マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
注意! 独自設定がかなり仕事する他、一部キャラ崩壊があります。
ペスト医師はいくらなんでもこんなのじゃないだろうという読者様は、この作品ではこうなのだと温かい目で見守っていただければ幸いです。
俺はペスト医師の案内の下、夢の上層へと移動を開始した。
最初は地面もないのにどうやって進むのかと思ったが、ペスト医師が言うには足元に地面があると思えば地面のような感じになるのだとか。
実際やってみると少々不安定だが足が着く感覚が有り、泳ぐ要領でも一応進めた。流石夢の中だ。
現在は深層を抜け、中層部分に入った辺り。
ここまでは言葉で言うと実に簡単だが、その内容はまるで簡単じゃなかった。というのも、
『大丈夫ですか? 管理人』
「……頭が痛い。なんでここら辺一帯は
そう。この世界は幻想体達の夢とも繋がっているとの話だが、その繋がりであるシャボン玉がそこかしこに浮かんでいるのだ。
さっきとは比べ物にならない数のシャボンを見て、俺はやってられないと天を仰ぐ。……上の方にもたっぷり浮かんでいるんだけどな。
『夢の世界は大きく深層、中層、上層の三段階に分けられます。先ほど居たのは深層で主にリスクレベルALEPH級の住処。そして上に行けば行くほどリスクレベルは下がりますが、代わりに数自体は増えるのです』
「一部の滅茶苦茶危ない奴と、大多数のそこそこ危ない奴で棲み分けが出来てるって事か。……本当にここを通らなきゃダメ?」
どうせアレだろ? ここのシャボンも、うっかり一つでも触ったら近くの奴もまとめて連鎖誘爆するタイプだろ?
いくらさっきのに比べてリスクレベルは低いと言っても、それでも一つ下のWAWが大鳥とかココロ級だからな。絶対またイメージが流れ込んできて気持ち悪くなる奴だ。……気持ち悪くなる程度で済んでいるだけまだマシなのかもしれないが。
とはいえ、危険は避けられるならそれに越したことはない。シャボン玉を避けて迂回できないかと尋ねてみたのだが、
『迂回は可能ですが相当な遠回りになるかと。ここを突っ切るのが最短ルートです。あれを』
ペスト医師の指差した先を見ると、遠目でだがこの辺りと雰囲気が違う光が見えた。どうやらあの辺りから上層に移るらしい。
「ちなみにどのくらい遠回りになるんだ?」
『一時間……で済めば良い方といった所でしょうか。もっとも、この世界において時間の感覚は曖昧です。ここで数時間過ごしただけであっても、現実世界では一体どれだけの時間が流れているのやら。同じく数時間か、はたまた
プチ浦島太郎かよと、俺は小さな声で漏らす。
しかしそうなると時間を掛けて移動するのは悪手だ。多少危険を冒してでもさっさとここを抜けなくては後が怖い。ここは腹を括って、
「OK。ここを突っ切ろう。出来るだけ隙間を縫って触らない道を探れるか?」
『良い心意気です。……では、なるべく私から離れずぴったりとついてきてくださいね』
そう言ってペスト医師は、俺の手を取って前進を始めた。
特に意思もなくふわふわと浮かぶシャボンは、その分軌道を予測するのが難しい。
しかしペスト医師は的確にシャボンの薄い所を進み、時にはこちらの動きに合わせて止まったり、俺だけ先に行かせて自身は黒翼を羽ばたかせてシャボンを払ったりと大活躍。
少しずつ、しかし確実に、俺達は前へ前へと進んでいった。
そんな中、不意にぽっかりと空いたシャボンの空白と言うべき場所が見つかり、ペスト医師が休憩を進言。俺はまだ行けると言ったのだが、
『いけません。先はまだ長いのですから。休める時にしっかり休む。これは旅の鉄則ですよ』
そう力説され、俺は仕方なくその場で力を抜いてぷかぷかと漂う事に。すると、
「……ふぅ~」
大きく息を吐き、びっくりするほど自分が疲れていた事に気が付く。
『そのまま力を抜いて、大きく深呼吸を三回。それだけで大分楽になりますよ』
「じゃあ、少しだけ」
試しにそのようにしてみると、実際少しだけ疲れが取れたような感じがしてきた。
『良い調子ですね。ではこのまま十分ほど休息に充てましょうか。その間シャボンが来ないように私が見張っておきますから、どうぞごゆっくり』
ありがとうと返すと、ペスト医師はどこか微笑んだような感じで黒翼を羽ばたかせ、近寄ってくるシャボンを散らし始めた。
(何というか……
何故か、直感的にそう思えた。
罪善さんやセイさんが警戒しているし、実際どこがとは正確に言いきれないのだがヤバい奴であるというのは何となくわかる。
しかしそれはそれとして、罪善さんと似ているようで完全に別種の優しさを持っている。そんな風に思えた。まあ初対面で抱いた“世界規模のありがた迷惑”“善意の押し売り”というイメージも一切消えていないのだが。
そのまま深呼吸を繰り返しながら休む事数分、
「……なぁ? さっき旅の鉄則って言ってたけど、ペスト医師は旅行でもしていたのか?」
『私ですか? そうですねぇ……私は行った事はないのですが、
やはりこういうのは一度きちんと話し合ってみるに限る。という訳で何気なく質問してみると、ペスト医師はどこか懐かしむように不思議な言い回しをする。妙に他人事みたいな言い方だな。
『ああ。今の私は
本体より私の方が多分話し上手ですよ。試してみますかと、ペスト医師は自分の本体の旅の話を俺に語った。
どこそこの流行り病に襲われた村を救ったとか、旅の最中に祝福を授けた者達がどんどん使徒として旅路に加わっていったとか。どこかの森で休もうとしたら大きな鳥に追い出されたとか。
何か気になるワードがごろごろ出てきたが、幻想体同士のややこしい話に発展しそうなので一部はスルー。
しかし実際自身で言うだけあって、オールドレディには及ばずともその語り口は見事なもの。あくまで本人としてではなく第三者として語っていたのもあり、俺はついつい聞き入ってしまった。
気が付けば十分をとうに過ぎ、マズいと慌てて動こうとする俺にペスト医師はクククと笑う。
『いや失礼。
何っ!? まさか俺をここで足止めして、本当に浦島太郎状態にするつもりかと若干焦ったが、そこにペスト医師の言葉が続く。
『正直申しまして、管理人の疲労は思った以上に溜まっていました。これは十分程度の休息ではとても足りませんが、そう訴えても休んでくれそうにない。なのでこうして昔話にかこつけて無理やり休んで頂いたという訳です。少しは休めましたか?』
そう言えば、さっきに比べて身体が大分軽くなった感じがする。ちょこちょこあった頭痛もかなり治まっていた。
「うん。とても休めた。そこに関しては素直にありがとよ。でも上手く掌で転がされたのはなんか腹立つっ!」
『それは結構。腹を立てられるだけの精神の平静が戻ってきたという事ですからね。……さて。ではそろそろ行くとしましょうか』
「おうっ!」
さ~てと。この中層を早い所抜けて、さっさと上層に向かうとするかっ!
ペスト医師が翼を羽ばたかせるのを一度止め、再びこちらに手を差し出す。しかし少々さっきの一件が気恥ずかしかったのもあって、俺は手を取らずにそのまま一歩大きく前に踏み出し、
『あっ!? 管理人。そこの足元に』
「えっ!?」
パチンっ!
足元で何かが弾けたような音がしたかと思うと、また何かのイメージが流れ込んできた。それは、
『アッハッハッハッハ!』
『消えろっ! 死んでしまえっ! アナタが世界を喰らわんとする化け物になり果てたのなら、私が引導を渡してあげるっ!』
狂った笑い声をあげて突撃する黄金の魚と、それと対峙して涙を流しながら修羅と化すセイさんの姿だった。
はい。話し上手のペスト医師(影法師)でした。医者だけあって心と体のケアはお手の物。おまけに機転も効くしきちんとリードしてくれるという有能っぷり。なお影法師だろうと完全に信用して頼り切った時点で……。
巡礼の旅云々はほぼ独自設定です。ペスト医師(真)が予言者として、とある森の崩壊を招いたのかどうかはどこまで行っても推論の域を出ませんしね。
そして最後の二人は、一体いつの話なんでしょうね?