マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
ある日の放課後。
「ふわぁ~!」
「おっ! 寝不足か遊児?」
「ああ。この所少し疲れててな。むしろ何でそっちはそんなに元気なんだよ? 十代の方が俺より動いてるくせして」
授業も終わり帰り支度をしていると、今日は珍しく翔と一緒ではなく一人の十代が聞いてきた。
何故疲れてるかというと、この所やたらアニメの本筋と思しきことばかり起きて休む暇がないのだ。
この前は十代のテニス部一日体験入部に巻き込まれてなんかスカウトされかけたし、その次はオベリスクブルーの生徒ばかり狙ってアンティルールでカードを奪う、通称闇夜の巨人デュエリストの捜索。
そして極めつけはつい一昨日のこと。なんと購買部のドローパンの内、黄金のタマゴパンだけを盗んでいく無茶苦茶引きの強い泥棒を徹夜で待ち伏せするという大捕り物をやったばかりだ。
連日の徹夜やら肉体労働やらで俺は割とキツイというのに、一番デュエルしてるはずの十代がピンピンしているというのがどうにも解せない。
「へへっ! そりゃあ俺は授業中にぐっすりよ! おかげでいつもバッチリ快調さ!」
「お前なぁ。そんなことじゃまた筆記テストで赤点だぞ。それにそんな授業態度じゃ先生方に目を付けられる。……ただでさえクロノス先生とかから白い目で見られているってのに」
得意げに胸を張る十代に対し、俺は呆れながら忠告する。数か月も一緒に授業を受けていれば嫌でも分かるが、この通り十代の授業態度は決して良いとは言えない。
授業中に居眠りは平気でするし、よく堂々と翔と話しているものだから先生方からの評判はあまり良くない。そしてもはや敵視していると言って良い先生が
何かと縁のあるクロノス先生と、デュエル理論の授業を主に行っている佐藤浩二先生だ。
クロノス先生の方は入学の際に十代と何かあったようだが、佐藤先生に関してはおそらく純粋に性格の相性が最悪だ。あの人礼儀にとても厳しいから。
「別に良いよ。俺ってどっちかって言うと理論より感覚派だし、筆記の成績が悪くても実技で取り返せば良いだけだしさあ」
「そういう問題じゃないっての! ……ったく。また今日もいつもの面子で勉強会するからな」
「え~っ! ……まあ皆でワイワイやるのは悪くないけどさ」
十代は授業態度もそうだが、筆記の成績もあまり良くないからな。俺の勉強のついでに時々テストの傾向なんかを話し合って勉強している。これで少しでもマシになれば良いのだが。
「よっしゃ! じゃあ早速購買部に行ってなんか買っておこうぜ!」
「そうだな。長丁場になるから甘いものや飲み物とかも必要になるしな。何か買って行くか」
そうして俺達は購買部に寄って勉強会の準備をすることにした。
「おっ!? 何の騒ぎだ? 喧嘩か?」
購買部に着いたのだが、何やら人だかりが出来ている。おかしいな? 今日は特にデュエル大会は無かったはずだけど。十代がいち早く駆けつけ、野次馬の中に居た三沢に話を聞き始めた。
俺も何とか人混みをかき分けて前の方に移動すると、人だかりの中心では二人の生徒がソリッドビジョンでデュエルをしているのが見える。一人はラーイエローの生徒か。もう一人は……翔っ!
「どうしたんだ翔」
「どうもこうもないっすよ。あれあれ!」
十代も気付いたらしく翔に手を振ると、翔は壁の一部に貼り付けられたポスターを指差す。その内容は、
「……デュエルアカデミアにて、初代デュエルキング武藤遊戯のデッキ特別展示。ってことは、遊戯さんの使ってたデッキがこの学園に来るのかっ!」
「これはもう見るしかないでしょ! ……アニキ? アニキぃ?」
十代は目を輝かせたまま想像の世界に入ってしまったようで、翔が目の前で手を振っても気がつかない。……まあそれはそうだろうな。武藤遊戯のデッキなら俺だって見たい。
少しして十代が立ち直り、俺も人混みを抜けて二人に近寄る。
「あっ! 久城君も来てたんすね! 二人共。神のカードは入ってないらしいけど、ブラックマジシャンやブラックマジシャンガール、他にもお宝カード満載の激レアデッキ。絶対見なきゃ損ですよ」
「それは分かったけど、この事態と何の関係があるんだ?」
「購買部で、朝一番で見られる整理券を配ってたんだけどさぁ、最後の一枚になって、デュエルで決着着けることになったのよ」
十代の疑問に答えるように、カウンターで戦いを見守っていたトメさんが横から話す。その最後の一枚らしきものを指でひらひらさせながら。
「無茶すんなって翔」
「何言ってるんすか。あの整理券はアニキの分ですよ。僕の分は……ほら!」
相手が格上という事で心配したのだろう十代の言葉は、翔の取り出した整理券でピタリと止まる。つまりここで翔が負ければ、自分の分が無くなるという訳だ。
「えっ! がんばれ翔!」
「わ、分かってるっす! デュエル再開っ!」
その言葉と共に、翔は再びデュエルディスクを構えて相手の生徒に向き合う。翔の場にはジェット・ロイドのみ。相手は伏せカード2枚か。戦況は微妙だな。
「俺のターン。魔法カード『大嵐』。場の全ての魔法・罠カードを破壊するノ~ネ」
「ノ~ネ? なんかどっかで聞いたような語尾だな」
「神楽坂はクロノス教諭のコピーデッキだ」
今度は俺の疑問に三沢が解説する。ああなるほど。どこかで聞いたと思ったら、クロノス先生に成り切っているのね。
そのまま神楽坂という生徒は、大嵐で自分の伏せカード『黄金の邪神像』を2枚破壊。一気に生け贄を揃え、クロノス教諭の代名詞である『古代の機械巨人』を召喚してみせる。前に実技の時間に見たカードの動きもそっくりだ。
そのままジェット・ロイドを攻撃するのだが、そこで予想外の事が起きた。
「ジェット・ロイドの特殊効果発動! 僕が受けた攻撃は……そのままお返しだっ!」
なんと翔は効果で手札から罠『魔法の筒』を発動。古代の機械巨人の攻撃を跳ね返して相手のLPを削り切ったのだ。
……あれ? 確かこの場合、古代の機械巨人の効果で手札からも罠は使えないはずだけど……アニメ版特有の効果かね?
神楽坂はそのまま力なく崩れ落ち、翔は嬉しさのあまり腕を突き上げる。
「凄いぜ翔!俺が苦労したコンボをあっさり破りやがって」
「アニキとクロノス先生のデュエルを憶えてて……それと久城君にも前ジェット・ロイドの使い方を聞いてたからだよ。ありがとうね久城君!」
「えっ! ……いやまあ、役に立てたのなら良かった」
まあ細かいことはこの際気にしないでおこう。とにかくこれで俺も遊戯のデッキを見に行け……待てよ?
「ところで翔。これで貰うのが最後の一枚なら、
「…………あっ!?」
その反応は忘れてたな。翔は困った顔をしながらトメさんから最後の一枚を受け取る。……仕方ない。おそらくこれも本筋の流れだろうし、ここは俺が我慢するか。…………見たかったけどな。
「さあさ。皆これでおしまい。帰った帰った!」
デュエルが終わったのを見届けて、トメさんがパンパンと手を叩きながら宣言する。
確かに買い物もしないのにこんな所でたむろっていたら邪魔でしょうがないだろう。ひとまず俺が代表で勉強会用の買い出し(代金はあとでまとめて請求する)を担当し、十代と翔には先に行ってもらう事に。
他の生徒達も次々に買い物をする者以外は散っていく。のだが、
「なんだよ神楽坂の奴。ラーイエローのくせに格下に負けてやがる。元々理屈ばっかで実戦はからっきしだからなぁ」
「あいつもうじき降格かな」
聞こえるか聞こえないかの声量で、去っていく生徒の誰かがまだうなだれている神楽坂に向けてそんな陰口を叩いていった。うわっ! こんな落ち込んでいる奴に追い打ちとは酷い。
流石に見かねたのか、三沢が神楽坂の傍に歩いていく。しかし、
「ドンマイ。まっ。ツイてないこともあるさ」
「うるさい! いつだってオベリスクブルーに行けるお前に……何が分かるっ!」
下手な慰めはむしろ逆効果だったようで、神楽坂は三沢にそう叫ぶと一人走り去ってしまった。
そりゃあ三沢がいくら純粋な善意で手を差し伸べても、いつでも上に行ける奴が余裕ぶっていると捉えてもおかしくはないわな。
だけど神楽坂か。ああいうどこか心に余裕が無くなった奴に限って何かやらかすんだよな。何事もなければ良いんだけど。……おっと。今はそれより買い出し買い出しっと!
その日の夜。
十代達の部屋で行われた勉強会も大体終わり、あとは軽く皆でだべってから自分の部屋に戻ろうという時、
「気持ちよかったなぁ。格上の人にデュエルで勝つのって! ねっ! アニキ」
「……ああ」
翔は今日の勝利が余程嬉しかったのかまだニマニマしている。といっても、なんだかんだ翔も隼人も最初に会った時に比べたら格段に強くなっているからな。ラーイエローに勝っても別段不思議だとは思わないが。
それより気になるのは十代の様子だ。勉強会が始まる時から何か考え込んでいるようで、今もハネクリボーのカードを眺めながらぼ~っとしている。
「何考えてるんすか? さっきからずっと」
「なあ。皆でちょっと展示会場に行かないか? 明日会場が開くのは朝九時。ってことは、今夜の内にデッキは展示されてるってことだろ? 頼み込めば少しくらい見せてもらえるんじゃないか?」
何を考えているかと思えば、十代は要するにちょっとフライングしようと考えていた訳だ。確かにこういう場合、前日から展示品が準備されていることは多いが。
「それは良いかもな。明日は込み合うだろうし、人混みは苦手なんだな」
ちゃっかり整理券を手に入れていた隼人がそう賛同する。……昼間翔と隼人の姿を見ないと思ったら、二人して整理券をゲットしに行っていたらしい。俺達にも言ってくれれば良いのに。
「え~っ!? それって僕が手に入れた整理券は使わないってこと?」
「それはそれ。明日の朝もまた見に行くって! 行こうぜ~。……当然遊児も行くだろ?」
少しむくれ顔の翔を指でツンツン頬をつつきながら、俺のことも十代が誘ってくる。
う~む。本来なら整理券が無い俺は見に行けないが、どさくさでチラリとでも見れればそれはそれで良いか。たまにはこうやってバカをやるのも良いかもしれないしな。ただ、
「面白そうだな。ただし、あくまでも向こうの責任者の人が見せてくれたらの話だ。ダメって言われたら大人しく引き返すこと。最低限それくらいは守るべきマナーってもんだろ?」
「分かってるって! じゃあ早速準備して展示会場に出発だ!」
「「「おう!」」」
あまり褒められた行為ではないが、見たいという気持ちに嘘は吐けない。……唯一整理券を持っていない俺に気を遣ってくれたというのもあるだろうしな。
という事で俺達は、他の生徒達に気づかれぬようこっそりと展示会場に向かったのだった。
話の都合上、いくつかの原作話をカットせざるを得ませんでした。好きな話を飛ばされた方にはお詫び申し上げます。
次も明後日投稿予定です。