マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
目を覚ました俺が最初に目にしたのは、見知った保健室の天井と、
『やあ! や~っとお目覚めかい? 気分はどうだい?』
「……いきなりお前のドアップが顔面近くに来て驚いた以外はまあまあかな」
いつものように急に出てきて軽口を叩くディーを手で払いながら、俺は自分の調子を確認する。
すこぶる身体が固く、あと喉も掠れている。まあ長く寝ていたようだからそこは仕方ないか。首だけ動かして周りを見ると、ベッドで横になっている俺の他には誰も居ないようだった。
『ほら。水でも飲みなよ。大丈夫。今回は特に仕掛けなんかしてないから』
「ああ。助かるよ」
いつもどさくさで蓋の空いた缶ジュースを薦めてくるようなディーだったが、今回渡してきたのは普通のミネラルウォーター。ありがたく喉を潤す。
「ありがとうよ。ところで質問なんだが良いか? ……ネクはどうした? 皆は?」
夢の中の出来事は、些かぼんやりしているがそれなりに覚えている。
俺は幻想体達に連れられて夢の出口まで辿り着き、そこでネクに現実まで意識を引っ張り上げられた筈だ。
しかしここに居るのはディーのみ。ネクの姿はなく……というより、
俺がそう疑問を口にすると、ディーは少しだけ困ったような声で言う。
『えっ!? ……
結論から言うと、どうやら
原因は精霊の力の使い過ぎ。ディーが言うには限界まで振り絞って無茶をした結果、その反動が来ているらしい。時間を掛ければまた元に戻るようだが、それもどのくらい掛かるか分からない。数日で戻るかもしれないし、数か月かかる可能性もあるという。
肉体はこの通り非常にだるくて力が入らず、さっきからベッドの周りで幻想体達が心配そうに声をかけているらしいがそれも聞こえない。なんとも申し訳ない事だ。……だが、
カタカタっ!?
「……いや罪善さん居るじゃんっ!? 普通に見えてるし」
新たに現れた見慣れた頭蓋骨に、俺は突っ込みを入れると共にどこかホッとしていた。
そこでさらに詳しくディーを問い詰めてみれば、自力で実体化出来る幻想体や精霊なら見る事も声を聞く事も出来るという。
しかし俺の体調も鑑みて、一度に実体化出来る幻想体は一体のみ。それも消費量が少ない低レベルの幻想体に限定されるという。
『いったん代表して罪善さんが出ているけど、それも長くは保たない。何か幻想体達に伝えたい事があるんなら今の内にね』
珍しくディーが気遣うように言ってきた。……そうだな。俺は罪善さんに向き直ると、ゆっくりと頭を下げた。
「色々言いたい事も、聞かなきゃいけない事もあると思う。でも、まずはこれだけ言わせてくれ。……ありがとうな。力を貸してくれて。皆が居なかったらどうなっていたか分からない。本当にありがとう」
カタカタ。
罪善さんは少し歯を鳴らすだけで、ただ俺の言葉を待っているようだった。
「それと……全員にきちんと礼を言えない事にごめん。そして、できるなら……またこれからも力を貸してくれると助かる」
今回の件は一歩間違えば世界の危機。まさに原作でもあったような、闇のデュエルなんてのが時折発生するとんでも展開だった。こうして一応無事に俺が戻ってこれたのは、運が良かったのと幻想体達が助けてくれたからだ。
そして、厄介な事に俺も主人公たる十代もまだ一年生。アニメ的に言えばやっと
今のままじゃ間違いなく、頼りになる幻想体達の力を借りなきゃ俺一人じゃどうにもならない。
だから俺は頭を下げるしかない。皆の厚意に頼るしかない。
そんな俺を見て、罪善さん始め幻想体達はどう思っただろう? 頼りにならない奴だと呆れただろうか?
そのまま頭を下げる事しばらく、
『……馬鹿ね。当たり前じゃない』
その声にハッとして顔を上げると、そこにはセイさんが罪善さんの横に立っていた。
実体化しているのに、まるでこっちの身体から力が抜けていく感じはない。そもそもまだ罪善さんが出ているのに見えている。それはつまり、完全に
ほとんど力の余裕なんてないだろうに、直接俺と話すためだけに力を振り絞って、彼女はそこに立っていた。
『ここに居る皆が同意見よ。分かったら早く身体を治しなさい。我が主様』
セイさんはそう言うと最後に微笑んでスッと姿を消した。入れ替わるように罪善さんが前に出てくる。
カタカタ?
「……ふっ。こんな頼りになる皆が居てくれて、俺は幸せ者だよ」
『まったくだね。……おっと。君にお客さんだ。僕達は引っ込んでいるとしようか』
そう言ってディーは姿を消し、罪善さんも実体化を解く。すると、
ガラガラガラ。
「遊児っ! 目が覚めたんだなっ!?」
「久城君っ! 良かった! 気が付いたんっすね!」
「ちょっと貴方達。嬉しいのは分かるけど静かに」
部屋の扉を開け、入ってくるなりベッドに駆け寄ってくるのは十代と翔。そして二人を嗜める鮎川先生と、
「……よお。ようやく起きたか。寝坊助なファンめ」
「ああ。俺としては体感でさっきぶりなんだけどな。おはようさん」
扉に背を預けてキザに指を振る推しに、俺は弱々しくもしっかりと腕を上げて返した。
さて。ここからは十代達から聞いた眠っていた間の話と、今回の事件の顛末を少し搔い摘んで語るとしよう。
俺は丸一週間も目を覚まさず眠りっぱなしだったという。幸い眠り続けている事以外は健康で、全身の疲労やケガも常人に比べてものすごい速さで治っていたので鮎川先生も驚いたのだとか。
しかしいくら何でも長すぎるため、もう一日遅ければここから本土の病院に移送する事も考えられていたとか。危なかった。
その一週間にも様々な事があったというが、まずは今回の事件関係者達の事から話していく。
最初に今回の事件の元凶、影丸理事長は現在どこかの病院で入院中らしい。いくら色々あって再び自分の足で立てるようになったとはいえ、身体に負担が掛かった事に違いはない。精密検査やら何やらで長期入院コース。諸々の罪を償うのはその後になるとか。
同じく事件に関わったカミューラは現在逃亡中。元々二重三重に策を練るカミューラの事だ。非常用の脱出手段くらい用意していそうだし、なんならあの日に島を出る定期船もあった。そこに密航して脱出した可能性もあり、足取りを追うのは困難らしい。
ただ彼女が持ち出したラビエルと幻魔の扉のカードは俺の手持ちから見つかったため、至急何が何でも捕まえるとかそういう流れにはなっていないという。
ダークネスは現在カードに封印されて学園に保管されている……のだが、あれは実際なんだったのか今でも良く分かっていないらしい。遊戯王無印のように、仮面に何かしらの意思が宿っていてその部分だけ封印されたという考えも出来るが、下手に封印を解けない以上どこまで行っても推察に過ぎない。
タニヤ、アビドス3世は消息不明。そもそも片やアマゾネスにして精霊、片や遠き過去のファラオなので消息を追うも何もないのかもしれないが。
ザルーグを始めとした黒蠍盗掘団は、相変わらず万丈目の所に居る。どうも居心地自体は悪くないらしく、時折他の精霊達と雑談したりゲームに興じたりして割と満喫しているらしい。
タイタンは……まだ漁師を続けている。すっかり他の船員達とも仲良くなったようで、本人曰く『自首する事自体はいつでも良いのだが、出来れば船が次の寄港地に着くまで待ってくれ』との事。最終的に決めるのはタイタン自身だが、もうこの際あっちで罪を償いつつ第二の人生を送っても良いかもしれない。
そして、最後に俺がセブンスターズに潜入するきっかけとなった肝心要の大徳寺先生だが、
「やあやあ! 元気かにゃ久城君。無事目が覚めたようでホッとしたにゃ」
この通り、十代達に話を聞いている途中でやってきた時点でまだまだ元気である。
ただ後で聞いた所、本人曰くもう気合だけで無理やり保たせている状態であり、気を抜いたら身体が次の瞬間崩壊してもおかしくないのだとか。
「君には本当に苦労を掛けたにゃ。でも……そのおかげで、こうしてまだ教師を続けられる。君には感謝してもしきれないにゃ!」
「いえ。俺が自分から首を突っ込んだ結果ですから。大徳寺先生がまた授業が出来て良かった」
いくら頑張っても精々今の学年が進級するまで。しかし、事件を乗り越えた先のその僅かな時間こそが大徳寺先生に一番必要な物だったのだと思う。
最後に三幻魔のカードだが、再び鮫島校長の監視の下で七精門に封印された。一緒に幻魔の扉もだ。
一応影丸理事長が使ったような
こうして、三幻魔を巡る長い長い戦いは、本当に終わりを迎えたのだった。……だが、
「えっ!? 俺が眠っている間に
俺はどうやら大きく寝過ごしてしまったらしい。……進級できるかな?
さてさて。遊児が眠っている間に、一体何がどうなったのか。
そして、大徳寺先生はまだ生存しています。最終的には原作通りになるのですが、間違いなく遊児の奮闘は命を繋いでいました。