マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
今年もよろしくという意を込めて、本編ではありませんが新年一発目は元旦からどうぞ。
「久城っ!?」
離れた所から真っ先に倒れた遊児に駆け寄ったのは万丈目だった。これはカイザーが吹雪に肩を貸していたから出遅れたという事もあっただろう。故に、
『安心しなよ。命に別状はない。ただ連戦の上、最上級幻想体の一角である終末鳥を顕現させて幻魔を真っ向から撃破するなんて事をやったんだ。しばらくは日常生活はともかく、精霊関係はほぼ扱えないだろうね』
万丈目だけが短い時間ではあるが、その存在と接触した。
「何者だっ!?」
万丈目は倒れ伏す遊児の上に浮かぶ光球に問いかける。しかし腕はデュエルディスクを構え、いつでも戦える構えだ。
『そうケンカ腰になるもんじゃない。まあ友人が急に目の前で倒れたんだ。分からなくもないけどね』
「だから何者だと聞いている。……お前も幻想体なのか?」
万丈目はデッキからおジャマ達を呼び出して確認しようとするが、
「……どうしたお前達?」
『アニキィ。コイツ……なんというかよく分からないのよ。幻想体達もなんか普通の精霊とは少し違う感じだったけど、こっちはそれに輪をかけて変。強い弱いとかじゃなくて、本当に良く分かんない』
イエローは妙な顔をするし、他のおジャマ達も同じく首をかしげる。強大な相手だったら
万丈目はその事から、目の前の存在により一層警戒を見せる。
『ハハハ。安心して良い。僕の名はディー。そこに居る久城君の
「ファンだと?」
『ああ。僕の事は久城君にでも聞けば良いさ。こうして時折久城君の様子を見ていたのだけど……彼は実に
「……気に入らないな」
楽し気にくすくすと笑うディーに対し、万丈目は不快そうにそう返した。
「仮にファンだというのなら、少なくとも傷ついた様を見て笑ってんじゃない。さあそこをどけ。久城を早く医務室に運ぶ」
『おっと失敬。なにせこの通り今の状態ではまともに触る事も出来ないのでね。よろしく頼むよ。……ああ。忘れる所だった。
意識のない遊児をどうにか抱き起こそうとする万丈目に対し、そうディーはどこかからかうように告げた。その忠告が、これからの流れにどう影響するのかを楽しむように。
『以上だよ。この内容をどう受け取るかは君次第さ。じゃっ! 久城君の事は任せたよ~!』
忠告を言い残すと、ディーはそのまま空気に溶けるように姿を消した。それと同時に、
「万丈目。久城は!?」
「何かあったのかい?」
吹雪に肩を貸しながら、カイザーが追いついてきた。終わってみれば、ディーと万丈目の邂逅は一分にも満たないものだった。
「……分からない。この状況を見るにどうやら悪霊は倒したみたいだが、闇のデュエルの影響かも。なんにせよ急いで医務室に運ぼう」
万丈目はここであった事を特に話すことなく、簡潔に状況を推察した後遊児を引きずるように抱えて歩き出した。
『ねぇねぇアニキ。今の奴の事……伝えなくて良いのん? あれ何だったのかしらん?』
「……さあな。だが、他の奴に伝えても今はどうにもならん。ひとまずは久城が目を覚ましてからだ」
おジャマ・イエローの問いかけに、万丈目はぶっきらぼうにそう答える。
短い邂逅ではあったが、万丈目の感じたディーの第一印象はずばり
(信用できるタイプじゃない。だが……奴が善悪はどうあれ久城に注目しているというのは察せられた。なら何かちょっかいをかけてくるつもりだとしても、久城が本調子になるまでは多分動かない)
仮に奴が言ったように(厄介な)ファンだったとしても、少なくとも今の時点では実害はないし情報も少ない。ならば今は精々軽く注意をしておくぐらいしかやれる事はないと、万丈目は考えを切り替える。
「まったく……ファンは良くも悪くも手が掛かるな。お互いに」
万丈目はそう独り言ちて苦笑しながら、カイザー達と共に朝日の中本棟へと帰還していくのだった。
◇◆◇◆◇◆
「……はぁ……はぁ」
深く暗い森の中で、一人の美女が陽の当たらない木陰に座り込みながら荒い息を吐いていた。
そう。先ほど遊児と別れたカミューラである。
あれだけ遊児に散々啖呵を切って別れたカミューラだったが、実の所大半がブラフ。戦う力などほぼ残っていなかった。
チョーカーの補助があっても幻魔など呼び出せば一分保たずに倒れていただろうし、遊児と戦っていたとしてもどちらが先に倒れるか分からない。
いわば見栄と気合と根性で華麗に立ち去っていただけだったりする。
キイキイっ!? キイキイっ!
「ふふっ……大丈夫よ。少し休んでいれば回復するわ」
心配そうに鳴くコウモリ達に、カミューラは心配するなとばかりに笑いかける。そこへ、
『ほぉ。中々どうして殊勝なものよ。己が臣下を慈しむとはな』
どこからともなく聞こえてきた声に、カミューラは咄嗟に疲れた身体に鞭打って立ち上がる。
「あら。疲れ切った女性を襲おうだなんて優雅ではないわね。姿を見せたらどう?」
カミューラはわざと少しおどけた様子で姿の見えない誰かに問いかけた。これでまだ余裕があると思わせられれば御の字だったが。
『虚勢を張るな。もう戦う力など残っていなかろうに』
「アナタ……確かバランサーの使っていた幻想体の」
カミューラの前に姿を現したのは、以前城に攻め入って計画の邪魔をした幻想体の一体。
「そういえば……悪霊の足止めをしていたという話だった割には、悪霊に追いついた時アナタの姿はなく氷が残るだけだった。
『ああ。怪物の相手は怪物に任すもの。女王たる妾の手を煩わすものではないのでな』
「……はぁ……道理でバランサーと二人で話している間、誰かに見られているような気がしたわけね。あの時もし私が一か八か幻魔を呼び出そうとすれば、アナタが割って入る算段だったってこと。バランサーも抜け目がないわね」
『いや。あの者は妾の事は知らなかった。本当に襲ってきたらと内心震えておっただろうよ』
あれも無茶をするものよと、雪の女王はクククと笑う。
「それで? 私を捕まえにでも来たのかしら? それともトドメを刺しに?」
そう言いながらも、カミューラは油断なく周囲に気を配っていた。
(まともな戦闘は力を振り絞ってもこちらはあと一回が限界。しかし見た所他の幻想体は居ない。途中で身を隠していたとはいえ、奴もそれなりに幻魔と戦って消耗している筈。ならこちらにも全く勝ち目がない訳じゃない)
状況は極めて不利。しかしこんな所で自分が死ねば、一族復興の大願は露と消える。
カミューラは静かに乾坤一擲の機会を探り、コウモリ達はたとえ一瞬一秒でも壁となって主人を守るべくその翼をはためかせる。そんな一触即発の中で、
『別に? 其方を捕らえようとも仕留めようとも思わぬが?』
「なんですって?」
雪の女王のどうでもよいといわんばかりの言葉に、思わずカミューラは聞き返す。
『其方をどうこうしようと思ったのであれば、わざわざ声をかける事もあるまい? 妾が気になったのはそこなコウモリ達よ』
キイキイ?
自分達? と困惑するコウモリ達に、雪の女王は少しだけ柔らかい口調でさらに続ける。
『其方達はあの幼子が気にかけていた故な。もしそこな吸血鬼の先ほどの態度がただの演技で、逃げのびる際に其方達をあの悪霊めのように贄とするのであれば遠慮なく氷漬けにする予定であったが……ククっ。存外に臣下想いらしい』
「……チッ。さっきの事もずっと見ていたのね」
カミューラは舌打ちをしながら顔を背ける。
雪の女王からすれば、上に立つ者は窮地の時にこそその対応が重要視される。
先ほどから見張っていれば、カミューラは自身が酷く疲労しているというのにも拘らず、コウモリを贄にする所かむしろ労わる様子を見せていた。
そもそも先ほど久城と別れる時も、別にコウモリ達を無理に復活させて疲労する必要はなかったのだ。
「ふんっ。誇り高いヴァンパイア一族が、従者の一羽も連れずに単身落ち延びるなんて無様を晒せるわけないでしょう? 必要だからしたまでよ」
『ほぉ? それはすまぬな。妾はてっきり、
「……っ!? アナタねぇっ!?」
これは面白い物を見たとばかりにクククと笑い続ける雪の女王に、カミューラが吸血鬼にしては珍しく顔を赤くして怒りに震える。そして、
『ククっ……興が乗ったわ。ほれ。下賜してやろう』
「むっ!? これは……何?」
雪の女王は何かをカミューラに向けて投げ渡す。それは、
『
「だ、誰が施しなど」
『ではこのまま臣下達に自らを心配させるか? ……一族の誇りを通すのも良い。だが時に上に立つ者は、恥を忍んででも成さねばならぬ事があるのではないか?』
その言葉に、投げ返そうとしたカミューラの手が止まる。そしてちらりとコウモリ達を見ると、数瞬顔を俯かせてぷるぷると僅かに身体を振るわせた後、
「……い、頂くわ。礼は言わないし借りとも思わないわよ」
『構わぬ。これもただの余興よ。この後は好きにするが良い。ではな』
そう言い残して、雪の女王はふっと実体化を解いて姿を消した。
「何だったのかしら? アイツ」
カミューラは今度こそ周囲に気配が無くなった事を確認し、大きく息を吐いて木にもたれて座り込む。
キイキイっ!
「分かっているわ。……非常に癪に障るけど、補給は必要よね」
カミューラはカップを睨みつけながら、ご丁寧に備え付けられたスプーンを手に取る。そして
「…………悪くないわね」
一口ごとに身体に力が戻ってくるのを感じながら、我知らず笑みを浮かべつつスプーンを口元に動かした。
という訳で、遊児が意識を失っている間のちょっとした一幕でした。
ちなみにカミューラと雪の女王の一件は、完全に雪の女王の独断です。カミューラが悪霊から切り離される前のただの外道だった場合、ここでひっそりと氷漬けになっていました。……コウモリへのデレが雪の女王の琴線に触れたようです。