マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
クロノス先生との面談が終わり、レッド寮に戻った俺は半ば溜まり場となっていた万丈目ルームにて、事の次第を十代達(と偶々来ていた明日香とデイビット)に相談した。
まあ罠云々はまずありえないが、以前クロノス先生を庇ったから過大評価されているとかはあり得る話だ。その辺りも話せば誰か引き留めるなり冷静に論破してくれるなりあるだろう。そう思っていたのだが、
「推薦? 良いんじゃねぇの?」
「寧ろ久城君に関しては遅いくらいっす。僕より先でもおかしくなかったっすよ」
「妥当な所だな」
何故か一切不審に思われる事なく、寧ろイケイケというか押せ押せというか……あれぇ?
「久城君の実力なら十分イエローに上がってもやっていけるわよ!」
「ミーはまだ良く知らないからなんとも。ただ、ルームメイトとしては気遣いも出来て嫌いじゃないし、どこの寮でもやっていけるかもネ」
「俺もよく久城先輩の事は知らないドン。でも十代のアニキが認めてるお人なのは聞き及んでるザウルス。それに目の前に進化の機会があるのなら掴むべきだと俺は思うドン」
どうして皆俺への評価がそこまで高いんだよっ!? 付き合いが短い剣山やデイビットまで割と肯定的だしっ!?
「まあまあ。そこはほらっ! 日頃の行いって奴だよ。それに翔だってイエローに上がったけどこの通りだろ? これまでと特に変わらないって」
「それは……そうかもだけど」
「それより三沢。どうしてお前も推薦が来てたの黙ってたんだよ? クロノス先生の言い方だと遊児より先だろ?」
まるで調子の変わらない十代の問いに、三沢はスマンスマンとどこかいたずら気味に笑う。
「俺の方も推薦を受けたのはつい二日前の事だったんだ。話すのに良いタイミングを見計らっていたのさ。クロノス先生には後日良い対戦相手を準備した上で発表すると言われていたしな。……まあ、相手が久城というのなら申し分ないが」
一瞬、三沢の瞳が闘志と共に俺を刺し貫く。
普段の穏やかさとはまた違う、一つ間違えば野性や獣性の側に堕ちかねない闘志を、持ち前の高い理性で完全に制御した状態。
そう。かつてタニヤと決着をつけた時のような凄味が今の三沢からは感じられた。
その闘志に当てられたか、十代達もさりげなくデッキに手を伸ばし臨戦態勢をとる。……何故か剣山の目が人というより爬虫類のような鋭さを帯びているがあれは演出か?
「この様子だと、今更心変わりして推薦を辞退しますなんて言う訳にもいかないな」
「ああ。それにいつまでもイエローで立ち止まっている訳にもいかない。……約束があるからな」
三沢の言う約束は良く知らない。タニヤとの一件か、それともイエローの他の誰かとのあれそれか。
しかし三沢が本気なのは分かる。なので、俺は軽く息を吸い……吐いて、勝負の相手を見据える。
「そうか。ならこっちも……全力で応えなきゃ失礼だよなぁ!」
望むなら今ここで受けて立つ。そう言外に示すためにデッキに手を伸ばそうとして、
ドックンっ!
(うんっ!?)
一瞬違和感を覚える。上手く表現出来ないが、何というか……
何かに繋がっている。何かが流れ込んでいる。何かが……視ている。
そんな漠然とした感覚が、心臓の鼓動と共に伝わってきて、
「ふっ。今ここで戦っても良いんだが……楽しみは後に取っておこうか」
その言葉と共に三沢は闘志を引っ込め、自然と周りの面々も臨戦態勢を解く。すると俺の感じた何かもスッと波が引く様に消えていった。何だったんだ?
「久城が乗り気という事であれば、後日改めてクロノス先生から勝負の日取りが知らされる筈だ。そこで全力でやろう」
「あ、ああ」
早速デッキを見直さなきゃなと去っていく三沢。そしてそれに付き合って一緒にイエロー寮に帰っていく翔を皮切りに、その日の集まりはそこでお開きとなった。
そこからはあっという間だった。
翌日にクロノス先生から対戦の日取りが三日後と発表され、通常の授業とは別に毎日自室でデッキと睨めっこ。
時々横からからかい半分真面目半分でアドバイスを投げるデイビットと話し合ったり、響先生と簡単な打ち合わせをしたり、十代達との勉強会がてら自分の癖を見直したりしている内に、気が付けば三沢との決戦前夜だった。
「……ふぅ」
「何だ? 眠れないのか?」
俺が寮の手すりに寄りかかって暗い夜空を眺めていると、ふらりとやってきた万丈目が声をかけてきた。
「まあね。柄にもなく少し緊張して、ちょっと夜風に当たろうと思ってさ」
この三日間。色々と考える事があった。
スター発掘計画。それに推薦された事は素直に嬉しい。誰かが自分を認めてくれる。評価してくれるというのは良い物だ。
三沢とデュエルする事も良い。相手が強ければ強いほど、真剣にやればやるほどゲームというのは面白い。相手にとって不足なしという奴だ。
ただ一つ、懸念する事があるとすれば、俺はこの寮を離れるべきかどうかという事。
十代や万丈目の周りには、これからも多くの苦難やら何やらがやってくるだろう。そういった諸々から寮を離れる事で回避できる……というのは一見するとメリットだ。
しかし離れすぎるといざという時に困る。厄ネタがそこら中に転がっているこの世界において、いつの間にか十代達が世界の命運を掛けた何かに巻き込まれているという時に手助けできなかったらそれはそれでマズい。
俺がディーとの約束通り学園を卒業するまで生き残るのは当然として、これでもレッド寮の面々は友人だ。誰一人欠けさせたくはない。その為ならばちょっとくらいは身体も張ろう。
それにスター発掘計画自体はともかく、ナポレオン教頭がレッド寮を廃止しようと何か画策しているのは事実。俺がイエローに上がる事でレッド寮の評価に繋がるというクロノス先生の言だが、それだけで良いのだろうか?
留まるべきか、離れるべきか、なんだか原作無印最終戦みたいな悩みが頭をグルグル巡り、
べしっ!
「いてっ!? 万丈目っ!?」
頭に軽い衝撃を受けたと思ったら、万丈目が手刀を作ってニヤリと笑っていた。
「バカ。何を悩んでいるか知らんが、一人で背負い込もうとするな。お前が言ったのだろう? 仲間を頼れと。……レッド寮の事なら心配するな。俺を誰だと思っている? その名は天下に轟く万丈目様だぞ。出来たばかりの万丈目ルームのついでにこの寮も守ってやる」
「……ははっ! 確かに、そうだったな」
自信満々に胸を張る万丈目を見て、つい笑みが漏れてしまう。
少なくともレッド寮関係は皆で何とかしなきゃいけない事だ。俺一人だけで考える事じゃない。それに、ここには頼もしい奴らが居るじゃないか!
「ふん。少しはマシな顔に戻ったな。じゃあ俺は部屋に戻る。そこそこ暖かいとはいえ、夜風を浴びるのはほどほどにしてお前も寝ろ。……三沢は手強いぞ。寝不足で後れなど取るなよ」
「ああ。分かってる。もう少ししたら寝るとするよ。明日全力で戦う為に」
分かれば良いと軽く手を振って帰っていく万丈目を見送り、俺は最後にまた夜空を見上げた。
……そういえば、幻想体達は力の関係で仕方ないとはいえ、最近ディーの姿も見ていないな。こういう時にはいつもちょっかいをかけてくるイメージがあるけれど、声をかけないというこちらへの気遣いでも覚えたのだろうか?
それにしても……今日は星がはっきり綺麗に見える。あそこで一際
ミシッ!
「……っと。危ない危ない」
手すりが立てた嫌な音にハッとする。一瞬世界が妙に青みがかっていた気がしたが気のせいだろうか? 気づけば他の星に紛れ、さっきの星がどの辺りか分からなくなっていた。
「そろそろ戻るか。明日は気合を入れていかないとな」
◇◆◇◆◇◆
そこは、どこかの夢の境。
現実と薄皮一枚、しかし確実に隔てられた場所。
幻想たる存在の影法師達が、大半は大人しく、一部は出る隙を今か今かと待ちわびながら、一瞬にして永遠を過ごす宿にして監獄。
かつて遊児がペスト医師を伴われて彷徨った場所とはまた違う所にて、
『まさか、こんな事になるとはねぇ』
ディーは一つの部屋の前で、どこか困ったような楽しそうな声を漏らした。
その部屋の主である幻想体、正確に言うとその大本の影法師はちゃんと中に居る。
しかしディーは気づいていた。その影法師の
『島に集まりつつある
それは、数ある幻想体の中でも最上級の一つに数えられる物。
『さて。どうしたものか。もし本気で暴れだしたなら今の力を失っている久城君では勝ち目はない。しかし今の所あれは暴れだす気配はなくただ宙で沈黙しているだけだ』
宙にて輝き人を照らし、崇められ、讃えられ、人に自ら生を捨てさせる吸生主。
『この事態を伝えた時の久城君の顔、すご~く見てみたいような、はたまたとんでもなくおっかないから見たくないような……悩ましいね』
それに魅入られた者は、いずれ星(の一部)となって再会する。
その名は
蒼星(の分体)が脱走しました。
そういえばコイツも斎王(破滅の光)やペスト医師よろしく信仰も洗脳もバリバリいけるタイプなんですよねぇ。敵も味方もそういうの出来る奴ばっかりっておかしくない?
とりあえず今は管理人(とその他最低限自分のお世話をさせられる見込みのありそうな諸々)を観察中です。もし誰もお眼鏡に叶わなかったら……宙からダ〇ソンが起動して皆まとめて星となって再会させられます。
ただ、次回は仕事の都合により大分先になりそうです。続きを気長にお待ちいただければと思います。