マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

58 / 235
代表決定戦と怪しい男 その一

 

 ある日の事。授業がもうすぐ終わるという時、

 

「へっ!? 俺っ?」

「そうなのにゃ! 三沢君とデュエルして、勝った方がノース校とのデュエルに出場できるのにゃ!」

 

 その大徳寺先生の言葉に教室内の生徒は皆騒然となった。当然渦中の二人である十代と三沢もだ。

 

 これまでにあった大徳寺先生の話を要約するとこうなる。まず近々行われるここの姉妹校であるノース校との友好デュエル。こちらの代表は去年と同じくカイザーが務めることになっていた。

 

 だがノース校側からの連絡で、向こうの代表が一年生であることが判明。ならばこちらも一年生で行くという流れになってしまったという。

 

 いやなんでだよっ!? 相手が一年生で来るならこっちはそのままカイザーに任せて勝ちをもぎ取ればいいじゃんっ!? あとこんな急に代表を変えられたら、ほぼとはいえ確定だったカイザーの立つ瀬がない。ここはホントにカイザーは怒っても良かったと思う。

 

 ただまあそこはカイザー自身が了承したので良しとする。問題は代わりの代表として生徒の選抜だ。だがそこで驚くべきことに、カイザーはなんと自身の後釜に十代を指名したというのだ。

 

 当然ひと悶着あった。十代はオシリスレッドの所属。このランク重視の学園において最底辺の生徒だ。普通なら代表など許されるはずもない。しかしその提案を、他ならぬ鮫島校長が同意したというのだからたまらない。

 

 これに異を唱えたのは十代を目の敵にしているクロノス先生。それはまだ仕方ないのだが、なんとクロノス先生ときたら代わりに三沢を推薦し、互いに戦わせ勝った方を代表とするべきと提案した。

 

 結局他に代案はなく、こうしてこのタイミングで大徳寺先生が二人が一緒に居るから丁度良いとばかりにそのことを話したというのが事の顛末だ。

 

 まあ色々と言いたいことはある。最たることは、そんな大事なことをなんで()()()するかなぁっ!?

 

 いきなり明日代表をかけた大一番とか生徒の都合を考えろよ全く! と突っ込みたい所ではある。しかし、

 

「へへっ!」

「……ふっ!」

 

 顔を見合わせて互いにやる気に満ちた笑顔を向けあう十代と三沢を見ると、そうそう野暮なことを言えなくなるから困ってしまう。個人的にこの二人の戦いも見たいしな。

 

「良いデュエルを期待してるのにゃ」

 

 そう大徳寺先生が言ったのを最後に授業は終わり、生徒達はそれぞれ思い思いに教室を出ていく。……ただ、

 

「なんで、なんであんな奴が候補に」

「どう考えたってレッドの奴なんかより、俺達ブルーの生徒が選ばれるべきだろう」

 

 そんな言葉が聞こえたのはおそらく空耳じゃない。三沢はまだラーイエローのトップだから良いが、十代を恨めしそうに見ていた奴は何人か居たしな。だが知らぬは本人とその友達ばかりなりだ。何事もなければ良いんだけどな。

 

「凄いよアニキ! 学園の代表なんて!」

「今までオシリスレッドから、代表が選ばれたことは無いんだな!」

「ということはうまくすれば快挙だな十代。頑張れよ!」

 

 十代の所に翔と隼人が駆け寄っていく。まあ俺もだが。事情はどうあれ十代にとってはチャンスだからな。それはとても喜ばしいことだ。

 

「えへへ……案外早く戦う機会が来たな」

 

 十代の後半の言葉は上の段に居た三沢にあてたものだ。三沢は階段を下りて十代に向き合う。これは相手を格下などではなく、本気でぶつかる対等の相手としての振る舞い。

 

「ああ。あれから俺は日夜研究を続けている。お前のE・HEROデッキに対抗できる七番目のデッキを」

「出来たのか!」

「いや。だが、デュエルまでには間に合わせるさ」

「楽しみにしてるぜ!」

 

 軽く互いに拳をぶつけ合わせると、三沢はそのまま教室を出て行った。さっそくその新デッキを完成させるために行ったのだろう。

 

「七番目のデッキ。一体どんなんだろ?」

「これは凄いデュエルになりそうな予感がするぞ」

「十代。ここは気合を入れないとな。調整には俺も付き合うぜ。翔や隼人もそうだろ?」

 

 二人も力強く頷いたのを見て、十代はますますやる気が漲ったようだ。

 

「助かるぜ皆! ありがとうな! よし。早速帰ってデッキの調整だ!」

「「「おう!」」」

 

 これは面白くなってきた! どっちが勝つにせよ、ぜひとも二人には良い勝負をしてほしい所だ。

 

 

 

 

 と意気込んでいたのだが、帰り道に思わぬトラブルにぶち当たった。通路を歩いていたら、一人のオシリスレッドの生徒()()()人がブルーやイエローの生徒にすげなく扱われているのが見えたのだ。

 

 らしきというのは、やけにその生徒が年をくっていたからだ。見た所三十くらい。下手をしたら三十後半かもしれない。むしろ教師と言われた方がまだ自然なくらいだ。

 

 そのあからさまに怪しい人を前にして、

 

「なあアンタ? ……分かった! おっさん万年落第生だろ?」

 

 オイィィっ!? 何やってんだ十代!? いきなりそんな怪しい人に話しかけ、あまつさえそんな失礼なことを!? 向こうもいきなりおっさんと言われたことに目を白黒させる。

 

「お、おっさん!?」

「良いって良いって! 分かってる。頑張ればそのうち進級できるさ。諦めるなよ! ……さあ寮に帰ろうぜ!」

「ちょっ!? ちょっと待て十代」

 

 なんと十代はそのままその人の手を掴み、オシリスレッド寮に連れて行こうとしたのだ。流石にそれはマズいので一声かける。

 

「こんな人に構ってる場合じゃないだろう! 急いで戻って明日のためのデッキ調整をするんじゃなかったのか?」

「な~にこれからどのみち寮に戻るんだからついでだよついで! それにまずは腹ごしらえもしなくちゃな! 寮に着いたら飯にしようぜ!」

「あっ!? アニキ待ってよ~」

 

 そのまま走り出した十代を止めることが出来ず、ついには寮まで辿り着いて一緒に夕食を食べることになってしまった。……前から思うが、十代はこういう時の感覚がどこかズレている気がするな。

 

「美味ぇ~!」

「ここのご飯をそんだけ美味しそうに食べるのはアニキと久城君だけだよ」

 

 翔はそう言うが、ここのご飯は普通に美味いと思うんだけどな。まあ焼いたメザシにご飯とみそ汁、そして漬物のみというのはやや質素ではあると思うが。……それよりも、

 

「隼人。あの人知ってるか?」

「いいや。俺も何年もこの寮に居るけど見たことはないんだな」

 

 食べながら国崎康介と名乗ったこの人のことをこっそり尋ねるが、やはり隼人も見覚えはないという。……となると生徒のフリをしているってことか。別にここで問いただしても良いんだが、

 

「い、いただきます」

 

 良く分かっていないながらももしゃもしゃとご飯を食べるこの人を見ると、どうにもそんな気が失せてくる。……まあまがりなりにも同じ釜の飯を食った仲になったわけだし、もう少し様子を見るとするか。

 

 

 

 

 夕飯を食べ終わり、十代達の部屋にて俺達、おまけに国崎さんも合わせて十代のデッキ調整を見守ることに。十代が真剣そうにカードを並べていく様は、見ててこちらも緊張するな。

 

「う~ん……やっぱこれが良いや!」

 

 そう言って十代がデッキ調整を終了する。だが、

 

「十代。良いのかそれで? ほとんど前と変わっていないようだけど?」

「ああ。三沢がどんなデッキで来ようと、俺はこいつらを信じる」

 

 カードを揃え始める十代の顔には気負いも乱れも感じられなかった。それは自分のデッキを信じているからこその言葉。……毎日のようにデッキを見直している俺とはまるで違う。少し羨ましいな。

 

「……そっか」

「アニキらしいっすね!」

 

 翔の言葉に隼人もうんうんと頷く。そして国崎さんは、それをどこか冷めた様子で見つめていた。だけど、たまたま少し遠くに置かれていたカードの一枚を手に取ると少し顔色が変わる。

 

 それは『摩天楼 -スカイスクレイパー-』のカード。どこか外国を思わせるビル群のイラストを見て、国崎さんに浮かんだのはどこか懐かしいような、それで苦い思い出を嚙み締めるような、そんな表情だった。

 

「おっさん? どうした?」

「おっさん言うな! 俺は国崎だっての!」

「ああ悪い悪い! 国崎さんってどこかおっさんっぽくてな。……スカイスクレイパーか。国崎さんも好きなのか?」

 

 十代はなんとなしに興味本位で聞いたのだろうが、それを聞いた国崎さんの顔が少し曇る。

 

「俺は……デュエルなんて好きじゃない」

「えっ!? じゃあどうしてデュエルアカデミアに?」

「ああ。いや、その。落第ばっかりで楽しくないなあとか」

 

 翔の疑問に明らかに誤魔化そうとして動揺する国崎さんだが、それを聞いて隼人がピクッと反応する。

 

「ああ。その気持ち俺には分かるんだな。俺も自分はダメなんだって諦めてたから。でも、十代や遊児、皆のデュエルを見ているうちに、俺もまたやりたいって思うようになったんだ」

「隼人……」

 

 そうだった。隼人もただデュエルで勝つことだけを強要される毎日に嫌気が差して、いつの間にかやる気をなくしてたんだった。……やっぱデュエルは楽しむもんだよな。もちろん負けられない戦いってのはあるだろうけど、それが全てじゃないはずだ。

 

「そうだよ! 国崎さんもアニキのデュエルを見たらきっとワクワクするよ。丁度明日学園代表決定デュエルがあるし」

「あ、ああ。……なあ。ところで噂で聞いたんだけど、学園の生徒が行方不明になってるってほんとかなぁ?」

 

 国崎さんはまた冷めたような表情に戻っていたが、急に何を思ったのかそんなことを聞いてきた。行方不明とはまた物騒な。……だけど確かそれって。

 

「行方不明? 幽霊寮のことかな? ……あっ!?」

「幽霊寮?」

 

 十代がマズいことを言ったとばかりに口元を押さえる。それもそのはず、別名幽霊寮ことこの前行った特待生寮は、大徳寺先生曰く何人もの生徒が行方不明になったという話だ。

 

 行方不明云々の真偽はさておいて、今あの寮は時折良くないモノが出現する危険地帯。大鳥が近くの森で見回っているとはいえ、そうホイホイ近づいたら危ない。

 

「いやあ詳しいことは分からないけど。へへっ!」

 

 十代もそのことに思い当たったのか誤魔化そうとするが、国崎さんはその言葉を聞いて僅かに瞳の奥をぎらつかせる。……これはちょっとマズいかもしれないな。

 

 カタカタ。カタカタ!

 

「……んっ!?」

 

 耳に馴染みのある骨の鳴る音。ふと横を見ると、罪善さんが急に半透明の状態で俺の横に現れていた。十代もそれに気が付いて一瞬驚くが、そこは流石にハネクリボーで慣れているのかすぐに平静を保つ。

 

 何だろうかと罪善さんが顎で指す方を見ると、窓の外にディーの光球が一瞬チカッと瞬いた。……ディーの奴め。十代が居て部屋に出られないから代わりに罪善さんに頼んだな。

 

「ああ。そういえばちょっと野暮用を思い出した。悪いけど俺は先に部屋に戻るわ。皆も早めに休んでおけよ。……特に十代。明日はお前が主役なんだから、しっかり寝て体調を整えとかないとな」

「えっ!? もう戻っちゃうんすか? ……でもまあ確かに明日に備えて早めに寝ておいた方が良いかもしれないっすね」

「分かったんだな! お休み遊児!」

 

 翔と隼人はそれぞれ軽く手を振ってくる。国崎さんは「ああ。お休み」とどこか気のない返事をするのみだった。頼むから何もやらかさないでくれよ。そして、

 

「遊児。……大丈夫か?」

「ああ。手が足らなくなるようだったらこっちから頼むから心配すんな。……お休み」

 

 十代が心配するような声を上げるのを手で制し、俺はそのまま静かに部屋を出た。そして自分の部屋に戻り、そこで待ち構えていたディーに軽くため息を吐く。

 

「もう十代の前に姿を出しても良いんじゃないか? どうせ幻想体の一種とか言っても通じるぜ」

『どうだろうね。ああ見えて十代は意外と勘の良い所があるし、ハネクリボーが幻想体とは違うって勘づくことは十分考えられる。……まあここまで来たら、どこまで会わずにいられるかやってみたいというのもあるんだけどね』

 

 俺はそんな面倒くさいことを宣うディーに呆れを覚えて軽く目元を押さえる。それでいちいち代わりに仲介役で呼ばれる罪善さんはたまったもんじゃないだろうに。

 

 そっちも苦労するなと視線で語ると、罪善さんは軽く顔を横に振ってそんなでもないと返す。まったくもってディーより人格者だよ罪善さん。

 

「それで? わざわざ呼びつけるなんて何があった? 新しい幻想体の実体化の予兆はさっき確認したけどなかったぞ」

『いやいや。今回はそういうことじゃないよ』

 

 最初に予想したのはそれだったが、ディーはそれを否定する。それじゃああと考えられることと言ったら、

 

『これは正直言わなくてもすぐに分かることなんだけどね。心の準備をする時間くらいは先にあげておこうと思って。……ついさっき寮長室に、すごい剣幕で何人かのブルー生徒が乗り込んでいった所さ。そして』

 

 その言葉と共に、ドンドンドンと扉を乱暴にノックする音がする。

 

『もうすぐ()()()()()やってくるよ……って言おうとしたらもう来たね。君としてはもっと早く言えって怒る所かな?』

「いや。今回は怒らないさ。なんせ()()()()()()()からな」

 

 何の用かは知らないが、この部屋を目指していたってことは俺に用があるってことで間違いない。そして俺が居ないとなれば、俺の友人である十代達の部屋に探しに向かうのは自明の理だ。明日に備えて準備中の十代に厄介ごとを持ち込まれるわけにはいかない。

 

「さて、こんな夜に近所迷惑なことになる前に、さっさと話を付けるとするか」

 

 まあ、そう穏便に話し合いで済めばの話だけどな。俺は組み直したばかりのデッキを服に仕込み、さっきからノックの続く扉に歩き出した。

 





 遊児がデュエルのアップを始めました。原作遊戯王のくせに全然デュエル描写がないですからね。そろそろやっとかないと。

 次回の投稿はまた三日後予定です。……他作品の投稿もあって忙しいのですよ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。