マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 このところ遊児がデュエルをあまりやっていませんが、もう少ししたら一気にやる機会が増えるので少々お待ちを。



十代へのカミングアウト その四

 さて、一度状況を整理しよう。

 

 今現在、俺の目の前には今にも精霊化しかねないほど光を放っている『幻想体 三鳥 大鳥』のカードが机に置かれている。

 

 いつもなら何枚かのカードが候補として出てくるものの、今回に限ってはこの一枚きり。おそらく他の候補の分もこのカード一枚で使ってしまったんだと思われる。つまりそれだけ強力なカードってわけだ。

 

「ちなみにこの中で、この大鳥がどんな奴か知ってる人いる?」

「そもそも俺は初耳だ」

『残念ながら私は名前を聞いたことがある程度だ。ただリスクレベルから考えて、危険なことにほぼ間違いはないだろう』

 

 少しでも出てくる前にこいつの情報を知れればと思い聞いてみたが、十代は当然として葬儀さんも良く知らないようだった。知っているであろうディーは十代の前だからか出てこないし、このままぶっつけ本番でやるしかないのか。そこに、

 

『私知ってるよ!』

「本当かレティシア!」

 

 思わぬところから声が上がった。レティシアが軽くぴょんぴょん跳ねながら手を上げてそうアピールする。

 

『え~っとね。大鳥さんが出歩くと、周りが夜みたいに真っ暗になっちゃうの。電灯もろうそくも皆消えちゃって、でも大鳥さんの持ってるランタンだけは明るいままなの』

「……よく分からないけど、つまりそいつには停電か何かを起こす力があるのか?」

『多分そう。それで時々辺りを見て回って、何かをいつも探しているんだけど、それが何かまではよく分からないの。ごめんなさい』

 

 何故かレティシアは言い終わると、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をする。

 

「なんでレティシアが謝るんだ? これだけ手がかりを出してくれただけで大手柄だぜ! なあ遊児?」

「そうだな。レティシアのおかげで何も分からずに相手をするってことが避けられそうだ。ありがとうな」

『ホント? ホントに私役に立った? えへへ!』

 

 こうして嬉しそうに笑うレティシアは良いとしても、問題は大鳥の方だな。

 

 周りが暗くなる能力となると、もし一度でも見失ったら大変だ。おまけに今は夜。明かりがないから探すこともできなくなる。

 

「しっかしその大鳥のランタンは暗闇の中でも明るいんだろ? なら暗い中でも明るい方に向かえば大鳥が居るってことだ。簡単じゃないか?」

「単純に考えればそうだけど、なんか引っかかるんだよな。……マズっ!? 光がっ!?」

 

 あんまり長々と話している時間はなさそうだ。さっきから大鳥のカードから出る光がどんどん強くなっている。この調子じゃもういつ出てきてもおかしくないな。

 

「……仕方ない。大鳥を精霊化させるぞ! 下手に暴発して出てくるよりは、こっちのタイミングで呼び出した方がまだマシだ!」

 

 出来ればもう少し話し合って情報をまとめたかったが時間切れか。俺はゆっくりと大鳥のカードに自分の手を翳そうとし……そうだ!

 

「幻想体の皆はいったんカードに戻ってくれ! このまま実体化していたら、最悪大鳥の大きさによっては部屋が壊れかねない」

『ダメっ! 私も残る! もしかしたら大鳥さんとお話しできるかもしれないもの。喧嘩はだめだよ』

『私もレティシアの意見に同意しよう。相手はWAWクラス。最悪戦うことになれば周囲に被害が出る。管理人やその友人の身を守る意味でももう一体か二体は傍に置いておくことを勧める。もちろんレティシアの言うように話し合いで解決するならそれに越したことは無い』

 

 確かにレティシアと葬儀さんの言う通りだ。部屋がパンパンになって壊れるのも困るが、最悪大鳥が暴れ出したらそれを抑えるだけの戦力が要る。

 

「……分かった。じゃあ罪善さんと葬儀さんは精霊化して護衛役として傍に待機してくれ。レティシアはすまないけど実体化して俺と一緒に大鳥との交渉役だ。……これで良いかい?」

『うん! 私頑張るよ!』

 

 やる気があるのは結構なことだ。他のメンツはそれぞれカードに戻り、葬儀さんと罪善さんは半透明の精霊状態で俺の横に控える。……流石にネクも今回はカードに戻ってもらった。今の小さな人形状態じゃ危ないからな。あとは十代だが、

 

「十代。お前に頼みたいのはいざって時の抑え役だ。もし交渉が失敗して大鳥が暴れ出した場合、うちの罪善さんと十代のハネクリボーの力で抑え込んでもらいたい。幸い二体とも光属性だから、大鳥の暗闇の中でも動けるかもしれない」

「おう! 任せとけ! 頼むぜハネクリボー!」

 

 クリクリ~! カタカタ!

 

 声をかけられた二体がやる気十分とばかりに軽く光る。やっぱり仲良いなこの二体。

 

「……すまないな十代。初っ端からかなりやばい相手の手伝いを頼むことになった」

「気にすんなって! さあて最初だしな。ここは一つバシッと決めようぜ!」

「OK。なんとも頼もしい限りだ。……じゃあ、始めるぞ」

 

 限られた情報から、少しではあるけど対策らしい対策はした。あとは実際に会って話してみるのみ。俺は大鳥のカードに手を翳し、そのまま静かに触れる。

 

 その瞬間、一気にカードからの光が強烈に部屋を埋め尽くした。

 

 

 

 

「おわっ!?」

「うっ!?」

『きゃっ!?』

 

 俺と十代、そして実体化していたレティシアはもろに光を喰らって眩しさのあまり目を閉じる。最近この光には慣れてきたつもりだったけど、やっぱ目に来るなこれ。

 

 そして光が収まった時、カードのあった所には一体の異形が存在していた。

 

「な、なんだコイツ?」

「これが……大鳥?」

 

 それは一見するとデカくて黒い毛玉のようだった。目算で3メートル近い巨体だが、よく見ると鳥という名の割には翼がない。

 

 翼の代わりにあるのはその巨体にしては細長い両腕。そしてその片腕には、中でチロチロと火が灯るランタンを提げている。

 

 顔らしきところには大きくて鋭いクチバシ。ダチョウやペンギンのように飛ばない鳥もいるので、ここまではまだ何とか現実にもいるかもしれない姿だ。少しデカいだけで。

 

 だが明らかに異形と一目で分かったのは、少なくとも数十はある黄色の瞳がぎょろりと一斉にこちらを見つめていたからだ。

 

 その大量の瞳に圧倒されて、俺は一瞬言葉に詰まる。……マズイ! 何でもいい。何か喋らないと。何か、

 

『大鳥さん。こんばんわ!』

 

 そこへレティシアがにっこり笑顔で挨拶した。流石幻想体同士。物怖じしないな。大鳥の瞳が今度はレティシアに向かい、俺への圧力が少し弱まる。

 

『レティシアだよ。よろしくね! そこにいるのが遊児お兄ちゃんと十代お兄ちゃん! どっちもとっても良い人なんだよ!』

「おう! 俺遊城十代。よろしくな!」

 

 レティシアに呼応するように、十代も軽く手を上げて笑顔を見せる。……まいったな。こんな形で助けられるとは思わなかった。これは怖気づいている場合じゃないよな。

 

「あ、ああ。久城遊児だ。よろしく。……その、大鳥……で良いかな? 話は出来るか?」

 

 またこちらに向けられる視線にくじけそうになるが、腹に力を入れて大鳥と視線を合わせる。

 

 大鳥はこちらを凝視していたが、()()()()()()()()()()()()軽く低めの唸り声をあげて返した。

 

 その様子を見て、半透明ではあるが油断なくいつでも動ける構えを取っていた葬儀さんも少しだけ構えを解く。罪善さんもハネクリボーも、心なしかほっとしているようだ。

 

 そういえば、大鳥が出ると停電するという話だったけどまだ明かりはついたままだな。これは大鳥が敵対の意思を持っていないからだろうか?

 

「少なくともこっちの言葉は分かるみたいだな。これはラッキーじゃないか?」

「それなら助かるよ。えっと、とりあえずなんだが……まず机から降りて精霊化してくれると助かる」

 

 何せ大鳥のカードがあったのは机の上。つまり大鳥は机の上に居る訳で、その巨体を乗せているためかさっきからギシギシ言っている。

 

 なのでそう頼んでみると、大鳥は素直にこくりと頷いて……そのまま床にズシンと揺れを起こしながら着地して半透明の姿になった。いやもうちょっと静かにっ! 夜だからっ! 近所迷惑っ! あと出来れば精霊化してから降りてほしかった。

 

 しかし一応だけど話を聞いてはくれるようで、いきなり暴れ出すといったことはないようだ。これなら少しは安心か。

 

「え~っと、それじゃあ話をしようか。最初にそこはちゃんとしておかないとマズいからな。そっちが話すことが出来ないなら、こっちで適当に質問するから首を振るなり手を上げるなりで答えてくれれば良いさ。じゃあまずは」

 

 そうして俺が質問をしようとした時だった。

 

 グルルルルゥ。

 

 急に大鳥が何かに気が付いたように、外の方を向いて唸り声をあげた。さっき俺に返したような軽いものではなく、明らかに何かに反応している。さらにその瞳はさっきまでの黄色ではなく、全て真っ赤に染まっていた。

 

『大鳥さんっ!? どうしたの?』

「なんかヤバいぞ遊児!」

「ああ。分かってる。……気を付けろよ! 下手に刺激するとマズそうだ。ここは一度落ち着かせて」

 

 何とか宥めようとした時だった。急に扉がコンコンとノックされる。

 

「お~い何してるのにゃ~? 大きな音が外まで響いてきましたのにゃ! 夜なんだからもう少し静かにしてほしいのにゃ!」

「げっ!? 大徳寺先生だ! なんでこんな時に! 今の大鳥の足音で来たにしては早くないか?」

「そうかっ! さっきまで部屋で幻想体総出演であんな騒ぎだったからな。知らず知らずのうちに周りに音が漏れてたんだ!」

 

 次からはなんとか防音対策を講じないといけないかもな。そんなことを考えて現実逃避をしてしまったが、この状況は非常にマズい。

 

 今の大鳥は何だか知らないが気が立っている。下手に刺激したら何が起こるか分からない。ここはさりげなく大徳寺先生を追い払わなければ。

 

「あ~。大丈夫です大徳寺先生。ちょっと十代と話してたら盛り上がってしまって」

「盛り上がるって……まさか部屋の中でソリッドビジョンのデュエルをやってるんじゃないかにゃ? ちょっと確認させてもらうにゃ!」

「あっ!? 先生入っちゃダメだって!」

 

 十代も止めようとするが、大徳寺先生は寮長なので当然合鍵を持っている。このままでは普通に入ってくるだろう。

 

 落ち着け俺。幻想体達は皆精霊化しているから姿は見えないはず。大徳寺先生がこの部屋を見ても、見えるのは俺と十代だけだ。レティシアもそれを察して素早く実体化を解く。

 

 あとは目の前の大鳥がどう動くかだが、

 

「は~い。入るのにゃ~!」

 

 ガチャガチャと鍵を開ける音ののちにノブがくるりと回り、扉がうっすらと開く。その瞬間、

 

 グルアアアッ!

 

 大鳥が急にその身を翻し、開いたドアに向かって突撃を開始した。

 




 大鳥が脱走しました……というログが流れる寸前ですね。

 停電能力に関しては、あくまでも常時発動ではなく大鳥の意思で切り替えられるという設定です。

 次回は三日後投稿予定です。

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