マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
完全に独自設定ですが、温かい目で見守っていただければ幸いです。
次回も投稿は明後日予定です。
『あ、あアアアっ!?』
LPが全て削り取られ、苦悶の表情を見せながら崩れ落ちるダーク・ネクロフィア。互いに命がけのデュエルだったとはいえ、負けて消えていくというのは見ていて辛いものがあるな。
「これで終わりだ。……こんな闇のデュエルなんてするもんじゃなかったな」
『……まだだ。…………まだダァっ!』
「……っ!?」
身体が崩れかけながらも、ダーク・ネクロフィアは必死の思いで手を伸ばす。俺の方……
『生け贄が……生け贄さえアレバ、私は、ワタシ達がフッカツ……やれィモノ共っ! 生け贄を確保スルノダっ!!』
もはやノイズ交じりの言葉で、デュエルの結果など知ったことではないとばかりに俺を無視して他の奴を狙わせるダーク・ネクロフィア。
そしてその号令に合わせて、倒れている十代達に襲い掛かる幽体達。罪善さんにも防ぎきれないほどの数と勢いで殺到し、
『“人は死んだらどこへ行く?”』
幽体達は全身を蝶に集られ、次から次へとまるで眠るように消滅していく。
『……ナッ!?』
『迷える魂達を捕らえ統率していたのは君か。残念ながら、私は囚われた魂を
そこにどこからともなく現れたのは、身の丈を超える大きな棺を立てて全開にした葬儀さん。棺からはまるで尽きることの無いように白い蝶の群れが飛び出し続けている。
「そういえば一つ言い忘れてた。そっちがデュエルの前にデッキを組み替えたように、俺も
『ふむ。こういった仕事ならばお安い御用だ。管理者よ』
葬儀さんは恭しく胸に白腕を当てて一礼する。いちいち動きが洒落てんだよな葬儀さん。
『何故……ナゼ私のウゴきガっ!?』
「分かっていた訳じゃないぜ。……たださっきのサイコ・ショッカーみたく、負けても往生際悪く最後まで何かやらかすんじゃないかって考えただけさ。普通に消えるんだったら葬儀さんもそのまま戻す予定だったしな」
古今東西、こういった悪党がただ潔くやられるなんてことはあんまり無いんでね。あんな目立つ罪善さんが堂々と守っていれば、それ以外の奴が陰に身を潜めて守っているなんて思わないだろう。
『クソっ! クソオオオっ!』
ダーク・ネクロフィアは、そのまま怨嗟の声をあげながら消滅していった。何となく俺は合掌しておく。一応気分的にな。
残った幽体達は、大半が罪善さんに浄化吸収されるか葬儀さんによって消滅(というよりもはや成仏?)し、辺りはまた静けさに包まれる。
「……ふぅ」
周囲を見渡し、幽体の残りが居なくなったことを確認してほっと一息ついて座り込む。……疲れた。頼むからもうお代わりはやめてくれよ。実はさらに黒幕が居ましたとかだったらもう嫌だよ俺。
『やったじゃないか久城君! 中々に面白い戦いだったよ!』
「互いに命なんかかけて、面白いも何もないさ。……デュエルは楽しむものだってのに、何が悲しくてこんなことをしなきゃならんのかねぇ」
ディーが少しだけ感嘆した様子で言うが、俺の気は全然晴れない。……いつの間にか罪善さんが俺に光を当てて落ち着かせようとしてくれているが、それでも落ち着かないってのは我ながら結構キツいみたいだ。
そこへサッと罪善さんのとはまた違う温かさの光、朝日が差して俺の身体を照らす。……ああ。やっと夜が明けたか。
いつの間にか高寺以外にもブルー生徒が二人倒れていて、おそらく以前に生け贄としてさらわれた二人だと判断する。これでやっと終わったみたいだな。
「…………うぅっ……おっ!?」
「……あれっ!? もう朝なのか?」
そこでやっと十代達が目を覚ました。仮にダーク・ネクロフィアの力で眠らされていたと仮定すれば、奴を倒したから目を覚ましたと考えるべきだろうか? ……まあ単に朝日が眩しくて目を覚ましたと考える方が自然かな?
十代達が起きるのと同時に、ディーや罪善さん、葬儀さんはそっと姿を消す。十代や隼人が勘付くかもしれないからな。
「よう! そっちも今起きた所か十代?」
「遊児か……一体何があったんだ?」
「さてね?
寝ぼけまなこの十代に、俺も一緒に今まで眠っていたと咄嗟に誤魔化す。
嘘はあまり好きじゃないが、寝ている間に生け贄にされかけたというのはあまり良い気分じゃないだろう。ダーク・ネクロフィアのことは言わずに俺の胸の奥にでも仕舞っておこう。
十代はそうかと寝ぼけながら頷き、鉄塔の傍に倒れている高寺達を見つけて慌てて駆け寄る。
「どうやら大丈夫そうだにゃ」
大徳寺先生が確認して皆ほっと一安心。やはり何だかんだ大人だからな。俺が言うよりも先生が言った方が、こういう時の説得力があるので十代達も安心するだろう。
「……あれは夢じゃないよね?」
翔がこの様子を見てどこか不安そうに言う。確かに、いきなりデュエルの精霊とデュエルしたなんて、現実味がないにもほどがある話だ。夢と疑っても仕方ない。
「よく分かんねえけど、俺は楽しかったぜ! アハハハハ!」
翔の言葉に、十代はいつものように明るく笑った。他の面子を置いてきぼりにして。
デュエルの精霊が居るのも分かっていて、生け贄云々がおそらく本当だったという事にも気づいている。それでもなお笑うことが出来るというのは、ある意味主人公の才能であり美徳なのだろう。だけど、
「あたっ!? 何すんだよ遊児!?」
とりあえず一発チョップを脳天にかましておく。こういうタイプのバカは早いうちに気づかせないと後で大変なことになるからな。
「これはさっき、デュエルの精霊相手に自分の命をチップにして勝負を挑んだ分だ。……あのなぁ。いくら十代が強くて自信があるからって、いきなり一人で突っ走るんじゃないよっ!」
「……でもよう。勝ったから良いじゃん!」
「
その言葉に、十代はハッとして俺や翔、隼人や大徳寺先生を見る。
「……アニキ」
「十代……」
翔と隼人は俺の言いたいことが分かったのか、ただ十代の名を呼ぶだけでそれ以上は何も言わない。大徳寺先生も、先ほどからファラオを抱えて事の成り行きを見守っている。
「十代。
おそらくこれは十代の悪癖だ。自分がなまじ強いから、ことデュエルにおいては人に頼るという選択肢がほとんどない。
主人公補正があるから大事な局面で負けるという事はまずないだろうが、それでも放っておくとどこまでも
「……ああ。そうだな。悪い皆。今回は俺がちょっと突っ走り過ぎてた」
「アニキ。……良いっすよ! アニキが突っ走って行くのもいつものことだし、僕はどこまでもついていくよ! だけど、その前にちょっと話してもらえると助かるけど」
「俺も良いんだな! もちろん頼ってくれるならそれも嬉しいんだけどな」
十代が軽く皆に頭を下げて謝るのを、翔と隼人は笑って許した。その様子を見て大徳寺先生は何も言わず、ただうんうんと頷いている。
「さってと、それじゃあそろそろ寮に戻ろうぜ。結局徹夜みたいになっちゃったし、餅も食い損ねたしな」
「あっ!? そういやぁ腹減ってきたな。急いで帰ろうぜ!」
「じゃあ皆さんは先に行っていてくださいにゃ。ぼくは高寺君達が起きるまで待って、簡単に事情を説明してからもどるのにゃ」
そういえば高寺達の事をどうするか考えてなかった。そこへ都合よく大徳寺先生が名乗りを上げてくれたので、ここはありがたく頼らせてもらうとしよう。事後処理はやはり年長者の仕事だと思うしな。
「じゃあ先生。お先に失礼します」
「任せておくにゃ!」
細かい説明云々は大徳寺先生に任せ、俺達はレッド寮への帰路につく。こうしてようやく長い夜は終わりを迎えたのだった。
寮に戻り、サイコ・ショッカーによって出た食堂の被害(ガラスが割れたり物が倒れたり)を片付け、もうすっかり固くなってしまった餅を空腹という最高の調味料で平らげた後、俺達は自室に戻って眠ることに。
多少自堕落ではあるが、幸い冬休みなので授業はなく、昼まで寝ていても怒る人もいないからな。激戦による疲れが溜まっているからという事でのんびり休ませてもらおう。
そうしてベッドに入りさて寝ようという所で、ふと今回の事件で気になったことを試しに聞いてみることにした。
「なあディー。一つ聞いても良いか?」
『うんっ!? 何だい?』
「今回の事件ってさ、原作……というか本来の流れでもあるんだよな? おそらく」
『そうだねぇ。序盤では割と重要な話かな。全体で見ればまだまだ序の口って感じだけど』
だろうな。カードの精霊とのデュエルなんてのが重要じゃない訳がない。だが、
「それで不思議なんだけど、サイコ・ショッカーを倒すまでは十代がやったよな。だけどその後の流れ。あれは完全に俺が起きてなかったらダーク・ネクロフィアの餌食になってた流れだよな。もしかしてあそこで何かあって、十代が目を覚ますイベントとかあったりしたのか?」
もしそうなら、俺は主人公のイベントを横取りしたことになる。それで全体の流れが変わったら、この先どう転ぶか分かったもんじゃないからな。
俺の質問に対しディーの答えは、
『いや。特になかったね。というより
「なぬっ!? ってことは……どういう事だ?」
まさか
『僕の創ったこの世界は、基本的にアニメ版の流れに沿うものだ。だけど登場人物は全て生きている訳で、アニメ風に言うなら視聴者の視点以外でも常に世界の流れは進行し続けている。つまり』
そこでディーは一度言葉を止め、わざとタメを作ってから結論を話す。
『あれは追加されたイベントというより、
寝たふり? あそこで皆気を失っていたと思ったが、実は誰かが起きていたっていう事か? 一体誰が……あぁくそっ! 疲れで頭が回らない。前にもあったなこんなの。
「疲れて頭が働かない。……また明日じっくり話してもらうからな」
『良いともさ。今はじっくりお休み。……ああそれと言い忘れていたんだけどね。さっき葬儀君が何やら面白いものを見つけたようで』
お休みっていう割には普通に寝かせまいと話し始めるんだからこの“元”神様は。……そんな事を思いながら、俺の意識はゆっくりと沈んでいった。
◇◆◇◆◇◆
「やれやれ。十代君の実力を見るだけのつもりだったのに、それとは別に思わぬ掘り出し物を見つけてしまいましたにゃ」
倒れている高寺達が起きるまで見守りながら、大徳寺はついそんな言葉を漏らした。
普段の彼なら口に出すようなへまはまずないのだが、それだけたった今見た出来事が衝撃的だったのだ。
「精霊と共に戦うデュエリスト。腕もさることながら、戦いの後のことを予測して手を打っておくあの観察眼。実に良い逸材ですにゃ」
大徳寺は最初から眠らされてなどいなかった。ただあの時は相手の出方を伺うため、そして生徒の一人の思わぬ活躍を見るため、咄嗟に眠ったふりをしていたのだ。
もちろん最悪の場合、十代達や遊児に万が一のことが起こるようであれば、途中から勝負に割り込んででも大徳寺が片を付けるつもりであった。これでも教師であり、生徒を見捨てるつもりなど端からない。
だが結局大徳寺が出張る必要もなく、見事遊児は勝ってみせた。
「彼もまた要観察対象かにゃ。……十代君に遊児君。この二人なら……あるいは」
ヒュルリと一陣の風が彼の周りを吹き抜けていく。彼の言葉を聞いていたものはその場には誰も居なかった。
という訳でダーク・ネクロフィア戦は今度こそ完結です。
ちなみに遊児が居ない場合、実は起きていた大徳寺先生が単身撃破していたという流れになります。
あの人なら闇のデュエルでも普通に勝てる実力があると思いますので。