マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 さて。十代に待たせている間、遊児はどこに行っていたのでしょうか?


十代へのカミングアウト その一

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「なあ? ぶっちゃけた話どこまで言って良いと思う?」

『突然だね。何の話だい?』

 

 レイがこの島を出て数日した頃、俺は前々から考えていたことを実行に起こす前に、ディーに確認を取るべくそう切り出した。

 

「いやまあ……俺の事とか、幻想体の事とかさ。()()()()()()()()()()()()()

 

 もしこれが漫画版の世界なら、俺の多少の原作知識を活かすために流れを壊さぬように動いていただろう。しかしここはアニメ版。元々の流れが分からない以上、何が最善かなんて分かるはずもない。

 

 おまけにこの前のテディの一件で分かったように、俺がおとなしくしていたとしても場合によっては向こうから絡んでくるし、こちらの幻想体が何かやらかす可能性は十分にあり得る。

 

 なら最初からある程度事情を知っている人に話しておいて、いざという時のために協力体制をとれるようにしておく方が良い。

 

『ふむ。十代君なら精霊も見えるし、また幻想体が脱走するみたいなことが起きたら協力してもらおうってことか。もちろんOKだとも! 話す内容も久城君が決めてくれて構わないよ』

「良いのか? 俺はてっきり話すなと言われると思っていたんだが」

 

 そう聞くと、ディーはまるで首を横に振るように光球が震えた。

 

『最初に言ったと思うけど、この世界はあくまでシミュレーションだ。元々君という異分子が存在したらという条件付けだからね。きちんと一応の目標であるこの学園の卒業に向けて動けるのであれば、君は基本的に好きに動いて構わないとも。むしろその方が退屈しなさそうだ』

「そうか……よし。それなら問題なさそうだな」

 

 “元”神様のお許しも出たことだし、こういうのは善は急げだ。早速今日辺り十代に話してみるとしよう。

 

 

 

 

『どうだった?』

「一応さっき夕食の時に、十代に後でこの部屋に来てくれるよう頼んでおいた。念のため一人でって条件付きでな」

 

 俺は食事で膨れた腹を擦りながら、自室で待っていたディーにそう返す。

 

 精霊が見えない翔や、声だけしか聞こえない隼人にはまだ早い。幻想体を実体化させれば意思疎通はできそうだけど、幻想体が逃げ出すようなことになったら常時実体化しているとは限らないからな。

 

 もし十代と協力体制を築けたら、その後でまた機会を見て二人にも話すかどうか考えるつもりだ。

 

『それで? どこまで話すか決めたのかい?』

「ああ。とりあえず俺の目的と、幻想体のことについては話そうと思う」

 

 どこまで行ったって()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そのためにというのもアレだが、この学園の卒業自体は十代達も含めて学生の本分だ。特に何も言わなくても互いに協力できるだろう。

 

 それと幻想体関連だが……どう言ったものかな。精霊ではあるけど危険度はピンキリだし、俺もあくまで持ち主でしかないしな。せめて最初に良いイメージでも持ってくれれば話し合いも可能か?

 

 シミュレーション云々は伏せる。というよりこの世界がシミュレーションだと言われても、実際にこの世界で生きている人からしたらここは現実だからな。言う必要はない。

 

『それは結構。……ところで久城君。実は一つ問題が発生したようでね』

「問題? まさかまたテディが逃げ出したり…………はしてないな」

 

 デッキを確認するが、カードはなくなっていないようだ。

 

 あれ以来、テディの脱走癖は落ち着いている。一応少しでも寂しがりの性格を抑えるため、定期的に室内で俺やレティシアに遊んでもらっているからだと思いたい。ちなみに今もレティシアがテディをブラッシングしている真っ最中だ。

 

 だが持ち主が俺に定まった以上、一つ間違えば俺があの馬鹿力でハグされる危険と隣り合わせだ。……何とか俺によく似た人形でも用意してテディにあげるべきかと最近考えている。

 

『いや、幸せなテディは関係ないよ。……詳しいことは彼等から聞くと良い』

「彼等? 彼等って」

『私と彼だよ。管理人』

 

 カタカタ。

 

 そこに急に半透明の姿で現れたのは、罪善さんと葬儀さんのペア。……なんか珍しい取り合わせだな。

 

「二人ともどうしたんだ?」

『管理人。君は以前行った特待生寮のことを覚えているかね?』

 

 特待生寮か。あれはかなりおっかない場所だったから今も覚えている。

 

「あの良くないモノが溜まっていた場所か。もちろん覚えてるとも。っていうかあの時葬儀さん居なかったんじゃなかったっけ?」

『ああ。なのでこの罪善に当時の話を聞いていたのだが、どうやらその良くないモノをまた察知したようなのだ』

「げっ!? そうなのか罪善さん?」

 

 罪善さんはコクコクと頷く。あの時もその気配を察知して、実体化して部屋から飛び出していったぐらいだからな。また溜まり始めたことが分かっても不思議じゃない。

 

『囚われた魂に静かなる眠りを与えるのが私の務めだ。よって罪善と共にその特待生寮に出向きたいと思う。出来れば管理人にも同行を願いたい』

 

 俺もか。確かに実体化した幻想体は独自行動できるとはいえ、俺が近くにいた方が何かとエネルギー効率も良いだろう。ただなぁ。

 

「行くのは良いんだけど、もう少ししたら十代がこの部屋に来るんだよな。あんまり待たせる訳にもいかないし」

『それなら問題ないんじゃないかな? 良くないモノと言っても溜まり始めた段階ならそう多くはないだろうし、パパっと行ってパパっと帰れば大丈夫だって!』

 

 ディーの奴め適当に言うんだからまったく。しかし溜まり始めであれば確かに楽そうではある。少なくとも以前闇に飲まれて大量の良くないモノに取り囲まれた時よりはマシだろう。

 

 あそこまで増えるようなことがあったらまた後々面倒そうだし、早め早めに何とかしておくのは良い案かもしれない。

 

「……分かった。じゃあ俺と罪善さん、葬儀さんの三人で」

『待った! 私も連れて行くがいい我が生け贄よ! こういう時こそ私の出番ではないか!』

 

 出発の準備をしようとした時、流石にブラッシングの邪魔になるから床に置かれているネクも志願してきた。こりゃまた珍しいな。

 

「どうしたんだネク? いつもなら言われたって嫌がって渋々やるって感じなのに、今回はえらくやる気じゃないか」

『えっ!? ああ。何、大したことではない。私もそろそろ真面目に働いて、早くエネルギーを溜めて復活に至りたいと思ったまでの事』

『へえ~そうなんだ! てっきり僕はその良くないモノを以前君がやっていたみたいに従える気かと思ったよ!』

『な、な、何を言うのだ? 私は別にそのようなことは考えていないとも。ただ少しばかりその良くないモノとやらを取り込んで後の復活の際の足しにしようかなと…………あっ!?』

 

 ディーのからかうような言葉に、ネクがつい口を滑らせてハッと口を抑える。……最初に会った時もそうだったけど、ネクって地味にうっかりしているところがあるよな。

 

「あ~。せっかくだけど多分罪善さんと葬儀さんで手は足りてるんだ。悪いけど今回はお留守番な」

『Nooo~っ!』

 

 なんかショックのあまりムンクの叫びみたいな顔になってるネクは置いといて、俺は特待生寮に向かうための準備を整える。……そうだ! 行く前に。

 

「レティシア。ちょっと良いかな?」

『うん? なになに? お兄ちゃん?』

 

 とてとてとやってきたレティシアに、俺は念のためお願いをしておく。

 

「なるべく早く戻るつもりだけど、もしその前に十代が訪ねてきたら、部屋の中に入れて待っていてもらってくれないか?」

『私がお出迎えしても良いの?』

「ああ。どうせ十代はレティシアのことを前に見たことがあるし、多分問題ないだろう。俺が戻るまで何か話でもして待っていてほしい」

『うん。分かった! 私精いっぱいお出迎えするの!』

 

 レティシアは嬉しそうに、そしてどこかやる気のある表情でその小さな拳を握りしめる。

 

 テディも残すべきかと少し悩んだが、念のためカードとして持っていくことにした。ああ見えて強いから、いざとなったら護衛役を請け負ってもらおう。

 

 そうして待ち合わせに遅れないように、俺と罪善さん、葬儀さんと幸せなテディは、急いで特待生寮に向かった。……のだが、

 

 

 

 

 三時間後。

 

「や、やっとレッド寮に戻ってこられた。……しかしなんであんなに居るんだよ!」

『本当だねぇ。まさか以前より多い数が溜まっているとは予想外だったよ!』

 

 

 

 

 特待生寮にて俺達が見たものは、十代とタイタンがデュエルした時に居た良くないモノの集団だった。しかも今度は俺と十代が飲まれた闇の中ではなく、なんと寮の中からほんの少しずつであるが外に出てきていたのだ!

 

 あんなのがわらわら出てきたらそれこそ大変なことになる。咄嗟に葬儀さんが寮の周りを棺から飛び出す蝶で包囲し、外へ出ようとする奴らを抑え込む。

 

『寮から外へ出ようとするモノは私が何とかしよう。管理人達は早く中の方を!』

「分かった! 頼むぞテディ。罪善さんの道を作ってくれ!」

 

 そこで大活躍したのが意外にもテディ。寮のなかで散乱していた家具を持ち前の腕力で振り回し、襲い掛かってくる奴らを寄せ付けない。

 

 そして、十代とタイタンのデュエルした場所にあった闇。そしてその闇からすこしずつ溢れるように出てくる良くないモノを罪善さんが片っ端から浄化吸収を行い、ようやく闇が消滅した時には俺は疲労困憊の有り様だった。

 

 俺だけじゃない。長く寮を包囲し続けていた葬儀さんも、良くないモノを寄せ付けずに戦っていたテディも、予想以上の数を浄化吸収した罪善さんも、皆大なり小なり疲れていた。

 

 こうして……何とか無事帰還してレッド寮にまでたどり着いたという訳だ。

 

「まだ十代が部屋で待っていると思うか?」

『さてね。部屋に行ってみたら分かるんじゃない?』

 

 それはまあそうなんだけどさ。流石にこんなに遅れたからもう帰っていても仕方ないんだよな。

 

 俺は重い足取りをなんとか進めながら自分の部屋へ向かう。そして扉を開けると、そこには。

 

「おぅ! 遅かったな遊児! 悪いけど遊児の分の菓子も待ってる間に結構食べちまったよ」

『あっ! 遊児お兄ちゃん! 私ちゃんとお出迎え出来たよ!』

 

 もう大分夜も遅いというのに、俺の部屋でコーヒーを飲みながら待っていてくれた十代と、同じくジュースを飲みながら笑顔で俺を迎えてくれたレティシアの姿があった。

 

 話し合いが終わったらこの埋め合わせは必ずするからな。

 

 




 遊児大遅刻。ただ十代の方はレティシアとじっくり話していただけなのでそこまでめちゃくちゃ待たされたとは思っていません。

 次回は明後日投稿予定です。

読者の皆様が主に楽しみにしているのはどれですか?

  • 遊戯王のデュエル描写
  • ロボトミーの幻想体の様子
  • 遊児とそれぞれの原作キャラの絡み
  • どれも同じくらい楽しみ

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