マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
これからもちょこちょこ幻想体をカードでも日常でも登場させていくので、どうぞご期待くださいませ。
注意! 今回も独自設定タグが少し仕事します。
それは神楽坂の一件からしばらく経った日の事。授業も終わり、学園から自室に戻る途中の出来事だった。
「……ん!?」
道端に、やや大きめの古ぼけたぬいぐるみのようなものが落ちていた。
堂々と、道のど真ん中に、これ見よがしに、拾ってほしいと言わんばかりに。
俺は興味を持って近づき、そのぬいぐるみを確認し……顔を見るなり残像が見える(体感)速度でぬいぐるみとぬいぐるみが持っている物を回収。
そのまま全速力でオシリスレッド寮の自室に飛び込むように入り、扉をしっかりと施錠し、
『やあやあお帰り久城君! 早かっぎょえ~っ!?』
その流れでサラッと留守番をしていた諸悪の根源たる光球にアイアンクローをぶちかます。
ちなみにいくら俺でも何の理由もなくこんなことはしない。なら何故こんな手段を取ったかというと。
「……ディー。行く前にあれほど言ったよな? 俺が授業に出ている間に何かあったらいち早く知らせろって?」
『そんなことも言ったようなイタタタっ!? 言った! 言ってたような気がするな。うんっ!』
「じゃあなんで部屋に居るはずの
そう。このぬいぐるみこそ幻想体の1体である幸せなテディ。こんな見た目のくせして、場合によってはキマイラすら絞め殺すという凄まじいテディベアである。
事の始まりは昨日の夜。エネルギーが溜まり、急にこの幸せなテディがカードから勝手に実体化してきたことだった。
『クマさん! 可愛い!』
『ぐおおっ! イタタタッ! もっと優しくするのだ小さな魔女よ。壊れるっ!」
テディが出現するや否や、可愛いものに目がないレティシアも連鎖的に実体化してテディを抱きしめる。どさくさでネクも一緒にだ。多少ボロボロになってはいるが、レティシアにとってそんなことは関係ないようだ。
『ほう。これはまた面倒な。幸せなテディとはね』
「知っているのか? 葬儀さん!」
『ああ。多少程度だがね。……話しても良いかな?』
精霊状態の葬儀さんも現れ、何か知っているようなそぶりを見せる。最後の方の言葉はディーに向けたものだろう。ディーが頷くように縦に動くのを見ると、葬儀さんはではと一拍おいて話し始める。
『幸せなテディはリスクレベルHEクラスの幻想体だ』
「リスクレベル?」
聞きなれない言葉が出てきたので聞き返す。
『そういえば言ってなかったね久城君! 幻想体にはそれぞれ管理難易度、リスクレベルというのがあってね。下から順にZAYIN、TETH、HE、WAW、ALEPHの5段階に分けられる。これが高ければ高いほど基本的に危ないと思えばいい』
そういう大事なことはもっと早く言っておけよな!
『HEはつまるところ真ん中だね。カードのレベルとも大体連動しているから、危なければ危ないほどレベルも高い』
『ちなみに私やレティシア、ヘルパーもHEクラスだ。……レティシアもあれで中々に危険視されているのだよ」
葬儀さんはなんか強そうだし、ヘルパーも戦う時のあの刃物を展開した姿は中々におっかないものだったから分からなくはないが、レティシアも? あんなに可愛らしいのにな。
まあカード名に小さな魔女とあるくらいだし、本人も色々な術が使えると以前言っていたっけ。その分が危険と見なされたのかもしれないな。
「しかし、このテディベアが危険っていうのは……ああ。神楽坂とのデュエルで見せたアレか!」
戦闘中、この幸せなテディは神楽坂のキマイラを倍以上の体格差なのに締め上げて破壊していた。つまりはああいうことを実際にやれるわけだ。
『そういうこと! テディときたら凄まじく甘えん坊かつさみしがり屋でね。一度自分の持ち主と定めた相手から離れようとしない。それでも離れようとすると、力いっぱい抱きしめて引き留めようとする訳さ。……自分の力がそこらの猛獣程度なら簡単に絞め殺せるほどなのを忘れてね」
そこだけ聞くと悪い奴じゃなさそうだが、そうホイホイ絞め殺されてはたまったもんじゃないな。……ってちょっと待った!
「レティシアが今思いっきり遊んでんじゃんっ! レティシアちょっと待った!」
『大丈夫だよお兄ちゃん! こんなに可愛いんだもの!」
『いや、大丈夫なのはお前だけでアタタっ! やめろテディ! ヒビがっ! ヒビがぁっ!』
レティシアは楽しく遊んでいるようだが、テディとレティシアに挟まれているネクはたまらない。レティシアはもうちょっと優しくしてやってな。
テディも基本的にされるがままで、あまり自分からは動く様子がない。こうしていればただのテディベアっぽいよな。
『テディもただ遊んでいる分には普通のテディベアだからね。それにレティシアは幻想体だ。本能的に
なるほど。相手が人間でなければ安全と。しかしそうなると……。
「この場合、カードも持ってるし俺が持ち主認定されるのかね?」
『一応はな。ただし、君は
おお! 葬儀さんの言葉に一安心する。要するに触らなきゃ良いんだ。なるべく実体化を避けて出さなきゃ良い。意外に簡単だな。
『クマさ~ん♪』
『ぬおおっ!? 今ベキって言った! 完全にベキって言ったぞ! 私の生け贄よっ! 早く何とかしてくれぇっ!!』
ネクよ。安らかに眠れ。……あとでヘルパーに頼んで直してもらおうな。
ということがあって、幸せなテディの一件は丸く収まったかに思えたのだが、
「まったくテディときたら。目を離すとすぐに追っかけてくるんだからな」
この幸せなテディときたら、某おもちゃの物語よろしく一応の持ち主である俺を求めて勝手に動き回るから厄介だ。
俺がカードを持っていたらいつの間にか当然とばかりに近くに現れているし、カードを自室に保管していてもそのカードごと追っかけてくるという始末。
誰かが見張っていれば多少はおとなしくなるが、少しでも目を離すといつの間にか居なくなっているという脱走の名手になってしまった。
『言い訳させてもらうけど、僕だってこれでも頑張っていたんだよ! だけどこう……ずっとテディを見てるだけだと暇になって、ついウェルチアースからジュースを貰って一服してたらなんだか眠くなって』
「普通に一服盛られてんじゃねえかっ!?」
なんで毎回蓋が開いてても平気で飲むんだよコイツは! 「いや~つい癖になっちゃって!」とのたまうディーに今度はデコピンを叩き込み、幸せなテディをそっと取り出して荷物置きになっている二段目のベッドに置く。
あくまでテディのトリガーは遊ぶこと。抱きしめるとか頬擦りするとかも含まれるらしいが、こうやって持ち運ぶ程度なら遊んだことにはならない。
この手で何とか躱し続けてはいるものの、そのうちうっかり持ち主認定されて抱きしめられないか不安だ。それにしても、
「……お前酷くボロボロだな」
『そうだねぇ。ここ最近は君を追っかけてあちこち移動しているからますます汚れがひどい』
改めて見ると、幸せなテディはとても良い状態とは言い難かった。
ソリッドビジョンで見た時もそうだったが、ボタンで出来た目は片方取れてしまっているし、身体のあちこちから綿も飛び出している。
生地の手入れも悪いようだし、首に結ったリボンも色褪せている。動き回るから砂や土もくっついているし、これでは俺が抱きしめられる云々よりもまず衛生的に良くない。
あとレティシアも気に入ってよく遊んでいるからな。どうせなら綺麗な方が良い。
「ヘルパー! 出てきてくれ!」
〈あなたのお供、ヘルパーロボットだよ! 何をお手伝いしようかな?〉
最近有能すぎて大活躍している万能(掃除以外)型家事ロボットのヘルパーが、俺が呼ぶや否や出現する。
「ヘルパー。前にネクを直したことがあったろ。もしかしてそれみたいにテディも修復できるか?」
ヘルパーは家事に関わることなら掃除以外だいたい可能だ。その中には子供のおもちゃの修復機能なんてものも備わっている。それを使い、実際に体のあちこちにヒビの入ったネクを見事に修復してみせた。
だが、今回は相手も同じ幻想体。もしかしたら勝手が違うかもしれない。そう考えて恐る恐る聞いてみたところ。
〈了解。リペアプロセスを開始します〉
……なんだか最近ヘルパーがホントに有能すぎる気がする。
そうしてヘルパーは早速テディの修繕に取り掛かったのだが、流石に幻想体のぬいぐるみとなるとそれなりに時間がかかるという。
今度こそ目を離すなよとディーに念を押し、俺は夕食を食べに十代達と連れ立って寮の食堂に向かった。
「にゃ~。皆様に紹介したい人が居ますのにゃ!」
レッド寮生が集まって夕食を摂る中、大徳寺先生が皆に聞こえるようにやや大きめの声で話し始める。……これはもしかしてあれか? 以前の俺と同じパターンか?
「編入テストを受けてこの度オシリスレッドに入ってきた、早乙女レイ君だにゃ!」
同じだったようだ。大徳寺先生の言葉と共に歩いてきたのは、帽子を目深に被った小柄な生徒だった。少し俯いていて表情が良く見えないな。
「女の子みたいにきれいな子なんだな」
「編入先がオシリスレッドなんで落ち込んでるのかな? ……その気持ち分かるな」
素直な感想を述べる隼人と、何か一人で納得しているようにうんうんと頷く翔。まあ分かるなとは言わないが、それを言っちゃあマズいだろ翔。
「よっし! フレー! フレー! レ~イっ! な~に! 成績悪くても気にすんな! 俺達と一緒に楽しくやろうぜ!」
そして十代ときたら、なんか変な風にスイッチが入ったらしくいきなり応援団張りの応援を披露し始めた。……今だけは他人のふりをしたい。
「何を勘違いしてるんだにゃ?」
「心痛めてる編入生に、慰めの言葉をかけてるんだけど?」
挙句の果てにいきなりレイの肩をポンポンと叩いて励まそうとする距離感の近い十代に、流石に大徳寺先生も止めに入る。
「早乙女君は成績が悪くてオシリスレッドに入ってきた訳じゃないのにゃ。途中編入生はまずこの寮に入るんだにゃ。早乙女君の成績なら、近いうちにラーイエローに移るのにゃ!」
「……いやぁッハッハ! とにかくオシリスレッドの仲間が増えることは大歓迎だぜ! ……なあ翔! 隼人! 遊児!」
十代は早とちりだったと笑って誤魔化し俺達に振る。……まあしばらくしたら他所に移るとはいえ、クラスメイトが増えること自体は悪いことじゃないからな。俺達は顔を見合わせて勿論と返した。
「良かったにゃ~! 特に久城君にそう言ってもらえて助かるにゃ! 部屋が足らなくてどうしようかと思ってたにゃ!」
えっ!? 部屋が足りないっ!? ってこの流れだとまさか!?
「しばらく、久城君の部屋を使わせてもらいなさい」
「……はい」
げぇっ!? やっぱりか! 現在俺の部屋だけまだ俺一人で使ってるもんな。編入生が来るとすれば、当然そういう場所に優先的に入れるだろう。
「よろしく!」
「よ、よろしく頼む」
俺はレイから差し出された手を握り返す。どうやら同居人が増えることになったようだ。
しかしあの幻想体達をどうしたらよいものやら。なんか頭が痛くなりそうだ。
幸せなテディと早乙女レイの登場回でした。
テディが脱走常習犯なのはあくまでも独自設定です。原作では収容室から出てきませんからね。
ただ個人的な推測では、某おもちゃの物語であんなに普通のおもちゃが飛んだり跳ねたり動き回っているのに、幻想体のぬいぐるみが脱走しないなんておかしいと考えこのような流れになりました。
精霊化と実体化を使い分けることで、事実上カードが通れる隙間があれば脱走しますからねこのクマは。ある意味こっちだと管理難易度が上がっています。
レイに関しては少しだけ流れが変わります。と言っても大筋は変えない予定ですが。
次回は明後日投稿予定です。
読者の皆様が主に楽しみにしているのはどれですか?
-
遊戯王のデュエル描写
-
ロボトミーの幻想体の様子
-
遊児とそれぞれの原作キャラの絡み
-
どれも同じくらい楽しみ