マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 注意! この話では独自設定タグがかなり仕事します。


ジャーナリストとプロデュエリスト

 

「勝者。オシリスレッド遊城十代! おめでとう。君が我がデュエルアカデミアの代表だ」

「やった~! アニキ!」

「おめでとう!」

 

 鮫島校長の代表宣言を聞くや否や、翔と隼人がなんと観客席の柵を乗り越えて十代の下へ駆け寄る。俺と国崎さんの場所はやや高い場所にあるのでその手は使えない。普通に回っていくとするか。

 

「負けたぜ。また一から計算し直しだ。いつかお前を超える八番目のデッキを作れるようにな」

「おう! 楽しみにしてるぜ! ガッチャ!」

 

 そう対戦者同士でもどこか通じ合った会話をしている中、俺はどうせなら一緒に行こうと国崎さんを誘って通路へ出る。すると、

 

「待ちなさいっ! アナタ一体何者なの?」

「っと。どうやら俺をお呼びらしい」

 

 おっ!? 後ろから明日香に呼び止められた。いや。この場合はどちらかというと国崎さんの方かな。

 

 どうやら勝負で人の目が集まるのを逆手に取り、この場所に来るまで国崎さんもこっそり動いていたらしい。国崎さんは軽く振り向くと、両手をポケットに突っ込んで目を閉じる。

 

「俺も思い出した。昔はこれでもデュエリストを目指して、世界を渡り歩いたこともあったんだ。しかし世界の強豪達の前に敗れ、夢を捨てて、今じゃジャーナリストとは名ばかり。金になれば汚いことも平気でやった」

「……何を言って」

 

 急に始まった一見関係のなさそうな話に明日香は困惑する。俺もよく分からない。ただ、少なくとも国崎さんはふざけている訳でも誤魔化そうとしているわけでもなさそうだった。

 

「だけど、アイツらのデュエルを見て、アイツらがあれだけ熱くなれるデュエルを、夢を諦めて逃げ出した俺に取り上げる権利は無いって気づいた。そして俺も、もう一度やってみたくなった。……今度こそ、本気の正義の追求ってやつをさ」

 

 そこで国崎さんはポケットから、何かのチップのようなものを取り出した。どうやらこの学園で掴んだ情報を入れている物らしい。

 

「こいつを記事にするのはやめだ。だが、俺なりに真実を調べてみる。何かあったら知らせるよ」

 

 そうして軽く手を上げると、国崎さんはそのまま歩いていく。おっと。俺も行かなきゃ。

 

「まあそういうことらしい。少なくとも今の国崎さんは悪い人じゃないよ。……俺達は十代のお祝いに行くけど明日香はどうする?」

「…………そうね。あとで一度顔を見せに行くわ」

 

 まだ国崎さんに対して警戒しているようだけど、明日香も少し考えてそう返した。よし。それじゃあ国崎さんを追うとするか。

 

 

 

 

 その次の日の夜。オシリスレッドの食堂にて、レッドの生徒達は普段より数段豪華な夕食に目を輝かせながら、今か今かとその時を待ちわびていた。

 

 そして、いよいよその時を告げるために寮長である大徳寺先生が食堂に現れる。

 

「お待たせしましたにゃ~皆さん。あんまり長々と話すのもあれなので早速始めますかにゃ。ゴホン。……じゃあ、この度めでたく学園代表に選ばれた十代君を祝って、乾杯っ!」

「「「カンパ~イ!!!」」」

 

 大徳寺先生の音頭と共に、各自でジュースを高々と上げて一気に口に含み、そのまま各自でご馳走に食らいついた。

 

「ぷは~っ! やっぱり相変わらず美味ぇ~なこのジュース!」

「ホントホント。一体どこのメーカーなんだろうね?」

「いや、それは今は良いじゃないか。まあもっと飲め飲め! それと食べろ」

 

 翔が疑問に思い始めたので慌ててジュースのお代わりを出す。深く突っ込まれると面倒だからな。幻想体の事を知っている十代もナハハと誤魔化すように笑っている。

 

「だけど、よくこんなご馳走を用意できたな遊児。しかもレッド寮の全員分……ジュースの方は分かるんだけど」

「うん。すっごく美味いんだな!」

 

 夕食に十代も隼人も舌鼓を打っている。そんな大げさなことじゃないんだけどな。ジュースはウェルチアースに頼んで出してもらったから、手間はかかったけど出費はないんだよな。それに食事の方は、

 

「全部俺が用意したってわけじゃないさ。……まあちょっとした慰謝料代わりってやつだ」

 

 元々十代が勝ったことで何かお祝いしようと思っていたのだが、そこで先日の取巻達の事を思い出した。

 

 考えてみれば未遂で終わったとはいえ、取巻達のやろうとしたことは代表候補への妨害行為だ。クロノス先生が知ったら間違いなく大目玉。場合によっては処罰も考えられる。

 

 かと言ってこっちとしてもそこまで大事にしたくはない。個人的にはあれだけデュエルでぶっ飛ばしたからそれなりに気も晴れたし、下手に十代が知って気をまわされても面倒だ。

 

 なのでこのことを公にしない代わりに、大徳寺先生を通してアイツらには今回のパーティーに出費をしてもらった。と言っても食事は元々ブルー寮で出される物を格安で流しているだけで、多少パーティー用で量こそ多いが逆に言えばそれだけだ。

 

 元々支給DPの多いブルー生徒が何人かで割り勘すれば、そこまでの負担にはならない。クロノス先生にバレるよりはまだマシだと思う。実際その提案をしたら向こうはそれで了承したからな。丸く収まるようで何よりだ。

 

 ……ちなみに俺が大徳寺先生から貰う特別DPはまた別だ。これを聞いた大徳寺先生が苦笑いしてたがそれはそれ。これはこれだ。

 

「それにしても、国崎さんがまさかこの島を出ちゃうなんてね」

「まあな。だけど、家の事情じゃあな。隼人の時と違って本人の意思だし、それに昨日は島を出る前にお祝いに来てくれたじゃないか」

 

 国崎さんは昨日の夜に島を出立した。出来れば今日のパーティーに出席してほしかったが、あまり長くいるとマズいとのことだ。勝手に島に来ている訳だしな。

 

 なので昨日十代のデュエルが終わってすぐ、俺と一緒に祝いに行ってこの島を出ることを一緒に話している。ジャーナリスト云々はマズいので、あくまで家の都合で学校を辞めるという筋書きだ。

 

「そういえば十代。あの時国崎さんと何を話してたんだ? ちょっとの間二人で話してただろ」

「おう! 聞いてくれよ! 実は国崎のおっさんもHERO使いだったらしくてさ。使ってたカードの話で盛り上がったんだ!」

 

 えっ!? あの人もHERO使いだったの? ああ。だからスカイスクレイパーのカードを見てどこか色々と懐かしむような顔を。

 

「なんか知り合いにもHERO使いが居るらしくてさ。向こうの都合が合えばまたいつか一緒に顔を出すってよ」

「へぇ~。どんな人なんだろうな?」

「そこまでは聞けなかった。ただ国崎さん曰く()()()()()()()()()()H()E()R()O()使()()らしい。へへっ! どんな人かワクワクするな!」

 

 十代はそう言って楽しそうに笑っている。仲良くなって良かった。国崎さんもなんだかんだ十代のデュエルを見てどこかすっきりした顔をしていたしな。

 

「さて十代。代表に選ばれたけどそれはゴールじゃなくてあくまでもスタート。分かってるよな?」

「ああ。学園友好デュエルで向こうからどんな強い奴が出てくるのか今から楽しみだぜ!」

 

 わざわざ俺が釘を刺す必要もなかったな。十代は必要以上に緩むことも緊張することもない。普段通りの自然体だ。

 

「分かってるなら良いんだ。さあ! 今はこのパーティーを楽しもうぜ」

「おうよ! あっ!? 隼人! それ俺が目を付けてた奴っ!」

「早い者勝ちなんだな! それより早く食べないとなくなるぞ」

 

 隼人の言葉に周囲を見ると、もう全体の半分近くがなくなっている。これは食べ盛りの高校生の食いっぷりをちょっと甘く見ていたらしい。もっと用意しておけば良かったか。

 

「ヤベっ! こうしちゃいられねぇ。食うぞ~っ!」

「げっ!? アニキそれ僕の確保した奴っすよ!? 食べちゃダメっす~!?」

 

 さて。俺もこの仁義なき戦い(夕食)に参加するとしますか。待てよお前ら! 俺も食うぞ~!

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「……ふぅ。ここまで来ればもう追われることもないか」

 

 俺は力なく部屋のベッドに横たわり大きく息を吐いた。すっかり夜も更けてしまったな。

 

 ここまで来るのに相当な手間がかかった。デュエルアカデミアに潜入した時も難しかったが、脱出も当然同じくらいに難しい。

 

 泳いで出るのは海流の関係で出来ず、今回は定期船に密航するという手段を取った。乗客自体はそこそこ居るがチェックが厳しく、常に隠れながらだったので本土に辿り着くまで気が休まらなかったのだ。

 

 念のため尾行やなんかが着いていないことを確認し、デュエルアカデミアに行く前に予約しておいた宿に入ってやっと落ち着ける。

 

「……やれやれ。今回は完全な赤字だぜ」

 

 俺はポケットのチップを軽く手のひらで弄ぶ。

 

 特ダネらしきものは手に入ったが、これを記事にするのは憚られる。以前の自分なら迷わず金のために記事にしていただろうが、十代達の本気のデュエルを見た後ではそんな気にはなれなかった。

 

「学園で行方不明になった奴らを留学扱いにして隠蔽している可能性……か」

 

 俺が学園で調べた所によると、少なくとも数年前から毎年それなりの人数が留学している。だがこの学園ではそこまで大規模な留学制度は存在しない。

 

 本当に留学しているかどうかの確認はまだこれからだが、俺のジャーナリストの勘が正しければ本当に留学していそうなのはごく僅か。それ以外はどうにもきな臭い。

 

 これはどう考えても俺の手に余る。あまり深く突っ込みすぎればヤバい橋を渡ることにもなりかねない。だが、

 

「俺なりに調べてみるって言っちまったからな。金にはならねえが、仕事の合間に確認ぐらいはして連絡してやるとするか。連絡先も交換したし」

 

 そうと決まれば善は急げだ。少し休んだら早速取り掛からなければ。……そうだ!

 

 俺は携帯を手に取り、少しだけ躊躇しながらもある番号を打ち込む。それは俺がまだデュエリストを目指していた頃の友人の番号。

 

 抜群のデュエルセンスとどんな時でもデュエルを楽しむ良い意味での余裕を持ち、数年ほど謎の病気で入院さえしていなければ、所属リーグこそ違えど現チャンピオンであるDDと並び称されただろう男。

 

 俺が挫折して疎遠になっていたが、十代にああ言ったし一度久しぶりに連絡してみるのも良いかもしれない。忙しくて逢えないと言われたらそれまでだが、話の切っ掛けぐらいにはなるだろう。

 

 そして数度のコール音の後に聞こえてきたのは、随分と懐かしい友人の声。

 

『もしもし。そっちから連絡してくるなんて珍しいじゃないか国崎。久しぶりだな』

「ああ。久しぶり! ……いきなりで悪いが、近いうちに逢えないか? プロデュエリストとして忙しいならまた出直すが」

『おいおい。オレを舐めてくれるなよ! 忙しい程度で友達の誘いを断るもんか。……ちょっと待っててくれ。早速姉さんと相談してスケジュール調整をして折り返すから』

「ああ。ありがとよ()()!」

 

 俺の友人にして、知る限りで最高のHERO使い。()()()()()()()響紅葉は、以前と変わらずどこか人懐っこい態度で電話口で笑った。

 





 という訳で紅葉がちょっと動き始めました。

 今回の国崎さんと紅葉の関係は完全にオリジナルです。

 ただ国崎さんが以前デュエリストを目指していたこと。それで世界中を回っていたことから、その当時の友人がプロであってもおかしくはないこと。

 そして国崎さん自身がHERO使いであることから、マンガ版で出てくる紅葉がその友人だったらというやや飛躍した論理が頭の中に浮かび、このような展開になりました。

 と言ってもまだしばらく登場予定はなく、あくまで顔見せだけですが。

 次回も三日後投稿予定です。

最初にこの作品を読む時、原作である遊戯王とロボトミーコーポレーションのどちらを目当てにしましたか?

  • 遊戯王目当て
  • ロボトミーコーポレーション目当て
  • どちらも目当て
  • どちらも知らなかった
  • むしろ作者目当て

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