マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
俺は皆に部屋の片づけがあるといって先に自室に戻った。新しくルームメイトが増える以上、それは必要だろうと大徳寺先生も普通に承認する。
手伝おうかと十代達が申し出てくれたが、レイの方を手伝ってやってくれと言うと素直に頷いた。レイも持ち込む荷物とかがあるだろうしな。
さて。レイが俺と相部屋になるにあたり当然だが問題がある。俺の部屋で度々実体化してくる幻想体達と、俺の周りをふよふよ飛び回る“元”神様のことだ。なので、
「皆! しばらくの間、レイの前では実体化は無しで頼むぞ!」
『え~っ!?』
ちなみに今不満げに声を上げたのはディーである。それ以外のメンツはというと、
カタカタ! コクン!
〈了解。スタンバイモードに移行します。お手伝いが必要なら呼んでね〉
『まあ当然の措置だろう。私達の見た目はあまり常人にとって精神的に良いものではないのでね』
『クックック。我が生け贄よ。私がそんな言葉程度で引き下がるとでも?』
『ネクちゃん。めっ! ……仕方ないよね。お兄ちゃんがそう言うならしばらく我慢するの』
上から順に罪善さん、ヘルパー、葬儀さん、ネク、レティシアの反応である。ちなみにウェルチアースの自販機の方は無反応。エビ頭の漁師の方は一応頷いているのだが、どうにも意思疎通が難しい。
「ごめんな皆。大徳寺先生によると、レイもここは足掛けでしばらくしたらラーイエローに移るらしい。だからそれまでの間頼むよ」
そう長くはならなそうだが、自由に実体化できないことでストレスが溜まったら大変だ。夜に散歩なりなんなりして少しでも出られるようにした方が良いかもしれないな。……ではあと残る問題は、
『それはそうと久城君。実体化を皆に我慢させるのは良いんだけどさ、幸せなテディはどうする?』
そう。あの脱走常習犯の問題はまだ片付いていない。あんな感じでこれからも自由に実体化されたらとても手に負えないわけだが。
「……そういえばヘルパー。テディの修復はどうなった?」
〈リペアプロセス完了! こっちだよ〉
ヘルパーに促されて、物置と化しているベッドの二段目を覗き込む。するとそこには、
「おおっ! なかなかいい感じになったんじゃないか?」
そこには立派に修復された幸せなテディの姿があった。
くたびれていた毛皮はツヤを取り戻し、ところどころ解れて綿がはみ出していた部分もちゃんと繕われている。
片目が取れていた所は、俺の制服の予備のボタンを付けることで代用。元の目が白いボタンなのに俺のボタンは濃い赤なのでオッドアイになってしまったが、まあ趣味としては悪くない。
首に結われた緑色のリボンも色褪せていたので取り換えようとしたらしいが、こちらはテディ自身が拒否したのでそのままにしたらしい。思い入れのある大切なものなのかもしれない。
「流石だぞヘルパー! ありがとな」
ヘルパーに軽く礼を言い、幸せなテディをそっと持ち上げる。……近くで見てももうどこが解れてたんだか分からないな。
『すごいすごいっ! クマさんがとっても綺麗になったよっ!』
『ぐぎゃあ~っ!? だからいちいち私を巻き込むんじゃないっ!』
レティシアも大喜びしている。まあそれで抱きつく度に挟まれるネクにはほんとに同情するが。……まあこれも込みでやらかしたことの罰と思って受け止めてほしい。
『しかし久城君。テディが見違えるくらいに綺麗になったのは良いんだけど、結局まだ脱走問題は全然解決していないよね?』
「…………あっ!?」
そうだった。ディーから言われるとはなんか悔しいが間違いなくその通り。
「ふぅ。……テディ。すまないけど、しばらくの間で良いから実体化は控えてくれないか?」
普通に頼み込んでみるのだが、レティシアに抱きしめられているぬいぐるみはこてんと首を傾げたきり返事がない。……本当に分かってるのかな?
コンコンコン。
「お~い遊児! そろそろ良いか? こっちは食い終わったし手こずってんならやっぱ手伝うぜ!」
ま、マズイっ! 十代達だ!
「皆! 急いで実体化を解いてくれ!」
十代にはどうせ精霊状態でも見えるから仕方ないが、足音からすると翔や隼人、あと多分レイも早速来てる。今見られるのは非常にマズイ。
フッとディーと幻想体達が姿を消すのを確認し、俺は軽く深呼吸をして十代達を招き入れる。
「どう? 久城君? 片付け終わった?」
「えっ!? ……ああ。ざっとだけどな。ただ床と机はまあ良いとして、レイがベッドのどの段を使うか分からなくて片づけきれてないんだ」
片付けという口実で先に来ていた以上、まがりなりにも多少ではあるがやっている。だが、話している途中でベッドのことを思い出して話題にあげる。何せ使ってなかったから俺の寝ている場所以外物置状態なんだよな。
だがそれを聞くと、十代達はどこか複雑そうな顔をした。何かあったかな?
「そっか。実はそれに関わることなんだけど、ちょっと問題が発生してな。レイの持ち込むやつが問題なんだ」
「そんなに荷物が多いのか? 自前のカードとか服とか?」
「いや、それがその……
ベッドの持ち込み? ペットじゃなくてか? 俺の頭に疑問符が浮かんだ瞬間だった。
「せ、狭いんだな」
「足の踏み場もないっす」
翔と隼人がげんなりした顔をしてそうぼやく。
一応言っておくが、俺の部屋は十代達の部屋と同じ間取りだ。そしてたかだか俺と十代・翔・隼人にレイを加えた五人程度で足の踏み場もなくなるほどではない。
幻想体達が実体化しているわけでもない。なら何故足の踏み場もなくなっているかというと、
「まさかホントにベッドを持ち込んでくるとは思ってなかったよっ!」
普段使う三段ベッドとは別の、一人用のベッドがデンっと部屋の一角を占領しているからだ。
よくよく話を聞いてみると、これは本来ラーイエローで使われる家具だそうだ。成績上で言えばレイはラーイエローが妥当でも、編入生は基本レッド寮から。
なのでせめて家具だけでもと、学園側からの支給品らしい。……いや明らかに部屋に合ってないよねこれっ!? 重みで床が抜けたりしないよな?
「ごめんなさい」
レイは申し訳なさそうに謝りまた顔を伏せる。どうやらレイが望んだとかではなく、完全に学園側からの押し付けらしい。だからさっきは引っ越し業者みたいな人たちが勝手にベッドを運んできたのか。
「……いや。レイが謝る必要はないさ。と言ってもこれじゃあ流石に場所を取りすぎるから、明日辺り大徳寺先生に掛け合って何とかしてもらえるよう頼んでみよう」
これがレイ個人のワガママで運ばれてきたものなら文句を言うところだが、あくまで学園からの押し付けだ。ならレイを責めるのは筋が違う。……それに、編入初日からこんなしょうもない理由で責められてはレイも辛いだろう。
「そうだな遊児。まあ、たまにはこういうのも良いじゃん! いざとなったらベッドの上で寝ながらデュエルできるぜ!」
「デュエルバカの十代らしいな!」
「アニキらしいっす」
その前向き思考には感心するばかりだ。これもある意味主人公に必要な素養なのかもしれないな。
「なあに。どんなに狭くたって、飯と寝る場所があればそれで良いのさ!」
そう言いながら十代は自然に制服のボタンを外し、上から脱いでいく。…………うんっ!?
「さあ! 皆で風呂行こうぜ!」
「きゃあっ!?」
あまりに自然にアンダーシャツ一枚になった十代の姿を見て、レイがまるで少女のような悲鳴を上げながら顔を両手で押さえる。
「おいおい。人の部屋で着替えだすなよ」
「悪い悪い! だけどどうせなら皆で一緒に行こうと思ってさ! 男同士裸で背中を流しあえばもう仲間だぜ」
そう言いながらいそいそとタオルなんかを用意しだす十代。やってることはアレだが、つまりはこれが十代なりのレイへの歓迎ということらしい。
まあ一緒に同じことをするというのは連帯感を生むから、あながち悪い話ではないんだけどな。……せめてこんな密集した場所でやらないでほしいとは思うが。狭いから。
「い、いや……ゴホン。ボクちょっと風邪気味で」
「ふ~ん。……じゃあ仕方ないな。俺達だけで行こうぜ!」
だが、レイは十代から顔を背けながら咳払いをする。十代はやや残念そうな顔をしながらも他の皆を誘っていく。
「あっ!? ちょっと待ってくださいっすアニキ! 部屋にタオル置いてきちゃって」
「俺もなんだな」
「なんだよ準備万端なのは俺だけかよ! じゃあ一度部屋に戻るか。……遊児はどうする?」
風呂か。なにぶん初めてルームメイトが出来るわけだし、第一印象は大事だ。ひとっ風呂浴びて清潔にしておくのも悪くはないか。
「じゃあ俺も行こうかな。こっちも用意してから行くから十代達は先に行っててくれ。……すまないけどレイ。そこのベッドの二段目に俺の入浴セットが袋にまとめてあるから取ってくれないか?」
「うん。分かったよ」
俺は十代達を先に行かせ、レイにちょっとした頼みごとをする。
編入初日で頼みごとをするのも気が引けるが、場所的に一番近いのはレイだ。これからしばらくの付き合いになるわけだし、距離感を掴むためにも簡単なお願いをしてみると、レイは素直に了承してくれる。
「えっと入浴セットは…………うんっ!?」
ベッドの中を探っていたレイだが、急に何か不思議そうな声を上げる。だけどすぐにまたごそごそと動き出し、入浴セットを取ってはいと渡してくれる。
「ありがとうな。じゃあ俺は十代達と風呂に行ってくる。レッド寮は設備とかはぼろいけど、風呂は他の寮にも負けないぜ。何せ温泉が普通に湧いているからな」
この島の火山の影響か、レッド寮に備え付けられた風呂とは別で近くに自然の温泉があることには驚いた。しかも露天風呂だ。これは中々に風情がある。
雨が降ったら入れない点と、時折野生動物(サルとか場合によってはクマとか)が入ってくることを除けば良い風呂で、最近は皆で専らこっちを利用している。
「へぇ~温泉か! ボクも風邪が治ったら行ってみようかな」
「個人的にはかなりおススメだぞ。……っと、そろそろ行かなきゃ。風邪が酷いようなら棚に風邪薬も置いてあるから好きに使ってくれ。じゃあ行ってくる!」
俺は入浴セットの袋を肩にかけ、先に行った十代達を追って温泉へ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ふぅ」
これから相部屋になる久城遊児という人が部屋を出て行ったのを確認して、ボクはそっと息を吐く。
さっきはあの十代という人の行動にはビックリした。まさかいきなり人前で堂々と服を脱ぎ出そうとするだなんて。
最初にここの食堂で会った時も、いきなり応援してきたりなれなれしく肩をポンポンと叩いてきたり、多分デリカシーってものが無いんだ。
一緒に行った二人のことはまだ分からないけれど、多分こちらも同じような人なのだと思う。
遊児という人もまだ良く分からないけれど、こちらは十代達に比べて少し落ち着いている感じがした。咄嗟についた風邪なんて嘘を、出かける前に少しは気遣ってくれたしね。同居人としては良い人かもしれない。
だけどやっぱりボクの一番は
「それにしても……遊児も結構良い趣味をしてるんだな」
ボクはさっき二段目のベッドを探っていた時に見つけた物を引っ張り出す。
それは、小さな子供くらいなら普通に包み込めるほど立派な
毛並みはふさふさで触り心地が良く、片目だけ違うボタンが使われているのもオシャレと考えれば悪くないと思う。
「別に隠さなくても良いのに。恥ずかしかったのかな?」
何の気もなく、ふと思いついてボクはそのテディベアを抱きしめる。遊児の物だから本当は許可を取らなくちゃいけないけど、少しだけだから許してほしい。
ボクの秘密が他の人にバレないように、あの人に思いを伝えなきゃ。出来るかどうか不安だけど、ボクはきっとやり遂げてみせる。
不安を打ち払うようにそのまましばらくテディベアを抱きしめ、ふさふさの毛並みをしっかり堪能すると、ボクは静かに元の場所にテディベアを戻す。
「よし。あとはもう行動あるのみ。まずはどうしたらあの人と会えるか考えなくちゃ!」
その時、なぜかテディベアがこくりと頷くように動いた気がした。戻し方が悪かったのかな?
レイ持ち主認定一歩手前。ちなみに遊児もリーチです。
温泉の設定は完全に独自設定です。作中の描写だと普通に野外に風呂があるのですが、寮の風呂にしては屋根も何も見当たらないし、普通に野生動物が入ってくるのはいくら何でも不自然。
なのであくまで寮の近くに沸いた天然物の温泉であり、それを時折寮生が利用しているという風に解釈しました。天然ものなら野生動物が居ても不思議じゃないだろうと。
次回は明後日投稿予定です。
読者の皆様が主に楽しみにしているのはどれですか?
-
遊戯王のデュエル描写
-
ロボトミーの幻想体の様子
-
遊児とそれぞれの原作キャラの絡み
-
どれも同じくらい楽しみ