マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様   作:黒月天星

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 注意! この話は基本原作沿いではありますが、ちょこちょこ細かい所で主人公が居ることの影響によりズレが生じます。




学園対抗戦 対峙する兄弟

 両校選手に用意された控え室。本来なら居るのは選手である十代だけのはずだが、応援兼付き添いということで特別に俺や翔、隼人も同席していた。ちなみに三沢や明日香もさっきまで居たが、今はそれぞれ自分達の寮に戻って観戦の準備をしている。

 

「まさかテレビ中継が入るなんて」

「全くだよな。しかも生放送! 俺もちょっとだけ緊張するぜ」

 

 珍しいな。あのいつも笑っている十代でも、テレビ中継となると流石に緊張するらしい。

 

 ヘリが突如やってきたあの後、万丈目ブラザーズの連れてきたテレビクルーやら何やらもやって来てノース校組の出迎えは一時中断。

 

 しかもとんでもないことに、テレビ中継の事は鮫島校長に知らされていなかったというのだからさあ大変。急すぎるということで万丈目グループに抗議する騒動にまで発展した。結果テレビ中継自体は許可がでたけれど、万丈目グループは厳重注意を受けたという。

 

 あくまで注意なのは、責めすぎることでデュエルする当の万丈目に責めが行くのを避けるためだろうか? それも計算した上で今回のようなゴリ押しをしたのだとしたらかなりの策士だなあの兄さん達。

 

「テレビ中継は驚いたけど、何とか無事対抗戦は始められそうなのが不幸中の幸いなんだな」

「本当だよね。だけどおかげでデュエル開始が少し予定より遅れちゃうなんて」

 

 翔や隼人は口々にそう言う。テレビ中継の機材の搬入などで、本来の予定よりずれ込んでいるのだ。そうして話していると、

 

「……どうした遊児? さっきから黙りこくって」

「…………ああ。ちょっと万丈目の事を考えててな」

「万丈目君の?」

 

 俺は翔の言葉にこくりと頷く。

 

「確かに相手の選手として出てきたのは驚いたよね。でも一度アニキは万丈目君に勝ってるから、気を楽にしていけば余裕じゃないっすか?」

「いや、勝てる勝てないとかそういうことを言ってるんじゃないんだ。ただ……何となく万丈目の様子が気になって」

 

 さっき万丈目ブラザーズと話をしていた時の万丈目のあの顔。その時までは風格ともいえる何かがにじみ出るくらいだったのに、あの一瞬はどこかとても弱々しく見えた。

 

 その顔がさっきから気になって仕方がない。

 

「たまたま影とかでそう見えたんじゃないか? だって今回の事だって、万丈目グループが色々とバックアップしてるんだろ? 身内が応援に来て奮い立つならまだしも、その逆ってことは聞いたことないんだな」

「そうなんだよな。……いや待てよ?」

 

 俺の脳裏に、以前万丈目が三沢のデッキを捨てようとした時の事が浮かんでくる。

 

『俺の肩には万丈目一族の未来が掛かっている。兄さん達二人と俺で政界、財界、カードゲーム界のトップに君臨し、万丈目一族で世界を制覇するために。……なのに、なのに今の俺はトップなどではなくて、格下げになりそうだなんて兄さんたちには言えなくて……俺は……俺はっ!』

 

 今思い出した。確かあの時万丈目はそんなことを言っていたな。つまり万丈目にとって兄二人は重圧の大本なわけだ。そんな二人が応援に来て奮い立つか? ……むしろ下手すると前みたいに精神的に追い詰められるんじゃないか?

 

「なんかすっごい嫌な予感がしてきた」

「……よし! ならちょっと万丈目に会いに行こうぜ!」

「ちょ!? ちょちょちょっと待て!? お前いきなり何言ってんだ!?」

 

 いきなりグッと背筋を伸ばして何を言い出すんだこのバカは!?

 

「それはマズいんだな十代。予定より時間があるとは言っても、それでももう一時間もしたら会場入りの時間なんだな。それなのに乗り込んでいくっていうのは」

「そうだよアニキ! それに今の万丈目君はノース校の代表だよ! それなのにわざわざ会いに行くことないって!」

 

 隼人と翔は慌てて口々に十代を止める。そりゃそうだ。俺だって止める。だが十代は、

 

「だけどさ、嫌な予感がするって言うなら直接確かめた方が手っ取り早いじゃんか。それにまだ一時間もあるんだ。万丈目だって許してくれるって!」

「いや、だからって」

「それにだ」

 

 十代は軽く頭を振ると、俺の事を澄んだ瞳でじっと見てくる。

 

「アイツは今ノース校の代表で対戦相手だ。だけど、それ以前に友達だろうが! そうじゃねえのかよ遊児?」

「…………ああ。そうだったな」

 

 目の前のデュエルバカにとって、一度本気でデュエルすればその相手はもう敵ではなく友人。なら友人のことを気遣って会いに行くというのは何の不思議もないのだ。だが、

 

「だからと言って、いくら何でも対戦相手が部屋に乗り込んできたら色々マズいから止めろ!」

「え~!? なんだよぉ」

「いいから、十代はここで飯食うなり横になるなりして体調を整えてろよ! それにテレビ中継があるんだろ? 少しは身だしなみにも気を遣え!」

「えっ!? ……もしかして寝癖とかか? やっべ!」

 

 慌てて髪を触りだす十代。それを見て、俺はフッと軽く笑いながら扉を開ける。

 

「あれっ!? 久城君?」

「どこに行くんだな?」

「ああ。ちょっと()()()様子を見にな」

 

 ……俺としたことが、知らず知らずのうちに万丈目がノース校の代表として出てきたことで委縮していたらしい。会いに行ったらスパイか何かと言われて拒まれるんじゃないかってな。

 

 だが十代の言う通りだ。そもそもこれは友好デュエル。調子の悪そうな友人の様子を見に……いや、ファンが推しを心配して様子を見に行くことのどこが悪い?

 

 門前払いされたらその時はその時。俺は静かに万丈目の控え室に向かった。

 

 

 

 

「万丈目の控え室は……っと、この部屋か」

 

 十代の控え室から少し離れた場所。わざわざ表札に『ノース校代表選手控え室』と書かれた場所を見つけて俺は静かに息を吐く。

 

『ふっふっふ! 久城君。何かボクに言うことがあるんじゃないのかなぁ~?』

「…………がとう」

『おやぁ~!? 聞こえないな~!』

「わざと言ってんだろ!? ありがとうよ! だけど場所が場所だから小さな声で勘弁な!」

 

 ディーが声だけでも分かるほどドヤ顔をしている気がする。

 

 なにぶん下手にノース校の生徒とバッタリ会ったら話がややこしくなるからな。ディーの先導で上手く生徒に会わないよう進んできた訳だが、いくら時間がなかったとはいえ、こいつに案内を頼んだのは間違いだったかもしれん。

 

 他の幻想体にでも頼むべきだったかな? だけど大半は丁度茂木の所に行かせて休ませているし、無理やり呼び出すというのも気が引けたしな。……今となってはタラればだけど。

 

「どうにか辿り着いたけど……どうも中に誰か居るっぽいな。これは心配は杞憂だったか?」

 

 部屋の中から誰かの話し声が聞こえる。声からするとおそらく三人くらいだ。一つは万丈目の声だから、おそらく最後の調整でもしているのだろう。

 

 元気でやっているならそれはそれで良い。問題なさそうだし戻るとするか。そう考えてくるっと踵を返そうとした時、

 

「どういうつもりなんだ? ()()()()

 

 中から万丈目のそんな声が聞こえてきてつい足を止める。……嫌な予感が的中したかもしれない。

 

 盗み聞きとはあまり褒められた話じゃないけど、下手に中に入るのは躊躇われたのでそっと中の様子に聞き耳を立てる。

 

「決まっているじゃないか。このテレビ中継は、俺達兄弟の約束を現実に移す一プランなのだ」

 

 この声は万丈目ブラザーズの兄貴の方……長作だな。しかしテレビ中継がプランとはどういうことだ?

 

 そこから万丈目ブラザーズが代わる代わる語ったのは、以前万丈目が言っていた万丈目一族の世界制覇。その足掛かりとして万丈目をプロモートし、カードゲーム界のスターにするというものだった。

 

 つまりは大掛かりなバックアップってことだな。規模がデカくて些か周りに迷惑ではあるが、これならまだ一応問題ないのか?

 

「準。クロノス教諭とかに聞いたが、お前三か月前にここを退学……いや、長期無断欠席しているそうじゃないか?」

「そ、それは……」

 

 今度は弟の方……正司が、万丈目をなじるように言い放つ。ここでストレートに退学ではなく言葉を濁したのは、話したクロノス先生の方もそのまま退学させるのは惜しいと思ったからなのかもしれない。

 

「良いか準。お前は元々俺達兄弟の落ちこぼれ」

「我が万丈目グループ主催でテレビ中継するからには、絶対に負けることは許さん」

 

 そこで室内に、何か重いものを置いたような音が響く。

 

「ここには、俺と兄貴が金に物を言わせたカードが山と入っている。これを使い、最強のデッキを組み立てるのだ!」

「良いな準? 決して万丈目グループの顔に泥を塗るようなことはするなよ」

 

 そのまましばし沈黙が流れる。そして、

 

 

「……兄さん達。すまない。()()()()()()()()()()()()。持って帰ってくれ」

 

 

 小さいながらもはっきりと、そう万丈目が断る声が聞こえてきた。

 

「な、何を言うんだ準!」

「すまない。……この勝負。俺はこのデッキで戦いたいんだ。ノース校で託され、自分の魂を込めて仕上げたデッキで」

「……バカな。魂だと? どこで手に入れたかは知らんが、そんな世迷言が通じるとでも思うのか!」

 

 ガッと何か鈍い音がした。たまらず扉を少しだけ開けて様子を窺うと、なんと正司が万丈目の胸ぐらを掴んでいる。

 

「落ちこぼれのお前が生意気を言うんじゃないっ! 良いからさっさとこれを使え!」

 

 落ちこぼれ落ちこぼれと……あれが弟にとる態度かよっ! もう黙ってみちゃいられない。扉を開けて乗り込もうとした時、

 

「…………断る!」

「なっ!?」

 

 万丈目が胸ぐらを掴んでいるその手を掴み返し、ミシミシと音が聞こえるほどに力を入れる。

 

「頼む。今回は俺のわがままを聞いてくれ。兄さん達。……この通りだ」

 

 胸ぐらを掴んでいた手を力を入れながらもそっと外すと、万丈目はなんと静かに頭を下げたのだ。あの気位の高い万丈目が。

 

「……良いだろう」

「兄貴っ!? 何を言うんだ!?」

 

 そこに一時静観していた長作が、スッと歩いて行って置かれていたスーツケースを持つ。そして万丈目にほんの少し、ほんの少しだけ笑いかけた。……こういうとこやっぱ兄弟だな。笑い方がよく似てる。

 

「少しはマシな面構えになったじゃないか。準。それでこそ我らが万丈目一族の端くれだ。……一度だけお前のわがままを許すとしよう」

「……!? ありがとう。長作兄さん」

 

 万丈目は表情を明るくし、正司はどこか不満げな顔をする。

 

「ただし、先ほども言ったが負けることは許さん! 良いな? 行くぞ正司」

「あ、兄貴!? くッ! くれぐれも万丈目グループの顔に泥を塗るようなことはするなよ。準!」

 

 そうして二人はスーツケースを持って部屋を出ていった。……もちろん俺は鉢合わせないよう近くの物陰に隠れてやり過ごしたさ。

 

『いやあそれにしても、意外に変わるもんだねぇ』

「何がだ? 万丈目の事か?」

 

 少しだけ感心するかのように言ったディーに、俺はそう問いかける。

 

『まあね。正直言うと、本来の流れならここで万丈目君は兄弟の重圧に負けて、断り切れずに受け取ってしまうんだ。だけど今、彼は自分の意思できちんと断った。少しずつだけど流れは確実に変わっているんだよ。君のおかげでね!』

 

 そうかな? 俺のやったことと言ったら、以前軽く背を押しただけだ。それだけでは人の本質は変わらない。つまりは俺がどうこう言わなくても、元々万丈目には断れるだけの勇気も意思もあったのだと思う。

 

「それもこれも、全ては万丈目自身の力だ。それを俺がどうこう出来るわけがないじゃないか」

 

 さて。一応ここまで来たわけだし、少し推しの顔を見てから帰るとするか。

 

 俺は控え室の扉を軽くノックした。

 




 もうタグに原作キャラ微強化と入れた方が良いんじゃないかと思う今日この頃です。だってファンなんだものしょうがないじゃないですか!

 ちなみに万丈目の兄弟の方も少しだけアニメよりも影響を受けています。万丈目への評価がちょっぴり上昇って感じですね。

 次回は三日後投稿予定です。

 なお、今行っているアンケートは、この話を持って終了とさせていただきます。

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