マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 注意! この話からしばらく思いっきり独自設定タグが仕事します。

 こんなことがアニメ版の裏であったかもしれないくらいに思ってもらえれば幸いです。


遊児対もう一体の精霊 

 

 白い光に包まれてからどのくらい経っただろう。数秒のような気もするし、数分近く経ったような気もする。どうにも時間の感覚が曖昧だ。

 

 そして気がついた時には、

 

「……っ!? 皆っ!」

 

 俺以外の全員が倒れ伏していた。なんとデュエルに勝ったはずの十代までっ!?

 

 俺は急いで近くに居た十代に駆け寄って様子を見る。……良かった。ちゃんと息してるな。

 

「おいっ! しっかりしろ十代! ……ダメだ。完全に意識が無くなってる」

 

 声をかけるが深く眠っているようで返事がない。頭を打ってはいなさそうだが、下手に体を揺さぶったりするとマズい気がしてひとまずおいておく。

 

 他の皆もどうやらそんな感じでピクリともしない。一体どうなっているんだ? というより何で()()()無事なんだ?

 

『いやはや大変なことになっているね久城君』

「ディーか。……皆一体どうしてしまったんだ?」

『心配しなくても皆眠っているだけだよ。……今の所はだけどね』

 

 急に現れた光球に対し訊ねると、ディーはいつもの飄々とした態度を崩さずに答える。今の所って言葉に嫌な予感しかしないんだけど。

 

『それよりも久城君。今は周りに目を向けた方が良いんじゃないかな?』

「周りって……おわっ!?」

 

 気が付けば、俺達の周囲を半透明の死霊の様な何かが取り囲んでいた。あれは……さっきエクトプラズマで出てきた幽体みたいだ。……っていう事は、

 

「今は考えることより対処が先かっ! 罪善さんっ! 頼むっ!」

 

 カタカタっ!

 

 俺の呼びかけに応じ、光り輝く頭蓋骨が現れ幽体達を威嚇する。

 

 十代達に襲いかかろうとしていた幽体達は、罪善さんから距離を取りながらもこちらを取り囲んだままだ。……逃がすつもりはないってわけか。

 

「罪善さん。特待生寮の時みたくこいつらを浄化吸収とかは出来ないか?」

 

 罪善さんはふるふると顔を横に振る。そう簡単にはいかないか。

 

『あの時とはまた事情が違うからね。こいつらは誰かに統率されている。先にそのボスをどうにかしないとまとめて吸収なんてのは罪善さんにも無理な話さ。……まあ少しずつなら出来なくはないけど、そんな事をしてたら守りが手薄になる。それでもやるかい?』

 

 ディーは補足しながらそんなことを言うがアウトだな。動ける俺だけ助かっても、動けない他の奴がやられたら意味がない。あとは全員が目を覚ますまでこのまま硬直状態に持ち込むか、それともこの集団のボスを見つけて何とかするか。

 

 しかし周りを見渡すとどこもかしこも幽体だらけ。どれがボスかなんて分かりようが……いや待てよ? もしかして、

 

「おいっ! そろそろ部下に任せるのは止めて自分で出てきたらどうだ? このまま硬直状態が続くのはそっちとしても望む所じゃないだろう? ……『()()()()()()()()()()』?」

 

 それは一種の賭け。半分は直感で放った言葉だったのだが、

 

『何故だ? 何故私だと分かった?』

 

 青白く所々中身のゼンマイの見える肌。壊れかけた赤子の人形を抱いた不気味な人形のモンスター。

 

 まるで聖書の1シーンのように、幽体の波をかき分けカードの一枚である『ダーク・ネクロフィア』が歩み出てきた。……ビンゴ! 確証はなかったが言ってみるもんだ!

 

「さっきまでのサイコ・ショッカーの一件。サイコ・ショッカー()()()仕業にしては違和感が多すぎたんでね。……まあこんな堂々と襲ってこなければただの違和感だけで終わったんだけどな」

 

 

 

 

 まず始まりからして違和感があった。

 

 高寺はウィジャ盤を使ってサイコ・ショッカーを呼び出したと言ったが、考えてみれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という話だ。

 

 ウィジャ盤で来るならまず第一候補はダーク・ネクロフィア。次点でオカルト関係のモンスターが普通だろう。

 

 次に同じくウィジャ盤で語られたメッセージ。“三体の生け贄を捧げよ。さすれば我は蘇る”というものだがこれもよく考えるとおかしい。

 

 サイコ・ショッカーは()()()()のモンスターである。ならカードゲーム基準なら生け贄は一体で良いはずだ。まあ実体化に必要な生け贄は別腹という考えも出来るが、それはひとまず置いておく。

 

 マンガ版においてレベル7と表示されたこともあるにはあるが、それもさっきの戦いでサイコ・ショッカーが生け贄一体で召喚されたことから否定される。

 

 じゃあ生け贄が三体必要なモンスターの精霊が黒幕か? 三体必要なモンスターとなると神のカードなど限られてくるが……それにしては言っちゃあなんだがやり口がせこい。

 

 仮に神のカードだとすれば、こんなわざわざ手間暇かけて一人ずつ攫うより普通にまとめて攫うくらい出来そうなものだ。なのでそれも却下。

 

 じゃあどういう事かと考えて発想を変えてみる。三体の生け贄そのものが必要なのではなくて、生け贄として使った後で必要になるとしたらどうだ? ()()()()()()()()()()()()()

 

「……とまあ一つずつ考えている内に、ダーク・ネクロフィアが絡んでいるんじゃないかなあと思ったってわけだ。……合ってたか?」

『大まかにだが合っている。……よくこの短い時間でそこまで考えたものだ』

『同感! 何だかんだ久城君って一度考え出すと結構真相に近づくタイプなんだよね。時々考え事をし過ぎてひかれてるけど』

 

 カタカタ!

 

 ちなみに今の内容を確認と時間稼ぎがてらした所、何故かダーク・ネクロフィアはどこか感心したような態度をする。

 

 横で時々茶化しながら聞いていたディーと罪善さんも一緒にだ。……いやちょっと罪善さん! 聞いてないでしっかり周囲を威嚇してほらほらっ!

 

「お誉めに与り光栄だよ。……それに免じて逃がしてくれたりしないか?」

『それは駄目だ。お前は私の蘇るための生け贄の一人なのだから』

 

 ですよねぇ。簡単には逃がしてくれないか。ダーク・ネクロフィアは人形を抱え直しながら話を続ける。

 

『そもそも高寺達が呼び出したのは私だ。本人達はサイコ・ショッカーを呼んだと思い込んでいたようだが。……そして呼び出されたので復活するための生け贄を要求したところ、奴らは了承した。私はただそれを取り立てに来ただけだ』

 

 そうなんだよなぁ。高寺達ときたら、カードの生け贄と解釈してはいって答えてるからよろしくない。

 

『そしてあのサイコ・ショッカーは、どうせなら相手が呼び出したがっているモノをと考えて私が呼び出したモノだ。互いに復活するために協力し合うという約定でな。私の復活のためには、()()()()()()()()()()()()()()事が条件になる。……そのために奴には必要以上の生け贄を集めさせることになったが、余剰分の生け贄は奴自身の強化にも繋がるので特に反対はしなかった』

 

 つまりは互いの利害の一致だったってわけか。サイコ・ショッカーの復活=ダーク・ネクロフィアの復活にもなっていた訳だ。

 

『しかしこうなっては仕方がない。多少強引ではあるが、私自身がお前達をまとめて生け贄にすることでサイコ・ショッカーを再び復活させる。そうすれば約定により私も復活できる!』

 

 なんだか卵が先か鶏が先か理論みたくなってきたぞ。しかし、

 

「……なあ? 出来ればこいつらを生け贄にというのは勘弁してくれないか? 純粋にエネルギーが必要だってんなら、時間をくれればこっちで用立てても良いんだ」

 

 俺は交渉を申し出る。勘違いしないで欲しいのだが、俺は最初からカードの精霊の実体化自体は止めるつもりはない。そんなの散々俺自身もやって来たことだしな。

 

 あんまり向こうが悪さしない限りは不干渉で行く気もあるし、事と次第によっては協力関係だって考える。こちとら四六時中カードの精霊やら“元”神様と付き合っているのだからそれくらいは許容範囲だ。

 

 そして実体化に必要なのがエネルギーであれば、罪善さんが前やったみたいに調達も多分可能だ。俺から流れるエネルギーを少し分けても良いし、極論すれば今この辺りに居る幽体を罪善さんが吸収するという手も時間をかければ出来なくはない。

 

 なので何とか話し合いで解決できないかと言ってみたのだが、

 

『断る。そんないつになるか分からないようなことよりも、今ここでこいつらを生け贄にする方が余程簡単で確実だ』

「……そうかい。じゃあ戦うしかないな」

 

 俺は一応準備してきたデュエルディスクを腕に装着し、軽くデッキを調整した上でディスクにセットする。

 

「これまでずっと我慢してきたんだけどな。いい加減こっちも頭にきてんだよ。……こいつらに手を出そうって言うんなら、そっちも痛い目を見る覚悟は出来てんだよなあっ!!」

 

 今回の一件はほとんど高寺達に非がある。制御も出来ないのに精霊を呼び出し、おまけに安易によく分からない問いにはいと答える体たらく。最悪高寺達だけだったら見捨てるという選択肢もチラッと頭に浮かんだぐらいだ。

 

 しかしサイコ・ショッカーが生け贄に指名したのは十代。それもこっちの方がふさわしいなどという馬鹿げた理由でだ。そして目の前のコイツはもっと酷く、ここに居る全員を生け贄にしようとしている。

 

 そして話し合いにも応じないとあってはもうここまでだ。あとは腕づく力尽くで押し通るのみっ!

 

『ふっ! 良いだろう。我が生け贄よ。お前を最初の生け贄にした後で、じっくりと他の者たちを生け贄として復活してやろう』

 

 相手はデュエルディスクこそ着けていないが、デッキらしきものを取り出して自分の左胸の辺りにセットする。……ってそんな機能もあるの!?

 

『ほおほお! 何だかんだ厄介ごとは避けて通る久城君にしてはえらくやる気だね。……一応言っておくけどこれ()()()()()()だよ。さっき十代君がサイコ・ショッカーとやったのと同じ命がけのデュエル。……怖くないのかい?』

 

 ディスクを構える俺に向けて、ディーが少しだけいつもより真剣な声色で聞いてくる。何だそんな事か。

 

「言うまでもなく怖いな。負けたら死ぬようなデュエルなんてやりたくもない。実際時間稼ぎ中に誰か起きてこないかなあとか普通に思ってたし、十代が起きたらそのままバトンタッチするつもりだった。でも一向に起きてこないし仕方ないだろう。……それに」

『それに?』

 

 そこで俺は倒れている奴らを軽く見て、そのまま視線を倒すべき相手の方に向ける。

 

「怖いのとはまた別に、一発かましてやりたいって思うのもまた事実なもんでね。()()()()()手を出した分は、きっちり返してやらねえとな」

 

 俺は恐怖を怒りで抑えつけながら、もう一体の精霊との決戦に挑んだ。

 





 個人的にサイコ・ショッカーの話はツッコミどころが多い回でした。

 なので疑問点を一つ一つ挙げていくと、……あれっ!? これ別に黒幕が居るんじゃないか? という電波をビビッと受信し、いつの間にかこんな話になってしまいました。

 という訳で次回遊児対ダーク・ネクロフィア戦です。

 次回も明後日投稿予定なのでどうぞお楽しみに。

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