マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 この頃はこんなに三沢はキャラが濃かったのに、何故終盤はあそこまで薄く。

 これもラーイエローの宿命だと言うのか(寮長を筆頭に)。


ランク入れ替え戦前夜 三沢との対談

 

 その後、結局万丈目を追ったものの捕まえることは出来なかった。もしやブルー寮に戻ったかと向かってみたが、ここはオシリスレッドなんかの来るところじゃないとばかりに門前払いにされた。おのれこんな所にまでランク差別がっ!

 

 けれど何とか食い下がって万丈目のことを聞いたところ、ちゃんと寮には戻っているようだった。それなら一人ってことはないだろうし、一応取り巻きの奴らだっていたはずだ。ひとまずは安心と考えてブルー寮を離れる。

 

 しかしこれからどうしたもんか。今さら授業に戻るのは時間が半端だし、何より非常に気分が悪い。

 

 ちゃんとした理由があるならまだしも、理不尽な理由かつ大勢に一推しの人物を貶されたのだ。少し時間をおいてからでないと授業に出る気にはなれない。

 

 幸い一度や二度休んだ所で大丈夫なように出席している。あとはクロノス先生の心証の問題だが、向こうがオシリスレッドなど眼中にないのはこういう時は好都合だ。さらに言えば良くも悪くも十代の方が目立つからな。俺のことなどすぐに忘れるだろう。

 

「……そうだ! イエロー寮に行ってみるか!」

 

 十代達が三沢に呼ばれて行っているはずだし、時間潰しにはなるだろう。イエロー寮なら流石にブルー寮のような門前払いとまではいかないだろうしな。

 

 そうと決まれば善は急げ。早速イエロー寮に向かい、三沢の部屋をイエロー寮長の……なんてったかなあの人。やや影が薄いけどどこかカレーの香りがする……そうだ樺山先生だ! その樺山先生に教えてもらい、早速乗り込んでいく。その結果、

 

「…………何やってんだお前達は?」

「ナハハ。いやその……三沢の部屋のビッグバンの手伝いをさ」

「そ、そう。ビッグバン」

 

 部屋の住人である三沢を含め、身体中ビッグバン(壁の塗り替え)に使うペンキ塗れになった十代と翔を目の当たりにした。……こっちがシリアスムードだってのに楽しそうだなお前らはっ!!

 

 

 

 

「ははっ! 悪いな三沢! 罰のはずなのに、ご馳走にまでなっちまって」

「凄いご馳走っすよ!」

「なんだか悪いな。後から来た俺までこんな」

 

 ペンキ塗れの十代達を手伝って、数式だらけの壁の塗り替えをした後、俺達は三沢にイエロー寮の食事をご馳走になっていた。レッド寮より断然種類も多く量も豊富だ。これだけでもランクの差が如実に表れている。

 

「ジャンジャン食ってくれ! いくらでもご馳走するぜ」

 

 そう言いながら三沢が用意したのは、大きな大きなロブスターの蒸し焼き。こんなもの誕生日にも出してもらったことねぇと素直に大喜びする十代。……確かにロブスター丸々一匹とは珍しい。

 

「そう言えば、さっきクロノス教諭と何話してたの?」

「ああ。寮の入れ替えテストのことさ」

 

 翔の何気ない一言に出した三沢の答えに、俺はちょっと気になってフォークを動かす手を止める。

 

「三沢お前……ついにオベリスクブルーに昇格か! 入試の時だってお前、抜群に強かったもんな。オベリスクブルーに入るのは当然だぜ! 良かったな三沢!」

「ま、まあな」

 

 良かった良かったと喜びながら再び食事を続ける十代達。二人は友人の昇級を心から喜んでいた。さっきの奴らとの違いに、少しだけささくれていた心が落ち着いていく。

 

 だが、何故か三沢は少しだけ浮かない顔だった。……待てよ。入れ替えってことは。

 

「なあ三沢君。入れ替えってことは当然相手はブルーの誰かなんだろ? もう相手は分かっているのか?」

「ああ。万丈目だよ。オベリスクブルー一年。万丈目準」

「万丈目っ!? あいつとデュエルすんのかよ!」

 

 やっぱりか! 嫌な予感が的中した。十代も以前戦った相手という事でしっかり反応している。

 

「あいつは強いぜ。そう言えば最後に俺がデュエルしたのはこの前の月一テストの時だったな。それと入れ替えって何か関係あんのかな」

「それは分からない。だが、実力だけで言ったら万丈目はかなり上位の生徒だ。……それなのに入れ替え戦というのがどうにも不思議でな」

 

 どうしたものか。このままだと明日三沢対万丈目の入れ替え戦が始まる。

 

 マンガ版でも二人は戦っているが、その時はギリギリ万丈目が読み合いで勝って勝利を収めた。しかし今の精神が乱れまくった万丈目では正直勝てるか微妙だ。

 

「まあ三沢君なら大丈夫だよ! そうだよねアニキ!」

「う~んどうだろうな。まっ! デュエルは時の運ってな! 明日に備えてまずは飯だ! 三沢も持ってきてばかりじゃなくて自分でも食べろよ!」

「……そうだな。何事も身体が資本だからな」

 

 十代に促され、三沢も十代達に混ざって食事を始める。……三沢はこれなら問題ないだろう。ただ真っすぐにデュエルに臨むはずだ。

 

 あとは万丈目の状態次第か。入れ替え戦は避けられないにしても、どうせなら万全の態勢で臨んで欲しい。アニメ版の流れは知らないが、結果はどうあれどうせなら良いデュエルが見たいからな。

 

「遊児食べないのか? なら俺が貰っちゃうぜ!」

「なっ!? しっかり食べるっての! 折角のご馳走をみすみす手放せるかいっ!」

 

 三沢の言う通り身体は資本だ。俺も食べられる時に食べないとな。俺の分も狙って目を光らせる十代を牽制しながら、俺は猛然と目の前のロブスターに挑みかかった。

 

 

 

 

「あ~食った食った! もう腹いっぱいだ!」

「まったく。いくらお代わり無料だからって食べ過ぎっすよアニキ。……久城君も」

「いやぁ。今日を逃すと食べられないんじゃないかと思ってつい食い溜めをな。おかげで腹が苦しい。……ありがとうな三沢君」

 

 服の上からでも分かるほどに膨れた腹をさすりながら、俺は満足げに三沢に礼を言う。

 

「構わないって。それにこちらも一晩泊めてもらう訳だしな。お礼の先渡しという奴だよ」

 

 三沢は何でもないように笑う。……そう。夕飯も終わり暗くなってきた頃、俺達は三沢を連れてオシリスレッド寮に向かっていた。

 

 壁の塗り替えで今日は三沢の部屋を使えない。なので話し合いの結果、一晩三沢を部屋に泊めるという流れになったのだ。

 

 現在一人だけの俺の部屋に止めるという流れも考えていたのだが、三沢本人がたまには部屋で雑魚寝というのをやってみたいという希望もあって十代達の部屋となった。隼人にまだ了承を取っていないけど大丈夫だろうか?

 

 まあダメという事になったら俺の部屋に移れば良いし、ディー達も一日くらいなら大人しくしてくれるだろう。……見えないのを良いことにイタズラする可能性は否めないが。

 

 そうしてレッド寮に向けて、話しながらぶらぶらと歩いていた時だった。

 

『……ちゃん。お兄ちゃん』

 

 急にどこからか声が聞こえた。きょろきょろと辺りを見渡すと、傍らに半透明になったレティシアの姿が。精霊化状態なので他の人(十代を除く)には見えていないようだ。

 

「レティシアか。どうした?」

『あのね。……近くから、とっっても()()()()()()人の気配がするの』

「笑顔じゃない人?」

 

 一応声を潜めてはいるが、傍から見たら突然何もない所で独り言を始めたのだから周りはさぞ驚くだろう。言った後で気がついてハッとするが、

 

「あ~。遊児は癖で考えをまとめる時独り言を言うんだ。あんまり気にしないでやってくれよ」

 

 レティシアが見えている十代は、咄嗟に俺へのフォローを入れる。……まああんまりフォローにはなっていない気がするけどな。流石にこれは疑われる気が、

 

「そう言えば時々考え事してるもんね。了解っす!」

「俺もよくやるなそれ。つい考えついた数式をそこらにメモしてしまったりとかな」

 

 普通に納得するんかいっ! お前達それで良いのか? あと十代のどうだってドヤ顔が何とも言えない。

 

「こほん。……だけどレティシア。その笑顔じゃない人がどこにいるのか分かるのか?」

『大丈夫! 私は色んな術が使えるんだよ! だからお兄ちゃん。……その人を助けてあげて欲しいの。暗い顔なんかより、笑っていた方が良いに決まってるもの!』

 

 レティシアがその大きな瞳を潤ませて上目遣いでこちらを見つめる。……参ったなもう。適当に何か理由を付けて断るつもりだったけど、こんな顔をされたら断れないじゃないか。

 

「……分かったよ。俺にどこまで出来るかは分からないけど、一応やってみよう。案内を頼めるかい?」

『うん! こっちだよ!』

 

 レティシアはぱあっと花が咲くように笑い、どこかに向かってその足で駆け出す。精霊なんだから飛んでいけば良いというのは野暮だろう。飛べない俺が追ってこられるように気を遣ったのかもしれないしな。……さてと、

 

「……あ~。皆、俺は野暮用というか、腹ごなしに夜の散歩をしてくるので先に行っててくれ。ちょっとそこらをぶらっとしたら後から帰るから」

「え~っ!? それは良いけどもう結構暗いよ。危なくない?」

「大丈夫大丈夫! すぐ戻るし、そこまで遠くは行かないさ」

 

 翔が心配そうに言うが、最悪罪善さんに出てもらえば明かりはばっちりだ。……目立ち過ぎて怪談にならなければだけど。

 

「遊児。……あとでさっきの子の話も聞かせろよ」

「分かってるって。あとでちゃんと説明する。じゃあな!」

 

 十代にしっかり約束すると、俺は急いでレティシアの向かった方へ走り出した。

 

 

 

 

『早く早く!』

「分かってるって。……はあ、はあ。食べたばかりで全力疾走は横っ腹が痛い!」

 

 小さな外見とは裏腹にかなり足の速いレティシアを追って走ること数分。俺は海岸の辺りまで来ていた。近くには船の荷卸に使われる桟橋がある。

 

 カタカタ。カタカタ。

 

 幸いこの辺りは夜はあまり人が来ない。なので罪善さんにやや光量抑え目で実体化してもらっている。ライト代わりにして済まないな。

 

『結構走ったね久城君。今日の野球でもそうだったけど、地味に体力があったり?』

「今頃出てきて何言ってんだよディー。体力なんか嫌でも学校への登下校で付くっての! レティシア。ここで間違いないのか?」

『うん。最初はさっきまでお兄ちゃん達が居た所だったけど、今はこの辺りに居るよ!』

 

 いつの間にかふらりと出てきたディーに呆れながらも、俺はレティシアにその人の居場所を確認する。……最初はさっきまで俺達の居た場所? つまりイエロー寮からこんな人気のない場所に……どういう事だ?

 

『おやっ? あれじゃないかなレティシアの言う人は? ほらっ! 桟橋の所に』

 

 ディーが何かに気づいたように声をあげる。えっ!? どこだどこだ? 俺はそのまま視線をずらして桟橋の方に目を凝らす。するとそこには、暗くてよく分からないが誰か立っているようだった。

 

 こんな時間にこんな場所で、一体何をやっているのだろうか? ……まさか身投げっ!? 早まるんじゃないよっ! 俺は慌ててその人の元へ駆け寄った。

 

 

 

 

 そこで俺が見たのは、今にもカードの束を海に投げ捨てようとする万丈目の姿だった。

 




 万丈目のトラウマ回です。対戦前に人のカードに手を付けた奴は大体負けるという話ですが、遊児がいることでそれがどう転ぶのか。乞うご期待です。

 次も投稿は明後日予定です。

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