マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
ワアアアァッ!!!
急遽テレビカメラなども設置することになった特設デュエルリング。その観客席は既にほぼ満席に近く、ざわめきがまるで空間を揺らしているかのような錯覚を覚える。
俺は十代達と一緒に、リングの手前で最後の調整をしていた。……まあ調整と言ってもここまで来たらデッキの調整などではなく、頭の中で相手の手をシミュレーションするとか自分の精神を落ち着かせるとかそれくらいだが。
「アニキ。気を楽に持ってくださいね。アニキは前に万丈目君に勝ってるから楽勝っすよ!」
「そうかな?」
翔が試合に向けて十代の気を楽にしようとそう軽口を叩くが、肝心の十代はどこか浮かない顔だ。……さっきトイレから戻ってからどうにもおかしい。何かあったかな?
「弱気は禁物なんだな」
「別に弱気なわけじゃないさ。ただ……」
十代はそっとリングの反対側に居るノース校の連中、正確に言うとその中でこちらと同じく対戦に向けてどっしり構えながら集中している万丈目を見つめる。
「今の万丈目は尊敬するぜ。たった一人で別の学校の頭取って、ここへ殴り込んできやがったんだからな。なんかアイツ……格好良いぜ」
「……ああ。その通りだ」
この世界が俺の知っているマンガ版でなくアニメ版であること。つまり俺の知っている万丈目とこの世界の万丈目は違うということは分かっている。
だがアイツは、マンガ版よりもある意味酷い苦難にさらされながらも再びここに戻ってきた。家族や周囲からの重圧に潰されそうになりながらも歯を食いしばって立ち上がった。その意志の強さは、例え別の世界でも関係がないのだろう。流石俺の推しだ。
「だけど十代。それはそれとして、今は目の前のデュエルに集中だ。そうじゃないと対戦相手に失礼ってやつだからな」
「ああ。分かってる」
十代は俺の言葉に頷き、気持ちを入れ替えるように自らの頬を軽く張る。
そう。戦う前から心が乱れるようであれば、今の万丈目には及ばない。間違いなく、今のアイツは以前十代や三沢と戦った時より強い。
個人的には困ったことに、どちらも応援したい気持ちでいっぱいだ。なので俺から十代に言えることは一つ。
「楽しめよ! まっすぐ向き合い、全力でぶつかれ。要するに……
「当然だろ!」
俺のアドバイスに、十代は二ッと笑って応えた! 言うまでもないことだったかな。
「ではここに、デュエルアカデミア本校」
「ノース校」
「「対抗デュエル大会の開催を宣言する」」
中継用のカメラが回る中、両校の校長による開会宣言によっていよいよ対抗戦の始まりだ。一時的に静まっていた観客達が、それに合わせて一気に歓声を上げる。
俺や翔、隼人、そして合流した三沢や明日香は、観客席に移動して戦いを見守っていた。
ちなみに観客は当然このデュエルアカデミア本校の生徒が大半だが、観客席の一角はノース校の生徒が少なく見積もっても50人以上陣取っている。どいつもこいつも顔つきの厳つい奴らで、これだけ居ると圧も物凄いな。
「クロノス教諭。デュエリストの紹介を」
「信じられないノ~ネ! 私の姿が今、全国に流れているなン~テ」
鮫島校長の指示の下、クロノス先生がどこかガチガチな様子でリングの脇に立つ。クロノス先生がデュエルするんじゃないんだからもっと普通にしてくれよ!
「まず紹介するは、ドロップアウト……じゃなかった。遊城十代!」
おいっ! いきなりなんつう紹介の仕方してんだ! だが十代はそんな紹介ものともせず、どうもどうもと頭に手を当てて軽く笑いながら入場する。
「頑張れアニキ。負けるな!」
翔の応援に十代は手を上げて応える。……よし。コンディションは良好! 気負いも抜けて自然体だ。
「対するはノース校……」
十代がリングインしたのを確認し、クロノス先生はもう一人の選手を紹介しようとする。だが、
「要らん。俺の名は俺が告げる」
「へっ!?」
「黙って引っ込めと言ったんだ。おかっぱ野郎」
「お、おかっぱじゃないワ~ヨ!」
突然のことに目が点になるクロノス先生。……万丈目。やはりほんの少しだけ見限られたことを根に持っているな。ちょこっとだけ口が悪い。
「お前達っ! この俺を覚えているかっ!」
万丈目は憤慨するクロノス先生からマイクをかっさらい、リング中央に立って堂々と視線を観客席に向ける。
「この学園で、俺が消えてせいせいしたと思っている奴。俺の退学を自業自得だとほざいた奴。知らぬなら言って聞かせるぜ。その耳かっぽじってよく聞くが良いっ! 地獄の底から不死鳥の如く復活してきた……俺の名はっ!」
そこで言葉を切り、万丈目は高々と片手を上げて人差し指を伸ばす。そこから始まるのは、万丈目なりの宣戦布告。
「一、十」
「「「百っ! 千っ!」」」
万丈目に追随するかのように、カウントに合わせてノース校の生徒達が唱和する。そして最後に大きく万丈目はその拳を突き上げる。
「
「「「うおおおっ!!! サンダー! サンダー! 万丈目サンダーっ!!!」」」
巻き起こるノース校側の万丈目コール。その圧は、人数では負けていても応援で負けはしないと言わんばかりのもの。
その歓声を背負い、万丈目はマイクをクロノス先生に投げ渡すとデュエルディスクを構えて十代を見据える。
「行くぞ十代。このデュエル。万丈目一族のため、後ろの馬鹿共のため、
「来いっ! 万丈目!」
「だから万丈目さんだ」
十代もデュエルディスクを構えて向かい合う。闘志は十分。あとはもう互いにカードで語るのみ。
「「デュエル!」」
十代LP4000
万丈目LP4000
「俺の先攻……ドロー! 俺は『仮面竜』を守備表示で召喚。ターンエンド!」
仮面竜 DEF1100
先手は万丈目。万丈目の場に仮面を被ったような見た目の竜が出現して守りを固める。初手は手堅くリクルーターを出してきたか。
「俺のターン。ドロー! 俺は『バーストレディ』を攻撃表示で召喚! バーストレディ! 仮面竜に攻撃だ! 『バーストファイアー』!」
対して十代が呼び出したのはバーストレディ。炎の女戦士の一撃が仮面竜を焼き払う。
「やった! アニキが先手を取った」
「……いや、これはわざと先手を取らせたんだ」
俺の言葉通り、万丈目はそこでニヤリと笑う。
「甘い! 狙い通りだぜ。仮面竜の効果発動! このカードがバトルで墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族を特殊召喚することが出来る。俺は『アームド・ドラゴンLV3』を攻撃表示で特殊召喚!」
万丈目の場に、ゴツゴツして拳を握ったような腕のドラゴンが出現する。身体のあちこちから棘まで生やしていて見るからに危なそうだ。
しかしアームド・ドラゴン!? マンガ版でもドラゴン主体のデッキだったが、アニメ版ではそっちメインかよ!
「れ、LVって!?」
「条件を満たすと、どんどんレベルアップしていくモンスターよ」
「しかし、伝説とも言われている非常にレアなカード。奴は一体どこで?」
俺以外に三沢や明日香もどよめいているな。しかしこの世界ではLV系は珍しかったりするのかね? 遊戯も使っていた気がするけど。
「十代君負けるな! 負けてはならんぞぉっ!」
あと鮫島校長からも応援が飛んでくるが、なんかやけに必死だ。横で市ノ瀬校長がニヤニヤしてるし、友好デュエルと言ってもやはり自分の所の代表に勝ってもらいたいというのが心情だろう。
「あったりまえじゃん!こんな面白そうなカードがどうなるのか、最後まで見届けなくっちゃ! 俺はカードを一枚伏せてターンを終了する」
「強がっていられるのも今の内だ。そして恐怖の俺のターンが始まる! ドロー!」
万丈目はカードを引くと、余裕たっぷりに十代に語り掛ける。何せ場のアームド・ドラゴンLV3の効果は、
「クックック。十代。俺のスタンバイフェイズが訪れたことで、アームド・ドラゴンLV3の効果が発動。このカードを墓地に送ることで、アームド・ドラゴンLV5を手札かデッキから特殊召喚出来る」
「何っ!?」
「レベルアップ!?」
「そうだ。アームド・ドラゴンLV3を墓地に送り、いでよっ! 『アームド・ドラゴンLV5』」
アームド・ドラゴンLV5 ATK2400
まるで成長を誇示するかのように、より大きくゴツゴツして凶悪な面構えになったアームド・ドラゴンが雄たけびを上げる。
さあ。ここが肝心だ。公平を期すため、俺はアームド・ドラゴンの効果を知ってはいるが十代に教えるつもりはない。ここで対応を誤ると一気に状況は傾くぞ。
「気を付けろ十代。レベルが上がったことで、アームド・ドラゴンの特殊能力も飛躍的に上がったはずだ!」
「分かってるぜ! こんな時のために俺は……」
三沢の言葉に頷き、
そして何かを思案するように一瞬場の伏せカードをちらりと見る。
「……さあ! 来いよ万丈目!」
「万丈目さんだっ! ……バトルフェイズ! アームド・ドラゴンLV5で、バーストレディに」
「この瞬間罠発動! 『ヒーロー・ヘイロー』! このカードをバーストレディに装備!」
万丈目が攻撃に移ろうとするや否や、十代は伏せてあったカードを発動! バーストレディに身体の半分近くもある大盾が装備される。
「装着完了! この効果により、相手の攻撃力1900以上のモンスターは攻撃できない」
「チィっ! アームド・ドラゴンは攻撃せずバトルフェイズは終了。……だが」
そう。アームド・ドラゴンの効果はここからが本番だ。
「メインフェイズ2。……攻撃力1900以上の上級モンスターの攻撃を封じる盾だと? その程度の防御じゃ、アームド・ドラゴンを完全には止めることはできないぜ」
「何っ!?」
「アームド・ドラゴンLV5の効果! 俺は手札のモンスターを墓地に送ることで、そのモンスターの攻撃力以下の相手モンスターを一体破壊する! 俺は手札の『ドラゴンフライ』を墓地に送る」
その瞬間、ジャキっと音を立ててアームド・ドラゴンの全身から生えた棘が隆起する。えっ!? そういう演出なの!?
「ドラゴンフライの攻撃力は1400。攻撃力1200のバーストレディは破壊される」
「行けぇ! アームド・ドラゴンLV5。『デストロイド・パイル』!」
万丈目の合図と共に、棘がまるでミサイルのようにアームド・ドラゴンから射出されバーストレディに直撃し、盾ごと粉砕、爆発する! 攻撃は出来なくても効果による破壊は別だからな。
「うわっ!?」
「俺はカードを一枚伏せてターンエンド。どうした十代? そんなものか?」
「っと!? そうだった! これって全国に放送されているんだった! だからあんまりカッコ悪いとこ見せられないんだったぜ。ナッハッハ!」
煽るような万丈目の言葉に、十代は素早く起き上がって照れ隠しにナハハと笑う。
しかし今の局面、万丈目が主導権を取った
十代がヒーロー・ヘイローの発動を万丈目の攻撃ギリギリにすることで、万丈目は僅かながら攻撃直前まで悩んだはず。次のアームド・ドラゴンのレベルアップ条件は、“戦闘でモンスターを破壊すること”だからだ。
もしLV5が出た瞬間に発動していれば、万丈目は迷わず効果でヒーロー・ヘイローごとバーストレディを破壊し、そのまま十代にダイレクトアタックを決めていただろう。
だが本当に直前まで使わなかったことで、万丈目は戦闘破壊で次のレベルアップに繋げるべきか、効果破壊で今確実にダメージを与えるか悩むハメになった。その結果戦闘破壊を選び、ヒーロー・ヘイローに阻まれてこのターンダメージを与えそびれたという訳だ。
上手く最小限の被害で抑えた十代も凄いが、焦ることなくきっちり効果で追撃してきた万丈目もやはりやる。……ただし、どっちにしてもまだ序盤も序盤。
さあ。勝負はここからだ!
万丈目のデュエル前のパフォーマンスは結構好きなんですよね。ノリの良い観客が居ればなお良しです。
原作とは違い、十代がヒーロー・ヘイローをギリギリで使ったことによりダイレクトアタックは受けずに済みました。このことが戦況にどう影響するやら。
次回も三日後投稿予定です。