マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 今回は少し短めです。


もけもけパニック! 語られる三鳥の過去

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ああもうっ! なんでこうなるんだよっ!?」

『あっはっは! いやあ面白くなってきたね!』

「どこがだよっ!?」

 

 俺は頭を掻きむしりながら横で軽口を叩くディーに文句をぶつける。こいつは面白がっているが、罰鳥に審判鳥と二体の幻想体が同時に出たとあってはもう一刻の猶予もない。

 

 と言ってもそれぞれのカードの能力を考えると、まだ罰鳥の方はこちらから手を出さなければ危険性は低いだろう。問題なのは審判鳥の方だ。

 

 審判鳥は効果で特定の条件を満たしたカードを纏めて破壊する範囲攻撃持ち。それが本体にも反映されているとしたらどんな具合になるか予想できない。

 

 おまけにカードとしてのレベルがディーの前に言っていたリスクレベルに比例するので、罰鳥はともかく審判鳥は最低でも大鳥と同格かそれ以上。つまり最低でもWAW以上ということになる。早く見つけ出さないと。

 

 しかし探すにしたって当てがない。悪や罪に反応すると急に言われても困るし、闇雲に探すにはこの島は広すぎる。

 

「ディー。その二体の情報はなんかあるか? さっき悪や罪に反応するとか言ってたけど、それだけじゃなんとも」

『……そうだね。流石に二体相手はちょっと大変だろうし、少しだけ説明がてらバックボーンを話すとしようか。罰鳥と審判鳥。それとこの前出てきた大鳥は、それぞれ同じ場所に棲んでいた幻想体なんだ』

 

 口でも滑らせたら儲けもののつもりだったのだが、ディーはそこでほんの少しだけ言葉を切ると、僅かに語り口を変えて話し出した。まるで物語でも読み聞かせるかのように。

 

『とある深くて暗い森。通称黒き森と呼ばれる場所にその三匹は棲んでいた。三匹はその森を愛し、そして森に棲む生き物達を守るために活動していた』

 

 黒き森か。……なるほど。つまりカードの深く暗い森はその再現。大鳥が最初に精霊化した時にこっちの森に反応したのもそれ繋がりか。

 

『大鳥は森のあちこちを見回り、森の秩序を乱す悪を見つける。そして審判鳥がその者の罪を持っている黄金の天秤で見極め、罰鳥がその罪の分だけの罰を与える。三匹はそうして力を合わせて森の秩序を守ってきた。だけど、いつの日からか少しずつ歪みが生じ始めた』

「歪み?」

 

 どう考えてもあまり好意的ではないその言葉に、俺はたまらず聞き返す。

 

『そう。大鳥は審判鳥の目を借り、さらに自らの羽を材料にしてランタンを作ることで、昼夜を問わず見回りが可能になった。だけどそれはいつの間にか森に棲むもの全ての監視へと繋がっていく。また審判鳥は自らの目を封じることで私情を捨てて天秤により悪を見定めたけど、いつからかその天秤は()()()()どちらかに傾くようになり公平であるとは言えなくなった』

 

 ディーは静かに、それでいてはっきりと通る言葉を口にする。

 

『そして罰鳥は、どんな重い罪でも罰を与えられるように自身の身体そのものをクチバシへと変えられるようになった。だけどその大きすぎるクチバシは、些細な罪であっても度を越した罰を下すようになった。結果として森の秩序こそ保たれていたけど、行き過ぎた秩序がもたらすのは決して幸福だけじゃない』

 

 それは願いの成れの果て。三羽の行動の始まりは間違いなく善だったのだろう。だけどいつの間にか、どこか歪んでいったのだ。自分達では気が付けないほどに緩やかに、それでいて致命的に。

 

『……とまあ()()()()()()こんな所かな。少しは参考になったかい?』

「ああ。少しだけど当てが出来た。……じゃあ早速行くとするか」

 

 俺は荷物を持って立ち上がり、そのまま一目散に走り出す。

 

『お~い待っておくれよ! 当てって一体どこに向かう気だい?』

「決まってる。大鳥の所だ! 大鳥と同じ理由で精霊化したのなら、罰鳥も審判鳥もあの森に向かった可能性が高い。それにやはりこういうのは同じ森の仲間に尋ねるのが一番だろ!」

 

 あと大鳥を介して話し合いが出来るかもしれないしな。そういった打算もあり、俺は大鳥の見回っている森を目指して走り出した。

 

 

 

 

「大鳥っ! 近くに居るなら出てきてくれっ!」

 

 森の入り口に着いた俺は、大声でそう声を張り上げながら中に入る。カードがあれば幻想体を呼び出せるのだが、あいにく今の手持ちのデッキには三鳥はどれも入っていない。

 

 それなら常に予備も含めて身に付けていれば良いという話だが、いくら何でも四六時中それでは精霊化している幻想体達の方も困ってしまう。幻想体が誰にも見られずに実体化できるのはあの部屋の中ぐらいだからな。

 

 なので時折デッキを組みかえたあとで部屋にカードを残し、周囲に迷惑をかけない程度であれば好きに実体化させているのが今回は裏目に出たみたいだ。WAWクラスが相手じゃたとえ抑え込めても周囲に被害が出るからな。立ち去るのを黙って見送るくらいしかできなかったのだろう。

 

「部屋に残してきた葬儀さんとレティシアの事だから、今頃カードを届けにこっちへ向かってきている可能性もあるけど、下手すると間に合わないかもな。……どうするか」

 

 俺は今の手持ちを確認する。デッキの中で精霊化出来るのは罪善さん、テディ、ウェルチアースの三枚か。冷静で頼りになる葬儀さんと、汎用性の高いヘルパー。大鳥の時みたいに落ち着かせてくれそうなレティシアが居ないのはキツイな。

 

 カタカタ! ガシッ!

 

 俺の考えていたことを察するように、罪善さんとテディが実体化する。罪善さんは温かな光を放ちながらふわりと浮かび、テディは何故か俺の背中によじ登ってそのまましがみつく。頼むからうっかり力を入れすぎないでくれよ! 複雑骨折しかねないから。

 

 最悪戦うことになった場合、ウェルチアースはどう見ても戦闘向きじゃないから実質戦えるのはこの罪善さんとテディのみ。だけどそれでも真正面からでは勝ち目は薄いか。レベル差もあるし。

 

「……となるとやはり大鳥が居ないとどうにもならないか。お~い大鳥~! 大と……うわっ!?」

 

 そこで急に目の前の茂みがガサゴソと音を立てる。そして、

 

 グルァっ?

 

 自分を呼んだかとばかりに大鳥が顔を茂みから覗かせた。相変わらず幾つもの瞳に凝視されるのは慣れないが、茂みから顔とランタンだけ出す様子は意外にユーモラスだ。

 

 先ほどのディーの話を思い出して、大鳥を見ると何とも言えない気持ちになるが、今はそれどころじゃないと考えを振り払う。

 

『おや居たね! これは案外大鳥の方も久城君が近づいてきているのに気が付いて、向こうから来てくれた感じかな?』

「それだと助かるよ。大鳥。一つ聞きたいんだけど、この森に罰鳥と審判鳥が来なかったか?」

 

 場合によってはこの近くに居るかもしれない。そう思って緊張しながら訪ねたのだが、大鳥はふるふると首を横に振った。大鳥ならこの森に入っただけで大なり小なり反応するだろうから、本当に二体はこの森に来ていないらしい。

 

「そっか。……だけどおかしいな。この森じゃないとすると、二体は何が目的なんだ?」

 

 また良くないモノが出てそれに反応したということもあり得たが、それじゃないとなるといよいよもって手詰まりだ。

 

『ふむふむ。久城君。どうやら大鳥が何か伝えたいみたいだよ』

 

 こうなったら一度自室まで戻ってカードを取ってくる方が良いかと考えていた所、ディーの言う通り大鳥が何か伝えようとしていた。そのクチバシでさっきから俺の服の袖を引っ張っている。

 

「……もしかして、大鳥には他の二体の場所が分かるのか?」

 

 一縷の望みを込めてそう尋ねると、なんと大鳥はこくりと頷く。……あっ!? 俺はさっきのディーの説明を思い出す。

 

 説明の中で、大鳥は審判鳥の目を借りたと言っていた。それが比喩ではなく物理的にそうだったとしたら、大鳥と審判鳥は肉体的な繋がりがあることになる。

 

 元々大鳥自身が森全体を監視するほど察知能力が高い訳で、さらに肉体的な繋がりがあるとすればそれを頼りに審判鳥を探し当てることも可能かもしれない。

 

 また審判鳥と罰鳥は連鎖的に精霊化したらしいから、片方が居る所にもう片方も居る可能性も大いにある。つまり罰鳥も一緒に居るかもしれない。

 

「じゃあ、大鳥。他の二体の所まで案内してくれないか?」

 

 グルァ!

 

 大鳥はそう一声低い唸り声を返すと、前の時と同じようにランタンを翳してズシンズシンと森の入り口に向けて歩き始めた。これで何とか……って!? 大鳥ストップスト~ップっ!? 騒ぎになるからせめて実体化だけは解いてくれっ!? 

 

 俺は慌てて罪善さんとテディに精霊状態に戻ってもらい大鳥を追いかけた。

 

 

 

 

 大鳥は森の外に出た瞬間実体化を解き、半透明の精霊状態でスッと宙を滑るように進んでいった。この状態だと足音が響かないから少しホッとする。

 

 だけど大鳥が向かっていく場所を見て俺は驚いた。なにせそれは俺がさっきまで居たデュエルアカデミア本棟だったのだから。

 

 行き来する生徒達の目に留まることもなく、大鳥は迷わず突き進んでいく。俺に配慮してか最短距離ではなく、ちゃんと階段や通路に沿って進んでくれるのはありがたいな。

 

「灯台下暗しとはこういうことかね?」

『そうかもしれない。……というより、真上が見えないって感じかな』

 

 なんとか追いかけていく内に、どんどん階段を上っていつの間にか本棟の屋上まで辿り着いた。そして、

 

「……これは一体どういう状況だ?」

 

 俺がついそう言ってしまったのは誰も責められないと思う。何故ならそこに広がっていたのは、

 

 

 

「「「もけもけ~!」」」

 

 

 

 完全にだらけ切ってそう連呼する翔、三沢、明日香の三人と、気持ち良さそうに寝息を立てている隼人。そしてその面子を背にして、十代が誰かとデュエルしている様子だったのだから。

 





 ちょっとした三鳥の過去話でした。

 大雑把かつ作者の個人的な推測も混ざったものなので、あくまでこの作品内での過去話だと思っていただければ。

 次回も三日後投稿予定です。

最初にこの作品を読む時、原作である遊戯王とロボトミーコーポレーションのどちらを目当てにしましたか?

  • 遊戯王目当て
  • ロボトミーコーポレーション目当て
  • どちらも目当て
  • どちらも知らなかった
  • むしろ作者目当て

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