マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
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その日の夜。
「…………ぷはぁっ!」
俺は一人、つい数時間前の激戦を思い出しながら、本棟のホールのバルコニーでジュースを呷っていた。ホール内では現在、本校とノース校の懇親会……というか宴会が催されている。
元々ノース校組は今日の夜に帰還する予定だったらしいが、急なテレビ中継やら何やらで時間がずれ込んで結局明日の朝出発になったらしい。授業計画とかどうするのかと思ったが、まあその辺りは向こうの都合。上手く調整なりなんなりするのだろう。
問題は急に押しかけてきた五十人以上もの食べ盛りの学生の食事や寝る場所の方だったが、そこに関しては意外な所から助け船があった。……そう。
どうやらあの兄さん達、最初から勝負の後でパーティーを開く算段だったらしい。そこも含めてドキュメンタリー風にテレビ中継し、万丈目を売り出していくという具合だろうか?
だが流石にテレビ中継に関しては今度こそ学園側からストップが入り、あくまで急に撮影をねじ込んだことの謝罪として食事諸々を提供するという風に落着。テレビクルーもさっさと撤退していった。
『しっかし皆して元気だね~。あれだけ飲み食いしてそのまますぐにデュエル大会とは』
「それだけさっきの勝負が皆の心に火を付けたってことだな」
ふわりふわりといつもの如くディーが現れてそう呟く。
大半はまだ食事中なのだが、早めに食べ終わった両校の生徒が腕試しとばかりにデュエルを始めたのだ。これも一応懇親会の一部と扱われているのか、互いの教師陣も軽く注意しただけでお咎めは無い。そして、
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ」
「次は俺だ!」
「いや。俺だ!」
その中で一番やる気になっているのが十代だというのだから物凄い。普通あれだけの大一番のあとは精神的にも肉体的にも疲れているはずなのに、宴会でたらふく食い疲れが無くなったかのようにデュエルだ。どこから出てるんだあのスタミナ。
『君も混ざったら良いのに』
「……今は止めとく」
普段なら混ざっても良いが、今はそういう気分にはなれない。
一進一退の攻防。主導権自体は終始万丈目が握っていたが、十代は粘り強く攻撃を防ぎながら反撃してみせた。実際最後のターンは、少しでも手を間違えればどっちが勝つか分からないような手に汗握るギリギリの勝負だったと言える。
そうしてのんびりさっきの勝負の余韻に浸っていると、
コツコツ。
「……こんな所に居たのか」
「よお。お疲れ様」
足音と共にやってきたのは、丁度話題にしていた万丈目その人だった。
万丈目が片手に食事を載せた皿を持ちながら近づいてくるので、軽く手を上げて挨拶する。立食形式だから問題はないがどうしたんだろうか?
ちなみにいつの間にかディーは素早く身を隠したようで姿が見えない。万丈目に精霊が見える以上、自分の事が見られないようにということだろう。
「隣……良いか?」
「別に俺の場所って訳でもないしな。どうぞどうぞ」
「悪い。下手にホールに居ると誰かに捕まりかねなくてな。……ったく。食事くらい静かに食わせてほしいものだ」
万丈目はそう言うなり、柵に寄りかかって食事を食べ始めた。まあ万丈目の話もありえなくはない話だ。十代とかに見つかったらすぐにまた再戦を挑まれかねない。
そう言えばさっきまで姿が見えなかったな。ってことはまだ夕飯を食べていないのだろうか? だとしたら止めることもないし、俺は万丈目が食べているのを横目で見ながらその場に佇む。
そしてしばらくして、
「……さっきまで兄さん達、そして両校の校長達と話をしてきた」
あらかた食べ終わり、万丈目が急にそうポツリと話し始めた。俺は黙って先を促す。
「結論から言うと、俺はこの学園に復学する」
「それはまた……随分と思い切ったことだ。ノース校の方はどうする? 代表にまでなったんだろ?」
「校長達の配慮で、あくまでノース校へは一時的な留学であり籍は本校に置いたままという処置となった。と言っても無断長期欠席の事実自体はあるからブルーやイエローでは進級できない。戻るのならオシリスレッド扱いだと言われたよ。……俺がレッドなど屈辱ではあるが、背に腹は代えられない」
万丈目は憮然とした顔でそう口にする。確かに元々ブルーだったのが二段階降格はキツイよな。寮の設備とか天と地の差があるし。ちなみに万丈目ブラザーズもその点に嚙みついたそうだが、規則ということで校長達が押し切ったらしい。
「……なあ。どうしてそこまでこの学園にこだわるんだ? そんなにノース校が嫌だったのか?」
「そんなんじゃない。……この数か月ノース校に居たが、あそこは実にシンプルだ。単純にデュエルの腕がモノを言う。まああの馬鹿共も嫌いではないし、居心地も悪くはなかった」
「じゃあ、何故だ?」
「……こっちじゃなきゃ挑めないからだ」
そう言うと、万丈目はチラッとホール内に目を向ける。その視線の先に居たのは、
「……なるほど。カイザーか」
「ああ。十代にはリベンジした。しかし今のままノース校に居たら、次の学園対抗戦まで本校の生徒とは戦えない。そしてその頃にはカイザーは卒業。卒業してプロデュエリストになった場合いつ挑めるかもわからない。だが」
同じ学園内であればまだ挑む機会はある。それこそ卒業デュエルの対戦相手に選ばれるとかな。そう締めくくった万丈目だが、その眼がほんの僅かにだけ寂しそうにしていることが見て取れる。
「このことは校長とノース校の一部の奴らには既に話してある。キングの称号も江戸川の奴に返した。……引き留められたが、最終的には納得してくれたよ」
「……そっか」
自分で居心地が悪くはなかったと言うあたり、ノース校の暮らしはそれなりに肌に合っていたのだろう。少し見た限りだったが、ノース校の連中も体育会系のノリではあったものの万丈目を慕っているようだった。
本校の方で色々あった万丈目からしたら、このままノース校に行くという選択肢もあったはずだ。だけど、万丈目はカイザーに挑むためにここに残った。それもまた一つの覚悟なのだろう。
「…………んっ!? 校長達はそれで済むとして、じゃあ兄さん達とは何の話があったんだ? 今回のデュエル、万丈目が勝ったんだからその……なんだ。万丈目一族の世界制覇だったか? それに大きく近づいたってことでお褒めの言葉でも貰ったとかか? バックアップしてくれるんだろ?」
ふと気になって尋ねてみる。すると、予想外の言葉が返ってきた。
「ああ。
万丈目の話によると、両校長の立会いの中兄さん達に対し、過度の援助は必要ないと突っぱねたらしい。当然万丈目をスターに仕立て上げたい兄二人は反発する。だが今回の件は無理に押し進められないわけがあった。
一つ目は、勝利したとはいえ十代と万丈目の戦いは接戦過ぎたということ。特に途中万丈目のピンチでテレビクルーが中継をカットしたのは早計過ぎた。あの戦いは生中継だったため、あのシーンだけ見ると万丈目が負けたようにも見えるのだ。
もちろん実際に見ていた者からすれば万丈目が勝ったことは分かっている。しかし下手に後から結末を流したとしても、編集かやらせだと邪推される可能性があるのだ。
その件に関しては向こうでテレビ局に抗議する姿勢らしいが、自分達も早まって帰り支度をしていたのを考えるとどっこいどっこいだと思う。
二つ目は学園側との関係。既にテレビ中継を断行した以上、これ以上無理を通そうとすれば間違いなく関係は悪化する。今回のノース校組への助け船のように少しずつ関係を修復していくにも、それには結構な時間がかかる。
それこそ一年がかりでやっていかないといけない案件だ。ゴリ押ししても良いことはない。
「俺は俺のやり方で必ずこの学園のトップに立つ。だから過度の援助も演出もしないでくれ。そう頼み込んでなんとか退いてもらった。正司兄さんは怒り狂っていたが、長作兄さんがとりなしてくれて何とか事なきを得たな。……俺が勝ち続ける限りは俺のわがままを認めるとさ」
長作兄さんは政治家だし腹芸はお手の物だ。校長達が立ち会っていたからああ言っただけかもしれないがなと、万丈目は自身を戒めるように軽く笑った。
「そっちの家庭事情も大概複雑だな。援助くらいなら受けても良いだろうに。……まあそこを自分の力でやるって所が万丈目らしいと言えばらしいんだが……あっ!? またさんを付けるの忘れた。すまないな」
「……もう良い。ここまで来たら特別に許そう。ファンは大切にしないとな」
俺が平謝りすると、万丈目は何故か複雑な顔をしながら鷹揚に手を振る。はっきり言ってありがたい。この調子だとあと何回付け忘れるか分からないからな。
「あ~っ!? そんなところに居たのか万丈目! おっ!? 遊児も一緒に居たのか!」
「むっ!?」
「おう十代! そっちは……って、聞くまでもなさそうだな」
そこにやってきたのは先ほどまでホールでデュエルしていたはずの十代。どうやら一人で何人も蹴散らしたらしい。
「なあなあ万丈目! またデュエルしようぜ。今度は負けないからよ!」
「騒ぐな! さっきやったばかりだろうが。お前へのリベンジは済んだのだからもうやらん!」
「え~そんなこと言うなよ! どうせ明日には帰っちゃうんだろ? ならまたやろうぜ。先に行って待ってるからな! 遊児も来いよ!」
十代はそんなことを勝手に言い残してすぐまたホールへ戻っていった。……ホントにデュエルに関しては体力馬鹿だな。
万丈目がこれから同じ寮に入ると知ったら……ダメだな。どっちにしてもデュエルやりたがるわ。
「え~い。何が悲しくてあんなバカと同じ寮に入らなければならんのだ!」
「これからちょくちょくデュエルをせがまれるだろうから、ご愁傷さまとだけ言っておくよ」
「……なんてことだ」
軽く嘆息しながら額に手をやる万丈目。そして、
「まあ、一ファンとしては推しが同寮になるのは喜ばしいことだ。なので、今の万丈目には悪いけどこう言わせてもらおうか」
俺は嘆く万丈目に向けて手を差し出す。
「ようこそオシリスレッドへ。これからよろしくな! 万丈目」
「……ふっ! ファンサービスはあまり期待するなよ」
万丈目はニヤリと笑いながら力強く俺の手を握り返した。
という訳で、今回の件で万丈目と万丈目ブラザーズの確執が少しだけマシになりました。
特に長作の方は万丈目への評価を割と上方修正しているので、多少であれば話を聞いたりわがままを許す程度には関係が良好になっています。正司の方は相変わらずですが。
次回も三日後予定です。