マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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十代へのカミングアウト その五

 

 実体化ではなく精霊化な為か、その巨体に似合わぬ俊敏な動きで開きつつある扉に向かって突撃する大鳥。その突然の行動に、俺達は誰も大鳥を止めることが出来なかった。そして、

 

「一体何の騒ぎ……うにゃ~っ!?」

 

 開きかけていた扉を()()()()()進んでいく大鳥に対し、大徳寺先生は叫び声を上げながら驚いて尻もちをつく。

 

 マズイっ!? 今はまだ精霊化しているから他の人には見えないが、もし実体化でもしたら大騒ぎになるぞ!

 

「アイタタタ何なのにゃ今の黒くてでっかいのは? ……っつ~腰打ったにゃ~!」

「大鳥を追うぞ! 十代は大徳寺先生を頼む!」

「分かったぜ! 無茶すんなよ」

「……善処するよ」

 

 十代には悪いが確約は出来ない。なにぶんどうしてこうなったか分からないのだ。あとさっき特待生寮で戦ったばかりだってのにまた動かなきゃならんのかよっ! 内心色々と愚痴りたい気分ではあったが、大鳥をこのまま放っておくこともできない。

 

 腰を擦って涙目になっている大徳寺先生は十代に任せ、俺は幻想体のカードの束を持って大鳥の後を追って走り出した。

 

 

 

 

「はあ……はあっ」

 

 カタカタ!

 

 夜道を俺達は罪善さんの先導の下走っていく。といっても俺以外は皆精霊化しているので浮遊しているの方が正しいのだが。

 

 罪善さんのおかげで夜道でも視界はそこそこ明るく良好。一応懐中電灯も用意してあるが使うこともなく、走るだけなら問題はない。不安なのは体力面だが、さっき少し部屋で休んだのでもうしばらくは何とかなる。

 

「それにしても大鳥の奴、一体どこへ向かってるんだ? ……この方向、もしかして」

『ついさっき行った特待生寮の方角だよねぇ』

「うおっとっ!? 急に現れるんじゃないよディー!」

 

 これまで姿を隠していたディーが急に出てきたので、一瞬バランスを崩しかけるも何とか踏ん張ってまた走り出す。十代に直接会いたくないようで居なくなっていたが今頃かよ!

 

『いやぁちょっと野暮用があって席を外していたのさ。それにしても……フフッ! 少し僕が見ない間に大分面白そうなことになっているじゃないか! まさかWAWクラスがこんな所でもう来るとはね』

「笑い事じゃないっての! それで大鳥の行き先が特待生寮だってのは間違いないのか?」

『そこは私も保証しよう。暗くて道が分かりづらいが、確かにこの方向に真っすぐ行けば先ほどの特待生寮に辿り着く』

 

 精霊状態の葬儀さんが横からそう補足する。

 

「葬儀さんが言うなら嘘じゃなさそうだな」

『いやちょっとっ! 僕のことは疑ったくせして葬儀君のことは一発で信じるのっ!?』

「これまでの行いを振り返ってみろ。明らかに葬儀さんの方が信頼度が高いぞ」

『そ、そんな~っ!?』

 

 片や面白半分で人をおちょくる自称“元”神様。片や見かけこそアレだが実直で仕事のできる男。どう考えたって葬儀さんの方が信頼度が高い。

 

 何を今さらということを言うと、ディーはちょっとだけ落ち込んだように光量が落ちる。といってもすぐに復活するだろうから慰めないけどな。

 

「問題はなんで急に大鳥がそこへ向かっているかだ。それが分からないとまた同じことが起きかねない」

『ふ~む。ちょっと走りながらで悪いけど、大鳥が出た時のことを話してくれないかい?』

「こんな時にかよ! ……手短にだぞ」

 

 ディーは本当に席を外していたらしく、状況を把握していないようだった。まあ情報の共有は必要だ。俺は手早くあったことを説明する。

 

『なるほどね。……ゴメンさっぱり分からない』

「分からないんかいっ!?」

 

 結局どうして逃げたかは分からずじまいじゃないか。こうなったらまたぶっつけ本番で行くしかないか。そう思った時、

 

『ただまあ大鳥の目的地は()()()()()()()()()()()()ってことは分かるけどね』

「えっ!? それってどういう」

『遊児お兄ちゃんっ! 前っ! なんか変だよ!』

 

 ディーが思わせぶりに言った言葉を聞き直そうとした時、レティシアの言葉にハッと前を見る。そこには、

 

「……なんだこれ? 道がないぞ」

 

 前方にたった今まで見えていた道が急に姿を消した。……いや、その言葉は正確ではないか。目の前に道はあるのだけど暗くて見えないという方が正しい。俺は訳が分からず一度立ち止まる。

 

 弱々しいながらも月明かりも星明りもあるのに、ある一定以上先を見ようとすると急に真っ暗闇になってよく見えなくなる。試しに懐中電灯をつけてみるも、スイッチの音がカチカチと鳴るだけで何故か反応しない。

 

「暗闇……もしかしてこれって!?」

『そう。ここから先は大鳥のテリトリー。()()()()()()()暗く黒い森の中ってわけさ。本物には程遠いけど、代わりに自分が居るべき仮の場所としてここを定めたのだろうね。ここから先へ踏み出すのならそれなりの覚悟がいるよ』

 

 それを聞き、俺は近くに落ちていた木の枝を取って暗闇の中へ差し込み探る。……大丈夫。見えないだけでちゃんと道は続いている。ならば、

 

「罪善さん。この暗闇を照らせるか?」

 

 カタカタ!

 

 返事代わりに軽く骨を鳴らし、心なし光を強く放つ罪善さん。すると、まるで何も見えなかった暗闇が、少し先程度なら見通せるようになった。薄暗いは薄暗いのだが、これくらいならまだ何とか進める。

 

「ありがとう罪善さん。もう少し先導を頼むな。……ここから先が大鳥のテリトリーだって言うのなら、つまりは大鳥がこの近くにいるってことだ。わざわざ自分の大体の居場所を教えてくれるとは親切で助かるぜ」

『……ちょっと待った』

 

 早速森へ足を踏み入れようとした時、少しだけ真剣な態度でディーが待ったをかける。

 

『ねえ久城君。一つだけ聞くけど、なんで君はここまでするんだい?』

「何だよ? 藪から棒に」

『いやね。ちょこっとだけ気にかかったのさ。大鳥は間違いなくこれまで精霊化した幻想体の中で危険度が一番高い。そんな物騒な相手の所へ向かおうとする君のことが不思議なんだよ』

「んっ? そんなに不思議か?」

 

 俺が聞き返すと、ディーは肯定するように上下に光球を動かす。

 

『最初に会った時、君は生きるために動くと言った。それはこの世界に来ても変わっていない。だけどそれならわざわざ大鳥に向かっていく必要はないんだよ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ディーの言葉は間違っていない。大鳥は確かに精霊化して飛び出していったが、自分のカードを持っていったわけではなかった。なのでそのまま放っておいたとしても、いずれは大鳥も戻ってくる。

 

『カードがある以上精霊が居なくてもデッキに入れて問題なく使えるし、むしろ近くにいない方が安全といえば安全かもしれない。こんな停電を起こす奴を身近に置いておくこともないしね。ねえ。なんでだい?』

「そんな分かり切ったことを聞くなよ。()()()()()()()()()()()に決まってるだろ?」

 

 その言葉にディーだけじゃなく他の幻想体達も何故か驚いたように感じる。……そんなに驚くことか?

 

「あのな。いずれは戻るにしたってそれまでの間何が起こるか分からない。俺はまだ持ち主だし他の幻想体も居るし少しは安全だとしてもだ。うっかりそれ以外の人がバッタリ会ってあの鋭いクチバシで突かれたり齧られたりしてみろ。痛いじゃすまないぞ! うっかり知らない内に何かやらかして俺の精神がゴリゴリ削られて死にそうになるぐらいなら、多少肉体的に無理してでもさっさと目の届くところに戻したいっての!」

 

 大前提として俺の安全第一なのは間違いない。しかしそれは身体の安全だけではなく精神の安全も含まれる。そこの所を上手くバランスを取ろうとしているだけの話だぞ。

 

『普通の人はそこまで他の人のことを気遣ったりはあんまり出来ないと思うんだけどねぇ』

『管理人よ。これからはまず自分の安全も視野に入れた方が良い』

『遊児お兄ちゃん。自分を大切にしないとダメだよ!』

 

 なんか皆からダメだしされたっ!? あとポンポンとテディが背中を擦ってくれるのがなんかかえって物悲しい。

 

「ま、まあともかくだ。まだなんにも起きていない内にさっさと行こう!」

 

 この話題はここまでにするべく、俺は一番最初に暗闇の中に足を踏み入れる。……よし。罪善さんの光が届く範囲であれば普通に歩けるな。

 

 俺一人じゃきついから、すまないけど皆におんぶにだっこで行かせてもらうのでよろしく!

 

 

 

 

 そうして暗闇の中の探索を始めて数分後、

 

「まいったな」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 といっても何も不思議なことじゃない。ただ単に俺が暗闇の中で足をとられ、少しその場で手間取っている間に他の皆とはぐれてしまっただけだ。おんぶにだっこで行くと考えてすぐにこの調子だよ!?

 

「罪善さん! ディー! 葬儀さん! レティシア! 誰でも良いから誰か居ないのか?」

 

 この状態で下手に動き回るのは悪手。なので動かずにその場で声を張り上げている訳だが、どういう訳か互いの声まで阻害されているようで周りは静かなものだ。

 

 ちなみに服のポケットに入れてあるデッキケースに触れながら呼びかけているのだが、マズいことにどうやらこの暗闇の中ではカードが有っても他の幻想体達との繋がりが薄くなるみたいだ。なくなってはいないけど、この暗闇の中じゃ互いに手さぐりで探すしかない。

 

「お~い! 皆どこにいるんだ~!」

 

 近くにいることは間違いない。なので少しでも声が聞こえるか姿さえ見えればそれで十分。俺は必死に声を上げ続け、

 

「……あれは?」

 

 突如視界の中にゆらゆらと光る何かが飛び込んできた。暗闇の中ではその輝きは思いっきり目立つ。

 

 おおっ! あれは罪善さんの光だな! 場所さえわかればこっちのものだ。あとはあの光へ向けて歩けばいい。今度は足を取られないよう慎重に、少しずつだけど着実にその光に向けて近づいていく。

 

 もう少し、あともう少しで皆と合流が……。

 

 この時の俺は焦って忘れていた。この暗闇の中、光を放つことのできるのは罪善さんだけではないことを。つまり、

 

「…………えっ!?」

 

 光に辿り着いた俺が見たものは、暗闇の中でも変わらず光り輝くランタンを翳してこちらを凝視する、数十の瞳を真っ赤に染めた大鳥の姿だった。

 





 大鳥の暗闇による繋がりの阻害は完全に独自設定です。こうかもしれない程度に思っていただければ。

 次回も三日後投稿予定です。

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