マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

31 / 235

 キュートちゃんを押しのけて、出張ってきたのは蝶頭の不審者でした。

 注意! 死んだ蝶の葬儀のセリフやキャラ設定などは完全に独自設定です。こんなの葬儀さんが言うはずないと思われる方は、そういう解釈もあるのだとお許しいただければ幸いです。

 次回も明後日投稿予定です。


“元”神と蝶頭の哀悼者の静かな飲み会

 さて。まずは目の前の相手をどうしたもんか。死んだ蝶の葬儀は実体化した瞬間から身じろぎもせず、沈黙したままじっとこちらを見つめている。

 

 どうしよう。まさか手違いで呼んだなんて言えないよな。

 

 カタカタ。

 

 いつの間にか罪善さんも実体化して俺の傍に控えている。下手したら一触即発という事じゃないだろうな? ……まずは話し合いからだ。

 

「……やあどうも! えっと、死んだ蝶の葬儀……で良いのかな?」

『ああ。君が()()管理人かね?』

 

 普通に喋ってるよこの人っ! 頭が蝶なのにどっから声出してんだっ!? ……まあ前向きに考えよう。話が出来るならコミュニケーションは何とかとれそうだ。

 

「え~っと、管理人というのはよく分からないが、カードの持ち主という意味では確かにそうだな」

『……ふむ。自覚が無いのか。それとも根本から違うのか』

 

 死んだ蝶の葬儀……名前が長いなっ! 葬儀さんと呼ぼう。葬儀さんは喉元から伸びた白い腕を顎(あくまで人で言う顎の辺り)に持っていき、何か思案しているようだった。

 

『……まあ良いだろう。それで? 私に何を望むのかね? 見たところこの辺りには、安らかなる死を求める者は居ないようだが?』

 

 安らかなる死ってなんか物騒っ!? 見た目からしてそうだけど、やっぱりそういう類なのか?

 

「あ~。それなんだけど葬儀さん。……あっ!? 勝手に名前を縮めたけどダメか?」

『名前は好きに呼んで構わない。……それで?』

「実はその~。葬儀さんを呼び出すつもりはなくてですね」

 

 俺はさっきまでのことを掻い摘んで説明した。葬儀さんは俺の話が終わると、顔の部分に白の手を当てて軽く嘆息する。

 

『つまり、私は偶然呼ばれてしまっただけだと、そういうことかな?』

「は、はい。本当に申し訳ない」

 

 俺は小さく縮こまって平謝りする。相手が持ち主だろうが何だろうが、いきなり呼び出された挙句に間違いでしたとあっては良い気はしないだろう。

 

 もし機嫌を損ねて、最悪暴れ出したりしたら大変だ。謝って済むならそれが一番。なので下手に出ながら誠意を込めて、しっかり頭を下げて謝罪する。

 

『私もっ! 元々は私が子犬さんを出して欲しいってお願いしたから……だから、ゴメンナサイなの!』

「レティシアのせいじゃないよ。これは俺がうっかりバランスを崩したのが原因だ。……それに、レティシアがあんな風におねだりするなんて珍しかったから、なんとか叶えたいと思ったんだ。……という訳で大半の責めはこちらのものです」

 

 そんなことしなくて良いんだよと手で制するのだが、レティシアもぎこちないながらも申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。そしてそれを見た葬儀さんの反応は、

 

『……なるほど。今回の管理人は些かお人好しかつ酔狂な性質らしい。幻想体(アブノーマリティ)とそのまま接しようとはね』

 

 どこか呆れたような興味深いモノを見たような、そんな不思議な調子で返した。

 

「あの、許してくれますか?」

『許すも何も、最初から別に責めている訳ではない。こちらの意思とは関係なく、エネルギーが溜まっていた以上いずれはこうして出ることになっていただろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんかこっちが申し訳なくなるくらいに話が分かる人だ。見た目がアレなだけで判断してはいけないという良い例だな。地雷とか思ってホント失礼しました。

 

「あの、ありがとうございます」

『ありがとうございます!』

『礼を言われる筋合いもないな。……ちなみに本来呼ぶはずだったのはどの幻想体かね?』

 

 葬儀さんは鷹揚に手を振りながら訊ねてくるので、今度はうっかり触らないようキュートちゃんのカードを指し示した。

 

 一応エネルギーを使ったばかりで暴発の恐れはないが、まだ出そうと思えば出せる程度にエネルギーはあるらしいので用心のためだ。

 

『ふむ。キュートちゃんか。これは基本的には無害なので問題はないだろうが……いや待て! 食料はどこだ?』

 

 葬儀さんが急に慌てだす。食料? そう言えばキュートちゃんは犬っぽい見た目だが何を食べるのだろうか? ドッグフードでも用意するべきだったかな?

 

『ディーは説明をしなかったのか? キュートちゃんは基本的には無害だが、それは()()()()()()()()()()()()()()()の話だ。一度飢えると野獣と化してエサを求めて暴れまわるぞ。……ちなみに食事量は一日で最低10kg。調子が良ければ20kgは余裕だな』

 

 えっ!? この子犬みたいな見た目でそんなに食うのコイツっ!? 明らかに自分の身体より食ってんだけどっ!?

 

「うにゃ~ん!」

 

 ファラオがどうだとばかりに大きく鳴き声を上げる。もしファラオが止めなかったら、俺はそんな大ぐらいを抱え込むことになっていた。

 

「助かったよファラオ。あとで大徳寺先生の所に高級猫缶を差し入れるからな。……ごめんレティシア。流石に家ではそんな大食いの奴を養う余裕はないよ」

『うん。仕方ないの。モフモフはやっぱり我慢する』

 

 レティシアもそこまで食うのは知らなかったようで、俺のお財布事情を慮ってかあっさりと退いてくれた。ありがとうよ。……それと、

 

「ディー……そんなにキュートちゃんが食うなんて一言も言ってなかったよなあぁ」

『はっはっは! いやなにそのくらいは可愛いは正義という大原則の前では些細なことでアタタタタちょっと無言でアイアンクローはやめておくれよ悪かったよぉ~! 助けて罪善さん!』

 

 説明不足を謝りもしないディーに()()アイアンクローを決めておく。いくら可愛かろうが、食事の世話も出来ないようではペットを飼う資格無し。という訳でキュートちゃんは見送りだな。

 

 あと罪善さんも流石に今回は俺を止めなかった。これは普通にディーが悪いからな。

 

 

 

 

 ……という訳で、紆余曲折あってこの度精霊化した葬儀さんなのだが、

 

『私に出来ることと言えば、安らかな死を望む者を哀悼することのみだ。故にここでは()()()()私の出番はないだろう』

 

 俺の身の上話(どうしたら元の世界に戻れるのか等)を聞いてから、そう言って自分からまたカードに引っ込んでしまった。……良い人のようだけど、どこか線を引いているというか接する距離感が掴めない。

 

 下手に呼び出しづらいけど、まあまた会うこともあるだろう。今はキュートちゃんのことを教えてくれただけで良しとするか。

 

 ちなみにもう一体のレティシアの要望である『幻想体 蓋の空いたウェルチアース』だが。

 

『……んぐっ……んぐっ……ぷはぁっ! このジュースとっても美味しいのっ! あと口の中が少しシュワシュワする』

「気に入ってくれて良かった。さて俺も……げっ!? これ蓋が空いてるじゃないか。……ディー! ジュース飲むか?」

『おやおや? 気が利くね久城君! では早速一口……おぉ! ブドウソーダだねっ! スッキリ爽やか! ……気のせいか少々眠くなってきたよ』

 

 もう一体出しておけばまたしばらくは安全という事で、何度も何度もデイーを問い詰めて安全性を確認しつつ試しに精霊化させてみる。

 

 こちらのエビ頭は葬儀さんと違って何も話さなかったが、言葉をかけると普通に理解して自販機からジュースを取り出してくれた。

 

 微炭酸のソーダはディーの言った通り中々に美味しく、一口飲むだけで頭がスッキリするおまけつきだ。……時折何故か最初から蓋が空いている奴があったので、それだけは注意してディーに押し付けている。

 

 飲んだディーが急に動きが鈍くなって、そのままどこからともなくやって来た漁船に攫われた時はビビったが、少しして何事もなかったように戻ってきたから良しとしよう。

 

 ひどい目に遭ったようと言っていたので、労いも兼ねてまたジュースでもやるか。……また蓋が空いた奴だけど。

 

 

 

 まあそんなこんなあった日だったが、何とか今日も平和に終わりそうだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 その日の夜。静かに実体化した死んだ蝶の葬儀は、眠りについた遊児を起こさぬようそっと部屋を出て寮の屋根に昇り、優雅に足を組んでそのまま空の星を眺めていた。

 

『やあ! 今日は気温が低いから星が良く見えるね! 隣良いかい?』

『貴方か。……どうぞ』

 

 そこにふらりとディーの光球が現れ、自然に葬儀の横に浮遊する。

 

『……飲むかい? ああ勿論蓋は空いていない』

『頂こう』

 

 缶ジュースを受け取り、プルトップを引いてそのまま口元に持っていく葬儀。中身は確かに減っているようだが、どのようにして飲んでいるのかは不明だ。

 

『しかし君が現れた時は少し焦ったよ。君のことだから、場合によっては話を聞いてすぐ動き出すかと思った。……なにせこの世界は』

()()()()()……なのだろう? 私達も含めて。それは出た時から分かっていた。前に居たあの施設と同じように閉じた世界だ』

 

 葬儀の言葉はどこか昔を懐かしむようで、それでいて思い出したくもない何かを噛みしめるようだった。

 

『“人は死んだらどこへ行く?” この世界があの場所と同じなら、私のやるべきことは変わらない。死を望む者に安らかな死(救い)を。円環に囚われた魂に静かなる眠り(解放)を。そのためだけに私はここに居る。……だが』

『少なくともここには死を望む者はほとんど居ない。あそこのように無意識下で望む者すらほとんどね。それに世界は閉じてはいるが、久城君が最後まで課題を進めればそこで終わる。……君にとっての解放となるわけだ。君や君以外の幻想体達も含めてね』

 

 ディーは軽く缶を口に含み、少しだけ普段より真面目な口調で言った。

 

『……私達は影だ。幻想より生まれた怪物達の影法師。だが、限りなく本体に近い影だ。……故に』

 

 そう言って葬儀は、何気ない仕草で指をピストルのように伸ばしながらディーに向け……そのまますぐに下ろした。

 

 今の一瞬、知っている者が見れば葬儀が攻撃態勢に入っていたことは一目瞭然だっただろう。

 

『私は私の意思で管理人(久城遊児)に協力する。彼が課題に邁進し、()()()()()()()()()()()()()()()()()は』

『……ふふっ! 結構結構。君が無闇矢鱈に周りの人間に(救い)をまき散らさないだけでも十分さ。流石にそうなると久城君のメンタルが保たないからね』

 

 ディーは笑いながら缶ジュースを掲げる。

 

『そう言えば乾杯をまだしていなかったね。どうだい一つ?』

 

 葬儀は少しだけ考えて、自身も飲みかけの缶ジュースを掲げる。

 

『良いだろう。では……管理人が正しく帰るべき場所に帰れるように』

『久城君が最後まで面白おかしく課題をクリアできるように』

『『乾杯』』

 

 缶ジュースの缶がカツンと当たる音の後、“元”神と蝶の哀悼者は共にジュースを勢いよく呷った。

 




 葬儀さんと自販機が加入しました!

 葬儀さんは罪善さんとはまた別のベクトルで優しい幻想体です。ただ独自の死や救済への考え方があり、殺してでも救うという反英雄的な面があります。


 まあ死を望む者が学園には少ない(居ないとは言っていない)のと、自分の世界に戻ろうとしている遊児が居ることから、自分が直接動くよりサポートに回った方が良いと判断しています。

 自販機は……相変わらず自販機です。原作でも一言も喋らないのでキャラクターが掴めませんが、能力はある意味最終兵器です。

 何せ空間の壁を超えて誘拐できますから。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。