マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
いきなり押しかけてきた三沢に少し複雑な思いを抱きながら、神楽坂は仕方なく部屋に招き入れる。
「なんだよ急に。……何か飲むか? コーヒーぐらいなら買い置きがあるけど」
「ありがとう。……それとすまない。さっき偶然神楽坂とクロノス教諭の話を聞いてしまったんだ。盗み聞きのようになってしまったのは謝る」
「別に良いよ。謝るな。むしろ……」
入ってくるなり謝ってくる三沢に、神楽坂は軽く言葉に詰まりながらも素早く部屋の冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して投げ渡す。
二人してコーヒーを飲み、そのまま気まずい沈黙が部屋に漂う。……先に沈黙を破ったのは神楽坂の方だった。
「……それで何の用だよ? 話を聞いてたんなら俺が忙しいって分かるだろ?」
「ああ。実は、何か俺に手伝えることはないかと思ってな」
「手伝い? お前がか?」
神楽坂が困惑しながら確認すると、三沢はしっかりと頷く。
「……はっ! 手伝いなんか要らないね。これは俺の問題だ。お前はさっさと」
「頼む」
すげなく断ろうとした神楽坂だが、その言葉は途中で止まった。なんと目の前で、三沢が静かにそう言って頭を下げてきたからだ。
「おいおい逆だろ。なんで手伝う側が頭下げてるんだよっ!? 頭を上げろよ」
慌ててそう言う神楽坂だが、三沢は頭を下げたまま動こうとしない。
(ったく。調子が狂うな)
神楽坂は内心複雑だった。目の前の男に対しては色々と思う所がある。
三沢大地。ラーイエローの首席にして、なろうと思えばいつでもオベリスクブルーになれるくせして、敢えて自分からここに留まっている変わり者。
(余裕ぶってんじゃない。さっさと上に行くなら行けよ。そうすればその分席が空く)
このランク主義の学園の中でそんなことを普通にする三沢に、まるで見下されているようで神楽坂はあまり良い印象を持っていなかった。
だが、正直自分一人では行き詰りかけていたのも事実。合理的に考えれば、わざわざ向こうから協力してくれるというのだから断ることもない。
神楽坂は自分の頭の中で意地やプライドや見栄と合理性を天秤にかけ、僅かに合理性に傾いたのを確認し軽くため息を吐く。
「ああもうっ! 分かったよ。何だか知らないが手伝いたいなら勝手に手伝えよっ!」
「本当だなっ! ありがとう」
三沢はその言葉を聞くなり頭を上げて破顔する。
「……で? 手伝うと言っても、一体何を手伝ってくれるんだ?」
「問題はそこだな。課題は確か50人以上とデュエルしてそれぞれの内容をレポートにまとめるというものだよな? ……出来そうなのか?」
「数をこなしてレポートを書くだけならな。だけど考えてみたら、そもそもそう
この課題の地味に厄介な所は、
もちろん神楽坂もデュエルに付き合ってくれそうな友人はそれなりに居る。しかし当然それだけで50人はいかないし、相手にも時間の都合などがある。
ならあとは手当たり次第に手の空いている相手に対戦を頼んでいくということになるが、探しているだけでも骨が折れる話だ。
大会にでも参加すれば数は稼げるかもしれないが、丁度神楽坂には間の悪いことに、時々購買部で行われるショップ大会は昨日行われたばかり。次の大会は大分先になるし、何より一度にあまり多く戦ってもレポートにまとめるのに時間がかかる。
記憶力には自信がある神楽坂だが、体力などの事も考えると出来れば少しずつ戦ってその度にレポートにまとめたい。
「授業の合間ぐらいに少しずつ戦ってレポートを書く。それをほぼ毎日続けられれば理想的だが、流石にそううまくは行かないだろうな」
「よし。相手探しは俺も協力するぞ。知り合いの暇な奴に声をかけてみよう」
「……まあ、よろしく頼む」
力強く言ってくれる三沢に対し、神楽坂はそうぶっきらぼうに返した。手伝ってほしいと言ったわけでもない。礼など言わないぞと思いながら。……ただ、
「ああ。どうせならその相手の
「……? そんなのを聞いてどうするんだ?」
「決まってる。せっかく課題に付き合ってもらうんだ」
そこで神楽坂はにやりと笑う。
「俺のなり切りの練習も兼ねて、その人物になり切って戦ってやるよ。本物にはまだ及ばないけどな」
そして一週間後。
(……まさかこんなことになるとは)
神楽坂は以前の自分の軽はずみな行動の結果に頭を抱えていた。何故なら、
「ぜひクロノス先生で頼む!」
「俺はカイザーのデッキで!」
「あの…………天上院さんでお願いします」
目の前に居るのは神楽坂との対戦希望者。それも一人や二人ではなく何人もいる。これがここ最近の彼の日常だった。
きっかけは三沢が紹介した最初の一人相手に、その生徒が戦いたいと言ったクロノス教諭のデッキを用いて戦ったことだ。
「『
「うわああっ!?」
比較的高い再現度でクロノス教諭になり切り、初戦を勝利で飾った神楽坂。それだけなら何の問題もなかっただろう。ただ、
「凄いなあ。まるで本物のクロノス教諭みたいだ。他の人にもなり切れたりするの?」
「まあな。俺が興味を持って調べた奴ならある程度は」
そう言って自分のなり切れるレパートリーをつい漏らしてしまう神楽坂。神楽坂はこれまで多くの名だたるデュエリスト達のデュエルを研究し、その度にその者に似たデッキを作っていた。
そして作ったデッキをきちんと保管していたため、デッキさえ変えればすぐに別の人になり切れる。そういった意味で話したのだが、
「そうなのか。三沢君から聞いていたけど大したものだね。……戦う相手を探しているのなら、僕も周りに呼び掛けてみるよ。じゃ!」
そう言って去っていった生徒が、周囲にそのことを話したので話がややこしくなった。噂は人伝に、そして少しずつ誇張されていき、しまいには
それを聞いたら腕試しに戦ってみたくなるというのがデュエリストというもので、皆して好き勝手に戦いたいデッキを指定してくるのだから神楽坂も困り果てる。
「う~む。俺も七つのデッキを持っているが、まさか俺以上に多くのデッキを使いこなせるとは流石だな神楽坂」
「感心してないでこいつらを止めろよ三沢っ! ああもうっ! クロノス教諭だな? 今デッキを用意するから待ってろ! それにカイザーと……何? 天上院? 女性じゃないか? そこまでなり切れるかいっ!」
もちろんなり切りも完璧ではなく、完全なその人と戦いたいという者の多くは少しずつ離れていった。だが代わりに、本物に挑む前のデッキ調整として神楽坂と戦いたいという者が現れるようになった。
神楽坂のなり切りは高い再現度ではあるが、本人にはやや及ばない。それでも仮想の練習相手としては人気があり、神楽坂には毎日何件もの対戦希望の連絡が来るようになった。
ここまで来るとむしろ人数を制限しなければいけないレベルで、三沢のスケジュール管理が無ければ神楽坂もオーバーワークで倒れていたかもしれない。
そしてその結果として、
「まさか半月で目標達成間際まで来るとは思わなかったな」
「俺自身も驚いてるよ」
元々筆記試験も成績優秀な神楽坂。レポートの書き上げもかなり早く、なんと半月にして
当然だが授業もしっかり出席しているし、多少の疲労こそあったものの適度に休息を挟んだことで身体にそこまでの問題はない。もうここでクロノス教諭の思惑は大体破綻していると言える。
「最初は三沢の呼んできた相手のせいでどうなることかと思ったが、結果的に人が多く集まって助かったな」
「ふっ! 酷い言い草だな。元はと言えば、神楽坂がわざわざ相手の要望に合わせてデッキを変えたからだろうに」
「何を!」
「何だ!」
二人は軽く睨みあい……どちらともなくこらえきれずに笑い出した。そうしてひとしきり笑いあった後、
「さて、それで神楽坂。最後の50人目は誰にするかもう決めたのか?」
「……ああ」
神楽坂は笑顔から一転して真面目な顔になる。正直な所、最初から50人目は決めていたのだ。だが一つだけ問題があった。
これまでの相手とは違い、向こうから対戦希望を貰っている訳ではない。そしてその相手に対してだけは、
なので、神楽坂は直接尋ねることにする。
「この一戦。お前の選ぶデッキじゃなくて、俺の選ぶデッキでの勝負を受けてくれるか?
「ああ。当然だろう! 何ならそっちが俺の使うデッキを指定しても良いんだぞ?」
「ほざけよ。……全力で来い。じゃなきゃ俺が勝つ意味がないだろう?」
余裕綽々の三沢の顔に、ほんの僅かな苛立ちと胸に灯る闘志、そして……これまでの感謝を込めて、神楽坂は不敵に笑いかけた。
次回、神楽坂対三沢戦です。と言ってもあんまり細かい描写はなくダイジェストの予定ですが。
次の話は三日後投稿予定です。。
最初にこの作品を読む時、原作である遊戯王とロボトミーコーポレーションのどちらを目当てにしましたか?
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遊戯王目当て
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ロボトミーコーポレーション目当て
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どちらも目当て
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どちらも知らなかった
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むしろ作者目当て