マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 テディの持ち主認定一歩手前の遊児とレイ。これからどうなるのでしょうか。


ぬいぐるみと編入生 その三

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「何っ!? レイが幸せなテディに抱きついてたっ!?」

『そうなのさ。いやあこっそりどんな様子かうかがっていたら急に。これはビックリ実にまいっちゃったね!』

「そんなお気楽な事言ってる場合か!」

 

 温泉でひとっぷろ浴びて(なんか野生の熊が離れた場所で湯に浸かっていたけど襲ってこないのでそのまま)帰ってきたところ、こっそりディーに外に呼び出されて聞かされたのがこれである。

 

 温まってほっこりしていた気分も一気に急降下だ。というかまたいつの間に実体化してんだあのぬいぐるみはっ!

 

「じゃあもしかして、下手に今レイがテディから離れたらそのまま……」

 

 俺の脳裏に、テディに力の限り抱きしめられて苦しんでいるレイの姿が浮かび上がる。そんなことになったら大変だ!

 

『いや。それはまだ大丈夫。あくまで一度抱きしめただけだからまだ持ち主認定はされていない。でももう一度この数日間の間に抱きつくなり頬擦りするなりしたらもうアウトだろうね』

 

 テディのトリガーは数日のうちに二度以上遊ぶこと。このまま数日間放っておけばひとまずは落ち着くはずだ。ならば、

 

「よし。それなら何が何でもレイがテディと接触するのを阻止しないとな」

 

 幸いレイはしばらく経てばラーイエローに移動となる。そうすれば距離が離れるから、テディと接触する機会も減って少しは安全になるだろう。それまでの辛抱だ。

 

『それじゃあそろそろ部屋に戻ろうか。急に出たからレイも何事かと思ってるかもよ!』

「それもそうだな。……ところでレイって()()()絡んでたりするのか?」

『さあてどうだろうね!』

 

 一応聞いてみると、ディーはそう言ってはぐらかす。……このはぐらかし方はおそらく絡んでるな。まあこういう編入生は大抵話に絡んでくるものだけど。

 

 そんなこんなでそうしてまた部屋に戻ると、

 

「ただいまぁあっ!?」

 

 つい変な声が出てしまった。何故かと言えば、レイがベッドの二段目に置かれているテディベアに丁度手を伸ばしていたからだ。

 

 俺は慌てて駆け寄りテディを引っ掴むと、そのまま厳重に布団で包んでぐるぐる巻きにする。これならそう簡単には出てこれまい。

 

「……ふぅ。危なかった」

「何っ!? どうしたのっ!?」

 

 レイが目を丸くしている。これはどう説明したものか。

 

「その、これは……あれだ。何というか」

「……分かってるよ」

 

 何故かレイはどこか優し気な微笑を浮かべる。分かってるって何が?

 

「大切なものなんだよね? だってそうじゃなきゃ、わざわざベッドの奥に隠すように置いたりなんてしないもの。……大丈夫。誰にも言わないから」

「あ、ああ。そ、そうなんだ。わりと大事なもので、できればあまり人に触らせたくないんだ」

 

 何か誤解されている気がするが、大切というのは間違いない。

 

 そうしてまあ何とか話を打ち切り、体調の事や編入初日ということもあって早めにレイには寝てもらうことに。明日からよろしくな。

 

 

 

 

 数日後。

 

 全校生徒が朝礼で講堂に集まっていた。前方上部に掛けられている大型スクリーンから、鮫島校長の姿が映し出されている。

 

『毎年恒例、北にある姉妹校デュエルアカデミアノース校との、友好デュエルが近づいています』

 

 姉妹校との友好デュエルか。友好と銘打ってはいるけど、こういうのって裏では火花バチバチってのが多いよな。互いの学校のメンツとかもあるだろうし。

 

「ふわあぁっ」

「おっ! 遊児が朝礼中に欠伸なんて珍しいんだな!」

「ああ。ちょっと最近寝不足でな」

 

 欠伸したところを隼人に目ざとく見つかり、俺は適当に返事をする。ここ数日いつも気を張っているからな。あんまり寝れていない。それというのも、

 

「テディの奴、最近ますますストーカー染みてきたんだよな」

 

 ふと気が付くと、いつの間にか近くにいるテディベアに最近悩まされている。それも俺だけならあまり問題はないのだが、このところはレイの周囲にも出没するようになって余計に厄介になった。

 

 うっかりレイや他の人に見つかったらマズいので、こっちが見つけ次第他の人の目に触れる前に回収するという毎日。しかも捕まえてもすぐにどこかに消えるのだから質が悪い。

 

 昨日など、夜中に目を覚ますとレイの枕元にちょこんとテディが座っていた時なんかちょっとしたホラーよりビビったぞ。起こさないようにそっと回収するのは結構大変だった。

 

 あのクマほんとにどうしてくれようか。……おっと。今は朝礼の途中だった。集中しないとな。

 

『昨年は二年生だった丸藤亮君が、ノース校代表を倒し、本校の面目躍如となりました』

 

 その言葉に周囲の視線がカイザーに注目する。去年の代表だったのか。まああの実力なら不思議じゃないが。

 

「へへっ! 僕の兄さんなんだ。……僕と違って成績良いからね」

「へえ~!」

 

 ちらちらとカイザーを見ていたレイに、翔がそう言ってから軽く落ち込む。落ち込むくらいなら自虐ネタを振るなよ。

 

『今年の本校代表はまだ決まっていませんが、誰が選ばれても良いように皆さん、日々努力を怠らないように』

 

 その言葉を最後に映像は途切れる。……多分これもアニメ版の話に絡んでくるんだろうな。こういう一大イベントは話が盛り上がるもの。

 

「よっし。代表目指していっちょ頑張るか!」

「いくらアニキでも、やっぱ今年もカイザー亮で代表は決まりっす!」

「ちぇ~っ」

 

 やはり翔としては、お兄さん(カイザー)が最強でいくらアニキ(十代)でも敵わないと考えているのだろう。一度負けたこともあり、十代は少しだけ拗ねた顔をして引き下がる。

 

「まあそうむくれるなよ十代。またそのうち勝負する機会もあるって! その時にリベンジすればいい」

「そうだな。じゃあ気を取り直して授業行こうぜ!」

 

 相変わらずポジティブ嗜好の十代。すぐに立ち直って次の授業に思考を巡らす。翔や隼人もそれに続く勢いだ。……だが、

 

「…………ん!」

 

 俺達と一緒に行くそぶりを見せながらも、まだちらちらとカイザーに視線を向けるレイが、俺は何となく気になっていた。

 

 

 

 

 途中でレイは別の授業に出席するということで別れ、そのまま今日の授業が早めに終わり、俺達はいつものように駄弁りながら本棟から寮への帰路につく時だった。

 

「腹減ったなぁ。寮の食事はまだだし」

「戻ってトメさんとこでなんか買ってく?」

「翔がたまごパンドローするのか?」

「まさか!」

 

 そんな取り留めのない雑談を交わしながら歩いていると、

 

「……んっ!?」

 

 離れた所をレイが走っていくのが見えた。しかしその方向はレッド寮へ向かう道ではない。

 

「あいつ。どこへ行くつもりだろうな?」

「……よし。ちょっと気になるから様子見てくる! パン頼んだぞ!」

「え~っ!?」

 

 十代はそう言って走り出した。まったく。そうほいほい人のプライバシーを侵害しようとするもんじゃないぜ。俺はこのままのんびりと自室に……げっ!?

 

 レイの少し後方に、後を追ってトテトテと走る小さな影。あのシルエット……幸せなテディじゃないか! まだ幸い他の人には気づかれていないようだが、このままでは非常にマズイ。

 

「あ~! 俺もちょっと気になってきちゃったかな~! という訳で翔。俺の分も頼んだぞ!」

「えっ!? 久城君も!?」

 

 俺も十代達を追って走り出す。後ろから呆れたような声が聞こえるが、非常事態なため勘弁なっ!

 

 

 

 

 やっと追いついたのは、十代が目的地らしき場所に辿り着いてからだった。その場所は、

 

「あいつ。オベリスクブルーの寮に何の用があるんだ?」

「何だろうな!」

「おわっ!? 追ってきたのかよ遊児」

 

 先に着いて様子を窺っていた十代に声をかける。ブルー寮は以前追い払われたりとあまり良い思い出がないからな。さっさと帰りたい。

 

「ああ。……そういえば十代。ここらでデカいテディベアを見なかったか?」

「テディベア? いや。見てないけど」

「そうか。もし見かけたら知らせてくれ。間違っても抱きついたり頬擦りしたらダメだぞ」

 

 途中で見失ってしまったが、テディはさっきレイを追っていた。まだ近くにいる可能性は高い。

 

「ああ。よく分からないが分かったぜ! ……っと、何やってんだ? あいつ?」

 

 十代の視線の先を見ると、なんとレイが庭の木を伝ってベランダから寮の一室に忍び込んでいた。

 

「おいおい。これはあまり穏やかじゃないな」

「追っかけるぞ!」

 

 そこで普通に自分も木を登って追っていく十代。いや普通に不法侵入だからな! ……ああもう仕方ない。待てよ十代!

 

 俺もテディが居ないか確認しながら木を伝っていく。これくらいなら毎日の通学で鍛えているこの身体なら楽勝だ。誰にも見られてませんように。

 

 ベランダから部屋の様子を窺う俺と十代。そこから見えたのは、誰かのデッキケースを愛おし気に頬擦りしているレイの姿だった。

 

「なっ!? なんだあいつ?」

「さあな。……マズイ! しゃがめっ!」

 

 俺は十代を肩に手をかけてしゃがませる。誰かが外から寮に入ってきたみたいだ。あれは……カイザーだ! カイザーが他のブルー生と連れ立ってきた。

 

 ……待てよ!? さっきのデッキケース。前に一度十代と戦った時にカイザーが使ってなかったか? ってことはここカイザーの部屋!? 

 

「やばっ!? 何やってんだよお前! そんなことしてると、ノースのスパイと勘違いされちゃうぜ」

 

 もうすぐこの部屋の主が戻ってくることを十代も察したのか、慌てて部屋に突入しレイに声をかける。

 

「そんなんじゃない!」

「じゃあどういう訳だ? 一応ルームメイトがこんなことしてたら俺も気になるんだが」

「……遊児まで」

 

 俺も続いて中に入って話しかけると、レイはどこか気まずそうな顔をした。さらに深く尋ねようとすると、ドアの先から何やら足音が聞こえる。……もうすぐ入ってくるぞ!

 

「話はあとだ。さあ行こうぜ!」

「あっ!?」

 

 急ごうと強引にレイの腕を掴む十代。しかしその時、慌てた勢いでレイの帽子が髪留めと共に脱げてしまう。そこから現れたのはつややかな黒い長髪。この姿はまるで、

 

「レイ!? お前……」

「……女の子だったのか? いや、それも後だ。今は走れっ!」

 

 レイはその言葉を聞いてか帽子だけ拾って猛然とベランダへ。俺もその後に続く! だが、

 

「きゃあっ!?」

 

 慌てていたためか、下りる途中でバランスを崩し落下するレイ。危ないっ! レイはそのまま地面にしたたかに身体を打ち据え……られることはなかった。

 

 ()()()()()()()()()幸せなテディの身体がクッションになったためだ。

 

 レイは自分があまり痛くないことに不思議がりながらも、そのまま一目散に走っていく。……ふう。良かった。あとついでにテディも回収する。

 

「ナイスだテディ! よくやった! でも素直にこれで帰ろうな」

 

 さあてあとは自分の部屋に帰るだけ。……あれ!? 十代はどこ行った?

 

「あっ! デッキが!? 貴様ノースのスパイだな!」

「違う! いや……ほら! 窓が開いてたから閉めてやろうと思ってさ。……お邪魔しました~!」

「逃がさん! 職員室に突き出してやる。お前なんか即退学だ!」

「誤解だってば~!」

 

 しまった! こっちは逃げきれずに捕まったらしい。さらば十代。お前のことは晩御飯まで忘れないぜ。……と言ってもカイザーのとりなしによって、十代は無事釈放となったわけだが。

 

 

 

 

 その夜。

 

「遊児。少し話がある。十代も呼んであるから、あとで寮の裏手の海岸に来てくれないか?」

 

 レイから呼び出された。……多分十代も一緒となれば、ブルー寮での一件のことだろうな。

 

 はてさて。どうなることやら。

 

 




 いよいよノース校との友好デュエルも近づいてきました。当然向こうの代表はあの方です。そこは変わりません。

 次回は仕事の都合により、三日後投稿予定です。

読者の皆様が主に楽しみにしているのはどれですか?

  • 遊戯王のデュエル描写
  • ロボトミーの幻想体の様子
  • 遊児とそれぞれの原作キャラの絡み
  • どれも同じくらい楽しみ

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