マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
コイツがこんな奴な訳ないだろうと思われる読者様には、この作品ではこんな感じなのだと温かい目で見守っていただければ幸いです。
そこはなんとも形容し難い場所だった。
どこまでも果てしなく広がっているように見えて、自分が思いっきり手を伸ばせば簡単に端まで手が届きそうな。
或いは自分がとてもちっぽけに感じられるくせに、それでいて周囲が大きいかと言われたらそうでもないような。
大きくて小さく、広くて狭い。有るようで無いし、在るようで亡い。そんな場所に、
「……どこだ? ここは?」
俺は一人ぼっちで浮かんでいた。
歩こうにも地面がなく、ただ浮かんでいるだけ。水の中のようでもあるが、それにしては息が出来る。俺はいったん腕組みをして考えこみ、
「はは~ん。これは夢だな?」
すぐに考える事を止めた。
こういう訳の分からない場所は大抵夢オチか何かだ。そう思っていなければやってられない。
しかしどうしたものか。これが夢だとして、なにせ俺が最後に憶えているのは悪霊と戦って勝った辺り。その後カミューラと別れて、万丈目の姿を見て気が抜けた所から記憶がない。
あの後どうなったか心配なので早く目を覚ましたいのだが、こういうのはどうすれば起きれるのやら。
「……何だ?」
気が付くと、俺の周囲にはデカいシャボン玉のような幾つかの球体が浮かんでいた。
何だろうか? 何の気もなしに手を伸ばし、軽く指で触れた瞬間パチンとそれらはまとめて弾け、
「……うっ!? うぅ~っ!?」
咄嗟に口元を抑えて吐くのを我慢できたのが、この場で数少ない幸運だっただろう。
「な、なんだ今の……うぅ~っ!?」
それは曖昧なイメージでしかなかったが、一瞬とはいえ俺の中に流れ込んできた。
一つは虚ろな化け物。自分に実体がないからと、誰かの皮を被ってそれを模倣する空白。
一つは静かなる楽団。狂乱する人々の前で、命なき終演に向けて演奏を続ける指揮者と演奏者。
一つは死体の集合体。死した者達を取り込んで、いずれ山となる腐肉の獣。
一つは名を告げられぬモノ。認識しただけで他者を恐れ狂わさせる盲愛様。
一つは蒼く輝く星。崇められ、讃えられ、人に生を捨てさせる吸生主。
一つは赤く蕩ける水。自身を愛した者を愛し、それ以外を愛で溶かす厄災。
一つ一つが幻魔に比肩、或いは凌駕する世界に対する災害。そして、
「あれは……
一つは黒き森の怪物。歪んだ正義に囚われた、森の守護者ならざる孤独な破壊者。
イメージの中に、どこか見覚えがあるモノが混じっていたためついそう口走る。
しかし姿こそ似ていたが、イメージの中ではそいつは護るべき森の住人すら害していた。今の三鳥達がそんな事をする筈がないので、多分似ているだけで別の個体だろう。
そんな中、流れ込んだ
「……うぅ~。ダメだっ!?」
これ以上思い出そうとすると、喉から酸っぱい物がせり上がってくる。曖昧なくせして一体何なんだこのイメージはっ!?
俺は強烈な吐き気にたまらずそのまま蹲り、
『落ち着いて。大丈夫。辛かったら無理に我慢しなくても良いのですよ』
そうゆっくりと言う誰かに、優しく背中を擦られる感触があった。
「誰だ?」
俺は吐き気を我慢しながら懸命に振り向く。そこに立っていたのは、
『失礼。驚かせてしまいましたか? ……ですが
首から下をすっぽりと覆う黒い外套に、首回りに巻かれた羽毛のファー。そして頭に乗せているのは外套と同じく真っ黒のつば広帽子。
背中から二対の黒翼をはためかせ、特徴的なペストマスクを被った者。そう。
「……
『はい。つい先ほどぶりの対面ですね。管理人』
俺のバランサーとしての姿のモデル。あのセイさんや罪善さんがとんでもなく警戒する幻想体が、俺に穏やかに語り掛けてきた。
思わぬ遭遇に、俺は蹲ったまま固まる。そんな中、
『ああいえ。そう警戒しないで。別に危害を加えようと思っている訳ではありません』
「こんな訳の分からない場所で、急に出てきた奴を警戒するなっていう方が難しくないか?」
そう言うと、ペスト医師は仮面に手を当てながらふむと頷く。
『確かにその通り。しかし言わせてもらえれば管理人。今回
「私達の世界って……ここは夢の中じゃないのか?」
『どう説明したものか。夢の中ではあるのです。ただ今回は非常に珍しい事例と申しましょうか』
その後もペスト医師は、集合的無意識がどうとか井戸と釣瓶がどうとか用語らしいものを嚙み砕いて説明しようとしてくれたのだが、
「ごめん。やっぱり良く分からない」
『……そうですね。では端的に結果だけ言うなら、現在夢の中同士で繋がってしまっているのです。
おそらく終末鳥と幻魔という強大な力同士の激突。そして管理人が力を限界まで絞り出して倒れたからこその偶発的な事象でしょうねとペスト医師は考察するが、正直今はそれどころではない。
「って事は……今見た奴皆幻想体達って事っ!?」
俺の言葉にペスト医師はゆっくりと頷く。
『付け加えるなら、ここは夢の中でも深層。つまり管理人が今見たのは幻想体の中でも上澄み。ディ―が言う所のリスクレベル最上位
いや薄々そうなんじゃないかと思ってはいたよ。しかし俺が知らないだけで、幻魔や終末鳥級の奴がまだあんなに居るのかよっ!? 一体でもまかり間違って実体化したらとんでもない事になるぞっ!?
俺が思わぬ所で発覚した大問題に頭を抱えていると、
『どうやらまだ気分が優れないようですね。無理もありません。やはりあなたは早く目を覚ました方が宜しいでしょうね』
「そ、そうだな。こういうややこしい夢はさっさと目覚めるに限る。……それでどうやって夢から覚めれば良いんだ?」
『夢の深層から上層に上がれば良いのです。そうすれば自然と目が覚めますよ』
さあ。とペスト医師は俺に手を差し出した。
『うっかりまた別の夢に迷い込んでは大変ですからね。ご案内しましょう。手を取って』
……怪しい。とても怪しい。騙して悪いが臭がプンプンする。
なにせ罪善さんとセイさん。そしてあのディーが警戒するレベルとなると、どう考えてもコイツ自身が厄ネタだ。
さらに言えば、コイツは何故か一番最初に会った時から俺に対してやけに友好的だ。ちょっとおかしいレベルで。
おまけに、ここが夢の深層でヤバい幻想体のたまり場みたいなものだと仮定するなら、
「そう言えば聞いてなかったけど、ペスト医師はリスクレベルって奴はどの辺りなんだ?」
『フフフ。本体ならまだしも、この私はただの影。
そう穏やかにマスクごしに微笑むペスト医師。それって
その時さっき見たイメージの中で、最後の一体の様子を断片的に思い出す。
一つは白き翼の救済者。人々の病を治し、癒し、救い、そして……最後に十一の使徒と一人の異端者を従え全てを滅ぼす者。
あの翼。ペスト医師の翼にちょっと似てたんだよなぁ。しかしあの翼は純白なのに対しこちらは純黒。明らかに印象は真逆だ。
『どうしました?』
手を差し出したまま、ペスト医師は首をかしげる。俺はそのまましばし考えて、
「ああ。すまないけど、夢から覚めるまで案内よろしく頼むよ」
がっしりと、
ペスト医師が怪しいのは間違いないが、少なくとも今は俺をどうにかしようという感じはしない。
それになんだかんだ幻魔に立ち向かった時から助けてもらっているからな。今更これ以上疑っても仕方がない。
『それでこそ管理人。
そう言って手を握り返したペスト医師は、仮面の奥で少しだけ嬉しそうに感じられた。
幻想体ドリームツアー(ツアーガイドペスト医師)始まるよ~! ペスト医師の口調は独自設定です。
ちなみに頼りになる幻想体達は、大半が力を使い果たしてダウン中です。どうする遊児っ!?
なおペスト医師からの友好度は色々あって最初から結構高めです。大切な使徒候補だからねしょうがないね!
余談ですが、先日正月記念に新作短編『見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね?』を投稿いたしました。
ちょっとだけこれから出る(かもしれない)魔法少女がチラ見えしているので、暇つぶしに見ていただければ幸いです。