マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 基本的な流れは十代対神楽坂の場合とあまり変わりません。まあ少しずつズレては行きますが。

 今回もあとがきに幻想体の能力と所感を載せておきます。宜しければどうぞ。


VS遊戯デッキ 遊児対神楽坂 その一

 

「「デュエル!!」」

 

 遊児 LP4000

 神楽坂 LP4000

 

 ザザーンとさざ波が岩場を打ち付ける中、俺と神楽坂のデュエルが始まった。

 

「先攻は貰うぜ。ドロー! 俺は手札から『幻想体 幸せなテディ』を攻撃表示で召喚」

 

 幸せなテディ 星4 ATK1500 DEF1200 獣族 地

 

 まず俺の場に現れたのは、子供なら余裕で包み込めるくらいの大きなテディベアだ。

 

 だがかなりくたびれていて茶色の毛並みはボサボサ。白いボタンで出来た目は右目が取れてしまっていて、元々は丸かっただろう右耳は虫にでも齧られたのか左耳に比べて少し短い。

 

 破れた生地のあちこちから綿がはみ出し、後から着けられたと思われる首に結った緑色のリボンも大分色あせている。

 

「俺はさらにカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 初手はまずは様子見。相手の出方によってこれからの手を決めるつもりだ。

 

「頑張れよ遊児!」

「久城君! そんな奴ぎゃふんと言わせて欲しいっす!」

「ああ! 任せてくれ」

 

 口々に飛ぶこちらへの声援。さあ神楽坂。武藤遊戯のデッキでまずはどう出る?

 

「俺のターン。『幻獣王ガゼル』と『バフォメット』を手札融合! いでよ! 『有翼幻獣キマイラ』!」

 

 有翼幻獣キマイラ ATK2100

 

 神楽坂が『融合』を使って呼び出したのは、翼の生えた双頭の獣。あれは以前読んだ無印のマンガ版で見覚えがあるな。

 

「初手から攻撃力2100のモンスターか。いきなり飛ばしてくるな」

「行けっ! キマイラ! 『インパクト・ダッシュ』!」

 

 神楽坂の号令と共に、双頭の獣はぬいぐるみの獣へと襲い掛かる。食らいつき、切り裂き、ねじ伏せるために。……しかし、幻想体は見かけほど柔ではない。

 

「幸せなテディの効果。攻撃表示のこのカードは1ターンに1度、戦闘では破壊されない」

「だがダメージは受けてもらう」

 

 テディベアがキマイラの突撃を受けて吹き飛ばされ、その風圧が俺にまで押し寄せる。

 

 遊児 LP4000→3400

 

「幸せなテディの効果。戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、このカードにPEカウンターを3つ乗せる」

 

 幸せなテディ PE3

 

「小癪な真似を。俺はこれでターンエンドだ」

 

 まずは向こうが主導権を握ったってとこか。だがこれは序盤も序盤。この程度なら簡単にひっくり返る程度でしかない。

 

「翔。奴と戦ったんだろ? 何か遊児にアドバイス」

「それが……融合には融合でスチームジャイロイドを出してキマイラを倒したは良いんだけど、キマイラにはやられたら融合素材を1体場に復活させる効果があったんだ。それで次のターン上級モンスターに繋げられてそのまま」

 

 隼人が俺達が来るまでの戦いの様子を聞くが、翔はその時の展開を思い出したのか俯いてしまう。

 

 融合使いの最大の悩みは、とにかく手札の消費が激しいことだ。現代の環境なら1枚だけで融合というのも珍しくはないが、基本は最低でも融合+素材(2枚以上)。単純に考えて3枚必要になる。

 

 その点目の前のキマイラは、やや基本ステータスが低い代わりにやられてもガゼルかバフォメットが場に残る。多少ではあるがコストが抑えられるという点では優秀だ。

 

 融合には融合という翔の手は悪くないが、それで手札を一気に消耗したところを叩かれたって所か。

 

「……けど、前に翔が一度勝てた相手なら、遊児だって大丈夫さ。強いデッキには、高いレベルのタクティクスが必要」

「それはどうかな? 神楽坂は記憶力が良すぎて、自分で組んだデッキは無意識のうちに誰かのデッキに似てしまう。そこを突かれていつも勝負には負けるが」

 

 隼人の言葉を否定する様に、三沢が神楽坂について解説する。

 

「デッキを真似るってことは、一瞬で他人のデッキの特徴を読み取るってことだ。デッキからそれを作ったデュエリストの人格まで読み取り、そのタクティクスを再現する。今奴の持っているデッキが最強と言うなら、今のアイツは無敵のデュエリストという事だ」

 

 つまりは、神楽坂は凄まじく真似るのが上手いデュエリストってことか。……なるほど。それならさっきから所々に感じる武藤遊戯(闇遊戯)ムーブも頷ける。

 

「そんなっ! それじゃあ今アイツはデュエルキングそのものってことっ!? そんな相手どうすれば」

「……でも、どこまで行ってもあくまで真似っこだろ?」

 

 一度負けた翔には相手の強さがより絶望的に伝わったのだろう。一層その顔に不安の色が濃く浮かぶ。だが、その不安を払いのけるように十代が明るく言う。

 

「遊戯さんじゃない。なら十分勝ち目があるはずだぜ。……それに、今戦っている遊児が少しでも負けそうな顔に見えるか?」

「……見えないね」

 

 何故か皆が俺の表情を遠くからチラチラ見てくる。確かにまあ負けるつもりは今のところないが。

 

「ってなわけで、頑張れよ遊児! 物真似野郎なんかに負けんなよ!」

「言われなくとも! 俺のターン。ドロー!」

 

 声援を受けながら、俺は引いたカードを確認する。……よし。反撃開始だ。

 

「俺は手札から『幻想体 母なるクモ』を攻撃表示で召喚!」

 

 母なるクモ 星3 ATK1900 DEF1000 昆虫族 地

 

 新たに召喚されたのは、突如どこかから垂れ下がってきた黒い繭のように見える何かだった。

 

 繭は大きさのバラバラな赤い目が多数表面に浮かんでいて、それらがそれぞれ別々にぎょろぎょろと周囲を見回している。

 

 カードの絵柄からしてもそうだったけど、全然蜘蛛って見た目してないな。もしかして雲の方だとか? しかし種族は昆虫族だったしな。

 

「うわぁ! またなんか不気味なのが出てきたっす!」

「ああ。遊児のデッキって意外とゾッとする見た目の奴が多いんだよな」

「俺もそう思うんだな」

 

 オイこらそこの仲良し三人組。聞こえてるぞ! ちょびっと気にしてんだから言うんじゃないよ! 罪善さんとか葬儀さんとか結構良い幻想体も多いんだが、如何せん見た目がなあ。

 

「気を取り直して……バトルだ! 幸せなテディでキマイラを攻撃!」

「馬鹿が! キマイラの方が攻撃力は上なんだぞ」

 

 俺の掛け声が聞こえたのか、テディはゆっくりとキマイラの方へ歩き出す。だが結果は先ほどと同じ。キマイラの体当たりを食らって吹き飛ばされてしまう。

 

 遊児 LP3400→2800

 

「久城君! 大丈夫?」

「ああ。……なんでこんなことをしたのかって顔だな? それは……こういう事だ!」

 

 翔が心配する様に声をかけてくる中、俺はよく見ろとばかり相手のカードを指差す。そこには、

 

「なっ!? キマイラがっ!?」

 

 キマイラがさっき吹き飛ばしたはずの幸せなテディに抱きつかれていた。いや、()()()()()()()()()。これがほんとのベアハッグ(熊の抱擁)

 

「幸せなテディと2度戦闘を行ったモンスターは、ダメージステップ終了時に破壊される……のだけど」

 

 体格だけで言えば圧倒的に勝っているはずのキマイラが、純粋な腕力だけで締め上げられ、骨がボキボキと折れる音と共に消滅する。

 

 その光景に一同唖然。……というか俺もビックリだよっ!? 何あれ? 見た目と違ってすげえ力技だよ! もうちょっとこうふわっとした感じで倒して欲しかった!

 

『今なら皆テディの方に注意が逸れてるから出ても大丈夫そうかな?』

「ディー。一体何なんだアレ?」

()()()()()()()()()。テディは凄まじく甘えん坊で寂しがり屋だからね。何度も接して気に入った相手に親愛の証としてハグをするんだけど、力が強すぎて大抵の相手はあの通りさ』

 

 みんなの視線がテディに釘付けになっている内に、こっそり現れたディーが説明してくれる。ただのハグであれって、どんだけ力が強いんだよ!? ……もしあれが実体化したらどうすれば良いんだ?

 

「……っ!? キマイラの特殊効果発動! このカードが破壊された時、墓地にあるバフォメットかガゼルを特殊召喚できる。蘇れバフォメット」

 

 バフォメット DEF1800

 

 神楽坂も放心状態から何とか脱し、キマイラの効果で守備モンスターを展開する。だけどこっちもまだ攻撃は終わってないぞ。

 

「まだだ! 母なるクモでバフォメットを攻撃!」

 

 ただあの繭みたいな状態でどう攻撃するのか割と気になっていた。もしやあのまま振り子のように勢いをつけて突進とかじゃないだろうな?

 

 次の瞬間、()()()()()()()()()

 

 それは本当に一瞬のこと。だがその一瞬で繭から放たれた黒い鎌のような脚が、守りの姿勢を取っていたはずのバフォメットを袈裟斬りにし、そのまま何事もなかったかのように元に戻っていた。

 

 ……いやだから怖いってのっ! 予想の斜め上のやり方でバッサリだったよ!

 

 バトルフェイズが終わり、それぞれ戦闘したことによってPEカウンターが乗る。

 

 幸せなテディ PE3→6

 母なるクモ PE2

 

「良いぞ久城君! 僕がやられた手をこんなにあっさりと!」

「翔にさっき相手の手の内を聞いたおかげさ。……これでそっちの場はがら空きになったぞ神楽坂。バフォメットを生け贄にして上級モンスターを出す予定だったのなら当てが外れたな」

「ふん。キマイラを上手く倒しただけで良く吠える。だが、このデッキの真の力はここからだぜ!」

 

 神楽坂は相変わらず余裕たっぷりの態度。思いっきりなり切ってるな。だが、

 

「それは結構。いくら何でも()()()()()しか扱えないんじゃ、本物の武藤遊戯だって嘆くというものだ。もっと気合を入れてかかってこいや! カードを1枚伏せ、俺はこれでターンエンド」

 

 挑発ならこっちだってお手の物。指をクイクイ曲げてからかってみせる。

 

 この程度の実力しか出せないのに、俺は負けないなどと言われたんじゃ言葉の方が汚れるって話だ。せめて元の使い手の半分程度は扱ってもらわないとなぁ。

 

 さあ。第二ラウンドと行こうじゃないか!

 

 




 原作では翔はキマイラだけで完封される流れでしたが、割と遊児の影響で腕が上がっているという事でキマイラは何とか突破しました。

 まあそこで消耗しすぎて押し切られましたが。

 次話も明後日投稿予定です。




 以降は幻想体の説明になります。

『幻想体 幸せなテディ』

 星4 ATK1500 DEF1200 獣族 地

 ①このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、このカードにPEカウンターを3個乗せる。
 ②このカードが攻撃表示の時、1ターンに1度戦闘で破壊されない。
 ③このカードと2度戦闘を行ったモンスターは、ダメージステップ終了時に破壊される。

 愛され、忘れ去られ、捨てられたテディベア。

 見た目の大人しさとは裏腹に、同じ人が連続でお世話をすると抱きしめて背骨を折りに来る厄介なクマ。

 だけどその理由が“仲良くなった(あるいはこれからなる)人ともう二度と離れたくないから”というのがどうにも切ない。




『幻想体 母なるクモ』

 星3 ATK1900 DEF1000 昆虫族 地

 効果
 ①このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、このカードにPEカウンターを2個乗せる。
 ②このカードは直接攻撃が出来ない。
 ③1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズに子蜘蛛トークン(星1 ATK500 DEF500 昆虫族 地)を守備表示で特殊召喚する。
 ④子蜘蛛トークンが戦闘で破壊された時、戦闘したモンスターを破壊しこのカードにPEカウンターを2個乗せる。



 子蜘蛛見守り系親蜘蛛。

 産まれた子蜘蛛を非常に可愛がっていて、うっかり一匹でも潰そうものなら即ブチギレ案件。相手がどんなに強かろうが即死が入るという初見殺し。

 ただ子蜘蛛を殺さず、しっかりとエサさえ欠かさなければ意外と落ち着いているのでまだ管理しやすい方。

読者の皆様が主に楽しみにしているのはどれですか?

  • 遊戯王のデュエル描写
  • ロボトミーの幻想体の様子
  • 遊児とそれぞれの原作キャラの絡み
  • どれも同じくらい楽しみ

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