マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
今回は少し短めです。
夕食も終わり、俺は指定された時間に寮の裏手の海岸へと向かった。
話すだけなら別に俺の部屋でも良いと思うのだが、十代を交えてとなると部屋が近いから他のメンツも一緒に来る可能性があるからな。それを避けたのだろう。
『夜にこっそり少女と密会かぁ~! なんかこうイケない気配がプンプンするね!』
「なんでこうお前はそういう風に言うかねっ! 普通に事情を聞きに行くだけだっての!」
道中茶化してくる“元”神様に閉口しながらも海岸に辿り着くと、そこには既に十代とレイが待っていた。十代が居るのを確認すると、ディーはフッと姿を消す。
「よお! 待たせたかな?」
「いいや。俺は今さっき来たところだ。その時にはレイは来てたから、レイは待たせたかもしれないけどな」
「ボクはそんなに待ってないから別に良いよ」
「いや。待たせたのは変わりないからな。すまない」
まずは本題に入る前の軽いジャブ。というかレイが同じ部屋なのにわざわざ先に行くというのがよく分からないんだよな。一緒に行けば良いのに。……何か支度でもあったのかね?
「それで? 話ってのはなんだ?」
「お前達……特に十代に聞きたくて。何故ボクのことを黙ってたんだ?」
レイはどこか強い口調で問いただす。あの時一目散に逃げたと思っていたが、どうやらことの顛末を陰から聞いていたらしい。……確かに十代は捕まりながらも、俺やレイのことを話さなかった。
カイザーがとりなしてくれたから良かったものの、下手をすればあの場で学園側に突き出されていたことも十分あり得るからな。それなのに言わなかったことにレイは疑問を感じていたのだろう。
「昼間のことか? ……女の子が男の格好してこんなとこまで来るなんて、訳ありそうだから。……最悪の場合遊児のことは喋るつもりだったけどな!」
「そこは喋るんかいっ! まあ仕方ないと言えば仕方ないけどな」
そこは素直に受け入れる。訳ありの美少女と悪友のどちらを助けるかと言われたら、男は大抵美少女を取るものだ。俺だって多分そうする。
「言うな! 昼間見たことは、絶対人に言うんじゃない!」
「人にものを頼むときは、まず事情を説明するもんだ」
「そこには俺も同感だな。……訳ありというなら話してみなよ。ルームメイトだろ?」
「……できない」
レイは一瞬悩みかけ、しかし首を横に振る。……よほどの秘密らしいな。これは聞き出すのは難しいかもしれない。
そこで十代は、なぜか自分の荷物を降ろしてごそごそと探り始めた。何やってんだこんな時に。
「じゃ、デュエルしようぜ!」
いやホントに何言ってんのこの人っ!? 荷物からデュエルディスクを取り出した十代に俺もレイも唖然とする。
「なんだ? それはどういう理屈だ?」
「デュエルじゃだれも、嘘は吐けない」
出たよこのデュエルバカ! 何でもかんでもデュエルで解決しようとするんだからもう。……だが、こういう話しづらいことを本音でぶつけ合うには、デュエルという方法もアリっちゃアリかもしれない。
「ボクが勝ったら、事情を聴かずに黙ってるっていうのか?」
「ああ。その必要もなくなるからな」
「正直なところ俺には話してほしいんだが……まあレイが勝ったら俺もしばらくは静観するとしようか。そっちが話す気になるまではな」
今回の俺はあくまで立会人。レイもさっきの言葉を聞く限りでは、俺を呼んだのはあくまでメインの目的ってわけじゃなさそうだしな。
元々結果がどうなろうが言いふらすつもりもないし、ここはのんびり勝負を見守るとしよう。
「「デュエルっ!!」」
十代対レイの対決は十代があっさり勝つかと思いきや、レイが『恋する乙女』と『キューピットキス』のコンボで、戦闘を行った相手のコントロールを得るというトリッキーな戦術で意外に十代を苦しめた。
自らがダメージを負いながらも、愚直なほど一途に向かっていく様は中々に面白いし好感が持てた。なのだが、
『きゃっ!!』
『お嬢さん。大丈夫ですか? ……すまない。そんなつもりじゃ』
とか、
『う、うぅっ!?』
『スパークマンっ! お前はヒーローのくせに、か弱い女性を攻撃するなんて、なんて奴だっ!』
『ああっ! 俺はなんてことをしてしまったんだぁ』
『自分を責めないで。戦うこと……それは宿命なのだから』
とか、戦闘する度にカードの精霊っぽい方々の小話が入るのは何とかならないのだろうか。これには十代もあんぐり。
『良いぞ良いぞ~! こういうドロドロの関係というのも結構好みなんだよね!』
そこの悪趣味な光球は黙っとれ!
そんなこんなでわりと盛り上がったデュエルだったが、十代が『バーストレディ』と『バースト・リターン』のコンボを使ったことで状況は一変。
『嘆かわしいこと。そのような小娘ごときに惑わされるとは。アンタ達……さっさと戻ってきなさいっ!』
なんかいつもより迫力のあるバーストレディの一喝で男ヒーロー二人は手札に帰還。
『ヒーローの絆は、そんな恋愛ごっこより強いってことさ』
そうしてまた単騎になってしまった恋する乙女に、融合召喚されたフレイムウィングマンの攻撃が炸裂。流石にダメージに耐え切れず、レイのLPは0となったのだった。
「ガッチャ! レイ。面白いデュエルだったぜ!」
崩れ落ちるレイの頭から帽子が脱げ、昼間見た長髪が露わとなる。
「十代。……ボク」
「おっと。皆まで言うな。そこから先は、ずっと見ていた後ろの奴に言ってくれないか」
そこには翔に隼人、明日香に、件の人物であるカイザーの姿があった。
何を隠そう、この人達は最初からずっと隠れてデュエルを見ていたのだ。この前の神楽坂の時といい普通に見ろよ!
「出番よ! 男の責任でしょ!」
明日香に促され、カイザーはどことなくいつもより落ち着かない態度で前に進み出る。
「亮様! ……ごめんなさい。昼間寮に忍び込んだのは、ボクだったんだ。十代と遊児はそれを止めようとしただけなんだ」
レイが顔を僅かに赤らめながらも申し訳なさそうにそう正直に語るのを、カイザーは静かに聞いていた。……俺もあの場に居たことは言わなくてよかったんだけどな。
「亮様がデュエルアカデミアに進学なさってから、逢いたくて逢いたくて……やっとここまでやってきたの。十代とのデュエルには負けたけど、亮様への思いは誰にも負けない。乙女の一途な思いを受け止めてっ!」
う~む。一世一代の告白だ! 今一瞬レイの後ろに恋する乙女の精霊が見えた気がする。さっきもそうだったし、半分精霊化してないか?
「な~んかカイザーもたじたじだな! それにしてもスゲー迫力。デュエルと同じだ」
そこでデュエルを例えに出すのは我らがデュエルバカこと十代。今大事なとこなんだから茶々入れるんじゃないよ!
「デュエルじゃないもん」
「そうね。一途な思いは素敵よ。でも今アナタが言ったように、デュエルのヒーローと違って本物の男性はウインクや投げキッスじゃダメなの。デュエルも恋も、気持ちと気持ちが繋がって初めて実るんじゃないかしら?」
「あなた……亮様の何なの! まさか恋のライバル?」
落ち着いた様子で諭そうとする明日香に対し、レイは頬を膨らませて威嚇する。
「レイ。お前の気持ちは嬉しいが、今の俺にはデュエルが全てなんだ」
「亮様……」
結果はやっぱりというか撃沈か。この男が誰かと付き合うって所があまり想像できないんだよな。強いて言うならよく一緒にいる明日香ぐらいだろうか? だけどその明日香は十代の方を時々なんとも言えない目で見てるしな。
カイザーはポケットから何かを取り出してレイに手渡す。それは、あの時部屋に落っことしたレイの髪留めだった。
「レイ。故郷に帰るんだ」
「そこまですることないだろう! 女の子だって……オベリスクブルーの女子寮に入れてもらえば」
あまりにバッサリと振られて瞳に涙を浮かべるレイを見かねてか、十代がカイザーに食って掛かる。
「レイはここにはいられない」
「えっ! レイにはまだ秘密があるのか!?」
「……レイはまだ小学五年だ」
「「「え~っ!?」」」
カイザーがポツリとつぶやいた言葉に一同騒然とする。もちろん俺もだ。
「ディー。今の話ホントか?」
『ホントホント! レイは間違いなくまだ小学生だよ!』
おいおい! 小学生なのにここの編入試験を突破したのか!? これは生徒の身元調査の不備を責めるべきか、レイの小学生離れした実力を褒めるべきか……両方だな。
「なんなんだよ~っ! 俺ってば、小学生相手に苦戦したのかよ!?」
「ごめんね! ガッチャ! 楽しいデュエルだったよ!」
脱力して背を地面に投げ出す十代に、レイはどこかてへぺろっぽいポーズで十代の十八番を決める。
「なっはっは! 最高だ! これだからデュエルは楽しいんだよ!」
夜の海岸に、十代の半分自棄気味で半分本気の笑いが響き渡った。哀れ十代。……まあこんな日もあるって!
そして翌朝。
「……しまった。俺としたことが、最後の最後で詰めをミスった」
早朝にふと目を覚ました俺が目にしたのは、もはや隠す必要もあるまいと帽子を脱ぎ去り、
そのクマは、忘れた頃にやってくる。
次回レイ編完結予定。多分明後日投稿です。
読者の皆様が主に楽しみにしているのはどれですか?
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遊戯王のデュエル描写
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ロボトミーの幻想体の様子
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遊児とそれぞれの原作キャラの絡み
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どれも同じくらい楽しみ