マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 注意! この話からしばらく独自設定タグが仕事をします。




遊戯デッキ盗難事件

 

「凄いな。武藤遊戯のポスターだらけだ」

「流石デュエルキングっすよね!」

 

 展示会場に着いた俺達は守衛に頼み込み、何とかほんの少しの間だけ見せてもらう許可を貰った。勿論入る時と出る時にボディチェックをしっかり受けることを条件にだ。

 

 そうして既にデッキが展示されているスペースへと歩いていく俺達。通路の途中あちこちにポスターが貼ってあるのを見て俺も感嘆してしまう。

 

 流石初代主人公。無印からそれなりの時間が経っているはずだけど、今でもそれだけ強い人気を誇っているらしい。あの最終回からどのような流れを辿って行ったのだろうか? ちょっと気になるな。

 

「ほらっ! さっき貰ったパンフレットによると、そこの通路を曲がってすぐだってよ! 早く行こうぜ!」

「待ってくれよ~」

 

 もっとゆっくり見ていけば良いのに、十代は辛抱たまらなくなったのか遂に駆け出してしまう。それを追う俺、翔、隼人。……こらっ! 通路を走るんじゃないよ!

 

「……おっ!?」

「おう! 十代!」

 

 先頭を走っていた十代が急に立ち止まる。そこはデッキが展示されている部屋。……その扉の前に、通路の反対側から三沢が歩いてきたのだ。

 

「三沢! どうしたんだ?」

「ははは。ちょっとフライングして、キングのデッキを拝みにね」

「なんだ。皆考えることは同じか!」

 

 ここにも明日を待ちきれない奴が居たよ。しかし真面目な三沢ですらこの調子じゃ他にも居そうだな。そんな事を思いながら軽く談笑していると、

 

「マンマミーアっ!」

 

 突如部屋の中から聞き覚えのある叫び声が響き渡った。

 

「何だ今のっ?」

「あの声は……クロノス教諭だ」

「行こうっ!」

 

 声の様子からただ事ではないと判断し、俺達は慌てて部屋に駆けこむ。その中には、

 

「ンニャっ!? ガビ~ンっ!?」

 

 中央に設置されたデッキが入っていたであろうガラス製の展示ケース。その一部が粉々に叩き壊され中身は空っぽ。そしてその傍らには慌てた様子のクロノス先生が。……これはまさか。

 

「クロノス教諭っ!?」

「キングのデッキが無いんだなぁっ!?」

「まさかクロノス先生が?」

 

 翔の疑いの言葉にクロノス先生は慌ててノンノンと首を横に振る。

 

「皆に知らせようぜっ!」

「ちょっと待つ~ノっ! 事が公になると、私が責任取らされるノ~ネ」

 

 クロノス先生がそう言って外に出ようとする俺達を引き留める。

 

「もしかしたら免職かも」

「だから違うノ~ネ! 私じゃないノ~ネ! ないノ~ネ!」

「んな事最初から分かってるよ。先生ならガラスケース割る必要ないだろ?」

「そ、そうなノ~ネ。ガラスケースの鍵あるノ~ネ」

 

 疑われて少し涙目になりながらも、クロノス先生は胸元からチャリっと音を立てて鍵らしきものを取り出す。

 

 まあミステリー物なら容疑者から外れるためにわざとぶっ壊したという考えも出来るが、それにしてはさっきの慌てっぷりはどうもホントっぽかったしな。

 

「十代。さっき守衛さんが言ってたんだが、少し前に警備の人が見回りをしたって。その時はまだ無事だったってことは」

「そうか! ならまだ時間は経っていない。犯人を見つけ出すんだ!」

「ウ~。ドロップアウトボーイ! シニョール達だけが頼りなノ~ネ!」

 

 いやクロノス先生。ハンカチ持って嬉し泣きしてる場合じゃないですって!

 

「行くぞ! 翔。隼人。遊児!」

「俺も居るぞ!」

「クロノス先生は守衛さんにこのことを説明して、念のため会場内の捜索をお願いします。まだ隠れているってことも一応考えられますから」

「分かったノ~ネ」

 

 さらっと忘れられかけた三沢も含め、俺達は早速会場の外を探すことにした。まだ犯人が遠くまで行っていないと良いんだが。

 

 

 

 

「それにしてもデッキ泥棒とは。カードが普通に盗まれることなんてあんまり無いんじゃなかったのかディー?」

『あんまりであって絶対じゃないからね。いやあそれにしてもこんな目に遭うとは災難だねぇ久城君! 実に面白い展開さ』

 

 手分けしてそれぞれ犯人を捜すことになった俺達。俺は守衛さんから借りた懐中電灯を頼りに、一人近くの林の中を捜索していた。

 

 今なら誰も居ないとばかりに、さっきから黙っていたディーがここぞとばかりに喋りまくっている。

 

「ディー。いい加減話してくれても良いだろ? 武藤遊戯絡みの事件なんてほぼ確実に本筋の流れじゃないか。……ってことは犯人も犯人の動きも分かってるんだろ?」

『まあ一応はね。……一つヒントを言うと、この林には来ていないよ』

「それならもっと早く言ってくれよ!」

『いやあゴメンゴメン! 頑張って何もない場所を探す久城君の姿が意外と面白……ゲフンゲフン。いや、水を差しちゃ邪魔になるかなと思って』

 

 おのれこのやろ。思いっきし愉快犯じゃねえか! ……全部終わったらまたアイアンクローの刑だからな。

 

『でもまああんまり話しすぎるとマズいのも事実なんだよね。全部知ってしまったらつまらないし、それに他のキャラクターの成長に繋がらないってことにもなりかねない』

「だから話す気が無いってか? ……はぁ。んで? ここに居ないとなると、一体犯人はどこに居るんだ? それぐらいは良いだろ?」

『さあてどこだろうね? まあ良い時間だし、そろそろ一度待ち合わせ場所に戻ってみたらどうだい?』

 

 確かに気づけばそれなりの時間が経っている。見つからなくてもある程度時間が経ったら集合すると決めてあったから、他にも誰か戻っているかもしれないな。

 

 

 

 

「遊児っ! こっちだこっち!」

 

 待ち合わせ場所である近くの橋に行くと、そこには既に十代、隼人、三沢の三人が揃っていた。

 

「こっちの林には誰も居なかった。そっちはどうだ?」

「だめだ」

「怪しい奴は居なかったぞ」

 

 皆して口々に首を横に振る。そうか。一体どこに行ったんだ?

 

「……そういえば翔はまだ戻ってきてないのか?」

「ああ。翔なら海岸の方を探しに行くってさっきこの橋を渡って」

「うわああああっ!!」

 

 その時、どこかから翔のものらしき叫び声が響き渡った。もしかして犯人と何かあったんじゃ?

 

「しまった! あっちか! 翔っ!」

 

 そう言う十代を先頭に、俺達は翔が向かったという海岸に向けて走り出した。

 

 

 

 

 海岸に辿り着いた俺達が目にしたのは、近くにある岩から転がり落ちたのかひっくり返っている翔と、

 

「凄い。俺がこんなに強い。ハッハッハッハ!」

 

 それを別の岩から見下ろして高笑いしている神楽坂の姿だった。こんな所で何笑ってるんだアイツは?

 

 あとなんか雰囲気が前と違う。首にはやや擦り切れたマフラーをたなびかせ、服の裾は鋭く広がっている。髪は前よりも逆立ち、シャツには大きな逆三角形の模様。あれではまるで、

 

「翔! 大丈夫か?」

「……アニキ。悔しいよ。アイツが」

 

 翔は何とか一人で起き上がる。……良かった。倒れてはいたが特に怪我はしていないようだ。二人共デュエルディスクを装着している所を見ると、どうやらここで一戦交えたらしい。

 

「お前が犯人か!」

 

 十代がひょいっと身軽に翔が立っていたと思われる岩にジャンプする。相変わらず十代は身体能力も高いな。

 

「そのデッキを返せ。今ならクロノス先生も大事にはしない」

「ふっ。嫌だと言ったら?」

「何?」

 

 クロノス先生も事が大きくなったら責任を取らされる。そのことを踏まえて話し合おうとする十代だが、神楽坂は聞く耳を持たない。

 

「これこそ俺が求めていた最強のデッキだ。俺なら、武藤遊戯のデュエルも徹底的に研究している俺なら。彼のデュエルを百パーセント再現できる!」

 

 そうして神楽坂は自身満々に両手を広げ、天を仰ぎながら大声で言い放った。

 

()()()()()()()()()()()! クロノスだろうが、カイザーだろうが、誰にもっ!」

「翔。デュエルディスクを寄こせ。……誰にも負けないって言うなら、俺とデュエルしろ! そしてもし負けたら、デッキは潔く返すんだ」

 

 十代は神楽坂の言葉を聞いて闘志を燃やす。デュエルで全てを解決する男としては、この状況はむしろ望む所なのだろう。

 

「お前、本当に俺に勝つ気でいるのか?」

「遊戯さんのデッキとやれるなんて、こんなワクワクすることはないぜ」

「良いだろう。相手をしてやる」

 

 神楽坂は自身満々にデュエルディスクを構える。当然だがさっき翔と一戦交えていたので、既にデッキはセット済みだ。

 

「アニキっ!」

 

 翔は十代に向けて自分のデュエルディスクを放り投げる。それは十代目掛けて綺麗な放物線を描いて飛んだ。

 

 あとは放っておけばおそらく十代が解決するのだろう。相手が武藤遊戯のデッキだろうが、あくまで使うのは別人。苦戦はするだろうが、別の使い手に十代(主人公)が負けるとは思えない。

 

 それがおそらく本筋。ならば下手に関わらず、このまま傍観に徹するのが最善手。……だが、

 

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 

 十代がキャッチする直前で、横から俺がガシッとディスクを掴み取った。そのまま俺も十代と同じ岩に登る。……流石にジャンプして飛び乗るのはちょっとキツイ。

 

「おい! 何すんだよ?」

「……すまないな十代。この勝負。俺にやらせてくれないか?」

 

 俺は静かにそう十代に頼む。デュエルを楽しむ十代にとって、こんな風に横からかっさらわれるのは良い気分はしないだろう。だが、それを分かった上で敢えて頼み込む。

 

「そっちが乗り気なのは分かってる。……だけど、今回だけは譲ってくれないか? ……頼むよ」

「それは、相手が遊戯さんのデッキだからか?」

 

 頭を下げる俺に十代は理由を尋ねる。確かに使い手はともかく武藤遊戯のデッキと戦えるというのは一種の名誉であり、それが狙いかと思うのは当然だろう。だが、

 

「いや。それとは関係ない。……()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……そっか。じゃあしょうがないな。今回は譲ってやるよ!」

 

 クリクリ~!

 

 十代はそう言って岩から身軽に飛び降り、彼のデッキからハネクリボーが出てきて可愛らしくウィンクする。勝負は俺に任せて応援してくれるってことだろう。……ありがとうな。

 

 カタカタ!

 

 負けじと罪善さんも精霊化して俺を掩護すべく光を浴びせる。ハネクリボーとは友達なのかライバルなのかよく分からん立ち位置なんだよな。両方かも知れないが。

 

「ありがとよ罪善さん。……待たせたな。まさか対戦相手が変わったからさっきの約束は無しって言わないよな? 負けたら潔くデッキを返すっていう」

「それこそまさかだな。言っただろ? このデッキを使う以上、もう俺は誰にも負けないと。それなのにわざわざ逃げる必要がどこにある」

 

 神楽坂は圧倒的な自信と共にそう言って不敵な笑みを浮かべる。……ああ。またか。

 

「お前は何も分かってない。俺は誰にも負けないなんて言葉はよぉ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……っ!?」

 

 俺を見ていた神楽坂が、何故か一瞬だけ雰囲気が元に戻ったかと思うと怯えたように後ずさりし、すぐにまた不敵な笑みを浮かべて立ち直る。

 

「……俺の知っているある男は、自身の進退を懸けた大一番で自分は負けないと宣言した。どんなに相手が強くても決して逃げず、卑怯な手も使わずに戦い……そして宣言通り負けなかった」

 

 俺はそこで神楽坂を見据える。俺の目の前に居る奴からは、あの時の万丈目から感じたような圧も覚悟も感じられない。

 

「自分や仲間を鼓舞するために言うのは良い。()()()()()()負けるつもりはないという覚悟を持ってそう言っているならそれでも良い。だがそのどちらでもなく、ただ強い力(遊戯のデッキ)を持っただけでそんなことをほざくなら」

 

 俺は服からデッキを取り出しディスクにセット。そのまま腕に装着して構えを取る。

 

「十代には悪いが、俺がお前をぶっ潰す」

 

 憧れた人の心からの覚悟の言葉を、こんな奴には汚させない。

 





 という訳で、次回遊児対神楽坂戦です。

 次回も一応明後日投稿予定です。

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