マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 注意! この話は神楽坂の結構大きなキャラ崩壊があります。

 こんなこと言うはずないだろうと思われる方々は、どうか温かい目で見守っていただければ幸いです。


閑話 模倣、再現、そして…… その四

「……だろうな」

 

 いきなりそんなことを言われた三沢だが、特に困惑したという感じではなかった。まるで今言われたことなどとっくに分かっていたかのように

 

「成績優秀で、スポーツも出来て、人望もある。それなのにたった一人にこだわって上に行こうともしない。そんなお前のことが嫌いだ。イラつくんだよっ! ……今のお前の事を一部の奴がなんて言ってると思う? 上に行こうともせずそこそこの位置をキープしてる舐めプ野郎ってよ」

「俺は別に舐めてなんか」

()()()()()()()! ここ半月ほとんど毎日会ってたんだ。お前がそんな奴じゃないことぐらい分かってる。……でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 実際そういう心ない陰口を叩く者も僅かにだが存在していた。このランク主義の強い学園にて、昇格できるのに理由を付けてそうしないというのは、確かに舐めていると見られても仕方がないのかもしれない。

 

「気持ちは分かるさ。どうせなら勝つべき相手に勝ってスッキリとした気持ちで上に昇格したいってのは分かる。でもその間他の奴がどう思うかぐらい考えてくれよっ! ブルーに上がりたい奴は沢山居る。皆が皆お前みたいに良い奴じゃないんだ」

 

 罵声を浴びせられているのは三沢のはずなのに、浴びせている神楽坂の方がどこか辛そうな顔をしていた。

 

「俺を手伝うって言った時もそうだ。頭を下げてまで……何俺に気を遣ってんだよ。どこまで良い奴なんだよっ! ()()()()()()()()()()()盗難事件も起きなかったってか? ふざけんな! 悪いのは俺だろうがっ!」

 

 神楽坂が以前整理券を巡って、オシリスレッドの丸藤翔という生徒に負けた時、周りのラーイエローの生徒が陰口を叩く中、三沢だけが励まそうとした。その時手を振り払ったのは神楽坂の方だ。

 

 だが、三沢に思う所が一切無いという訳ではなかった。神楽坂が事件を起こした後、傲慢で独善的な考えかもしれないが、自分がもしあの時もっと歩み寄れていたらそもそもあんな事件は起こさなかったんじゃないだろうか? そんなことを考えたことは確かにあった。

 

 だがそう思うことこそ神楽坂は許せなかった。それがますます自身の罪の意識を深めていった。

 

「なのに、色々あって謝れないままずるずると時間だけが経って、そうしたらお前の方から頭を下げてまで手伝いたいって言ってきてよ。……俺がどんな気持ちだったかお前に分かるかっ!」

 

 もう神楽坂の手にはほとんど力は入っていなかった。掴むというよりも縋るようなその手を、三沢は振りほどくこともせず黙って聞く。

 

「……良い機会だと思った。手伝ってもらって、こうして戦っていく中で自分の腕を磨いて、そして最後の最後にお前と戦って分からせてやろうってな。()()()()()()()()()()()()()()()()

「神楽坂。お前、だから封魔の呪印をピンポイントで」

「三沢。上に行けよ。……悔しいけど俺はまだ実力じゃお前に及ばない。久城の前に立てるほどにもなっていない。だから今回は譲ってやる。……それに別に今すぐ行けって言ってるんじゃない。お前の中で踏ん切りがついてからで良いさ。だけどな」

 

 神楽坂はくしゃくしゃで今にも泣きそうな、それでいて歯を食いしばってそんなそぶりを見せまいと必死な形相で三沢を睨みつけた。

 

「だけどこのままダラダラと居座り続けるってんなら、俺が先にブルーに上がって嗤ってやるよ。あの時さっさと俺の言うことを聞いて上がっていれば良かったのになってなっ!」

 

 三沢は何も言わなかった。いや、言えなかった。神楽坂はそのまま三沢から手を放し、また机に向かってペンを走らせ始める。

 

「レポートの邪魔だ。……もう帰れ」

「……ああ」

 

 これ以上ここに居ても本当に邪魔になるだけだろう。三沢はゆっくりと部屋を出るために扉に手をかける。その時、

 

「三沢…………あの時の事、謝っておくよ。……ゴメン」

 

 そう背中から声をかけられながら、三沢は扉を開けて外へ出ていく。振り返ることはしなかった。今顔を合わせたら、どんな顔をすれば良いか分からなかったから。ただ、

 

「気にするなよ。……俺も、()()()()()()待たせるからおあいこだ」

 

 それだけ言い残すのが精いっぱいだった。

 

 

 

 

 そして三沢が居なくなった後、

 

「…………ったく。我ながら、酷い謝り方もあったもんだ。もっと普通に謝れれば良かったのにな」

 

 部屋の主は誰に言うでもなくポツリと呟いた。

 

 

 

 

「……確かにレポートは受け取りましタ~ノ」

 

 クロノス教諭は難しい顔をしながら神楽坂が提出したレポートを受け取った。

 

 内心クロノス教諭は面食らっていた。一か月と期限を設けたこの課題を、なんと目の前の生徒は半月で終わらせたのだから。

 

 軽く内容を確認したが、少なくとも手抜きをしたという様子は見られない。どれも細部までしっかりとまとめてあり、簡単な教材として使えそうなほどの出来栄えでいちゃもんの付けようがない。

 

 なら神楽坂が普段の講義をさぼって書き上げたかと言えばそれもない。

 

 神楽坂の授業態度は真面目であり、以前の事件から今日までほとんど講義を休んだという話もない。つまり毎日限られた時間をフルに使って戦い、レポートをまとめ上げたということになる。

 

(これは……もしかしたらとんだ拾い物かもしれませン~ノ)

 

 クロノス教諭は目の前の神楽坂の評価を大分改めていた。

 

 短期間でここまでの課題をこなしたこの行動力。数多くのデッキを扱える対応力の高さ。純粋に座学の成績も優秀だ。

 

「レポートの成否は数日中に連絡しまス~ノ。……それにしてもシニョール神楽坂。まさかここまで早く仕上げるとは、私は感服しました。出来栄え如何によっては、樺山先生に掛け合ってブルー昇格の推薦をしてあげても良いです~ノヨ!」

 

 確かに以前腹立たしい目に遭わされたが、それも表向きは単なる事故による器物破損だけで済んでいる。仮にブルーに迎え入れたとしてもそこまでの反対はされないだろう。ならばここで粉をかけておくのも悪い手ではない。

 

 そう思って言ったクロノス教諭だったのだが、

 

「ありがとうございます。……ですが、昇格の件はお断りさせていただきます」

「それは……何故なノ~ネ?」

「今回の課題はあくまで以前の事に対する俺への罰。罰を受けて昇格なんてことになったら、周りになんて言われるか。また改めてそれだけの何かを成してから、昇格の件について考えたいと思います」

 

 以前の神楽坂なら何も迷うことなく昇格の打診を受け入れただろう。今の自分が三沢と同じく、他者から見れば舐めていると取られることをしているとも理解している。ただ、

 

「……それに、今の俺よりブルーにふさわしい奴がいますから」

 

 (三沢)はもう少しだけ待たせると言った。なら俺も、もう少しだけ待ってみよう。それでもダメなようなら俺が先に行くだけだ。

 

 それに自身のなり切りの先がようやく見え始めてきたところだ。三沢との一戦の中で、ほんの少しだけ何か掴めたような気がした。模倣し、再現し、そしてその先。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これを仕上げることが出来た時、ようやく実力で三沢、そして久城へのリベンジに挑める。神楽坂はそう考えていた。

 

「ふむ。……そういうことなら仕方がありませン~ノ。ただ、もし気が変わるようなことがあればいつでも言ってほしいノ~ネ。私はいつでも歓迎しまス~ノ」

 

 クロノス教諭は意外にあっさりと引き下がった。

 

 最近の深刻なブルー一年生の質の低下。そして以前の万丈目や三沢といった優秀な生徒を見抜ききれなかったことから、クロノス教諭はより幅広く優秀な生徒を勧誘していくことを考えていた。

 

 だが神楽坂本人の意思がこれでは無理に引き入れるのは難しい。ならむしろここは器の大きな所を見せて、時間をかけてじっくり考えが変わるのを待てば良い。

 

 こうして神楽坂への課題は滞りなく終了したのだった。

 

 

 

 その後、

 

「お~い遊児! 購買に行って何か食おうぜ!」

「そうだな。最近ちょっと懐も温かいし、たまには奮発して豪勢なものでも食うか」

「えっ! それってもしかして久城君の奢りって事っすか?」

「そういうことならゴチになるんだな!」

「いや何でだよっ!? ……しょうがないな。飲み物くらいなら奢ってやるよ」

 

 そういつものメンツで騒いでいる久城遊児を、神楽坂はこっそりと陰から観察していた。

 

 いまだにカードこそ用意できてはいないが、普段の動きや癖などを観察することでその思考を読み取り、いつかデッキごと再現する際に役に立つだろうという考えだ。

 

(普段はどちらかと言えば質素な食事だが、今日は珍しく豪華だな。何か臨時収入でもあったか? ……んっ!?)

 

 そこに、三沢がふらりと現れた。なにやら連れ立って食事に行くようで、話をしながら同行する。そして、偶然だろうがこちらに顔を向けた。

 

 神楽坂は、すぐに三沢が顔を逸らすのだろうと思った。部屋で半ば喧嘩別れになって以来、ときたま同じ講義に出るくらいでまともに会話をしていない。向こうから話しかけてこようとしたこともあったがこちらが避けている。

 

 これだけすればもう自分の事を嫌って顔を見るのも嫌になるだろうと。なのに、()()()()()()()()

 

 それは今の自分の立ち位置に満足した妥協からでも、何も考えていないのほほんとしたものでもなく、自分の認めたライバルへ向ける笑み。

 

 嫌うこともなく、かと言ってただ仲良くなろうということでもない。互いに競い高めあう相手へ向ける闘志と自信に満ちた笑み。

 

 そして三沢が久城達と購買に連れ立っていった時、神楽坂はそのままの態勢で大きく息を吐いた。

 

「……ったく。だから嫌いなんだよ」

 

 自分が実力でねじ伏せたいと願う相手が前よりも強くなっているのを見て、神楽坂は本当に自然にそう口から洩らした。

 

 自身もまた三沢と同じ笑みを浮かべながら。

 




 神楽坂編はこれで終了です。今回は本当に難産でした。

 今回に関しては賛否両論あるかと思われますが、本当にこういうこともあったかもしれないと思っていただければ。……うちの神楽坂は色々歪んでいますので。

 ちなみにこの一件は少しだけ三沢にも影響がある予定です。

 次回は少し間をおいて日曜投稿予定になります。

最初にこの作品を読む時、原作である遊戯王とロボトミーコーポレーションのどちらを目当てにしましたか?

  • 遊戯王目当て
  • ロボトミーコーポレーション目当て
  • どちらも目当て
  • どちらも知らなかった
  • むしろ作者目当て

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