渡してすぐ精気吸収でイエローはガリガリになっていた。
まだ出たばかりとは言え、それにしてはそこまで精気を吸われている様子もない。
見ると葬儀さんも罪善さんも、レティシアやネクもそんなに影響を受けていない。よ~く見れば精気がラビエルに流れ込んでいるのが分かるが、さっき影丸が使っていた時とは雲泥の差だ。一体なぜ?
『ねぇ見てっ! 悪い人の様子がおかしいのっ!』
その答えはすぐに出た。レティシアの指差す先では、悪霊が何故かカードを片手に苦しんでいたのだ。本来幻魔が吸収した精気は使い手にも流れる筈なのにそれもない。
『ぐうぅっ!? 動けっ! 言う事を聞けぇラビエルっ! 我らがカードの持ち主だぞっ!?』
『はは~ん。どうやら奴め。幻魔を呼び出したは良いが
ネクがその様子を見て揶揄うように嗤う。実際ラビエルも動くでもなくただ佇むのみ。自身の実体化の維持に使っているだけだから吸収する精気も控えめだ。
……そうか! 考えてみれば簡単な話だ! 元々三幻魔はイラスト的に三幻神を意識している。つまり
原作で神のカードの一つ『ラーの翼神竜』は、千年アイテム持ちか古代エジプト所縁の者でなければ真価を発揮出来なかった。
そしてさっき幻魔を使用した影丸は、大鳥に破壊されたが闇のアイテムらしき指輪を着けていた。あれで幻魔を従えていたと考えればこの状況にも筋が通る。
「これは……妙な話になってきたな」
『どうする管理人? 仕掛けるなら今が好機だが』
「……ちょっと様子を見よう。下手にラビエルを刺激して暴れだしたら危ないし、吹雪さんが操られたままなのもマズい。まずは罪善さんに手を貸してもらって」
こっそり吹雪さんを正気に戻そうと画策していると、苛立った悪霊が何かを取り出す。あれは!?
『かくなる上は……これでどうだっ!』
取り出したのは以前カミューラが付けていたチョーカーだった。あの後大徳寺先生に預けていた筈だが、医務室でのどさくさで奪ってきたのかっ!?
慌てて止めようとしたのも束の間、チョーカーから出る波動にラビエルが少しだけ反応し、その巨腕を俺達と吹雪さん、そして悪霊を隔てるように地面に突き立てる。
「「うわあああっ!?」」
比較的ゆっくりとだったが、それでも巨大質量の一撃が大地を叩いて周囲に大きく砂埃が舞う。衝撃でそれぞれ軽く吹き飛ばされ、悪霊から強制的に距離を取らされた。
『……はぁ……そうだ。それで良い。……だが、やはりこれだけでは三幻魔を完全に従えるには心許ないか。仕方ない』
闇のアイテム自体の出力か、それとも単純な格の差か。影丸に比べて消耗が激しい悪霊は、息が上がりながらもそう口にしてラビエルの腕に飛び乗る。
「待てっ! どこへ行く気だっ!?」
『知れた事。このチョーカーだけでは出力が足らぬというのなら、他の物を加えて底上げすれば良いだけの事。幻魔よっ! アカデミア本棟へ向かうのだっ!』
チョーカーを翳す悪霊の言葉に、微妙に渋々と言った感じでラビエルはアカデミア本棟に向きを変えて歩き出す。底上げ? 本棟に何が……。
『マズいぞっ!? 確か本棟には、これまでのセブンスターズが持っていた闇のアイテムが保管されているのではなかったかっ!?』
『えっ!? そうなのネクちゃん?』
ネクとレティシアの言葉に俺達はハッとする。なんでネクが知っていたかはまあ悪だくみの一つや二つしていそうだから置いておいて、
「それらを合わせれば三幻魔をまとめて制御できるって訳かっ!? ……行かせるかっ!」
慌てて後を追おうとするが、その前にまだ操られたままの吹雪さんが立ちはだかる。
「退いてくれ吹雪さんっ!?」
『そいつにはお前達を足止めするよう暗示を追加しておいた。精々仲良くやるんだなっ! ハハハハハ』
高笑いを上げながら、ラビエルに乗って悪霊は去っていく。
どうするっ!? 本棟には十代達が居るが、正直さっき戦ったばかりで連戦となったら危ない。
というかそれ以外の教員とかも居る筈だ。そんな所にラビエルが着いたらどんな被害が出るかっ!?
かと言って追おうにも吹雪さんが邪魔して通してくれない。一体どうしたら、
「久城。先に行け。ここは俺様が引き受けた」
そこへ、万丈目がスッと前に出てデュエルディスクを構える。
「万丈目っ!?」
「ここで全員足止めされては相手の思う壺だ。なら二手に分かれた方が良い。……おい吹雪さん。デュエルを申し込ませてもらうぜ。いかに操られようが、アンタもデュエリストなら逃げはしないよなぁ?」
万丈目の挑戦的な言葉に、催眠状態でありながらも吹雪さんも腕にデュエルディスクを出現させる。一体どこから出したのかと思えば、良く見ればさっきの黒い靄が一部まとわりついている。
だが……操られているとはいえ相手は吹雪さんだ。ダークネスとして戦っていた時も一筋縄じゃ行かなかった。いくら万丈目でも簡単には、
「ふん。心配するな。いずれアカデミアのトップに立つ俺が、万全ならともかく操られた状態の相手に後れを取るものか。それに」
「ああ。俺も居る」
そこにカイザーもデュエルディスクを片手に一歩前に出る。
「吹雪は俺の友だ。友が前後不覚に陥ったのならそれを正すのが役目だろう。先に挑むのはこの頼もしい後輩に譲るがね」
「……と、いう訳だ。まあ俺は負けんので、カイザーには友人が完膚なきまでに叩きのめされるという残念なものを見せる結果になるだろうがな」
万丈目の闘志は燃え盛っていた。こんな危機的状況だというのに、それこそ俺と戦った時と同じくらいかそれ以上に。
ああ。これこそが俺の推しだ。
「……分かった。来いっ! 大鳥っ!」
俺はデッキから大鳥のカードを取り出し強く念じる。すると、
グルァ!
皆と共に本棟に行っていた大鳥が、即座にこちらに出現する。
「大鳥っ! 幻魔がまた出現して森のピンチだ。追いかけるのに力を貸してくれっ!」
『私も行くわっ!』
森が関わると決断が早く、大鳥は即座に了承。
肩に止まってきたカミューラと共に俺は素早く大鳥の背に乗り、万丈目に向けて墓守のペンダントを投げ渡す。
「隙が出来たらこれを吹雪さんにっ! 暗示を弾けるかもしれない」
「ああ!」
他の幻想体達の実体化をいったん解き、最後にもう一度万丈目達を見る。
「……ここは任せたぜ」
「そっちもな」
それ以上の言葉はいらない。大鳥は一声鳴くと、遠目に見えるラビエルに追いつくべく全速力で走り出す。
さあ。待ってろよ悪霊め。夜が明ける前に全部まるっと終わらせてやるからな。
という訳で、遊児対悪霊(ラビエル付き)。万丈目対吹雪(催眠状態)ルートに入りました。
当初は遊児・万丈目タッグ対悪霊ルートを考えていたのですが、万丈目対吹雪というのは原作ではなかったなと思い立ち、急遽こっちのルートに変更となりました。この選択が吉と出るか凶と出るか。
ただ、しばらく仕事の都合で執筆時間が削られるため、次の話は月末か来月辺りを予定しています。読者様方には少々お待ちいただければ幸いです。