マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
……いやホントに何がどうなってるんだこの状況は? 大鳥の先導について屋上まで来たものの、どう考えてもよく分からない。
十代がハネクリボーを傍らに置いて誰かとデュエルしている。それはまああのデュエル大好き人間のことだから、どこで誰とデュエルしていてもおかしくないので別に良い。
問題なのは、さっき十代を追っていったはずの翔達の様子が明らかにおかしいということだ。なんか皆してだらけ切った顔をしているし、隼人に至ってはイビキをかいて爆睡している。
「「「もけもけ~」」」
あと何かさっきから変なことブツブツ言ってるんだけど。もけもけってアレか? あの何とも言えないゆるキャラみたいな絵柄のカードか? 確かに十代と戦っている相手の場には、もけもけを強化する永続魔法『怒れるもけもけ』が発動してるけど。
他にも低レベルモンスターが破壊されたら別の低レベルをデッキから引っ張ってくる『人海戦術』と、その発動条件を満たすモンスター『はにわ』のカードも場に出されている。これはもろにもけもけを出しますよって流れだ。……あるいはもう出したのかもしれないが。
「一体どうなってんだこりゃ? おい十代! 何があった?」
「遊児かっ! それが俺にもよく分からないんだ。皆して急にこんなになっちまって」
「もけけのけ~ナノ~ネ!」
俺が必死に状況を整理しようとしていると、そこへ特徴的な語尾の言葉と共にクロノス先生が現れた。それもいつものどこか貴族っぽい服装ではなく、まるで映画にでも出てきそうな宇宙服か防護服のような恰好をしている。顔の部分なんか透明なヘルメットを被ってるしな。
「驚きましたか? ドロップアウトボーイ遊城十代。それと……オゥ! オシリスレッドにしては成績優秀なシニョール久城ではありませんか!」
にしてはは余計だよクロノス先生っ! そう抗議しようとした俺だが、クロノス先生のすぐ後ろに目を向けて一瞬息が詰まる。
「……こんにちはクロノス先生。あの、いくつか伺いたいのですがまず一つ。……その鳥は?」
「鳥? ああコイツですか? 先ほどから何故か私を突こうとして離れようとしないのです。しか~し、この通りこの強化プラスチックに阻まれて手も足も出ないノ~ネ」
なんと見覚えのある姿の小鳥が、普通に実体化してさっきからクロノス先生を突き続けていたのだ。プラスチックに阻まれようと何度でも突き続けるその様子は、何が何でも当ててやるぞと言わんばかりだ。そして、
グルルルル。
「ああ。分かってる。罰鳥もそうだけど、さらにその後ろが明らかにヤバい」
大鳥が精霊状態ではあるが軽く唸り声を上げて警戒する。その視線の先に居るのは、向こうも半透明ではあるものの、その状態でも危険だと分かるほどにただならぬ威圧感を出している鳥のような何か。あの姿にも見覚えがある。あれが審判鳥か。
審判鳥は先ほどからずっとクロノス先生の方を向いている。その手にはきらりと輝く黄金の天秤。ただ不思議な事に、天秤はさっきから
「なあ遊児。あれって……」
「……ああ。さっき勝手に精霊化して探していたんだが、まさかこんな所に居たなんて」
十代が罰鳥達を見てこっそり話しかけてくる。幻想体二体はいくら何でも十代も見過ごせないのだろう。……それにしても、アイツらは確か悪や罪に反応するんじゃなかったのか? それでなんでクロノス先生に?
ディーを問い詰めようとしたが、いつの間にか姿を消していた。ここは人が多いからな。
「……? 何をコソコソ話してるのですかアナタ達は? ……まあ良いでしょう。話を戻しましょうか。アナタ達の後ろの生徒達がこうなったこと。それこそが茂木もけ夫の脱力デュエルの力ナノ~ネ」
「脱力デュエル?」
なんかよく分からない単語が飛び出してきた。ひとまず動きのない幻想体達はおいておいて、何故こうなったのかクロノス先生の話を聞いてみるか。
「そう。シニョール茂木は三年前、学園の誇る優秀なデュエリストだったノ~ネ。相手の戦術、伏せカードの読み。全てにおいて彼は天才的だったノ~ネ。しか~し、ある日を境にシニョール茂木のデュエルが変わってしまったノ~ネ」
『もけもけ~』
十代と戦っている相手、茂木もけ夫というらしいが、よく見たら傍らにもけもけが半透明で浮かんでいる。……もしかしてあれも精霊か?
「よく分からないんだけど、もけもけと出会ってからデュエルをすると、皆こうなっちゃうんだよね」
茂木はそう言いながらクロノス先生の後ろ、静かに佇んでいる審判鳥をチラチラと見ている。やっぱり向こうも気付いてるよ。精霊が見えるってことはこの茂木もアニメの重要キャラなのかね?
それはともかくとしてクロノス先生の話を要約すると、茂木とデュエルする者は誰もかれもやる気をなくし、場合によっては退学者まで出る始末。
学園側も調査したが結局原因は分からず、対処として茂木を彼専用の寮に隔離したのだという。
「酷いことをしやがる」
「ノン。何を言うノ~ネ。そこは天国。茂木もけ夫だけの超豪華施設ナノ~ネ」
「……物は言いようですねクロノス先生。どんなに良い待遇でも、周りとの関係を断たれるというなら俺はお断りしますが」
クロノス先生はそんなことを言っているが、どう言い繕っても人一人を隔離していることに変わりはない。割と人権とかに引っかかりそうな所業だが、それを押し通すのがこの学園の怖い所だ。やはり闇が深い。
「だったらなんで外に出てきやがった? さっき言ってたけど、デュエルなんてしたくないんだろ?」
「うん。でもクロノス教諭から君の事を聞いてある予感がしたんだ。ひょっとして君は僕と同じようにデュエルの精霊を扱えるんじゃないかってね。それと……そこに居る君も」
「俺も?」
「うん。僕はね、君達の可愛い精霊をデュエルから解放してあげたいんだよ。こうやってのほほんとしているほうが精霊にとって幸せだからね」
茂木は十代と俺をそれぞれ視線に捉えると軽く微笑んだ。……確かにそうかもしれないな。俺は目の前でずっと審判鳥から視線を外さない大鳥を見つめる。
大鳥もそうだけど、幻想体達だってそれぞれに意思があるし元々の実体がある。それがカードに押し込められ、結構無理やり俺に従わされるのは良い気分じゃないだろう。
もちろん快く言うことを聞いてくれている幻想体も居る。だけど、茂木の言う通りにのほほんとしたいと思っている幻想体も居るのだろう。だから俺は茂木の言うことを否定はしない。だが、
クリクリクリ~!
「うんっ!? ……残念だけどそうじゃないらしい。相棒は楽しいと言っている。今ここでデュエル出来ることを」
「そうかなあ?」
確かに茂木の言うことにも一理あるのだろう。だけどそれはあくまで茂木と
十代と
「ちょちょちょ。ちょっと待っテ~ノ? ドロップアウトボーイったらまだ、やる気満々じゃないノ~ヨ? 何故? どうして? なんであいつらみたいに、もけもけになっちゃわないノ~ネ?」
クロノス先生が腕をぶんぶんと振り回しながら驚いている。……まあ予想は出来ていたけどな。このやる気をなくさせるというのが茂木の横に居るもけもけの力だとすれば、同じく精霊がついている十代なら抵抗出来て当然だ。
その証拠に、俺も近くに居るものの特に脱力感に見舞われたりはしていない。先ほどから罪善さんが出てきて光を放っていることも理由かもしれないが。……だが、
「「「「すやすや」」」」
「げっ!? 十代っ! 遂に翔達も眠り始めた。早い所決着をつけないとマズいぞ!」
元々のんびりしていた隼人が眠るのは仕方ないとして、真面目な三沢や明日香までぐっすりとなるとただ事じゃない。このままほっといたらどうなるか分かったもんじゃないぞ!
「ああ分かってる! さあ。そっちのターンだぜ」
十代は勝負を早く着けるべくターンを終了する。だが、向こうも流石は精霊使いのデュエリスト。一筋縄ではいかなかった。
「僕は手札から『闇の量産工場』を発動。墓地から通常モンスターを二体選んで手札に加えるよ」
茂木がそうして墓地から戻してきたのはやはりというかもけもけのカード。そして手札のもけもけ三枚を融合し、『キングもけもけ』の融合召喚を決めてみせる。
「うわああっ!? デカっ!?」
「なんて大きさだよ」
十代も啞然とする。ソリッドビジョンではあるが、明らかにそこらの建物よりも巨大なのだ。まさに見上げんばかりのその巨体に俺もビックリ。
茂木はそのままキングもけもけでワイルドマンに攻撃。わざと返り討ちに遭うことで場に墓地のもけもけを三体特殊召喚する。……この流れはマズい! 茂木の場には怒れるもけもけがあるんだぞっ!?
さらに茂木はダメージ覚悟で前のターン、人海戦術で特殊召喚したハッピーラヴァーで自爆特攻を仕掛ける。結果怒れるもけもけの効果により、なんと場に攻撃力3000のもけもけが三体という凄まじい状況になってしまった。
そして、効果によるパワーアップでもけもけ三体が雄たけびを上げた時、それが皆して耳を押さえる轟音と共に思わぬ展開を生んだ。
「「「もけもけ~」」」
パリーン!
「んなっ!?」
流石カードの精霊の力というべきか、攻撃力の跳ね上がったことで物理的な破壊力が生まれたというべきか、なんとクロノス先生の強化プラスチック製ヘルメットにヒビが入ったのだ。そして、その僅かな隙を見逃す罰鳥ではなかった。
コツコツコツコツっ!
「なっ!? や、やめるノ~ネ」
今こそ好機とばかりに凄まじい猛攻をかける罰鳥。これはマズいとクロノス先生も止めようとするがもう遅い。一度入ったヒビは罰鳥によってどんどん広げられ、
「何です~ノっ!? アタタタタっ!? 痛いノ~ネ」
遂に届いた罰鳥のクチバシが、クロノス先生の頭頂部を責め苛む。何とか振り払おうにも、罰鳥はしっかり隙間からヘルメット内部に潜り込んでしまって出てこない。
かと言って、このヘルメットを脱げばそれこそ罰鳥から身を守るのは難しいし、おまけに茂木の能力を生身で受けることになる。そしてクロノス先生は、
「ノォ~~~アタッ!?」
パニックに陥ってその場を走り回り、そのまま屋上の壁に激突。マンガだったら頭に星がくるくる回るエフェクトが出そうな勢いでそのまま倒れ込んだ。
「あっ!? クロノス先生っ!」
これにはデュエル中の二人も一時中断して様子を見に駆け寄る。当然俺もだ。
ちなみに罰鳥は散々クロノス先生を突いて気が済んだのか、内部からヘルメットの穴を広げて悠々と外へ飛び出し、そのままパタパタとクロノス先生の真上で飛んでいる。
俺は位置的にいち早く駆け寄り、クロノス先生の様子を確認する。
「クロノス先生っ! 大丈夫か!」
「………………大丈夫。気を失っているだけみたいだ」
頭頂部からちょっと血が出ていることと、額にこぶが出来ていること。
ひとまずデュエルの邪魔にならないように、近くの壁の陰に寄りかかる感じで移動させる。
「なあ? けしかけたクロノス先生がこの調子だけどまだやるのか? 俺達の精霊のことが知りたいなら普通に話しても良いと思うが」
「……そうだね。クロノス教諭に言われたからデュエルを挑んだけど、僕は別に
「おっと。それは聞き捨てならねえな」
マズい。茂木の方はデュエルを止めようとしたけど、余計なことを言ったおかげで十代の闘志に火が付いた。こうなったら十代は止められない。
「互いの事を知るにはデュエルが一番なんだぜ! だから、デュエル再開だ!」
「……ああもう。分かった。じゃあやるからにはきっちり勝てよ十代! それと茂木。このデュエルが終わったら話をしよう。……こっちとしても話を聞いてみたいとは思っていたからな」
「おうよ! 任せとけ遊児!」
「うん。……じゃあ後でね」
そうしてさっきまでの立ち位置に走っていく十代と茂木。……ふぅ。どうやら気づかれなかったみたいだな。俺はそのままさりげなく二人から見えない位置にクロノス先生を移動させる。
「……さて。それで? どうやら罰鳥はさっきので気が済んだみたいだが、そっちはまだクロノス先生を許しちゃいないのか? 審判鳥」
俺の視線の先に居るのは、先ほどから動かずにいた審判鳥。……いや、動かずにいたというより、動けなかったというべきか。大鳥がずっと見張っていたのだから。
「クロノス先生の
さっき確認した時、服の内側に何重にもロープのようなものが絡みついていた。しかも全て半透明の。
普段なら見えなくとも感触でクロノス先生は気が付いただろう。だが、今は着慣れない防護服を着ている状態。内側に何か仕込まれても、その防護服の飾りだろうと思って気が付かない。
「首にこそ巻かれていなかったが、あとはお前の意思一つでロープが内側に絞られ、そのまま全身を締め上げられて死ぬ。エグイ手口だな。……クロノス先生は確かに今回悪行を成した。だけど、死を持って償うほどの罪とは思えない」
俺が手を上げると、それを合図として罪善さんとテディ、大鳥が実体化する。
罰鳥はもうクロノス先生への罰を与え終わったと判断したのか動きを見せない。ならあと何とかすべきは目の前の審判鳥のみ。
「……こんな人だが、目の前で死なせると寝覚めが悪いんでね。その傾いた天秤の裁定、力づくで異議申し立てさせてもらうぜ」
という訳でVS審判鳥です。
原作では、特定条件を満たした職員をどこからともなく出現したロープで絞首刑に処す審判鳥ですが、今作品では独自設定として少し異なります。
相手の罪の重さによってロープの数や太さ、縛る力などが変動し、軽い罪であればそれこそ自力でも解ける程度といった具合です。
ただし本来のクロノス先生の罪であればここまで酷い具合にはなりません。
次の投稿は明後日予定です。
最初にこの作品を読む時、原作である遊戯王とロボトミーコーポレーションのどちらを目当てにしましたか?
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遊戯王目当て
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ロボトミーコーポレーション目当て
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どちらも目当て
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どちらも知らなかった
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むしろ作者目当て