マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
私の知ってる万丈目はこんな奴じゃないというこだわりのある方は、こういう考え方があるという事でお許しいただければ幸いです。
「ちょっと待ったあぁっ!」
今にもカードを投げ捨てようとする万丈目に、俺は慌てて叫びながら駆け寄った。
こんな夜に周りには誰も居ないと思っていたのだろう。万丈目は一瞬俺の声を聞いて固まり、その隙にカードを投げようとする手首をがっしりと掴む。
「は、放せっ!」
「誰が放すかっての! 何だか知らないが、デュエリストがカードを捨てるなんてただ事じゃないだろうがっ!」
『おっ! 面白くなってきたね! どっちも頑張って~!』
『お兄ちゃんガンバレっ!』
……囃し立てるように周りをウロウロするディーはなんか腹立つが、レティシアからの応援は素直に元気百倍だ!
そのまま二人で倒れこむように桟橋に転がり、奇襲だったのが功を奏して何とかカードの束をもぎ取ることに成功する。
「……はぁ……はぁ。何をするお前っ!」
「……はぁ。それはこっちのセリフだ! デュエリストにとってカードは大切なもんだろうがっ! ……それをいきなり海に捨てようとなんてしてたら止めるのが当たり前だ」
互いに息を切らしながら睨み合う。……というか、どうやら万丈目にはディー達の姿は見えていないようだ。さっきから視線が俺にしか行っていない。
マンガ版では確か小学生くらいでカードの精霊の『光と闇の竜』が見えたはずなんだが、これもアニメ版とマンガ版の違いだろうか?
「……チッ。俺のカードをどうしようが俺の勝手だ。オシリスレッドの分際で邪魔をするんじゃないっ!」
「お前の? このカードがか?」
ランク云々を言われたことはひとまず置いておいて、顔を歪めてそっぽを向く万丈目を前に、俺はもぎ取ったカード群を軽く手の中で広げて確認する。……なるほど。
「どんな理由があるかは知らないが、確かにどうしても捨てたいって言うなら俺が止める筋合いはない。……だけど、それは
俺はカードの束から1枚を抜き出して万丈目に突き付けた。
「『ブラッド・ヴォルス』。このカード自体はそれなりに出回っているカードだし、お前が持ってても何の不思議もない。……だけどこんな
そのカードには見覚えのある数式の一部が書いてあった。そう。ついさっき三沢の部屋で
ペンキのこともあって家具を部屋の外に出してあったから、うっかりその中に三沢がデッキを入れっぱなしにしたのだろう。それを万丈目が持ち出したというところか。
「俺は三沢と知り合いでね。三沢は時々思いついた数式をそこらにメモしてしまう癖があるんだ。……これ三沢のカードだろ? なんでそれを捨てようとしてたんだ?」
俺の問いかけに、万丈目は顔を俯かせて答えようとしない。
「……明日の入れ替え戦に勝つためか?」
「くっ! ……どうしてそれを?」
万丈目は苦々しげに俺を睨みつける。……まいった。まさかこんなことをするまで思いつめていたなんてな。
「デッキが無ければ三沢だって戦えない。だから対戦相手のデッキを捨てて出られないようにしたってとこか。……それで良いのかよ?」
「うるさいっ! お前に何が分かるっ! 俺は負けられない。……負けられ、ないんだ」
万丈目はどこか悲痛な感じで叫び、そのままどこか疲れたように崩れ落ちて膝立ちになる。
「俺の肩には万丈目一族の未来が掛かっている。兄さん達二人と俺で政界、財界、カードゲーム界のトップに君臨し、万丈目一族で世界を制覇するために。……なのに、なのに今の俺はトップなどではなくて、格下げになりそうだなんて兄さんたちには言えなくて……俺は……俺はっ!」
そこに居たのは、只々家族からの重圧を受け続けた男の姿だった。
カタカタ。カタカタ。
先ほどから罪善さんが光を当てて落ち着かせようとしているが、あまり効き目は出ていないようだ。それだけ精神が不安定だとも言える。
そんな奴に俺が出来ることは一つだ。俺はゆっくりと万丈目に近づいていく。黙ったまま俺を敵意むき出しの眼で見据える万丈目。そして、
「なあ。万丈目。……この馬鹿野郎っ!」
パァン!
とりあえず平手打ちをかました。グーだと明日の対戦に響くかもしれないからな。万丈目は頬を押さえながら呆然とした顔でこっちを見る。
「な、何を?」
「何をじゃないっ! お前がみすみす
「勝てる、だと?」
そこで肝心のお前が不思議そうな顔をするんじゃないよ万丈目。どんだけメンタルが弱ってんだ。
「あのな。確かに三沢はラーイエローの生え抜きで成績優秀だよ。だけど、それならブルーで上位の万丈目だって決して負けてないだろうが!」
もちろんブルーが無条件でイエローやレッドより強いとは口が裂けても言わない。しかし、それでもエリートの集まりであるブルーの中で上位を張れる。それだけでも万丈目が努力しているとはっきり分かる。
「俺が見たところ万丈目と三沢の実力は伯仲している。なら後は互いの運と気合の勝負だ。……だってのに、戦う前からこんな小細工をしてちゃ、まともにやったら勝てないと自分の心が負けているって気づけよっ!」
「……っ!?」
万丈目が唇をかみしめる。……やっぱり自分で気付いてなかったか。こういう勝負はメンタルがかなり影響する。いくら実力が伯仲してたって、最初に心が負けてちゃどうしようもない。
「なら、なら俺にどうしろと?」
「簡単だ。……
俺は万丈目に向かって拳を突き出し、そのまま自分の胸をドンと叩く。
「俺はお前が凄い奴だって知ってるぜ。相手が誰だろうが、どんな手強くてヤバい相手だろうが、いつも自信満々に胸を張ってさ、俺は強いんだぞって顔して不敵に笑ってみせる。……それが俺の知ってるお前だよ」
もちろんそれは
俺達の間に少しの間沈黙が漂う。万丈目は瞳を閉じ、何か考えているようだった。
「……お前。何故こんなことをする? 三沢と知り合いだと言うなら、俺にそんな忠告などしない方が三沢の勝率が上がるだろうに」
「簡単なことだ。……
万丈目はそれを聞いて唖然とした顔をする。俺そんなに変なことを言ったかな?
「……じゃ、俺はそろそろ行くよ。今からイエロー寮に行くのは面倒だから、
「ま、待てっ!」
俺はそっと三沢のデッキを万丈目の前に置き、そのまま踵を返して立ち去ろうとすると、後ろから万丈目が声をかけてくる。
「……お前、名前は?」
「オシリスレッド1年。久城遊児。……ただのファンだ」
「久城か……フッ。覚えておく」
そう言った万丈目の声は、ほんの少しだけさっきよりマシな感じがした。
『おやおや。あれで良かったのかい? 三沢君のデッキをそのまま渡してしまって。また最初みたいに海に捨てようとするかもよ?』
寮への帰り道。罪善さんの明かりを頼りに歩く中、ディーがどこかからかうような試すような言い方をする。何だそんな事か。
「多分もうそんな事はしないな。さっき罪善さんがまた落ち着かせていたし、それに俺は万丈目を信じてる。……もしそれでもカードを捨てようと思ったのなら、それはその後に受ける罰も万丈目なりに考えた結果だ。それ以上は何も言うつもりは無い」
その場合三沢のカードが無くなったことはすぐにバレるだろうし、一番得をする万丈目が最重要容疑者だ。倫理委員会とかの追及を受けたらとても逃げ切れるとは思えない。
それに1度はこれで勝てるとしても、
まあ他にも色々言いたいことは有るが、単純に悪いことなのでやってほしくはないな。
『へえ~! 結構ドライなんだね君。もっと構うかと思ってた』
「これは単に筋の問題だ。最悪の場合三沢には少し悪いけどな。……まあそうなったらそうなったで、推しだからこそ次はグーでぶん殴ってでも止めるけどな」
『でも、もうさっきの人は大丈夫だと思うよ! あの人、少しだけ最後に笑えてたもの! お願いを聞いてくれてありがとう。お兄ちゃん!』
レティシアがニコッと笑う。……礼を言うのはこちらの方だ。これで少しは万丈目も元気になれば良いんだけどな。
深夜のテンションのまま書いたらこうなってしまいました。
賛否両論あるかとは思いますが、それは是非次の話を読んでから皆様に決めて頂きたく思います。
……今回ばかりはそんなに待たせることはありませんので。