マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 気が付いたらなんだかんだでもう五十話過ぎてました。

 飽きっぽい作者ですが、皆様の応援のおかげでここまで書き続けることが出来ました。まだまだ一年目も終わっていないという鈍足ペースですが、これからもご一読頂ければ幸いです。


十代へのカミングアウト その三

 さて。十代はこのように心強い言葉を言ってくれるが、まだ伝えなきゃいけないことを伝えていない。まずはそれからだな。

 

「実を言うとさ、この幻想体達は俺がこの学園に入ってから全員出てきたんだ。……どういうことか分かるか?」

「そりゃあ仲間が多いってのは良いことじゃないか! 皆してこの学園に入ってからってのはちょっと気になるけどな」

 

 あくまでも楽天的に笑う十代。確かにそうだ。仲間が多い方が何かと助かる。出てくる奴が()()()()ならな。

 

「まあこの学園に入ってから出始めたってのは心当たりがあるから置いておく。問題は別にあるんだ。例えば……さっき十代自身が言っていたけど、この前テディが船に乗っていた所はこの前見たよな?」

 

 その言葉に十代はそうだと頷く。

 

「あの時テディはほぼ完全に俺の手を離れていた。だから罪善さんに迎えに行ってもらったわけだが、実体化させてまで急がせた理由は当然ある。……十代。そのジュースはもう飲み終わったか?」

「えっ!? ああ。もう空っぽだけど」

「じゃあ缶を回収してっと。……テディ」

 

 俺は十代から受け取った缶をテディに手渡してたった一言。

 

「その缶をゴミに出すから……()()

 

 グシャっ!

 

「……なっ!?」

 

 十代の目が丸くなった。それはそうだろう。あのふわふわで柔らかそうなぬいぐるみのクマが、その両手を合わせるようにそっと缶を挟み、そのまま紙風船でも潰すように缶をペシャンコにしたのだから。

 

「ありがとうなテディ。何も驚くようなことじゃないよ十代。以前神楽坂と戦った時、テディは効果の演出とはいえ自分の数倍は大きいキマイラを絞め殺しただろ? つまりテディは現実でもそれに近い腕力を持ってるわけだ。それこそ本物の熊より下手すりゃ強いパワーをな」

 

 十代は確かめるようにテディの潰した缶を見ている。ちなみにウェルチアースの出す缶はどれもかなり頑丈で、そこらのスチール缶よりずっと硬い。その上一部をへこませたのではなく完全に平たくなっている。ここまでやるのは道具を使わないと難しいぞ。

 

「勿論テディは誰かれ構わず暴れたりはしない。それでもうっかりじゃれついた挙句力が入って骨を折ってしまうくらいは十分あり得る話だ。……テディだけじゃない。ここに居る幻想体達は大なり小なりそういう危険性を秘めている」

 

 やっと俺の言いたいことが何となく察せられたのか、十代も真剣な面持ちでこちらの話を聞いている。

 

 幻想体。こいつらはすなわち、お前の()()()()()()退()()()()()怪物側にあたる奴らだということが。

 

 ヘルパーとウェルチアースはいまいちよく分からないが、罪善さんも葬儀さんも、レティシアやテディ、幻想体ではないネクに至るまで、俺の言葉に何も言わず耳を傾けている。

 

 持ち主である俺に危険性があると言われて、幻想体達の内心がどうなっているかは定かじゃない。だけど、最初にこの危険性について説明しておかなければ、目の前の友人が不用意にこれからの幻想体にも近づきかねない。

 

 これから出てくるであろう、この比較的まだ友好的なもの以外の幻想体にも。

 

『……遊児お兄ちゃん……十代お兄ちゃん』

 

 レティシアはそう小さく不安そうに声を上げながらも、それ以上は何も言わない。これでもし十代が断るようであれば、それはそれで仕方のないことだ。これまで通り自分達だけで何とかしていくことになる。

 

 だけどもし、もしもこれだけ言って尚手を貸そうなどと言うのであれば、

 

「……そうか。分かった」

 

 十代は少しだけ何か考え込み、自分の中で何かしらの答えを出したように顔を上げる。

 

「つまり俺に頼みたいのは、()()()()()()()()お前がピンチになったら助けてほしいってことだな! 任せとけって!」

「……驚いたな。俺を助けるまでは予想してたけど、こいつらも助けようとそこで思うか普通? 十代だってこの前のサイコ・ショッカーの件を覚えてるだろ? 状況によってはあれ並に危険なことも起こりえるんだぞ?」

「遊児は敢えてそう危険な面や怖い面ばっか俺に伝えてっけどさ。別にそれだけじゃないんだろ? 本当にそれだけだったら、それこそ遊児ならずっとカードのままにしてたっておかしくない。だけどこうして実体化することを許してる。……つまりそれだけ皆に、幻想体達に気を許してるってことじゃないか?」

 

 実体化することを許してるっていうか、いざとなったら幻想体は自分の意思で全員実体化できるけど、俺と話し合って我慢してくれているって感じなんだよな。

 

 完全制御ではなく、あくまで話し合いによる自発的な協力関係。十代は笑っているが、俺と幻想体達の関係はそういういつ崩壊するかもわからない状態で成り立っている。

 

 だけどそういったことを知ってか知らずか……いや、多分レティシアと話して知った上でそう言っているんだろうな。朗らかに笑いながら、十代は加えてこう述べた。

 

「それに、俺の仲間のヒーロー達は悪を倒すのが仕事だけど、悪から皆を守るのも仕事なんだぜ! それはこいつらだって例外じゃない。な~に任せておけって! 俺に出来ることなら手を貸してやるからよ!」

 

 その根拠のない自信はどこから出てくるのかねぇ。……だけど、そこまで言える奴だからこそ、俺は打ち明けたのかもしれないな。

 

 

 

 

「まっ! 何はともかくだ。手を貸してもらうからにはとことん貸してもらうからな十代。途中でもう無理だとか言わせないぞ」

「言わねえよ! やっぱりさっきまでの重っ苦しい態度はわざとかよ! こんなニヤニヤしやがって」

「そりゃあそうだ。はっきり手を貸してやるって言質を取ったからな! そうだろ皆!」

 

 俺の言葉に幻想体達は揃って首を縦に振る。悪いな十代。実は()()()()()狙い通りなんだ。

 

 前々から十代に対して、予め幻想体達とはいくつかの取り決めをしている。そのうちの一つが、幻想体側からは十代に必要以上に接触をしないという約束だ。

 

 なにぶん普通に精霊の見える十代は協力者になりえる。幻想体達としても、俺以外に接することのできる相手が居るというのはかなりの大事だ。だが各自で思い思いに動いたら収拾がつかなくなる。

 

 なのであくまでも話をするのは俺であり、十代が自分の意思で手を貸すなり手伝うなりそういう言葉を言わない限り、あまり関わらないようにと約束している。今回レティシアに出迎えを頼んだ時、やる気を見せていたのはそれが原因だ。

 

『ありがとう! 十代お兄ちゃん!』

「おっと。急に抱きついてくるなよレティシア。危ないぞ!」

『そうだレティシアよ止め……アタタッ身体が潰れる~!』

 

 レティシアが嬉しそうに十代に飛びつき、十代は仕方ないなとばかりに抱きとめる。……ついでにまたサンドイッチにされているネクに誰か目を向けてやってほしい。

 

 しかし十代がこうしてはっきり宣言した以上、幻想体達としてはもう気兼ねすることは無いわけだ。十代にはすまないが、これからたっぷり幻想体達にも付き合ってもらうからな。

 

「さて。それじゃあ早速手伝ってもらいたいことなんだが……まあ十代が今言ったように、俺や幻想体達がピンチになったら助けてくれ。と言っても多分近いうちにピンチになると思うんだけどな」

「えっ!? どういうことだ?」

「それが俺がさっき言った、学園に入ってから精霊が出始めたってことに繋がるんだ。簡単に説明すると、今俺の持ってる幻想体のカードから不定期にカードの精霊が出てきている。これは俺の意思では止められない。出来て出てくる奴を多少選べるくらいだ」

 

 俺は自分のデッキとそれ以外の幻想体達の束を机に置いてみせる。

 

「少し前に幸せなテディが出たばかりだからもうしばらくは大丈夫だと思うけど、次に何が出てくるか分からないからな。友好的な精霊なら良いが、この前のサイコ・ショッカーみたく周囲に被害を出すような奴だったら速攻で抑えつけないといけない」

「そうか。……なあ遊児」

「おっと皆まで言うな。分かってるって。自分に何が出来るかってことだろ? もちろん十代に出てきた奴と戦えとかそんなことは言わないさ。まずは俺が交渉してから」

「いやそうじゃなくてっ!? お前のデッキさっきから何か光ってるぞ!」

「な、何~!?」

 

 確かによく見れば、デッキの一部が光を放っている。この光は前にもあったカードの精霊化の前兆だ! しかしこの前テディが出たばかりだってのになんでこんな立て続けに?

 

『管理人よ。これは先ほどの特待生寮のことが引き金になったのではないだろうか?』

「さっきの? ……そうかっ!? レティシアの時と同じか!」

 

 俺は葬儀さんの言葉でハッとする。つまりあの時のように、罪善さんが大量の良くないモノを浄化吸収したことによって、余剰分のエネルギーが他のカードに流れ込んで精霊化を誘発したらしい。

 

「マズいぞ! 十代! 早速で悪いが手伝ってくれ。デッキの中の光ってるカードを取り出して机に並べてくれないか? 今俺が下手に触れると一気に出てきかねない」

「ああ。分かったぜ!」

 

 十代は早速俺のデッキを広げて光っているカードを探し始める。俺はその間に以前ディーに教わったように右手に力を溜め、軽く光を纏わせる。……なんだか電球になったみたいだな。

 

「よし。こっちは準備OKだ。そっちは何枚あった十代? 出来るだけ害のなさそうなやつを選ばないと」

「それが見つかったんだけど……どうやら一枚だけみたいだ」

 

 そんな馬鹿なと俺もデッキを見るが、確かに光っているのは一枚だけ。これじゃあ選ぶも何もあったもんじゃない。そして、

 

「え~っと? 『幻想体 三鳥 大鳥』? こんなカードも持ってたのか遊児。結構長い付き合いになるけど知らなかったな」

「大鳥? ……なるほど道理で」

 

 何故一枚しか選択肢が出なかったのか不思議だったが、カード名を見て少し納得する。このカードはレベル6。ディーが以前言っていた所のリスクレベルは実際のカードのレベルに比例する。

 

 つまりこれは、他のレベルの低いカードが数枚精霊化できるだけのエネルギーを一枚だけで使ってしまったことになる。

 

『リスクレベルW()A()W()。気を付けたまえ管理人、……こいつはこれまでの幻想体とは危険度が違う』

 

 俺は葬儀さんの言葉に気合を入れ直す。……悪いな十代。よりにもよって手伝ってもらう最初の一体目からかなりハードなことになりそうだ。

 




 某ビッグな鳥がアップを始めました。

 さて、この話で今のアンケートは終了となります。皆様の貴重なご意見はどんどん参考にさせていただきますので、これからもよろしくお願いします。

 次は二日後投稿予定です。

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