マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
(おかしい。何故こうなった?)
私はネク。かつて遊児に敗……いや、花を持たせてやった結果様々な要因が重なり、超絶弱体化して不本意ながら居候する事になったダーク・ネクロフィアのカードの精霊である。
私はかつてない苦境に立たされていた。それは、
『さあ。アナタみたいな良い子ちゃんは、絶望の淵に沈めてあげる。光なんて、希望なんて、みんなみんな消えてしまえば良いっ!』
『させないよ。遊児お兄ちゃんも十代お兄ちゃんも万丈目お兄ちゃんも今は忙しいから、その間私がここを守るんだよ!』
目の前でデュエルディスクを構える二人……というか二体の精霊。
片や明らかに妙な邪気に囚われ、暴走状態にあると思われる黒髪ゴスロリ少女の精霊アリス。
片や自分を抱える腕に少し小さなデュエルディスクを装着したゴスロリ幼女幻想体レティシア。
普段ならどこの少女と幼女がデュエルしようがキャットファイトしようが知った事ではないが、今回に限っては状況が悪い。何故なら、
(何故
精霊同士のデュエル。それも依り代であるカードが入った状態でのデュエルとなれば、精霊の格や精神状態にもよるが負けた方はかなりの負担がかかる。そして当然そのデッキには私の依り代たるダーク・ネクロフィアが入っている。
つまり、こんな暴走状態のアリスにもしレティシアが負けでもしたら……最悪私は消滅する。
『『デュエルっ!!』』
(ぬお~っ!? やりたくないぃぃっ!? 何故こんな事にいぃっ!?)
私は内心絶叫しながら、事の次第を思い出していた。
『修学旅行?』
『うん! 明日からお兄ちゃん達がこの島から何日かお出かけするんだって。童実野町……っていう所らしいよ? 楽しみだね!』
ある日の事。純粋なエネルギーこそまあまあ溜まってきたが、自分の新しいボディをどうしたものかと思い悩んでいた時、突然レティシアがそんな話題を持ち出してきた。
最初は特に興味はなかったが、詳しく内容を聞いている内にこれはチャンスだとほくそ笑む。
ここしばらく、デュエルアカデミアでは色々とややこしい事件が多発していた。
ナポレオン教頭主導によるオシリスレッド廃止計画。ついで並行して進められる次世代のスター発掘計画。
十代とエド・フェニックスの因縁。エドのマネージャーこと斎王の率いる光の結社。
妙に遊児が警戒しているアメリカアカデミアから来た二人組の編入生。
そして……ペスト医師の善意だか何だか分からない暗躍。
こちらとしては遊児の目が余所に向いてくれる分には大いに結構なのだが、状況が混沌とし過ぎるのもまた困る。だが、
(修学旅行とやらでめぼしい奴らは不在になる。罪善なども当然着いていく筈。そうすれば前々から考えていた計画を心置きなく実行できるわけだ。これは良い)
『ふふふ……むっ!? 私を抱えてどこへ行くのだ?』
『えっ!? それは勿論明日の準備にだよ? 私達も行くんだもん! その前に森に居る鳥さん達や皆に挨拶しに行かなきゃ』
『なっ!? 待つのだ我が運び手よっ!? 私はここで留守番を……連れて行くなぁっ!?』
こうして私は遊児の準備を邪魔しないようレティシアの挨拶回りに付き合わされ、その途中の事だった。
『どうした? 我が運び手よ』
三鳥始め森に住まう幻想体達に挨拶を終え、ついでとばかりに二、三発こづかれ屈辱に耐えながら帰ろうとした時、レティシアが突然あらぬ方を向いてこう呟いた。あっちにとっても笑顔じゃない精霊の気配がすると。
そうして私の制止も聞かずに森の中を駆け抜け、辿り着いたのは小さな泉のほとり。そこで、一人の精霊と出会った。
『見つけたよ! と~っても笑顔じゃないのはお姉ちゃんね?』
『あら? だ~れアナタ? 精霊? ……いえ。誰でも良いわ。アナタ、とても綺麗な目をしているわね。綺麗で輝いていて、嫌な事なんてまるで知らなそうな……なんて憎らしい目』
アリスと名乗ったその精霊には見覚えがあった。
それは本棟の一室に安置されていたビスクドール。自分のボディとして使えないかと一時期目を付けていたが、結局手を出さずに今まで忘れていた物だ。まさか精霊化するとはな。
『えぇ。良いわ。本当はもう少し準備してからデュエリスト達を絶望の闇に引きずり込むつもりだったけど、見つかってしまっては仕方ない。まず手始めにアナタを暗い絶望に落としてあげる』
アリスは虚空からデュエルディスクを取り出し装着する。デュエルの構えだ。しかし、
『残念だったなアリスとやら! デュエルも何もレティシアはデッキを持っていない。行くぞレティシアよ。さっさと帰って我が生け贄にコイツの始末を押し付け』
『えっ!? デッキならあるよ。ほらっ!』
レティシアはどこから用意したのかデッキを取り出すと、アリスからもう一つデュエルディスクを借りてデッキをセットする。
『ほう。準備が良いな我が運び……ちょっと待てっ!? それ私のデッキっ!?』
『ごめんネクちゃん。こんな事もあろうかと借りてきちゃった。さあデュエルだよアリスお姉ちゃん! 私が勝ったら皆を傷つけようなんて事もうやめて』
『いやだから話を聞けええっ!』
という事があり、なし崩し的にデュエルに巻き込まれた私であった。しかし、
アリス LP4000
レティシア LP4000
『レティシアよ。分かっているな?』
『うん。あのお姉ちゃん。何か良くないモノに取り憑かれてるの。それを引き剥がしてあげないと』
『いや、それもだがそうではなくて』
デュエルはそのデッキに慣れている私の指示に従えと言おうとした時、アリスが先手必勝とばかりに動き出す。
『行くわね。あたしのターン。ドロー! あたしは『さまよいのビスクドール-アリス』を守備表示で召喚! そしてフィールド魔法『呪われたドールハウス』を発動!
さまよいのビスクドール-アリス DEF1000
『わあっ! 可愛いお人形さん! それに綺麗なお部屋の中だよっ!』
『敵も人形使いか』
突如生えてきた古い洋風の家と見目麗しい人形にレティシアがはしゃぐが、ああいうカードは基本ステータスはともかく厄介な効果が付き物だ。
『あたしは更にカードを二枚伏せてターンエンド。さあ。アナタの番よ』
『よ~し。いっくよ~! ドローっ! ……えへへ』
何故かドローしただけで顔を綻ばせるレティシア。余程良い手札だったか?
『
『何? これが初めてだとっ!?』
初めてでこんな命がけ(私が)のデュエルをするんじゃないっ!? こうなれば私がアドバイスして勝たせるしか。
『……よし。レティシアよ。まずは手札の右の』
『うん! この右端の『夢魔の亡霊』を攻撃表示で召喚だよ!』
夢魔の亡霊 ATK1300
(初手はその隣の『クリッター』を伏せて様子見したかったのだがな)
『バトルだよ! 夢魔の亡霊さんで、お人形さんを攻撃!』
『残念。さまよいのビスクドール-アリスは戦闘では破壊されず、攻撃した相手に500ダメージを与えるわ』
『きゃっ!?』
レティシア LP4000→3500
亡霊の振り下ろした剣は人形の周りの見えない障壁に弾かれ、逆にレティシアにぶつかってLPを削る。だから初手は様子見をしろというのに。
『その後、さまよいのビスクドール-アリスは効果により相手にコントロールが移る。でもそれにより呪われたドールハウスの効果も発動! あたしのお人形さんのコントロールが移る度、ドールハウスの主人であるあたしの場に、デッキから“ドールパーツ”と名の付くカードを特殊召喚出来るのよ。あたしはデッキから『ドールパーツ・ブルー』を攻撃表示で特殊召喚』
ドールパーツ・ブルー ATK0
続けて現れたのは、壊れかけの人形の頭部だった。うむ。かつての自分と似ていて少し親近感が……湧くかと思ったがそんな事はないな。私の方が美形だ。
『さあ。まだアナタのターンよ』
『う~。おっかないの』
『怖がってる場合か。さしずめあのカードと似たようなドールパーツを揃える事でデカブツを呼ぶタイプだ。溜めさせるな』
『そ、そうだね。うん。私はカードを一枚伏せて、ターン終了だよ』
アリス LP4000 手札2 モンスター ドールパーツ・ブルー 魔法・罠 呪われたドールハウス 伏せ2
レティシア LP3500 手札4 モンスター 夢魔の亡霊 さまよいのビスクドール-アリス 魔法・罠 伏せ1
『あたしのターン。ドロー。メインフェイズを飛ばしてバトルフェイズ。あたしはドールパーツ・ブルーで、さまよいのビスクドール-アリスを攻撃するわ』
『えっ!? こっちのお人形さんの方が守備力が上なのに?』
『油断するな我が運び手よ。奴の狙いは』
アリス LP4000→3000→2500
ブルーが凄まじい形相でビスクドールアリスへ飛び掛かるが、先ほどの夢魔の亡霊の再現となる。寧ろ反射ダメージも考えれば更に痛い。しかし戦闘を行った事で、彷徨える人形は再びアリスの元へと戻る。
『あたしのお人形は返してもらったわ。そして再び呪われたドールハウスの効果。デッキから『ドールパーツ・レッド』を攻撃表示で召喚』
ドールパーツ・レッド ATK0
『今度は足か』
『続けて行くわ。今特殊召喚したドールパーツ・レッドで、夢魔の亡霊を攻撃』
『むぅ~。亡霊さん。反撃だよ!』
蹴りかかってきたレッドを、先ほどの鬱憤とレティシアの応援もあってか普段より力強く亡霊が斬り捨てる。
アリス LP2500→1200
『罠発動! 『ネクロ・ドール・マイスター』。ドールパーツが戦闘で破壊された時、デッキからドールパーツモンスターを二体攻撃表示で特殊召喚する。『ドールパーツ・ピンク』と『ドールパーツ・ゴールド』を特殊召喚』
ドールパーツ・ピンク ATK0
ドールパーツ・ゴールド ATK0
奴の場に胴体と腕のパーツが呼び出される。つまり先ほど倒した足以外全身一揃いしている訳だ。
『ほぉ。何が狙いかは知らんが、少々LPを削り過ぎたのではないか? あと一撃まともに攻撃が入ればそちらの負けだ』
『ふふっ。そうね。本当に……
“可愛い死霊共を召喚するのも身を削る思いってワケだ”。
一瞬、コイツの言葉で面白くない事を思い出した。もう思い出したくもなかったのだがな。
『…………チッ!』
『ネクちゃん? 大丈夫?』
『何でもない。ああは言ったが、逆に言えばこれだけLPを減らしてでも出したい何かがあるという事だ。油断するなよ我が運び手よ』
『う、うん!』
心配そうにするレティシアに気を引き締めさせる。何せ負けたら私がとんでもない事になる。
『メインフェイズ2。あたしはもう一枚の罠カードを発動。『蘇りし魂』。墓地のドールパーツ・レッドを特殊召喚。……あぁ。やっと揃ったわ。あたしのお人形さん達。
アリスの場には四枚のドールパーツとビスクドールアリス。これはマズい。何故か良く分からないが非常にマズい。
『あたしは魔法カード『マリオネットの埋葬』を発動。あたしの場にさまよいのビスクドール-アリスが居る時、四種類のドールパーツを生け贄に捧げ、デッキから『ドール・キメラ』を特殊召喚する!』
ガチャガチャと音を立て、ドールパーツ達が組み上がっていく。しかしそれは単純な人型ではなく、関節がちぐはぐに組み合わされた獣のような四足獣だった。
ドールキメラ ATK0
『ターンエンド。さあ。次のターン。アナタに絶望を見せてあげる』
『怖いよぉ。ネクちゃん。あれが』
『ああ。どうやらこのカードがあの女に取り憑いている元凶らしいな』
ドールキメラから漂う邪気がアリスと繋がり纏わりついているのを見て、以前遊児がセブンスターズとの戦いでやりあったという悪霊と近いタイプだと当たりを付ける。
(しかしパーツを四つも生け贄にして出したモンスター。攻撃力こそ0だが、何かしら厄介な効果を持っている事は確実。どう攻めたものか……んっ!?)
この身体に、僅かな震えが伝わってくる。それは私を持っているレティシアからのもの。顔を見ればほんの僅かにだが涙すら滲んでいる。
無理もない。本人がさっきも今も言ったではないか。怖いと。
単純な危険度というだけなら幻想体の奴らの方が相当だが、レティシアは初めてのデュエル。それも精霊同士の真剣勝負だ。……仕方ない。
『肩の力を抜け。レティシア』
『ほえっ!? ネクちゃん?』
そっと腕を伸ばし、レティシアの肩をポンポンと叩く。
『お前は目の前の皆を笑顔にしたいのだろう?
ニヤッと私は口の端を釣り上げて、自信満々に見えるように笑って宣言する。
『私の指示通りに動けば必ず勝てる。今はこの通りの姿だが、そのデッキの持ち主だぞ。信じろ』
『……うん。うんっ! 私頑張るよ!』
(……ふぅ。上手くいったか)
レティシアに笑顔が戻ったのを見て内心ホッとする。正直あのまま落ち込まれては色々な意味でこちらが困るからな。レティシアの“友達”が暴れるのもそうだが、戦意喪失でもしたら私とてどうしようもない。
さて。目の前の悪霊もどきの人形をどう片づけたものか。
まあ。幼女の涙を止める事に比べれば造作もない事だろうがな。
お久しぶりです読者様方。
この所忙しく筆を置いていたのですが、遊戯王GXリマスター版も二年生編に突入という事で久々にまた筆を執ってみました。と言ってもあまり本編とは関係のないちょっとした閑話ですが。
普段は少々あれな感じのネクですが、今回はやる時はやるという事を知らしめてやろうと思っています。ぜひ頑張ってもらいたい! ……なお、酷い目にもガンガン遭ってほしい派です。
それと少し前に書いた新作『遊戯王外伝 ある幼き天才少女の友人Y』もよろしく!