マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 注意! この話は神楽坂のキャラ崩壊があります。

 こんなこと言うはずないだろうと思われる方々は、こんなこともあったかもしれないと温かい目で見守っていただきたく思います。


閑話 模倣、再現、そして…… その三

「「デュエル!!」」

 

 

 

 神楽坂対三沢のデュエルは一方的な展開を見せていた。

 

「『ウォータードラゴン』で、『マスマティシャン』を攻撃!」

「ぐうっ!?」

 

 水龍から放たれるブレスが学者の老人を吹き飛ばし、神楽坂に余波でダメージを与える。ダメージを受けた神楽坂は片膝を突いて息を荒くした。

 

 

 神楽坂LP2200→900 手札1→2 モンスター なし 魔法・罠 伏せ1

 三沢LP2800 手札3 モンスター ウォータードラゴン 魔法・罠 なし

 

 

 神楽坂のLPは1000を切り、対する三沢はまだそれなりに余裕のある2800。そしてマスマティシャンが破壊されたことにより一枚ドローするも、神楽坂の戦況は思わしくない。

 

(しかし、神楽坂は何を考えているんだ? ()()()()()()()()。動きも簡単に読めることぐらい分かっているはずだろうに)

 

 神楽坂の出したデッキ。それは三沢になり切った時のデッキだった。そして三沢も全力を尽くすために選んだデッキは当然最も自信のある七番目のデッキ。

 

 いわばミラーマッチになったわけだが、そうなるとあと試されるのは純粋に互いの運と技量のみとなる。そして運はともかくとして、技量という点では明らかに三沢に一日の長があった。

 

「俺はカードを二枚伏せてターンエンド。……神楽坂。何故このデッキにした? お前自身が言ったんじゃないか。お前のなり切りはまだ完全じゃないって。どんなに調子が良くても90%ぐらいしか再現できないって」

「……ああ」

「だったらなんでこのデッキで俺に挑む? このデッキじゃ俺に勝つのは難しいだろうに。他にも幾つも扱えるデッキはあったはずだ」

 

 実際ここまでのプレイングを見ると、僅かにだが三沢の方がデッキの動きが常に的確だった。ほんの僅かな差であろうと、繰り返していけばそれは大きな差となる。それは今の状況を見れば明らかだろう。

 

 それならまだ他のデッキ、今の所再現率の高いクロノス教諭などのデッキの方がまだ勝ちの目が出る。もちろん三沢としては、どんなデッキが相手でも負けるつもりはなかったが。

 

「うるさいな。分かってるよ。……確かにその通りだ。本来の使い手相手に同じ戦法で挑んでもこっちの方が不利」

 

 ゆらりと神楽坂は力なく立ち上がる。痛みはないがダメージの度に衝撃はそこそこあるので疲れはする。しかし、身体はフラフラでもその瞳はまだ闘志をなくしていない。

 

「だから……ここからは()()()()()。俺のターンっ!」

 

 少しだけ、神楽坂の雰囲気が変わったように三沢には感じられた。神楽坂は気合を入れてドローし、引いたカードを見る。そして、

 

「手札から『強欲な壺』を発動! カードを2枚ドローする。……行くぞ! 俺は手札から儀式魔法『リトマスの死儀式』を発動!」

 

 この瞬間三沢は少しだけ迷った。今自分の場に伏せてあるのは『ラスト・マグネット』と『封魔の呪印』。封魔の呪印を発動すれば、リトマスの死儀式を無効にすることが出来る。

 

 しかし気がかりなのは、今この瞬間場には表側表示の罠は無いという点。つまりリトマスの死の剣士の攻撃力は0のまま。こちらのウォータードラゴンを倒すことはできない。

 

 戦闘破壊耐性があるので守備表示で出して壁にするという手もあるにはあるが、本当にそれだけだろうか?

 

(だとすれば狙いは……そうか! あの伏せカードが罠だとすれば、それで攻撃力を上げてウォータードラゴンを倒すという算段だな! ならば……)

 

「俺は手札の『二重魔法』を捨てて罠カード、封魔の呪印を発動! リトマスの死儀式の発動を無効にし破壊する!」

 

 三沢はそもそも出させないという手で行くことにした。死儀式を除いて残り神楽坂の手札は3枚。そして今の発動から、神楽坂の手札にはリトマスの死の剣士とそれを出せるだけの合計レベル8以上のモンスターが居ることは確定。

 

 つまりコストにしようとしたのが、ウォータードラゴンなどのレベル8以上の上級モンスターだとしても残り手札は1枚。そうじゃなければもう手札は下級モンスターのみということになる。

 

 唯一気になるのはあの伏せカード。デュエルが始まってすぐに伏せられ、今までずっと残っていて正体がまるで分からない。ただ先ほどの攻撃に使わなかったということは攻撃反応型じゃない。死の剣士の攻撃力を上げるための物だとするといつでも発動できる永続罠系統か。

 

 三沢は自分のデッキを頭の中で思い返し、どのカードが来ても何とか対処できると判断する。

 

(リトマスの死の剣士さえ出させなければ、残るは下級モンスターのみ。このままウォータードラゴンで押し切れば)

 

 

 

「……ふっ! 俺はこの瞬間を待ってたぜ。」

 

 

 

 三沢が圧倒的優位のこの状況で、この神楽坂はそう不敵に笑ったのだ。

 

「俺は封魔の呪印に対してカウンター罠『神の宣告』を発動!」

「なっ!? 神の宣告だと!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 三沢は驚愕した。確かに神の宣告はデッキ構築の際に候補として考えてはいた。しかしすでに同じくカウンター罠の封魔の呪印があったことと、LP消費が一気に激しくなることから採用を見送ったのだ。

 

「LPを半分にし、封魔の呪印は無効となる。結果リトマスの死儀式の効果は有効! 手札のウォータードラゴンを生け贄に現れろ! リトマスの死の剣士を守備表示で儀式召喚!」

 

 神楽坂LP900→450

 

 神楽坂の場に、味方の水龍を糧として双剣士が出現する。だが、

 

「守備表示で出したかっ! しかし場に罠が無い以上、攻撃力と守備力は0のまま。手札も残り1枚。除去できるカードが来た時点で終わりだ」

()()()()()()()? さっきカウンター罠を発動したことで、俺は手札からこのモンスターを特殊召喚する。……来いっ!『冥王竜ヴァンダルギオン』っ!」

「なっ!?」

 

 神楽坂の呼びかけに応じて現れたのは、これもまた三沢のデッキには入っているはずのないカード。ただならぬ威圧感を持つ闇を纏った黒竜が、やや人に近い二足歩行で場を踏みしめ咆哮する。

 

 ヴァンダルギオン ATK2800

 

「冥王竜ヴァンダルギオンの効果。カウンター罠で相手のカードの発動を無効にした場合、手札から特殊召喚できる。そしてこの効果で特殊召喚に成功した時、無効にしたカードの種類によって効果が変わる。……罠を無効にした場合、相手フィールドのカード1枚を選択して破壊する。ウォータードラゴンを破壊だっ!」

 

 黒竜は翼を広げて飛び上がり、そのまま急降下して水龍に突撃、粉砕する。

 

「バトルフェイズっ! ……終わりだ。ヴァンダルギオンで三沢にダイレクトアタック。『冥王葬送』っ!!」

「ぐあああっ!?」

 

 黒竜の極太のブレスが、モンスターもなくがら空きとなっていた三沢の身を飲み込んだ。

 

「良いデュエルだったぜ。だが、勝者は俺だ」

 

 そう言った神楽坂の姿が、三沢には一瞬デュエルキング武藤遊戯とダブって見えた。

 

 

 

 三沢LP2800→0

 

 

 デュエル終了。神楽坂WIN!

 

 

 

 

「…………はぁ。まいった。負けてしまったか」

「ああ。何とかだけどな。はなっからお前を仕留めるために準備してたってのに、こんなギリギリの勝利じゃ目も当てられないけど」

 

 戦いの後、神楽坂は自室でレポートを仕上げていた。どうせだから最後まで付き合うと、三沢も一緒に部屋に来てコーヒーを啜っている。

 

「なあ神楽坂。さっきのデュエルの最後の局面。俺にはどうしても腑に落ちない所があるんだ」

「デッキの内容が違ったことか? それなら最初に言っておいたはずだぜ。俺の選ぶデッキで勝負って。それをミラーマッチだと勝手に思い込んだのはそっちだ」

「ああいや、それは特に気にしてないんだ。ヴァンダルギオンはかつてデュエルキングが使っていたレアカードの一つだけど、神楽坂はなんだかんだデッキを再現する時に様々なカードを手に入れてくるからな。手に入ったとしても特に問題はない」

 

 実際神楽坂は、クロノス教諭のエースモンスターである古代の機械巨人もどこからか手に入れてきた。そういう伝手があるのだろうと三沢はそこは別に気にしていなかった。

 

「俺が気になったのは、あの時何故あのタイミングまで神の宣告を使わなかったのかってことだ。あれは()()()()()()()()伏せてあったものだろ?」

 

 神楽坂は机に向かってペンを動かし続けるだけで答えない。

 

 LPのコストが高い序盤に使いたくないという心理は分かる。だが、それなら中盤のウォータードラゴンが出る時に使って封じるのが合理的だ。自分ならそこで使ったし、何もここまで温存していく必要はあまりないと三沢は考えていた。

 

「俺になり切っているなら尚更使うはず。それなのに残しておいたってことは……最初から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことになる。合っているか?」

「……ああ」

「どうしてだ? 封魔の呪印は俺のデッキのキーカードってわけじゃない。それ1枚を封じて何になる?」

「…………そのセリフ。そのまま返すぜ三沢」

 

 そこで神楽坂はレポートを書く手をいったん止め、椅子から立ち上がって三沢の方に向き直る。

 

「なんで()()()()()()()()()使()()()()()()()。……いや、そうじゃないな。()()()()()()()()()()()()()()?」

「なっ! ……何を」

「あのデッキは元々対十代用に組んだものだろうが。それをずっとあのままに残している時点でこだわってるってバレバレだよ。融合を封じるために入れた封魔の呪印で自分が縛られているってか? ハッ! お笑い草だね」

 

 神楽坂はそう言うと、突如三沢の襟首をつかんで自分と向き合わせる。

 

「前々から言いたいことがあったんだ。丁度良いから言ってやるよ。……俺はな、お前のことが嫌いだよ!」

 

 そんなことを言う神楽坂の表情は、どこか悲痛さを湛えていた。

 




 すみません。もう少しだけ続きます。

 本当はこの話で終わる予定だったのですが、予想より神楽坂の言いたいことが溜まっていたので次回まで引っ張ります。

 なお独自設定として、神楽坂は珍しいカードを手に入れる独自の伝手があるものとしています。

 レアカードのはずなのにクロノス教諭の切り札を持っていたし、アニメ版でも十代に負けた翌日にデッキを十代のヒーローデッキに似せて作り変えられるほどだったので。

 次回は明後日投稿予定です。

最初にこの作品を読む時、原作である遊戯王とロボトミーコーポレーションのどちらを目当てにしましたか?

  • 遊戯王目当て
  • ロボトミーコーポレーション目当て
  • どちらも目当て
  • どちらも知らなかった
  • むしろ作者目当て

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