マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
茂木の件から一日経って。
『……という訳で、『突撃! 茂木君の寮』のお時間となりました~っ! いえ~い!』
「いえ~いじゃねぇよっ!? 何そのノリっ!?」
隣で今まで以上に騒がしいテンションのディーに困り果てながら、俺は茂木の寮の入り口が隠されている鶏小屋の前に立っていた。
ちなみに鶏達は本来凶暴で、よほど慣れた人じゃないと入った時点で襲われるらしいのだが、
『ピピィ~!』
「コケ~っ!」
何故かどこからともなく飛んできた罰鳥が、鶏達のボスらしきひときわ風格のある黄金の毛並みの鶏と会話し、何か合意したらしく互いに空に向かって鳴き声を響かせる。
すると、俺が入っても鶏達は襲ってこず、むしろ道を譲るように下がっていった。いったいどういう関係なんだ罰鳥?
『え~っ!? だって要するにこれは、久城君が友達の家に遊びに行くってことだよね? ……あの久城君がそこまで成長するなんて僕は嬉しいよ。およよ~!』
「下手な泣き真似してんじゃないよ。それに俺がまるで友達の少ないボッチみたいな言い方すんな! よく十代のとこにも行ってんだろ?」
『だけど逆に言えばそれくらいじゃない?』
ディーの言葉にハッとする。確かに俺十代の部屋以外だと、いつも学園の本棟と食堂と自室と時々図書室の往復くらいであんまりそれ以外に出歩かない。……確かに灰色とまでは行かないが、やや青春としては暗いかもしれないな。
「……あと茂木は友達じゃなくて知り合いだ。ただ色々と気になることがあるから話があって、それと場合によっては協力してもらいたいだけだ」
『またまたそんなこと言っちゃって。君の友達基準は結構ハードル高いんじゃない?』
「そんなことはないと思うんだがな。……それにしても十代遅いな」
本来この時間に十代と待ち合わせていたのだが、いつまで経ってもやってこない。……もしや授業態度が悪くてレポートでも書かされているのか? だからあれほど授業中の居眠りや早弁は控えろと言ったのに。また佐藤先生辺りに睨まれるぞ。
『まあ良いじゃないの! その間に僕はたっぷりと君をからかう時間が出来る』
「そもそもからかうなよっ!」
ディーは絶妙に俺の手の届かない高さまでふわりと上がってカラカラと笑う。ジャンプすれば問題なく届くだろうが、わざわざそんなことをしたらむしろこいつが喜ぶだけだ。それなら飽きるまで放っておいた方が良い。
『アッハッハ! 久城君もここまでは届かないようだね。これは良い! では一つここから……アタッ!?』
あっ! 罰鳥に突かれてる。この状況ではディーの行動は罰鳥にとっての悪だと判断されたらしい。
そのままディーがふらついて降下したところを掴み取り、『げっ!? ゴメン悪かったよ許して~!?』とかなんとか言っているので、俺はにっこりと優しく笑顔で笑いかけた。
俺はポケットから特殊な加工をされたカードキーを取り出す。これは、茂木の寮の入り口を開けるキー。クロノス先生との
『それにしてもさっきのクロノス先生とのお話は凄かったね。流石の僕もあれはちょっとビビったよ』
「……? そんなに怖かったか?」
少しだけボロボロ(俺の所感)になったディーがどこかふらつきながらそう言う。生徒として舐められたら交渉しづらいと思って、元の世界で仕事中に相手と交渉している時を思い出してちょっと気合を入れていただけなんだが。
『もし次同じようなことがあったら鏡を持っていくことを薦めるよ。心臓の弱い人が相手だったらポックリ逝っちゃうんじゃないかと思うくらい威圧感が凄かったもの』
「そんなにかっ!?」
俺はただクロノス先生に、昨日茂木を連れ出したことと十代にぶつけて退学させようとしたことの説明をしてもらって、あと丁度良いからこれまで俺が感じていたブルー生徒の態度の悪さ(実名は出していない)を話しただけだぞ。
そういえば何故かクロノス先生が、最初に俺の顔を見て冷や汗を流していたようだったが……まさかな? ちょっと体調が悪かっただけだよな? 多分鮫島校長にチクられたらマズいなあとか思って話を聞いてくれたんだよな?
『だけど、本当に補償がそれだけで良かったのかい?』
「これだけってことはないぞ。俺や十代が自由に茂木の寮に会いに行く許可とか、その時に必要な備品の申請、状況によってはこのカードキーの追加発行もできる」
そもそも茂木の近くに居ると妙な脱力感に見舞われるらしいが、その件がもう何年もまるで解決していないのがマズいんだ。原因不明でやったことと言ったら隔離処置のみ。これでは治るものも治らない。
だが昨日の件では俺と十代には特に影響はなかった。これが仮に精霊の力だとすれば、オカルトでもなんでもそこをさらに調べることで抑制できるかもしれない。
この件の申請が通ったのが、クロノス先生も茂木の体質改善がこれで少しでも叶うと踏んでの事ならそれはそれでアリなんだけどな。
「それに、クロノス先生にはこれ以上十代に私怨でちょっかいを出さないって言質を取ったしな」
『……まああれだけ懇々と説得されれば流石にもうクロノス君も手を出さないか』
本当は万丈目への仕打ちとか、もっと色々この機に言ってやりたい所ではあるが、今は十代がもうすぐ学園対抗戦を控えた大事な時。下手にやり過ぎて他の人に迷惑をかける訳にもいかない。
当事者である十代も補償をしてもらえるはずだったのだが、「俺は楽しいデュエルが出来たから別に良いぞ」と言って断られてしまった。まったくあのデュエル馬鹿は甘いんだから。
なら今は茂木とのパイプをしっかり繋いでもらうことが第一だ。……考えてみれば茂木も被害者みたいなものだからな。話をして少しでも向こうも納得してくれれば良いのだが。
俺は罰鳥を肩に乗せ、砂場に隠された入り口を掘り返す。いちいち会いに行くのにこんな手間をかけるんじゃやってられないぞ。もっと簡単な場所にしてほしい。そう思っていると、
「お~い! 悪い遅れた。居眠りと早弁の罰でレポートを書かされてさ」
「予想はしてたけど両方共かよっ!? ったく。十代も砂を払うのを手伝え」
悪い悪いと頭を掻きながらやってきた十代に、俺は軽く呆れを込めて言う。もう毎回と言って良いほど講義中にやらかすからな。いくら実技が良くてもこれじゃ先生方からの評価は最悪だ。その内こういった所も直していかないとな。
いつの間にかまた居なくなったディーはもう気にしないとして、二人がかりだとすぐに砂場に隠された入り口が露わになった。その頑丈そうな扉を開き、俺達は中の防護服が置かれた部屋まで進む。
「おおっ! 聞いてた通り、これはスゲーな」
「ああ。これはまさに隔離だな。生徒一人にいくら何でも厳重すぎだろ」
何重にもある隔壁、入り口の前に用意されている防護服、そしてなにやらよく分からないコードらしきものが幾つも繋がれた球状の建造物。
これらが全て茂木のためだけに用意されたかと思うと、よくこんなのを用意する財源があったなと少し感心する。
だが、それと同時に何やってんだと呆れかえる。これはいくら何でも方向性がズレている。人一人のために住む場所を快適にするのではなく、その一人を治すなりなんなりする方向に金をかけた方が建設的ってものだ。
「ところで……この防護服はどうする? 安全性を考えるなら着ていく方が良いが」
「え~っ! 俺いいよそれ。なんか動きづらそうだし、やっぱりこういうのは防護服越しにじゃなくて直接だろ?」
「……そうか。じゃあ俺も着ないでおく」
来客用の防護服を手渡そうとするが十代はそれを拒否。まあ昨日も十代は直接デュエルしたのに平気だったしな。……それに今ここに有るのは一着だけ。最悪の場合は救助に来る誰かのためにここに残しておいた方が良いか。
「よし。じゃあ開けるぞ。この時間に行くって連絡を入れてあるから、向こうもそろそろ待っているはずだ」
俺は障壁を開けるために横の機械にカードキーを差し込んだ。ブシューという空気が漏れるような音と共に隔壁が開き、茂木の寮への扉が開く。
「さあて。それじゃあ行くとするか。何をするかは分かってるよな?」
「おう! またデュエルするんだろ?」
「違うよっ!? 分かってないじゃないか! あくまで今回は話し合い。……まあ個人的に思惑もあるはあるんだが」
十代ときたら何でもデュエルと結びつけるデュエル脳だからな。分かっていなかったらしい。
今回の
と言っても正直こんなキャラの濃い奴がストーリーに関わらないということはおそらくないだろうし、放っておいても話の本筋に絡んでくると睨んではいるけどな。
裏の理由は茂木と接触することで、その脱力現象を調べること。これはクロノス先生も全面協力してもらう。もう誰かが茂木を引っ張り出して馬鹿なことをしないように、さっさとこういうことは対処できるようにしないとな。
そして、
「さあて。鬼が出るか蛇が出るか」
「茂木ともけもけが出るんだろ? さあ行こうぜ! おっ邪魔しま~っす!」
「あっ! 十代ちょっと……ああもうっ!? 先に行くなよっ!」
俺は茂木の寮に向かう十代を追って走り出した。……向こうも気付いてはいると思うけど、インターホンとかはないかな?
茂木スカウト作戦開始です。
と言ってもどちらかというと能力を抑えるのが目的なので、本筋で相手を片っ端から脱力させるというのが狙いではありませんが。
次回は二日後投稿予定です。
最初にこの作品を読む時、原作である遊戯王とロボトミーコーポレーションのどちらを目当てにしましたか?
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遊戯王目当て
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ロボトミーコーポレーション目当て
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どちらも目当て
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どちらも知らなかった
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むしろ作者目当て