マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
何か原作と矛盾するような行動をしても、この大鳥は本体の影法師ということで、そういうこともあるかもしれないと温かい目で見守っていただければ幸いです。
俺達はオシリスレッド寮へ戻るべく森の中を歩いていた。
まだ大鳥の展開する暗闇の中ではあるが、大鳥自身がランタンを翳しながら先導してくれているのではぐれる心配はない。ただ吸い寄せられる方に行けばいいのだ。
まあ俺というはぐれた本人が言っても説得力が薄いので、一応念のため罪善さんとハネクリボーが最後尾から見守りながらだが。ディーの奴はまた十代を避けるように姿を消しているな。
あと実体化したテディが、さっきから俺と手を繋いだまま歩いているのは何とかならないだろうか? ここまで来るとテディが寂しいからなのか俺が心配だからなのか分からないぞ。うっかり力を入れて俺の手をグシャってしないでね。
葬儀さんは何も言わず俺の横を精霊状態で浮遊している。……ただ多分これは俺が疲れているからであって、疲れが取れたら即お説教の時間ですって感じなんだよな。歩きながらそんなことを考える。
……いや、正確には俺は歩いていない。何故ならば、俺は今大鳥の背に乗っているからだ。
完全に力を抜いて仰向けにおぶさり、ズシンズシンと結構大きい大鳥の足音を聞いていると、疲れも溜まっているからかついウトウトとしてしまう。
「なあ遊児。今度は俺も乗せてくれるよう頼んでくれよ!」
「止めといた方が良いと思うぞ。見た目の割に全然柔らかくないし、どちらかというと触り心地はざらついているっていうかゴワゴワって感じだ。俺は自分で動くのもきついくらい疲れているから乗せてもらってるけど、十代には合わないって」
十代が乗っている俺を羨ましそうに見ているのでそう返してやる。十代は試しに少し手のひらを当てて「うわっ!? ホントになんかざらついてる!」と驚いていた。大鳥は見た目は黒い毛玉みたいなのにな。
グルルルル。
「ああゴメンゴメン! 乗せてもらってる身で文句なんか言うもんじゃないよな。悪かったよ!」
大鳥が憤慨するように軽く唸り声を上げるので、俺は慌てて顔を上げて謝る。大鳥は一声鳴くと、また足音を立てながら前進を再開した。
『私ゴワゴワしてても平気だよ! ちょっとだけ乗せてね大鳥さん! えいっ!』
そこでレティシアが急に実体化して、おぶさっている俺の横にちょこんと座った。定期的な揺れにキャッキャと笑っているところを見ると、案外アトラクションか何かのような感覚なのかもしれない。
大鳥はこのくらいの重さならどうってこともないらしく、足取りはさっきとまるで変わらない。
「それにしても、大鳥が森の外まで乗せて行ってくれるって提案するとは意外だったよな」
「良くないモノ退治が一段落着いたからさ。……まあ大鳥自身はこの森に残るみたいだけどな」
あの蹂躙劇は夜通し続き、一体何体良くないモノを倒したのかよく覚えていない。途中で相手の増援が来た時は驚いたが、こっちの罪善さんと葬儀さんのコンビが加勢したので結局良くないモノの結末は変わらなかったと言える。
俺? 俺は見てるだけ。十代もハネクリボーに指示を出して頑張っていたけど、俺はもうホント疲れたから休ませてもらった。
途中一、二体俺にも襲ってきたが、そこはテディとレティシアが返り討ちにしてた。テディが強いのはよく知っていたが、レティシアも戦闘になると手のひらサイズのハートみたいな球を投げつけて普通に戦えていたのは驚きだ。……ぬいぐるみと女の子に守られるとはなんか自分が情けない。
そうして一通り倒したは良いのだが、この前のことを考えるとまた寮から良くないモノが溢れ出してもおかしくない。幻想体達なら撃退できるが、普通の生徒が万が一出くわしたら大変だ。
その度にこんな大立ち回りをするのかと最初は憂鬱になったが、そこに立候補したのが大鳥だった。
「大鳥がこの森を巡回することで、出てきた良くないモノを倒しつつ迷い込んだ一般人を森の外へ連れ出すか。……大丈夫なのかそれ?」
「正直少し不安だな。だけど大鳥自身がやる気みたいだし、あんまりこの森から離れたくないみたいなんだよな。それに力尽くで大鳥を止められるか?」
「それは…………キツいんじゃないかな?」
それを聞いた十代は少し考えて、苦笑しながら答えを出す。
あの蹂躙の様を見た俺と十代だから言えるが、森の外でならともかく森の中、おまけにこの暗闇の中は完全に大鳥のテリトリー。そんな場所で大鳥と戦うのは危険極まりない。むしろこっちがズタボロにされるのがオチだ。
エネルギーの方は常に実体化していなければそこまで問題はないし、定期的に俺の持っているカードに戻る必要はあるが逆に言えば制限はそれだけだ。
無理やり言うことを聞かすのはどう考えても悪手。なら幸い本人(本鳥?)がやりたがっているのだからやらせた方が良い。絶対に一般人に危害を加えないということだけ守ってくれればあとは自由にさせよう。
「なあ遊児。……あの良くないモノって、結局何なんだろうな?」
そんなこんなで歩き続けていると、ふと思いついたように十代はこんなことを言い出した。
「さあな。俺にも分からない。だけど以前俺の知り合いと話をしたら、あれは人の罪の形じゃないかって話が出た。詳しくは教えてくれなかったけど、人の手によって生まれたんじゃないかって」
「あんなのがか? ……俺にはよく分かんねぇけど、あんなのが出来るなんて普通じゃねえな」
十代は両手を頭の後ろで組みながら、何か思案しているようだった。実際昔あの寮で何があったのかは分からない。だけど十代の言う通り、ただ事でないことがあそこで有ったのだろう。
もういっそのこと寮を解体した方が良いんじゃないかと思うのだが、そうしないってことは学園側にも何かしら理由があるのかもしれない。
「まあとにかくだ。これからはあそこにはあんまり近づかないってのが一番だな。十代も知り合いが近づこうとしたらそれとなく注意するぐらいはした方が良い」
「……あ~。まあ一応言うだけ言っておくよ」
なんか十代が含みのある言い方をしたな。まさかあんなとこにほいほい行くような友人でもいるのか? 言っとくがもう俺は疲れたから行きたくないぞ。
そのまま進み続けてしばらく。遂に大鳥が立ち止まって俺に降りるように促す。どうやらここまでみたいだな。レティシアを含めた幻想体達もそこで再び精霊化し、俺も寝ぼけ眼でゆっくりと地面に降りる。
「……っと。さっきのこともそうだけど、ここまで乗せてくれて助かったよ。ありがとうな」
俺は大鳥に礼を言うと、軽く背中の部分を撫でてやる。ふっふっふ! 俺もただここまでおぶさっていたわけじゃない。ここを撫でられると少し気持ちよさそうにしていたのは分かってるんだぞ!
すると大鳥は少しだけ、
暗闇の中でチラチラと揺れるランタンの光が小さくなっていき、そのまま完全に見えなくなった頃、
「……おっ!? いつの間にか日が出てるぜ!」
「ああ。眩しいな」
それまで真っ暗闇だったのに、急に日が差してきた。どうやら大鳥の暗闇の中に居たから日が出ていることに気が付かなかったらしい。大鳥から離れたことで暗闇の効果が消えてきたのだろう。
どうやらやっとこの長い夜が終わり、夜明けを迎えることが出来たようだ。
「……んっ!? 夜明けってことは……マズイっ!? 急いで戻らないと寝る時間もないぞ!」
「ヤバいっ! 急いで帰るぞっ! 走れっ!」
ああもう。なんでこうこの特待生寮絡みになると毎回朝帰りになるんだか。森さえ抜ければあとは道なりに走るのみ。疲れた身体に鞭を打ち、俺達は寮に向けて猛ダッシュする。
「なあ遊児」
「……はぁ……はぁ……何だ?」
「最初からいきなり大冒険だったけどさ。だからって俺に遠慮なんかするなよな」
十代は走りながらにも拘らず、あまり疲れを感じさせない顔で俺にニィッと笑いかけた。
「これからもこういうことがあったら言えよ! 友達なんだから!」
「……ああ! 言われずとも……はぁ。手が足らなくなったら頼らせてもらうから覚悟しろよ。あと……そっちも何かあったら言えよな」
まったく。これだから主人公ってやつは。だけどこれだからこそ、十代に惹かれる奴も多いのかもしれないな。
そうして俺達は何とかオシリスレッド寮まで戻り、授業に間に合うギリギリまで束の間の安眠を貪ったのだった。
数日後、
「え~っと。これが今回の調査結果か」
俺は自分の部屋で、高寺オカルトブラザーズが集めてきてくれたこの学園の怪談や噂話に目を通していた。
現地には行かせていないので基本的に表面上のものばかりではあるけれど、相変わらずよく集めたなと感心するレベルの数だ。もうその道に進んだ方が大成するんじゃないだろうか?
『と言っても、大半は元々あった話が脚色されたり話し手が変わった程度のものが多いね。ここ最近で新しく増えたものは少なそうだ』
「まあそれは仕方ないけどな。あと勝手に見るんじゃないよディー!」
『あらら。最近冷たいったらありゃしないね』
肝心な時にどこかに行くくせして、どうでもいい時に限って現れる奴にはこんなもんだ。堂々と俺の顔の横に出現して覗いてくるディーを手で払い、俺は改めて書類を読み込んでいく。そして、
「……おぅっ!」
ここ最近で新しく出てきた噂話の欄に目を通していた時、ある文章を見てつい変な声が出てしまった。
『どれどれ? …………アッハッハッハ。これはまた何とも』
「笑い事じゃないっての! ……はぁ。まさかこうなるとはな」
そこに載っていたのは、怪談とも言えない極々小さな噂話。
一人の生徒が面白半分に夜に度胸試しに森へ行き、近道をしようとしてうっかり道に迷ったという馬鹿な話。
道も分からず明かりも落とし、ただ暗い森を彷徨う中、ついに疲れ果てて座り込んでしまうその生徒。
だんだんと意識が薄れていく直前にその生徒が見たのは、自分に飛びかかろうとした黒くてドロドロした不定形の何かと、その何かを噛み千切ってこちらを凝視するさらに真っ黒な毛玉のような怪物の姿。
そして生徒が次に気が付いた時には、いつの間にか朝になっていて森の入り口に倒れていたという。
その生徒は朧気ながら夢の中で、その怪物の背に揺られていたらしい。その毛玉のような見た目に似つかわしくない、どこかざらついた背中に。
文の最後はこう締めくくられている。
『この暗い森のどこかには居るのかもしれない。片手にランタンを提げ、その幾つもの瞳で森を見回る、大きくて黒い
大鳥編完結です。
カードとしてはまだ出ていないので詳しい説明は控えますが、原作での相手の殺害=救済という考えを持っていないので少し丸くなった大鳥です。
というより、人を襲う怪物が本当にいるので自分が怪物に成り果てる必要がなかったというべきかもしれませんが。単純にその怪物を何とかすれば良いだけなので。
次回は三日後投稿予定です。