マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
今回ちょろっとあのおジャマな奴が登場します。あくまで顔見せだけなので本当にちょろっとですが。
「お邪魔するよ」
「誰だ? ……お前か。どうしてここに?」
控え室の中では、万丈目が長椅子にやや疲れた顔で腰掛けていた。万丈目はこちらに気づくと、疲れなどまるでなかったかのようにコートを直して向き直る。
「どうしてって、大一番の前にファンが推しの応援に来ちゃいけないのか?」
「……なるほど。違いないな」
万丈目はフッと小さく笑った。俺は軽く断りを入れて万丈目の体面の椅子に座る。
「待ってたぜ。約束通り、相当腕を上げたみたいだな。見違えた」
「ああ。当然だ! 必ず戻ると言ったからな」
俺の言葉にフンと鼻を鳴らして不敵に笑う万丈目。
「あと一時間ほどで試合だけど、調子は万全か?」
「俺を誰だと思っている。いつ如何なる時でも万全だ」
確かに一見した所万丈目の調子は悪くなさそうだ。しかし、さっき一瞬疲れた顔をしていたのは見逃せない。肉体的にはともかくとして、今さっきの兄弟の話し合いで精神的には多少疲労しているだろうに。
人前で疲れた顔を見せまいとするのはプライドの高さからだろうが、分かっている側としては隠さないでほしい。なので、
「…………そうか。なら安心だ」
俺はひとまずそう言ってゆっくりと席を立つ。
「もう行くのか?」
「ああ。あまり長居すると疲れさせかねないからな。試合前に雑談し過ぎて疲れたらマズいだろ? どうせ試合の後で話す時間がとれるし、万丈目が居ない間の事はその時にでもゆっくり話すとしよう」
「……そうだな」
万丈目の顔がほんの少しだけ名残惜しそうに見えたのは俺の気のせいだろう。俺はそのままゆっくりと背を向け、試合頑張れよと軽く手を上げて部屋を出る。
『おやおや。意外にあっさりしていたね。君の事だからもう少し気遣うかと思ったけど』
「万丈目の気持ちを尊重したいと思ってさ」
今まで消えていたのにまた現れたディーが、どこか不思議そうな声で尋ねてくる。
個人的には疲れているなら疲れていると話してほしいが、意地を張って隠そうというのなら多少は尊重したい。ただ、
「ただ、
デッキからカードを取り出して呼び掛けると、それに応じて罪善さんがカタカタと音を鳴らしながら半透明の姿で出現した。
「休んでいたところ悪いな。すまないけどお願いがあるんだ。試合開始まで、精霊状態でこの中に居る万丈目に付いてあげてほしい。少し心が疲れているみたいだから」
そっちが隠そうとするのなら、こっちも知らない間にこれくらいの事はしておいてやる。罪善さんが居れば少しは精神的に安定するはずだからな。それに精霊だから実体化さえしなければ気づかれることもないし。
罪善さんは分かったとばかりにコクコクと頷き、そのまま壁をすり抜けていった。
「ふっふっふ。これで良し。さて、戻るとするか!」
『…………あ~。久城君。実は言いそびれてたんだけど』
「……何だ?」
あとはこの後の観戦に向けて準備をしなくちゃと、ルンルン気分で十代の控え室に戻ろうとした時、ディーからの呼びかけを聞いて嫌な予感と共に立ち止まる。
頼むからこんな時に幻想体実体化は勘弁してくれ。それとも茂木の所で何かあったか? しかしそれにしてはさっきの罪善さんは落ち着いていたしな。幻想体もまだ大丈夫だってこの前言ってたし何が……。
『実は…………
それを聞いた俺は慌てて回れ右をした。そういうことはもっと早く言ってくれよディーっ!
急いで控え室に突入した俺が見たものは、
カタカタ。
「うわっ!? なんだこの化け物っ!? ガイコツっ!?」
罪善さんに対して身構える万丈目と、
『イヤァァンっ!? 食べられるぅぅっ!?』
その肩で泣きわめく、半透明の黄色い何かだった。……アレ何?
「それで、何がどうなっているんだ?」
「いや、何というか……ゴメン」
目を白黒させる万丈目に、俺は平謝りするしかなかった。ディーもまたいつの間にか姿を消しているし、もうどうしたら良いんだこの状況。
「実は俺、さっきたまたまお前とお前の兄弟達の会話を聞いてしまったんだ。それで話が終わるのを待って中に入ったら、万丈目がなんか疲れている風に見えてさ。普通に聞いてもそんな素振りは見せないし、だからこっそりこの罪善さんに頼んで近くに居てもらおうと思ったんだ。罪善さんは近くに居る人の心を落ち着かせる力があるから」
「落ち着かせるって……こんな見た目の奴が近くに居たら休まるものも休まらん!」
「罪善さんはカードの精霊だから、普通の人には見えないはずだったんだよ」
以前万丈目が三沢のカードを捨てようとした時、あの時も罪善さんが近くに居たのに万丈目は全く反応していなかった。なので大丈夫だと思っていたのだが、どうやら学園を出て修行中にどういう訳か見えるようになっていたらしい。
「こっそり休ませるはずがこんなことになってしまって、本当に申し訳ない」
俺は再度頭を下げる。しばしの沈黙の後、万丈目は静かに口を開いた。
「……しかしどうしてだ? いわば今の俺はこの学園側から見れば敵だ。下手に協力するようなことをすれば責められるだろうに」
「協力ったって、あくまで体調を整えるだけだ。それ以上の事はしないよ。それに最初に言ったじゃないか。俺はこの学園の生徒であると同時にお前のファンだ。ファンが推しの応援に来て悪いということはないさ。……あと、敵なんかじゃない」
俺はさっき十代に言われたことを思い出し、顔を上げて万丈目の方を見る。
「これは十代が言っていた言葉でもあるけど、確かに万丈目は今は違う学園かもしれない。対戦相手かもしれない。だけど友好デュエルなんだろ? 敵なんかじゃない。競い合う見習うべき相手だ」
「……十代か。奴に言われたら業腹だが、お前に言われるならまだ幾分かマシか。……ったく。それで? この罪善とかいう奴の近くに居れば良いのか?」
「えっ!? 良いのか?」
なんと万丈目は、自分から罪善さんに近づいて座り直した。今の流れだと、また意地を張ってさっさと帰れとか言われるかと思ったんだが。
「疲れがバレているのなら隠すこともないだろう。それにせっかくのファンの厚意だ。受け取らないというのも無礼だろうが。……おお! どこか温かい感じの光だな」
万丈目は罪善さんが放つ光を受けて、気持ち良さそうに目を閉じる。……良かった。少しは効いているみたいだ。ついでに俺も浴びよう。
そのまましばらくくつろいでいると、
「……どこから、聞いていた?」
突如万丈目がそう尋ねてきた。これはさっきの兄弟との会話の事だと踏み、万丈目一族で世界を制覇する云々の辺りからだと答える。
「そうか。恥ずかしい所を見られたらしいな」
万丈目はふぅ~と息を吐き、閉じていた瞳をこちらに向ける。
「政界、財界、カードゲーム界のトップに君臨し、万丈目一族で世界を制覇する。それが俺達兄弟の野望だ。俺は兄さん達の期待に応えるべく、落ちこぼれなんかじゃないと証明するために戦い続け、勝ち続けた」
これまで背負ってきたものを、ため込んできたものを吐き出すように、淡々と万丈目の口から語られる言葉に俺は口を挟めない。
「勝て。勝て。……ただ勝てと。そう言われ続けた。明日も明後日も、その次もその次の次も。だがあの時、俺は十代に負けた。……ショックだったぜ。何かの間違いだって何度も心の中で叫んだ。それでも俺が負けたという事実は覆らなくて、クロノス教諭からも見限られた。そして兄さん達に失望され、三沢と戦うことになって奴のデッキを捨てようとし……お前に出会った」
万丈目は拳を握りしめていた。だが、その顔はどこか穏やかだった。
「お前が止めてくれなかったら、仮に勝ったとしてもおそらく俺はそのことをずっと後悔することになっていた。あの時は言えなかったが……ありがとう」
「謝られるほどの事じゃないって。あの時の万丈目は魔が差しただけなんだから。俺はちょっときっかけを与えただけで、思いとどまったのは間違いなく万丈目自身の力だ」
「……フッ! ではそういうことにしておくか。しかし、この光で気持ちよくなっているせいか、つい口が滑ってしまうな」
万丈目は軽く笑いながらまた瞳を閉じて休み始めた。別に罪善さんの光にそういう力はない……はずだよな? 実は自白効果があるなんてことはないよな?
『ねぇアニキ~。おいらのことも紹介しておくれよ~』
「え~いうるさい! 攻撃力0の雑魚など紹介して何になる」
『そんな~。ヒドイよアニキ』
「確かに自己紹介がまだだったな。俺は久城遊児。この学園の生徒で、万丈目のファンだ。よろしく! こっちは精霊の罪善さん」
瞳をウルウルさせながら万丈目の周りを飛び回る黄色い半透明の何かに、万丈目は口では辛辣なことを言ってはいるが、軽く手で払うだけで特にそれ以上の事はしない。
なんだかんだそこまで嫌っている訳ではないと判断し、俺はゆっくりと声をかけながら自分と罪善さんを紹介した。
『お、おいらはおジャマ・イエロー。よ、よろしくなのよ!』
黄色くくねくねした身体にパンツ一丁というインパクトのある姿。一度見たら中々忘れづらい見た目をしているおジャマ・イエローが、罪善さんにビビって万丈目にしがみつきながら俺にそう返す。しかし……まさかおジャマ・イエローの精霊とはな。
「それにしても驚いたな。まさか万丈目が精霊が見えるようになってたなんて。……あっ!? 万丈目さんと言わなきゃダメだったか?」
「まあな。だが、言いづらいのであれば慣れるまでは許してやる」
これまで何度も言っていたので気分を害したかと思ったが、万丈目は罪善さんの光で気持ち良さそうな顔をしながら鷹揚に軽く手を上げて返した。
それから少しして、
「……もう良いか。すまないな。大分スッキリした気がする」
「そうか! それなら良かった」
万丈目が立ち上がって軽く伸びをし、身体の調子を確かめる。肉体そのものはそこまで癒されてはいないと思うけど、気が楽になったことで身体にも影響が出たのかもしれない。
「俺が出来るのはここまでだ。これ以上は流石に筋が違うからノース校の人達に任せるよ」
「ああ。……今度は十代の方も同じように回復しに行くのか?」
「これでも友人だからな。それに、片方だけに手を貸したらフェアじゃない。万丈目……さんだって、どうせ戦うなら万全の十代とが良いだろ?」
「無論だ。万全のアイツを完膚なきまでに叩きのめす。それでこそリベンジというものだ」
万丈目はグッと力強くガッツポーズを決めてみせる。さっき見た疲れはまるで残っておらず、その瞳には冷静に闘志を燃やすという相反する二つが垣間見えた。そこへ、
コンコンコン。
「万丈目さん。江戸川です。入ってもよろしいでしょうか?」
江戸川? ああ! この声は潜水艦の上で万丈目と一緒に居た一人か。
「おっと! 打合せかな? じゃあそろそろ俺もお暇するよ。勝つにしても負けるにしても、名勝負を期待してる。……じゃ!」
「ああ! 観客席で見ていろ。俺様が十代を降し、勝利を宣言する様をな!」
『じゃあね~』
すっかり調子を取り戻した万丈目とおジャマ・イエローに別れを告げ、俺は控え室の外に居た江戸川さんに軽く一礼して部屋を後にした。
後ろで何ですかアイツはと万丈目に問いただしているが、そこらへんは万丈目が上手く説明するだろう。
そして、いよいよ対抗戦の幕が上がる。
という訳で万丈目も精霊が見えると分かった遊児でした。次回からいよいよ十代対万丈目の一戦が始まります。
次回は三日後投稿予定です。