マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 暗い森の中、大鳥に睨まれる遊児。わりと絶体絶命な気がします。


十代へのカミングアウト その六

 

 俺の頬にたらりと冷や汗が流れる。

 

 視界には数十はある瞳を真っ赤に染めてこちらを凝視している大鳥。明らかに興奮状態だ。

 

 対してこちらは頼りになる幻想体とはぐれてたった一人の完全に無防備状態。()()()()()()()()()()()()()

 

 大鳥が居てこのまま行くのは危険だと頭では分かっているのに、誘蛾灯に吸い寄せられる虫のように足が光の方へ勝手に向かっていく。……何か変だ。よく分からないのだがぼんやりする。

 

 あと数歩。あと数歩で大鳥の手どころかクチバシすら届く距離。だけど足はまだ勝手にランタンの光に向かっていこうとし……。

 

「……熱っ!?」

 

 突如胸からの熱でぼんやりしていた意識がはっきりとする。そこにあったのは、以前ディーがチュートリアルデュエルの時にプレゼントとしてくれた、罪善さんの顔と翼のような意匠を彫り込んだ剣の形のペンダント。それが熱く、そして僅かにこの暗闇の中でも光を放っていた。

 

 なんだかんだデザインも気に入って今までずっと着けていたが、それが急に大鳥のランタンとは違う光と熱を放つとは知らなかった。だけど、()()()()()()()()()

 

 俺がギリギリで踏みとどまったのを見て、大鳥はほんの少しだけ驚いた様子で再びランタンを翳す。だけど、

 

「もうその光は効かないぜ。……こっちにだって明かりはあるからな!」

 

 俺は不敵に笑いながら、少し熱いがこっちもペンダントを軽く持って翳してみる。大鳥のランタンから放たれるどこか人を誘う怪しい光とは違い、こちらの光はただここに在ることを示す光。

 

 だけどそれを見ていると、どこか暗闇の中で不安定だった自己が安定してくるのを感じる確かな光。

 

 そしてしばらく互いに光を出し合っていると、さっきまで俺を凝視していた大鳥の真っ赤に染まっていた瞳が、急に最初に会った時と同じく黄色に戻っていた。どうやら落ち着いたらしい。というよりこれは、相手が俺だと気が付いたって感じか。

 

 まあひとまず落ち着いたのなら後は対話だ。言葉を発することが出来なくても、意思の疎通を図る方法は幾つもある。

 

 俺はペンダントの光を頼りに腰を下ろせそうな場所を見つけると、そこに座り込んではぁ~っと大きく息を吐いた。どうせ襲い掛かられたら逃げ場はないし、さっきも今も走り回って流石にクタクタだ。対話くらいは楽な体勢でしたい。

 

「ようし。……さてと。じゃあここからは話し合いといこうか」

 

 ここまで来たら腹をくくれ俺! 黄色の目のままこちらを見据える幾つもの目を前に、俺はせいいっぱいの笑みを浮かべてそう言った。

 

 

 

 

「ふ~っ。なるほど。少しは分かったよ」

 

 大鳥への簡単な聞き取りを終えて、俺はよいしょっと力を入れて立ち上がる。

 

 話こそできないが大鳥は知能自体は高く、質問の答えをはいかいいえくらいなら普通に首を振ることで応答できた。しかし時間はそれなりにかかり、他の幻想体達が心配していることは間違いない。

 

 かと言って大鳥はまだしばらくこの森から離れそうにない。大鳥がここに来た目的がまだ果たされていないからだ。

 

 おまけに他の皆とは話している間もまだ合流できていない。それだけこの暗闇の阻害効果が強力ということだろうか?

 

「なあ。そっちの事情は何となく把握したから、ひとまずこの暗闇だけは何とかしてくれないか? この暗闇の中でこそそのランタンの力が最大限発揮できるのは分かるけど、せめて他の皆と合流するまでは収めてほしい」

 

 大鳥はコクンと頷き、()()()()()()()()()()()()()()()()()。臨戦態勢っ!? つまりこれは!?

 

 そのまま大鳥は、人間の頭など簡単に噛み千切れるであろう鋭い牙が内側に生えたクチバシを俺の方に向けて大きく開き、

 

「危ないっ!?」

 

 次の瞬間、俺の身体に横から強い衝撃が来て吹き飛ばされた。どうやら誰かに抱きつくようにタックルされたらしい。俺とその誰かは暗闇の中ゴロゴロと転がり、そのまま少ししてやっと止まる。

 

「あいたたたぁっ!? ……なんだよ急に?」

 

 タックルをかましてきた奴に文句を言ってやろうとその相手を見ると、

 

「大丈夫だったか遊児?」

「十代? 十代じゃないか!?」

 

 なんと、俺の腰の辺りにダイレクトアタックを決めてきたのは、先ほど寮に残ったはずの十代だった。なんでこんな所に?

 

「へへっ! あの後大徳寺先生を何とか誤魔化してよ。介抱して先生の部屋に連れて行って、その足でハネクリボーを頼りにお前を追ってきたのさ」

 

 そう得意そうに鼻を擦りながら語る十代。よくあの状況を誤魔化せたなと少し感心する。見ればハネクリボーも十代の近くに浮かんでいて、ハネクリボーの光も罪善さんと同じくこの暗闇の中をはっきり照らしていた。

 

「それで追いかけている内に森の中が妙に真っ暗になってよ。これがさっき部屋で言ってた大鳥の能力かと当たりを付けて、ハネクリボーと一緒に探し回ってたらこれだもんな。大鳥に遊児がガブリといかれると思って、慌てて助け出したってわけだ」

 

 そう言うと十代は、俺の前に立って大鳥の方を強く見据える。

 

「やい大鳥。よくも俺の仲間に手を出してくれたな! 今度は俺と勝負だ」

 

 クリクリ~。

 

 左腕のデュエルディスクを展開し、相棒(ハネクリボー)と共に勇ましく大鳥に挑む十代。その背中はまさしく将来皆の希望を背負って立つヒーローの物……なのだが。

 

「ちょっ!? ちょっと待った十代! 誤解だ。大鳥は俺を狙ったんじゃ……危ない十代っ!」

 

 この一瞬、完全に十代とハネクリボーの意識は大鳥に向かっていて、俺が()()に気づいたのは十代の後ろから見ていたためだった。

 

 それは死角から飛び出して格好の獲物である十代に襲い掛かった。頼みのハネクリボーはちょうど十代を挟んだ反対側。迎撃しようにも割り込もうにも肝心の十代が邪魔になる。

 

 そしてそれの接近に十代が気づく時にはもう遅く、それは獲物(十代)へと手を伸ばし、

 

 

 

 ガブッッ!!

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!? ……えっ!?」

「十代! こっちだ!」

 

 俺は目の前で起きた出来事に呆然としている十代を引っ張り、大鳥の()()()走り込む。今大鳥の前に居ると巻き添えを食いかねないからな。ハネクリボーも慌てて十代を護るように追ってくる。

 

 グルルルル。

 

 大鳥は嚙み千切られて粒子のように消えていくそれを一瞥すると、低い唸り声を上げながら先ほどのように自分のランタンを翳した。するとランタンからまた揺らめくように妖しい光が放たれ周囲を照らす。

 

「何だ? この光? なんだか吸い寄せられそうに」

「十代行くなよ! ハネクリボー! 光の出力を上げて十代を護れ!」

 

 なんか目が虚ろになっている十代を掴んで引っ張りながら、俺も胸元のペンダントの熱を頼りに意識を保つ。そしてハネクリボーが自身から出る光を強くすると、十代の虚ろだった目がだんだんシャキッとしてきた。これなら大丈夫だろう。

 

「うおっ!? なんか今意識が飛んでた!」

「気を付けろよ。この暗闇の中で大鳥のランタンの光を見ると、そのままフラ~っと吸い寄せられてしまうんだ。そして最後は意識のないままさっきみたいにガブリだ」

 

 十代はさっきの光景を思い出したのは少し顔を青ざめさせる。

 

「それにしても遊児。今さっき大鳥にやられた奴。あれって前に特待生寮で見た」

「ああ。俺はあれを良くないモノって呼んでる。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう。さっき十代を襲ったのは、今日も特待生寮でみた良くないモノ。最初から大鳥は良くないモノを仕留めるためにここに来たらしい。

 

「良くないモノは元々特待生寮の奥に溜まっていたが、今日遂に限界を迎えたらしく寮の外に溢れ出してしまったんだ。今日俺が幻想体達と一緒にあらかた倒したはずだったんだけど、どうやら討ち洩らしが居たらしい」

「俺との待ち合わせに遅れたのはそれが原因か!? そういうことならなんで俺を呼ばなかったんだよ?」

「話をするために約束したすぐ後に分かったからしょうがないだろ! ……続けるぞ。討ち洩らした良くないモノは特待生寮から出てこの森に潜んだ。だけどそれが大鳥の逆鱗に触れた」

 

 さっき大鳥と対話してどうにか理解できたのは、大鳥は何故かこの森に対して強い縄張り意識のようなものを持っているということだった。森の秩序を守ろうとしている……と言い換えても良いかもしれない。

 

 大鳥が俺の部屋で精霊化した時、話の途中で大鳥は外に向かって赤い瞳の臨戦態勢を取っていた。それは良くないモノがこの森に居ることを察知したからだ。

 

「良くないモノが居ることでこの森の秩序が乱れると考えたんだろうな。大鳥はそれを何とかすべくこの森に踏み込んだ。だけど森は広いから、普通に探したんじゃ良くないモノを見つけるのは難しい。だからこの暗闇を展開したんだ。()()()()()()()()()()()()()()

 

 さっき俺や十代がそうだったように、この暗闇の中では皆大鳥のランタンに吸い寄せられる。森の獣が全然吸い寄せられていないのを見ると、元々この森に棲んでいるモノは対象外といった所か。

 

「そして吸い寄せられた奴を凝視して確認し、それだと判断した瞬間ガブリってか? でもそれならなんで今もまだ続けてるんだ? その良くないモノは今……やっつけただろ?」

「ああ。一体はな。だけどあの一体だけとは限らないだろ」

 

 俺の言葉に追随するかのように、ランタンの光に誘われて出るわ出るわ。良くないモノがそこら中から現れる。その数目に見えるだけでも十体以上。普通なら俺や十代だけでは切り抜けるだけでも一苦労だろう。だが、

 

 グルアアア! ガブッ! グシュアッ!

 

 それはまさしく蹂躙だった。たかが良くないモノの十体やそこらでWAWクラスの幻想体が止められるはずもなく、大鳥がそのクチバシを開いて閉じる度に良くないモノ達は数を減らしていく。

 

「何かここまで一方的だと相手の方が可哀そうになってくるな」

「ああ。……これ俺達最初から大鳥を追っかけなくても良かったんじゃねえかな」

「……かもしれない」

 

 まあそれは結果論であり、たとえ大鳥のやろうとしていることが分かっていたとしても追いかけたとは思うけどな。やっぱり気になるし、放ってはおけないから。

 

『……~い!』

 

 ……ん!? 今聞き覚えのある声が聞こえた気が。

 

『お~い! 久城く~ん! どこだ~い?』

『管理人! どこだ? 聞こえたら返事をしてくれ!』

『遊児お兄ちゃ~ん! どこ行ったの~っ!』

 

 大鳥のランタンに誘われたのか、それともハネクリボーの光を見たからか。声が聞こえた方向を見ると、少し離れた所に罪善さんとディーを先頭に幻想体達が俺を探しているのが見えた。

 

「おい! どうやら迎えが来たみたいだぜ!」

「そうだな。じゃあ早いとこ帰……れるのかなこれ?」

 

 グルアアア!

 

 まだ良くないモノを蹂躙している大鳥を見て、俺は知らず知らずのうちに額を押さえていた。

 

 

 

 

 夜明けが来るまではまだ少しかかりそうだ。

 





 最後は力技で解決でした。

 ここでの大鳥は原作の大鳥とは少し違い、歪んで“怪物”に成り果てる一歩手前をイメージしています。まだ森の守護者時代ですね。

 なので対象を凝視した後相手によっては見逃したりもするわけです。遊児が助かったのはそれが大きな理由ですね。もちろん持ち主だと認識したこともありますが。

 次回はこの事態の簡単な締めに入ります。投稿は明後日予定ですね。

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